多くの人が直面するであろう「介護」。そこには介護離職、きょうだい間のトラブル、相続などさまざまな問題が横たわっているようです。


例えば、遠くに住む親の体調について確認しようと電話で「元気?」と聞いてみても、「大丈夫、心配ない」と言うばかりでなかなか本音が見えてこない。これは介護の悩みとしてよくあるケースです。なぜそうなるのか、どのように対応すればよいのかを、実際に寄せられた相談内容とともに介護アドバイザーの筆者が解説します。

■親の介護、いつ、どんな状態になったら準備すべき?
今回はナオフミさん(仮名/50代男性)からの介護のお悩みです。

「離れて暮らす親に電話をかけたり、帰省したりした際、何か困ったことや変わったことはないかと尋ねても、いつも『大丈夫』『心配するな』と答えるばかりです。今はまだギリギリ大丈夫なようですが、これから先どんな状態になった時に、介護の準備をすればいいのでしょうか」

■「ギリギリセーフ」は「大体アウト」
この手の質問は今回の男性に限らず、介護に関わる相談の中でもよく聞かれる代表的なものの1つです。

いろいろと伝えたいことはありますが、一言でいえば「ギリギリセーフは、大体アウト」です。そもそも、なぜナオフミさんは「ギリギリ」という微妙な言葉を使ったのでしょうか。きっと親の様子を不安に感じているのではないでしょうか? そしてその背景には何かしら理由があるはずです。

足腰が弱ってきた、口が回らなくなってきた、少し前のことはあまり思い出せていない……などの兆候があるのではないでしょうか。

親の健康状態に不安がない場合は、「ギリギリ」などという言葉を使わないはずです。「元気いっぱいで困るぐらい」「毎日何時間も出掛けていてびっくりする」「町内会の会長をしているみたい」など、健康を裏付ける情報が出てくるものです。


不安を感じているのに「元気か?」「大丈夫か?」と尋ねるだけの対応は、雑すぎるような気がしてなりません。親に聞いて終わるのではなく、主治医がいるなら連絡をして最近の様子を確認する、あるいは親に健康診断の結果を見せてもらうなど、具体的な情報を集める必要があるのではないでしょうか。

介護をしたこともない、あるいは介護をされたこともない親子に、介護をスタートすべき頃合いがはっきりと分かるはずがありません。なので、「ギリギリ」という言葉を使う時点で、もう待ったなしと考えましょう。介護の準備は今すぐ始める必要があります。

■介護の話について、親はよくウソをつく
親は子どもに心配をかけたくないあまり、介護の話についてよくウソをつきます。これは悪意を持ったウソではありません。

例えば、ゴホゴホと親がせき込んでいるのを見て、子どもが「大丈夫?」と尋ねたら、親は「大丈夫よ。今薬を飲んだばかりだから、すぐ効いてくるから安心してね」などと強がりますよね。こういった親心は年を取っても変わりません。だから自然とウソをついてしまうのです。

そしてもう1つ、いつまでも元気でいたい欲求もあります。
そのため、「認知症かもしれない……」など健康上の不安を認めたくなく、周りにも知られたくありません。「大丈夫、大丈夫」と自分にも言い聞かせ、周りにも平気なふりをするというのが、よくあるパターンです。子どもは親のその心理を把握しておく必要があります。

■親には元気でいてほしい……子ども側の心理
一方、子ども側は「親にはいつまでも元気でいてもらいたい」と思っていますし、何より「介護をしたくない。介護は大変そうだし、避けられるのならその方がいい」という本音があるはずです。

そのため、親が「元気だ」と答えるような質問をあえて選んでしまっている可能性が高いです。「元気? 大丈夫?」と尋ねたら、だいたいの場合は「元気だよ。大丈夫だよ」と答えるものです。こうした質問の仕方は遠距離介護をしている人にとても多いパターンです。

このような場合は、子ども側が先にエピソードを話してから、親の状況を尋ねてみてください。「最近寒くなってきたね。風邪気味の人が会社でも増えているけど、お父さんはどう?」などと問い掛けてみましょう。
すると、「そうだね、こっちも冷えるよ。結構年も取ってきたから、風邪には気を付けないとね」などのように、親の本音が少し見えてくるはずです。

■週1回、1分間の電話を習慣にする
親の本音や健康状態を把握するために、週1回、1分間の電話をかけて親子で雑談をしましょう。テレビの話や健康法についてなど、話題はどんなことでもいいです。

なぜこの時間が必要かというと、普段交流をしていないのに唐突に介護の話やお金の話をすると、だいたいの親は怒るからです。「俺をバカにするな」「心配しすぎだ」「介護が始まってから話せばいい」などと不機嫌になり、親子の会話が続きません。

しかし実際には介護が始まってからでは間に合わないことが多いです。例えば親が認知症になった後、親のお金を使って介護をしようとしても、口座が凍結されてお金を下ろせないといった事態に陥ってしまうこともあります。

そのため、早めに準備をしておく必要があります。唐突に深い話をすると親は機嫌を損ねてしまいやすいので、「週1回、1分間の雑談をする」習慣をつけてほしいのです。毎回決まったとき、決まった曜日に電話をかけて、だんだんと心の距離を縮めていってください。そして話の内容を少しずつ濃くしていって、半年~1、2年かけて、お金の話までたどり着きましょう。


実家に電話をかけるのは今すぐできる対策です。なんとなくおっくうなその気持ちを乗り越えて、「ギリギリセーフ」などというあいまいな言葉を使わない人になってほしいです。

ナオフミさんは50代ですから、親御さんはおそらく70~80代でしょう。基本的に介護をスタートするタイミングまでは、もう待ったなしの状況でしょう。できることから取り組んでみてください。

▼横井 孝治プロフィール両親の介護をする中で得た有益な介護情報を自ら発信・共有するため、2006年に株式会社コミュニケーターを設立。翌年には介護情報サイト「親ケア.com」をオープン。介護のスペシャリストとして執筆、講演活動多数。また、広告代理店や大手家電メーカーなどでの経験を生かし、販促プロデュース事業も行う。All About 介護・販促プロモーションガイド。
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