「年金暮らしは苦しい」は本当なのでしょうか? テレビが映し出す「貧しい高齢者」はほんの一部だとしたら……。

30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる精神科医・和田秀樹氏は、著書『「高齢者ぎらい」という病』(和田秀樹著)のなかで、高齢者が持つ消費者としての真の価値と共に、社会の偏見がもたらす弊害に触れています。


本書から一部抜粋し、メディアが報じない“豊かな”シニア層について、また日本経済を回す鍵を握る「消費力」について紹介します。

■苦しい「年金暮らし」を強いられる高齢者
テレビのワイドショーでは、「わずかな年金だけしかもらえず、生活が厳しい」とため息をつく高齢者の姿がたびたび紹介されます。

年金額が月3万円とか5万円しかないという方が出てきたりもしますが、もしその金額に間違いがないのなら、若いころに保険料をほとんど納められなかったり、厚生年金に加入していなかったりといった理由で、年金制度の恩恵を十分に受けられていない特殊なケースであり、資産がないならば生活保護も申請できるような人たちです。

極端に苦しい生活をしている人たちをあえて取り上げることで、それを見た現役世代の人たちが「自分たちがもっと頑張って支えなければ」などと考えるとでもテレビ局の人たちは思っているのでしょうか?

もしそうであるのだとすれば、どれだけ想像力に欠けているのかとうんざりしてしまいます。

手取りはほとんど増えず、年金額はこの先さらに少なくなることが確実視されているという今の状況を考えれば、「結局、自分たちは払い損になるだけではないか」「じゃあ、自分は今この人たちのためだけにせっせと保険料を払っているのか」という不安や不満を抱く人のほうが圧倒的に多いことはわかりきっているはずです。

■メディアが過剰に不安を煽る理由
過剰に不安を煽(あお)ることで、結果的に高齢者に対する負の感情を増幅させていることに無自覚なメディアの偏向報道のせいで高齢者の一般的な姿を社会が見誤ってしまうと、「消費だけをしてくれるありがたい存在」という高齢者の重要な価値に気づきにくくなってしまうのです。

高齢者(特に75~84歳)の貧困率はほかの世代より高いことはわかっているので、そういう人たちの存在を無視したりせず、社会が手を差し伸べることはもちろん必要でしょう。

ただし、高齢者がみんな貧困に苦しんでいるわけではありません。

現在の65~75歳くらい(1950年~1960年頃生まれ)の人たちは、給料水準も高かった上に厚生年金の加入期間も比較的長かった世代です。

さらに多くの企業では退職金制度や企業年金制度も十分機能していたため、厚生年金と基礎年金で月30万円くらい、企業年金も合わせると40万~50万円以上受け取っている「年金の超勝ち組」は一定数存在します。

少なくとも今後10年後くらいまでに高齢者の仲間入りをする世代には、使えるお金をそれなりにもった高齢者になる人がたくさんいると思われます。

しかも、そのころになると、親の財産を相続する人も増えてきますから、それも含めて考えれば、「消費者としてのポテンシャルが非常に高い」のが高齢者層だと考えることができるでしょう。


それを踏まえた上で高齢者を「顧客」として本気で見て、「彼らに何をどうやって買ってもらうのか、どうやって動いてもらうのか」という発想をもてば、そこからさまざまなビジネスチャンスが生まれ、停滞している経済も活力を取り戻すはずです。

■高齢者はなぜ「サロン代わり」に医者に通うのか
食に関して言えば、「若いころのようにたくさんは食べられない。でも、おいしいものは食べたい」というのが、多くの高齢者の本音です。

近年、「ハーフポーション対応可」といった表記を掲げる飲食店も少しずつ増えてきましたが、まだまだ少数派です。

世の中の主流はいまだに「食べ放題」「メガ盛り」といった「量の満足」を売りにする業態であり、高齢者のニーズには十分に応え切れていません。

いくら安くても、食べ切れずに残してしまうのは気持ちのいいことではありませんから、食べ切れる量を提供してもらえるシステムがあれば、多少割高になっても高齢者は喜んで利用するはずです。

思い切って「60歳以上限定レストラン」という発想も面白いと思います。

送迎サービス付きであれば、足腰に不安がある方でも安心して外出でき、喜ぶ人は多いと思います。すべてのメニューをハーフポーションにするのもいいでしょう。

あるいは、普段は若者でにぎわう人気店に「シニア限定デー」や「シニアタイム」を設けるというのも有効でしょう。

「一度行ってみたいけれど、若者ばかりで気が引ける」と感じている人たちにとって、安心して訪れられるきっかけになります。

飲食店側から見ても、ピークを外した時間帯に時間的な自由の利きやすい高齢者をうまく呼び込めば、稼働率を上げ、全体的な売り上げの底上げにもつながります。


こうした仕組みを整えて「高齢者が気軽に外食を楽しめる文化」が根づけば、それは経済の活性化にもつながりますし、同時に孤独対策としての効果も大きいでしょう。

「サロン代わり」に医者に通う高齢者が多いのは、裏を返せば「人と会って話す場」が圧倒的に不足しているということです。

もし、地域のレストランやカフェがその役割を果たす場になれば、医療費の削減にも寄与するかもしれません。

和田 秀樹(わだ・ひでき)プロフィール
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。幸齢党党首。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹 こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)、『60歳からはやりたい放題』『90歳の幸福論』『60歳からはやりたい放題[実践編]』『医者という病』『60歳から女性はもっとやりたい放題』『ヤバい医者のつくられ方』『65歳、いまが楽園』『なぜあの人はいつも上機嫌なのか』(扶桑社)など著書多数。
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