登下校中のトラブルや事故を学校に連絡したのに対応が冷たかった……。そんな不満を抱いたことはありませんか? 実は、保護者が「学校の責任」だと思っていることの中に、法律上は「保護者の責任」と定められているものが少なくありません。


学校側と話がかみ合わない、あるいはよかれと思って伝えたことが“的外れなクレーム”になってしまう。その背景には、意外と知られていない「学校の役割」に関する誤解があります。

特に新生活が始まる4月は、登下校の安全や「小1の壁」に悩む時期。保護者が「学校の守備範囲」を正しく知ることは、子どもを守り、先生と良好な関係を築くための第一歩です。

今回は、元小学校教師で、現在は大学で教員養成に携わる鈴木邦明氏の著書『保護者が知っておきたい 先生・学校の協力を引き出す「上手な伝え方」のコツ』より、保護者が勘違いしやすい「学校の仕組み(役割)」を一部抜粋・編集してお届けします。

■「登下校の責任」は学校ではない? 知らないと損する学校の仕組み
保護者が学校と関わる時に、学校の仕組みを知ることはとても大事なことです。仕組みを知らない状態では、保護者が何かのアクションを起こそうとした際に的外れなことをしてしまう可能性があります。

筆者は公立小学校の教員を22年間してきました。その間も、保護者の認識が間違っている(勘違いをしている)と感じる事例に接したことがあります。また、大学に移ってからは、学校(先生)と家庭(保護者)の関係についてのコラム連載を続けています。読者からの問い合わせ・質問などのコーナーに寄せられるさまざまな意見を読んでいると、明らかに保護者が認識違いをしているようなケースも見受けられます。

基本的な認識が学校と家庭とで違っているのだとしたら、話し合いをしてもうまくまとまらないことが多くなってしまうのは、想像に難くないでしょう。


具体的には「子どもの登下校の際の責任」が例として挙げられます。

登下校でのさまざまな問題について、保護者から学校へ問い合わせがあります。「学校の指導はどうなっているのか」といったクレームのようなものが寄せられることもあります。

しかし、実は子どもの登下校に関することの責任は、学校ではなく「保護者」にあります。

登下校に関することは、「学校保健安全法」で定められています。同法の第27条、第30条では、学校や先生の果たす役割について「登下校の際の交通安全のルールを教えること」「警察や保護者と連携をすること」とされています。

つまり、交通安全のルールを教えることや他機関との連携は学校の役割ですが、実際に登下校中の安全を確保するのは、「学校の役割ではない」ということになるのです。

■登下校中の事故に「学校の責任」が問われない理由
少し分かりにくいのが、事故の際の「補償」についてです。

登下校中の事故などに関しては「災害共済給付制度」というものがあり、事故の状況に応じて補償金が支払われます。体育の授業中の怪我などと同じで、日本スポーツ振興センターから支給されるものです。

この「補償金が支払われること」を根拠に、「学校にも責任があるはずだ」と主張される保護者の方もいらっしゃいます。しかしこれに関しては、判例においても、先ほど説明した「学校保健安全法」を根拠として、「学校に責任はない」という判断がなされています。


本来、交通安全や地域の治安維持は「警察」の役割です。また、道路整備など地域の環境を整えるのは「自治体(行政)」、道路工事などであれば「工事を実施している会社」に安全確保の義務があります。

そして、家から学校までの日常的な安全確保については、最終的には「保護者」の責任となります。

これまで書いてきたことを踏まえると、登下校中の問題に関して、学校に強く苦情を伝えることは「少し違っている」ということがお分かりいただけるかと思います。

■文科省が明言「放課後や夜間の見回りは、学校の業務ではない」
また、文部科学省は学校の働き方改革に関して、平成30年2月8日に「学校における働き方改革に関する緊急対策」を公表しています。その中で、「基本的には学校“以外”が担うべき業務」として次のものを挙げています。

・登下校に関する対応
・放課後から夜間などにおける見回り、児童生徒が補導された時の対応
・学校徴収金の徴収・管理
・地域ボランティアとの連絡調整

さらに、「学校の業務だが、必ずしも先生が担う必要のない業務」としては、以下のものを挙げています。

・調査・統計等への回答等
・児童生徒の休み時間における対応
・部活動

こうした実情を、保護者の皆さんも知っておくことはとても大切です。保護者としては「何でも学校がやってくれたらいいのに」と考える人もいるかもしれません。いわば、学校を保育所のように捉える考え方です。

しかし、それでは保護者がラクになる一方で学校(先生)の負担は増え、結果として学校教育全体の質の低下を招く可能性もあります。

最近では、学校以外の機関が子どものケアに関わるケースも増えています。
例えば、登校前の朝の時間に子どもを預かる取り組みなどです。これは、共働き世帯などが直面する「小1の壁(保育園より小学校の開始時間の方が遅いために、朝の居場所に困るという問題)」とも深く関係しています。

こうした課題に対し、現在は自治体が主体となって見守りの場を作るなどの取り組みが進められているのはよいことでしょう。

■なぜ学校は「できないこと」を教えてくれないのか?
ところで、先ほど紹介した文科省の「学校における働き方改革に関する緊急対策」のような指針は、保護者の皆さんにとってあまりなじみのあるものではありません。発表時にはニュースなどで扱われることもありますが、関心を持つ保護者はそれほど多くないのが現状です。

本来、こうした情報は学校のホームページなどに掲載されることが望ましいのですが、残念ながらそこまで手が回っている学校は多くありません。

だからこそ、保護者の側でも「学校の仕組み」を知っていく努力をすることが大切です。それが学校との関係をよりスムーズにし、ひいてはお子さんの育ちをよりよいものにしていくことにつながります。

通学の例のように、保護者側の理解不足や勘違いによって、せっかく解決できるはずの問題を複雑にしてしまうのは、非常にもったいないことだからです。

この記事の執筆者:鈴木 邦明 プロフィール
神奈川県、埼玉県の公立小学校に22年勤めた後、短大、大学での教員養成、保育者養成に移り、現在に至る。現在は、大学での講義を中心に、保護者向けに子育て・教育、教員向けに授業方法・学級経営などのテーマで執筆、講演などに幅広く活躍中。
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