老後破産の原因として多いのが、「知識不足のまま資産運用に手を出してしまうこと」です。年金への不安や物価上昇のニュースを耳にし、「このままでは足りない」と焦る気持ちは自然なものです。
しかし、その焦りが判断を鈍らせ、結果的に大切な老後資金を減らしてしまうケースもあるのです。

老後の資産運用は、現役時代とは前提条件が大きく異なります。今回は、なぜ老後の無計画な運用が危険なのか、そして破産を遠ざけるための考え方を整理してみましょう。

■「投資=増やす手段」という思い込みは危険
老後破産のリスクを高めてしまうのは、運用の「リスク」を十分に理解しないまま、増やすことだけに目を向けてしまう人です。

特に注意したいのが、定年後に手にしたまとまった退職金を、一度に運用に回してしまうケースです。金融機関や知人のすすめをうのみにしたり、仕組みを理解しないまま「なんとなく安心そう」というイメージだけで商品を選んでしまったり。

老後資金は、これからの暮らしを支える「使うためのお金」です。それにもかかわらず、現役時代と同じ感覚で高いリスクを取ってしまうと、万が一の際に取り返しがつかない結果を招くことになってしまうのです。

■老後には「現役時代にはない」3つの制限がある
老後の資産運用が難しいのは、現役世代にはない「3つの制限」があるからです。

▼①時間の制限(待つことができない)現役時代なら運用で損失が出ても、回復するまでしばらく待つことができます。しかし高齢になると、回復を待つ間に生活費として資産を取り崩さなければならなくなる場合もあり、損失を確定させざるを得ない状況に追い込まれます。

▼②収入の制限(補填ができない)老後の主な収入源は年金です。
その場合、現役時代のように「賞与などの余剰資金から追加投資する」という選択肢はありません。運用で損失が出ても、補填(ほてん)する原資がなく、資産全体が減ったままになる場合があります。

▼③心理的な制限(冷静でいられない)老後資金は命綱です。そのため、資産が目減りすると現役時代とは比較にならないほどの不安に襲われ、相場の下落時に慌てて売却してしまう「狼狽(ろうばい)売り」を招きやすくなります。

これらの制限を無視して運用を強行すると、「増やすつもりの投資」が「破産の引き金」になりかねません。

■「増やす」よりも「守りながら付き合う」
老後破産を避けるために最も大切なのは、運用において「増やすこと」より「減らさないこと」を重視する姿勢です。具体的には、以下の4点を意識しましょう。

▼①生活費の確保数年分、あるいは数十年分の生活費は運用に回さず、安全な現金として確保しておく。

▼②長期・分散の徹底値動きが激しすぎる商品に偏らず、リスクを分散させる。

▼③コストの把握手数料などのコストが長期的に見て資産を削っていないか確認する。

▼④少額から始める仕組みが理解できる範囲で、無理のない金額から付き合う。

資産運用において、「分からないまま始めない」ことが大切です。
老後の蓄えが足りない……と思っても、恐怖や焦りに背中を押されて動くのは危険です。自分の生活を守るために、「減らさないこと」を重視しつつ、身の丈に合った範囲で行うこと。それが、老後破産を遠ざける現実的で前向きな選択といえます。

文:舟本 美子(ファイナンシャルプランナー)
会計事務所、保険代理店や外資系の保険会社で営業職として勤務後、FPとして独立。人と比較しない自分に合ったお金との付き合い方を発信。3匹の保護猫と暮らす。All About おひとりさまのお金・ペットのお金ガイド。
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