「肝斑(かんぱん)」は、皮膚の色素異常症の一種で、一般に「シミ」と呼ばれます。30代以降の女性に多く、ほほ、こめかみ、額、鼻のまわりなどに左右対称に現れるのが大きな特徴です。


形状が「肝臓」に似ていることや、かつては肝機能の低下が原因と考えられていたことからこの名がつきましたが、実際には肝機能とは関係ありません。現在では、女性ホルモンのバランス変化や紫外線の影響が主な原因と考えられています。妊娠や、経口避妊薬などの女性ホルモンを含む薬の服用などをきっかけに発生することもあります。

■肝斑が治る? 安易な施術や根拠のない健康食品類には要注意
肝斑があっても健康上の問題はありません。しかし、美容上の悩みと感じる人は多いようです。そのため、皮膚科や美容クリニックでさまざまな治療が行われていますが、完全に消失させることは困難です。

自由診療(保険外診療)による特殊な施術も試みられていますが、一時的に見た目が改善しても再発が多く、場合によってはかえって悪化してしまうリスクもあります。また、「シミやそばかすに効く」とうたう根拠の不明な健康食品類もあるようですが、効果が期待できないばかりか、予期せぬ健康被害を招く恐れもあります。安易な利用は避けるべきです。

■肝斑治療の第一選択「トラネキサム酸」、実際の効果は?
劇的な特効薬ではありませんが、皮膚科医のアドバイスを受けながら正しく使えば、肝斑の症状の軽減や悪化防止に有効な医薬品は存在します。その第一選択薬が「トラネキサム酸」です。

トラネキサム酸は、私たちの体内ではたらいている「プラスミン」というタンパク質分解酵素を阻害するように設計された化合物です。
プラスミンは炎症や出血に関与するため、止血や抗炎症の目的で使用することが認められています。

ただし、トラネキサム酸を含む医療用医薬品は、現在13種類が使用可能ですが、そのいずれも、効果・効能に「肝斑」が明記されているわけではありません。湿疹や蕁麻疹などに伴う皮膚の紅斑・腫れ・かゆみなどの症状に用いられていることや、肝斑を形成するメラニン色素の生成を抑制できると知られていることから、皮膚科において経験的に肝斑にも処方されているのが実状です。

一方、薬局で自分で買って使える「一般用医薬品」としては、2007(平成19)年に日本で初めて「シミ(肝斑に限る)」に対して使用を認められた「トランシーノ」という商品があります。これはトラネキサム酸に、抗酸化作用をもつビタミンCなどを配合したものです。

■トラネキサム酸の「止血作用」に伴う血栓のリスク。命の危険も……
医療用・市販品を問わず、肝斑の薬はサプリメントや化粧品のような感覚で服用してはいけません。

上述の通り、トラネキサム酸には止血作用があります。そのため、血液が固まりやすくなり、血栓形成を促すリスクがあります。トラネキサム酸自体が血栓を形成するわけではありませんが、血栓を溶かす仕組みを阻害する作用があるため、結果として血栓が残りやすくなってしまうのです。

より高い効果を求めて過剰に服用したり、効果がないのに漫然と飲み続けたりすることは非常に危険です。トラネキサム酸自体は安全性の高い薬ですが、漫然と飲み続けるなどの誤った使い方は避けるべきでしょう。


よく知られている通り、血栓は詰まってしまった箇所によって重大な結果を招きます。脳なら脳梗塞、心臓なら心筋梗塞、肺なら肺塞栓症を起こし、いずれも命の危険につながるものです。特に、ピルを服用中の方や喫煙者は注意が必要です。「肌のために飲んでいるだけ」と軽く考えるべきではありません。

また、風邪をひいた際、のどの炎症を抑えるためにトラネキサム酸が処方されることがよくあります。肝斑治療としてトラネキサム酸を飲んでいる場合は同じ薬が重複してしまうため、一時的に服用を中止するか、必ず医師に「肝斑の薬を飲んでいる」と伝え、処方内容を調整してもらう必要があります。

■トラネキサム酸以外の薬・「生活習慣」による根本ケアも重要
他の肝斑治療薬としては、抗酸化作用によりメラニンの生成を抑える「ビタミンE製剤」(ユベラ)や、「L-システイン製剤」(ハイチオール)などが使われることもあります。しかしこれらも抗酸化作用に基づくメラニン生成の抑制を期待したものであり、劇的な変化をもたらすものではありません。

肝斑の治療は、薬に頼るだけでなく、スキンケアや生活習慣の改善も重要です。紫外線対策やストレスの少ない生活を心掛けることでも、症状の改善が期待できます。ネット上の不確かな情報に惑わされて、自己判断で誤った対応をしないことが大切です。

まずは信頼できる専門医の診断を受け、適切なアドバイスに基づいた治療を進めることをお勧めします。


▼阿部 和穂プロフィール薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
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