令和7年度(2025年度)の法改正により、遺族厚生年金の受給権がある人も、老齢厚生年金を繰り下げできる仕組みが導入されます。

令和10年(2028年)4月以降に65歳に達する人は、遺族厚生年金の受給権者であっても、請求をしなければ自分の老齢厚生年金を繰り下げて増額させることが可能になります。


これまで「早くに配偶者に先立たれた人ほど不利になる」とされていたルールが、大きく見直される改正です。

■現行制度の「1人1年金の原則」とは?
現行制度には「1人1年金の原則」があります。

65歳前に配偶者に先立たれた場合、たとえ本人に特別支給の老齢厚生年金の受給権があっても、遺族厚生年金、特別支給の老齢厚生年金のどちらか一方しか受給できません。この点は法改正後も変わりません。

実際には、

夫に先立たれた妻→遺族厚生年金を選択
妻に先立たれた夫→自分の老齢年金を選択

というケースが大多数です。

上の世代ほど「夫は仕事、妻は家庭」という役割分担が強く、夫の収入が高い家庭が多かったためです。

■65歳以降は遺族厚生年金と老齢厚生年金の関係が変わる
65歳以降は、自分の老齢厚生年金と遺族厚生年金の両方に権利がある場合、まず自分の老齢厚生年金を全額受給し、遺族厚生年金のほうが高い場合のみ差額が上乗せされる、という仕組みになります。

そのため、多くの妻は「差額分の遺族厚生年金」を受給し、多くの夫は遺族厚生年金を受け取らず、自分の年金のみ受給、となるケースが多いのが実態です。

■問題だったのは「繰り下げできない」という不条理
ここからが大きな問題でした。妻に先立たれた夫が「遺族厚生年金の権利はあるけれど少額だし、働き続けて自分の老齢年金を70歳や75歳まで繰り下げたい」と思っても、現行制度では、遺族厚生年金の受給権があるだけで老齢年金を繰り下げできない、という制限がありました。

つまり、たとえ遺族厚生年金を請求していなくても、受給権があるだけで繰り下げ増額を断念せざるを得なかったのです。

この点が「不条理」と指摘されてきました。


そのため、妻死亡にかかる遺族厚生年金がどんなに少額でも、たとえ請求していなくても自身の老齢年金の繰り下げを断念せざるを得なかったのです。夫に先立たれた妻でも、必ずしも夫が高収入だったとは限りません。微々たる遺族厚生年金をもらいながら働いている場合など、自身の老齢年金を繰り下げ増額したい場合でもできません。

■令和10年4月から老齢基礎年金の繰り下げが可能に
令和10年(2028年)4月からは、遺族厚生年金の受給権がある人でも、老齢基礎年金の繰り下げ申し出が可能、繰り下げによる増額も適用されるようになります。

ただし、この改正は一定の年齢条件があり、令和10年3月31日以前に76歳に達する人(平成27年4月1日以前生まれ)は対象外となります。

■老齢厚生年金の繰り下げは「請求するかどうか」で変わる
遺族厚生年金の受給権がある人の老齢厚生年金の繰り下げは、老齢基礎年金より少し扱いが異なります。

▼ポイント令和10年4月1日以降に65歳になる人(昭和38年4月2日以降生まれ)が、若いときに配偶者に先立たれた場合……

遺族厚生年金を請求すると→老齢基礎年金は繰り下げできるが、老齢厚生年金は繰り下げできない
遺族厚生年金を請求しなければ→老齢基礎年金も老齢厚生年金も繰り下げできる

つまり、令和10年4月以降は遺族厚生年金を請求しなければ老齢厚生年金の繰り下げが可能になります。

■請求タイミングの判断がより重要に
今後は、遺族厚生年金を請求する際に、「将来、老齢厚生年金を繰り下げる可能性があるか」を事前に検討する必要があります。

少額の遺族厚生年金を請求しないことで、老齢厚生年金を繰り下げて増額できるケースも出てくるでしょう。女性の厚生年金加入期間も長くなっているため、今後は妻側でも繰り下げを意識して請求を見送る人が現れるかもしれません。

令和10年4月改正は少し先の話ですが、現在50代後半~60代前半の方にとっては重要な制度変更といえるでしょう。

文:拝野 洋子(ファイナンシャルプランナー、社会保険労務士)
銀行員、税理士事務所勤務などを経て自営業に。
晩婚で結婚・出産・育児した経験から、日々安心して暮らすためのお金の知識の重要性を実感し、メディア等で情報発信を行うほか、年金相談にも随時応じている。
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