高齢者は現役層と違ってお金がある。そう思いがちだが、一人住まいで年金に頼る高齢者たちの中には、生活費を切り詰めながらなんとか暮らしている人たちも多い。
「孫かわいさ」についつい財布の紐が緩みがちだが、そういう生活に見切りをつけた女性がいる。

■確かに孫はかわいいけれど
14年前に夫が亡くなり、家族で暮らした借家から、古い2DKの団地に一人越したカズコさん(78歳)。40代後半の息子一家は、その団地から徒歩10分程度の距離に住んでいる。

「息子が自宅を購入するとき、せがまれて私も少し頭金の足しにとお金を出したんですよ。同居しようかと息子は言ったけど、絶対に嫌だと言いました。同居して寂しい思いをするくらいなら最初から一人の方がいい。定年後、夫が大病をしたし、貯金は残り少ないけど、年金でなんとかやっていけるかなと考えていました」

孫たちが小さいうちは、共働きの息子夫婦の役に立てばと孫の面倒も時々見ていた。たまに息子一家が食事に招待してくれる。そんなつきあいが心地よかった。

「でも孫たちが大きくなると、『おばあちゃん、これがほしいんだけどお父さんが買ってくれないんだ』と言ってくるようになって。しかも額がどんどん大きくなっていく。先日はパソコンをせがまれて、無理だよと言ったら、『孫がかわいくないのかよ』と孫本人に言われました。
どういう教育をしているんだと息子に文句を言ったくらい。

その後、孫は謝りに来ましたけど、息子夫婦は、ほしいものはおばあちゃんにねだれと言ってるんじゃないかと疑っています」

■面倒をかけるのが悔しい
もう少し距離を置こうとカズコさんは決めた。幸い、彼女は今の団地に友達も多いし、地域で習い事もしている。

「今年は孫の誕生日会も、たまに誘われる食事会もほぼ断りました。『年寄り同士のつきあいがいろいろあって』と言い訳しましたが、必ずしも友達と一緒にいたわけではないんです。息子一家といるより一人でいた方がずっと気が楽だと分かったから」

実際、年金暮らしは経済的にはかなりきつい。夫の遺族年金と自身の国民年金を足して、ぜいたくさえしなければ、なんとか暮らしていける程度の額だ。

「私が病気をしたら、どうしたって息子一家に面倒をかけることになる。それが悔しいから、栄養のことはちゃんと考えて自炊しています」

迷惑をかけてはいけないという気持ちではなく、面倒をかけるのが悔しいというところにカズコさんの本音が見える。

「孫はお金がかかる。それができる人はいいけど、できなくて恨まれるくらいならつきあわない方がいい。そんな気持ちですね」

せつないような気の毒なような。
一部高齢者の本音なのかもしれない。

■同居でトラブルが続出
一方で、子どもの「甘い言葉にだまされて」同居に踏み切ったため、ひどい目にあっていると訴えるのがフミコさん(76歳)だ。

「3年前、夫が亡くなって一人になると、長女が『お母さん、一緒に住もう』と言いだしたんです。長女一家は4人暮らし。みんなで実家に越してくるって。独身の次女に相談したら『やめた方がいいよ。お母さんの居場所がなくなる』と。それでも長女一家とはよく会っていたし、長女の夫も優しい人だと分かっていたので、思い切って同居を受け入れたんです」

長女夫婦には、現在、中学生と小学生の子どもたちがいる。フミコさんは孫たちには慕われている自信があった。

「最初からトラブルの連続でした。娘は『お母さんは2階に越してね』と。私は上り下りが大変だから1階に住むと主張。
嫌なら越してくるなと言えと次女に入れ知恵されていたので頑張ったけど、娘は有無を言わせない感じで越してきてしまった。

結局、1階のトイレ脇からさらに奥にある物置を片づけて、そこが私の部屋。リビングにつながる広い部屋は夫婦の寝室になり、2階の2部屋は孫たちが使うことになって」

フミコさんの部屋は、もともと物置として作ったものなので日当たりも悪く狭い。次女は腹を立てて長女に文句を言ったが、『あんたはお母さんの面倒を見る気がないでしょ』と一蹴された。

■お金をむしりとられ
「それでも実の娘だから、そんなひどいことにはならないと思ったんです。私が甘かった。基本的に食事は別にしてと娘に言われたものの、食材費や光熱費は寄越せと毎月、5万円を“搾取”されています。

その他にも、孫のクラブ活動のユニフォーム代がかかるけどお金がないとか、塾代が高くて通わせられないから今月2万円貸してとか、なにかととられる。こんなことなら一人で暮らすなり、家を売って施設にでも入ればよかったと後悔しているところです」

家を出たいと切実に願うが、出ても行くところはない。次女は一人でワンルームマンションに住んで仕事をしており、そこへ転がり込むわけにもいかない。

「時々心配している次女から連絡がありますが、『大丈夫。なんとかうまくやっているから』としか言えません。
亡くなった夫が早く迎えに来てくれないかなと思う日々です」

息子ではなく、娘一家とだったらうまくいくというのも幻想に過ぎない。自ら身を守る術を身につけるしかないのかもしれない。
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