高齢者を全て「老害」などと言うつもりはないが、公共の場で人に迷惑をかけている高齢者が目立つのも事実である。自分を偉いと思っているのか、はたまた高齢なのだから何でも思いが通ると思っているのか、家族がいなくて寂しいから、誰かの注意をひきたいのか、それが分からないだけに対処が難しい。


■座っている人を杖でつついて歩く
座席は満席、立っている人たちもそれなりにいた電車内で、シオリさん(38歳)はびっくりするような光景を見たという。

「私は立っていたんですが、次の駅で乗ってきた杖をもった高齢男性。杖をきちんとついているわけでもなく、体が不自由そうには見えなかった。乗るときもしっかりした足取りでしたし。その男性、乗ってくるなり座っている人の足を杖でつついたんですよ。

その人に無視されると、隣に座っていた強そうな中年男性は飛ばして、その隣の若い女性の足をつついた。彼女はスマホを見ていたんですが、つつかれて顔を上げると立ち上がりました。するとその高齢男性、『まったく、どいつもこいつも』とぶつぶつつぶやきながら、お礼も言わずに座ったんです」

彼が飛ばした中年男性が立ち上がり、「譲ってもらったらお礼ぐらい言うべきなんじゃないですか」と静かに、だが力強く言った。そして譲った若い女性に「ここ、座ってください」と声をかけた。

「でもその高齢男性の隣に座るのが嫌だったのか、若い女性はいいですと離れていきました。中年男性は高齢男性をにらんでいたけど、高齢男性は知らん顔して目をつぶっている。車内も、ああいう高齢者、迷惑だよねという雰囲気でしたね」

中年男性は次の駅で降りていった。
それを確認したかのように高齢男性は目を開け、周囲をにらむ。乗ってきた中年女性が空いていた高齢男性の隣に座ると、その男性はまた杖で彼女をつついた。

「足が邪魔って言いました。彼女は普通に座っているだけなのに。そのとき思ったんです。この高齢男性は寂しいんだろうなと。誰かに難癖つけることでしか、自分の孤独を埋められないのではないかと。そう思ったとき、彼への怒りより、物悲しい気持ちになりました」

どういう人生を送ってきたのだろうか。身なりは悪くはない。お金はあるのかもしれない。だが埋めようのない寂寥感を抱えているのではないか。そう考えたとき、シオリさんは彼を憎んでも仕方がないと割り切れたそうだ。


■コンビニで難癖をつけていた女性だが
ある日の昼間、カヨさん(42歳)は自宅近くのコンビニに行った。

「スーパーで買い物をするので、あまりコンビニに行くことはないんですが、その日はたまたま、すぐ使いたい文房具があったので行ったんです。昼間だし住宅街だから、それほど多くのお客さんはいなかった。私が品物を見ていると、レジのあたりで女性の怒鳴り声が聞こえました」

気になって見てみると、高齢女性がレジで文句を言っている。さっき買ったお弁当がちゃんと温まっていなかったと訴えているようだった。温めてもらっても帰宅するまでに冷えることはあるだろう。それをまた持ってくるなんてご苦労なことだとカヨさんが思っていると、その女性、なぜか矛先を納め、今度はレジにいた女性に愚痴をこぼし始めた。

「息子の嫁と同居しているんだけどごはんを作ってもらえないとか、私にだけまずいものを食べさせるとか……。見ていたら、どうやら常連らしいんですよ。彼女を説得する“担当の女性”がいるみたいで、その女性が出て来たら急に文句をやめて愚痴り始めたみたい」

レジが少し混んできたのだが、その高齢女性は帰ろうとしない。すると担当女性が、「また明日来て。待ってるから」と声をかけ、高齢女性は渋々帰っていったという。


カヨさんが必要なものを持ってそのレジに行くと、担当女性が「お待たせしてすみません」と笑顔を見せた。

「思わず、大変ですねと声をかけたら、彼女は控えめに頷いていました。すると私の後ろに並んでいた女性が、『息子の嫁って言ってるけど、息子一家はすでに別居しているんですよ』って。最初は同居したものの、うまくいかず、息子一家は出ていったんだそうです。『あんな調子で怒鳴られたら、誰だって別居しちゃうわよね』って。

近所の人で、状況を知っていたみたい。近所って怖いなと思うと同時に、コンビニにはいろいろな人が来るんだなと実感しました。昼間のコンビニって、案外、そうやって高齢者の愚痴のこぼし場所になっているのかもしれないですね」

そしてカヨさんは思った。私もああなるかもしれない、と。今は二人の子を育てながら忙しく働いているが、子どもたちが独立して離れていき、夫が先に逝ったら……と考えると他人事ではなかった。

「年をとって一人暮らしになり、どんなに寂しくても、なんとか自分を律しながら生きていかねばと、心から思いました。そのためにどうしたらいいか考えていかないと」

カヨさんは真顔で、自分に言い聞かせるようにそう言った。

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