昨年末に発表された、『令和8年度(2026年度)税制改正大綱』では、いわゆる「年収の壁」が178万円に引き上げられることが大きな話題になりました。

これまで、“働き控え”をしていたパート勤めの方などは、「これからは、178万円まで働ける!」と感じた人も多いのではないでしょうか。


今回は、経済ジャーナリストの酒井富士子さんに、「年収の壁」と賢い働き方について解説してもらいました。

■「年収の壁」をごっちゃにしていませんか?
皆さん、よく勘違いしがちなのですが、「年収の壁が178万円になった」といっても、これはあくまで「所得税」のお話です。

これまで、所得税における「年収の壁」として広く知られてきたのは103万円でしたが、控除額が見直され、令和7年分以後の所得税については160万円へと引き上げられました。

これが「178万円」まで引き上げられるわけですから、所得税がかからない収入の範囲は、確かにぐんと広がりました。

ですが、注意してほしいのは、社会保険における「年収の壁」は一切変わっていないということ。106万円(※)や130万円を超えると社会保険料が発生するというルールはそのまま残っています。

さらにいえば、住民税における年収の壁(自治体によりますが約110万円)も今のところ据え置きです。

「所得税がゼロだから」と178万円まで働くと、130万円を超えた直後から150万円台あたりまでは、社会保険料や住民税が引かれ、年収を130万円以下に抑えていた時より手取りが減る――いわゆる「逆転現象」が起きるわけです。

※最低賃金の状況を踏まえ、令和7年(2025年)6月から3年以内に撤廃

■引かれるのが嫌で、働き控えするのはもったいない!
こうなると、多くの人は「社会保険料や住民税が引かれると、手取りが減ってメリットがない。やっぱり106万円(ないしは130万円)以下に抑えよう」などと考えるでしょう。

ですが、130万円を超えた直後は一時的に手取りが減るものの、もっと突き抜けて働けば、手取りは再び増えていくわけです。

例えば、パートで年収176万円くらいまで働くと、社会保険料を引かれた後の実際の手取りは約140万円になります(一例です)。
逆転現象が起きる手前の「130万円ギリギリ」で抑えていた時よりも、結果的に手元に残るお金は多くなるわけです。

さらに、私が強調したいのは社会保険(健康保険・厚生年金)に加入することの「目先の手取り」以外のメリットです。

当然のことですが、厚生年金に加入すれば将来受け取れる年金はかなり増えます。人生100年時代、一生涯続く年金が上乗せされる効果は、預貯金とは比べものになりません。

さらに、パート先を通して健康保険に入れば、病気で休んだ時の「傷病手当金」や、出産時の「出産手当金」などが手厚くなります。これは、子育て世代には見逃せない制度です。

これからは「いくらまでなら損をしないか」という守りの数字にとらわれず、「社会保険という一生ものの権利を買う」くらいの前向きなマインドで、自分のキャリアや働き方を選んでほしいと思います。

将来の自分への投資として社会保険に入る。そんな自立した働き方を、私はぜひおすすめしたいですね。

文:酒井 富士子(経済ジャーナリスト)
「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルートに転職し、定年あるじゃん、あるじゃん投資BOOK等の立ち上げ・編集に関わる。2006年にお金専門の制作プロダクション「回遊舎」を創業。「ポイ活」の専門家としても情報発信を行う。

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