子どもはいつか成長するが、高齢者の介護は先が見えないところがある。人生100年時代、健康寿命が85歳だとしたらあと15年、介護し続けなければならないかもしれないわけだ。
子どもの側も老いていく。そこに不安と疲弊を感じている人たちが増えているのではないだろうか。

■夫と私、それぞれの親の介護で疲れ切って
「介護生活8年になりました。まだまだ続くんじゃないかなと思っています」

そう言うのはサチコさん(59歳)だ。もうじき90歳になる母を週末、2時間かけて実家に通って介護している。平日は仕事だ。5歳年下の夫もまた、都内に住む80歳の一人暮らしの母親を週に数回、見守りに通う。

「私の場合、母は平日はデイケアに通っています。夕方以降はヘルパーさん、夜は近くに住む妹一家が見てくれているけど、妹自身も大病を患ったばかりなので、めいっこやおいも頑張ってくれています」

母は家の中でも車椅子だ。平日の夕食はサチコさんが1週間分、作って冷凍庫へ入れておく。それをヘルパーさんが解凍してくれるという手はずだ。

「私自身、まったく休む時間がないので、かなり疲れてきています。
子どもたちはもう独立しているので、平日は自宅で料理はしません。夫は実家でとることもあるから、それぞれでという感じ。週末は私がいないから、ここ8年、夫婦でゆっくり話す時間もとれない」

夫の母は、まだ元気で一人で生活できるのだが、家の中で転倒して捻挫したり手首を骨折したりしたこともある。だから週に数回は、夫が仕事帰りに寄ってみるのだ。

■姉妹関係もおかしくなって
このままでは夫婦のすれ違いがどんどん進んでしまう。焦燥感にかられたサチコさんは、昨年から時々ショートステイで母を預け、週末を利用して夫と映画を観に行ったりするようになった。たまにそうしなければ、自分自身が削り取られるような気持ちになっていったのだ。

「ただ、妹はそれが不満みたいです。『お姉ちゃんは共働きだからそういうことができるのよね』『うちは毎日、誰かがお母さんの様子を見に行かなければならないのに』って。私のボーナスから妹に数泊の旅ができるくらいのお金を渡しました。そうしたら『これはこれでみじめな感じ』と。じゃあ、どうすればいいんだと思う。
介護問題で、姉妹の関係もおかしくなってきたし、本当に疲れ切っています」

介護にかかる費用は母の貯金や年金を充てているが、この先、費用が上がっていったらどうするかという不安もある。

■特に持病がないが自立歩行は難しい
サチコさんの母は、今、特に大きな持病をもっているわけではない。だが、足腰が弱り、家の中でも一人で歩くのは難しくなってきた。

「でも“まだ”90歳なんですよ。あと10年生きるとしたらと考えると、その間、徐々にしかし確実に弱っていくのだから、私自身の体力が問題になりますよね。介護が終わったときはもう私自身が動けなくなっているんじゃないか。そんな不安もあります」

物忘れは激しくなっているが、認知症がひどいわけではない。いっそ施設へと考えたこともあるが、費用の問題と、母自身の「家で生活したい」という思いの強さも鑑みて、今も自宅での介護が続いている。

「義母は母より10歳下ですが、夫は一人っ子なので最後まで一人で面倒を見るしかありません。夫が言うには『実家に通うようになって、何かあったら困るから預金のことも聞いたんだけど、おふくろ、ほとんどないんだよ』って。自宅は義母名義だけど、土地が借地だということも分かって、これほど資産がないとは思わなかったと。

ただ、考えてみれば義父は若いころから病気がちだったらしいから、余裕があるような生活は送れなかったんでしょうね」

親ガチャもいいところだよねと、サチコさんと夫は顔を見合わせて笑ったそうだが、笑っていられるのも今のうちかもしれないとサチコさんがつぶやき、二人は急に重い空気に包まれたらしい。


■いつまで頑張れるのか
「介護サービスを駆使すればお金がかかる。結局、相当裕福でない限り、どうしたって家族は第三者ではいられない。こちらもまだ仕事で現役だったりすると、行き詰まってしまうことがあるような気がします」

ただでさえ、疲労感が募る年齢だが、なんとか気を張っていこうと思っている。だがいつまで頑張れるか、自信はないとサチコさんは言う。

「先のことを考えても仕方がないし、それぞれの親の死を願っているわけでもない。だけど考え始めると、どんどん暗くなりますね。だからこそ時々息抜きしながら、なんとか最後までやり抜くしかないと覚悟を決めようと思っています」

人は誰でも必ず死を迎える。親には穏やかに旅立ってほしいと思っても、現状、そこに至るまでの道のりは険しいと言わざるを得ない。
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