「ほんとは、相手が憎くて、顔も見たくないけど、この年で、晩年を一人で生きてゆく自信がない」
「何度も浮気されてクソ男と思いながらも、生活費を頼らざるをえないから、諦めて一緒に住んでる」
「信頼なんかまったくしてない。でもこの家が好きでずっと住みたいから離婚は考えない」
「離婚すると、不機嫌を抱えたままの未来になりそうで離婚できない」。そんな言葉が並びます。「離婚後のワ・タ・シ」の概念が暗すぎると常々感じています。
そして、ここ数年で特に増えているのが同居20年以上の“熟年夫婦”のご相談です。
熟年離婚は「妻から切り出すもの」というイメージが強いかもしれませんが、“夫側からの離婚”も確実に増えています。
彼らに話を聞くと、きっかけは、尊重の欠如、会話の断絶、そしてお金の扱い方だといいます。長年の積み重ねがあるからこそ、引き金は不倫などの派手な裏切りではなく、ある日の“ひと言”や“態度”であることが見えてきます。
■健一さん(62歳・仮名)の場合:「私が正しい」で押し切られ続けて……
健一さんは、結婚30年目。子どもは独立し、定年が視野に入っていました。外から見れば「これから夫婦で第二の人生」というタイミングです。
ところが健一さんは、私の運営する夫婦仲相談所に来て開口一番こう言いました。
「妻と話すと、いつも“私が正しい”で終わるんです。日々訂正される人生を、あと何年続けるのかと思うと気分が沈みます」
発端は、結婚した頃にさかのぼります。年末年始の過ごし方でした。夫が「腰痛があるから、今年の帰省は日帰りにしよう。正月明けに温泉でも行こう」と提案したところ、妻がぴしゃり。
「あなたはいつも逃げる。私の親に失礼でしょう。うちの親は楽しみにしてるのよ」
夫は「失礼ではなく、体力と現実の話だ」と説明しようとしますが、妻は一歩も引きませんでした。
「じゃあ私だけ行く。あなたは家で寝てれば? 誰も困らないから」
この“誰も困らない”が、夫の胸に深く刺さりました。夫が「そういう言い方はきつい」と伝えると、妻は謝るどころか、「きつい? あなただって、私にきついこと言うよ。おあいこ」と、クールな受け答え。
■気付いたときには修復不可能に
確かに妻は国立大を卒業し、とある研究所に勤めている賢い人です。ですが、「あなた、お風呂の温度が高すぎる。健康キープできる湯音は◯度よ」「あなたの貯金感覚おかしい。今は株でしょ。株。この会社に投資してよ。私がAIで分析したから」など、いちいち自分の優等生ぶりを押し付けてくるのです。
「俺は、君の部下じゃない。家の中で逐一判定されるのは窮屈だ」
妻にそう言うと、妻は鼻で笑って「そんな大げさなー」と返しましたが、その“軽く扱われた感覚”が、健一さんの決意を固めました。
熟年夫婦のすれ違いは、事件ではなく「尊重の残高」がゼロになった瞬間に起きます。
■亮次さん(62歳・仮名)の場合:家計を“黙って動かした”妻への信頼感はゼロ
亮次さん夫妻は、結婚38年目で、亮次さんはまもなく退職予定です。退職金や年金の話が現実味を帯びてきた時期でした。
彼が違和感を覚えたのは、通帳の残高が減っていることでした。老後資金を貯めている通帳です。
「これ、何に使った?」と聞くと、妻は軽い調子で、「ああ、いろいろ。ほら、耳鳴りしたから、病院通ったりしたじゃない。細かいことは気にしないで」と笑って流します。
若い頃から家計管理は妻に任せていたので、「病院代なら仕方ない」と思いましたが、家計費に関しては、その後も分からない引き出しが増えていることに気付きました。
亮次さんはその都度、妻に尋ねましたが「いいのいいの。私が家計はやるから。
この「あなたは分からない」という言い方に、“バカにされている感”が漂っていた。“無力扱い”されたと思ったそうです。
さらに妻は、老いた母の介護費用の補填(ほてん)のために、夫の退職金を見込んだ資金計画を内緒で進めていました。介護ホームの費用を二人の退職金から出そうとしていたのです。お金のことに限らず、大事な決定を相手の合意なしに進めた瞬間、信頼感は一瞬でゼロになります。
■離婚を決定づけた妻のひと言
決定打は、妻の次のひと言でした。
「家族のためなんだから、黙って協力してよ」
亮次さんは私に言いました。
「協力はします。でも、説明なしに“黙ってやられてる”は無理です。俺の人生をかけたお金なのに、許可なく使おうとしてる」
熟年期は、恋人同士のときのように“勢い&パッション”だけでは関係を保てません。
お金・健康・教育・親の介護といった「現実の議題」が増えるからこそ、情報共有のルールがない夫婦は、破綻しやすくなります。
信頼は、貯金と同じで、築くのは時間がかかりますが、崩れるのは一瞬です。
■熟年離婚が頭をよぎったら必ずやってほしいこと
この2例に共通しているのは、「妻が嫌いになった」というより、信頼の土台が壊れた感覚です。そこで筆者は、夫側にも妻側にも、次のことをお伝えしました。
・モヤモヤと事実を分けて整理する
「何が起きたのか」「いつから続いているのか」「どんな言動が決定打だったのか」。まずは言語化。熟年離婚は長期戦になりやすいので、感情のまま走ると疲弊します。メモで構いません。自分の中の“モヤ”を可視化するだけで、判断がぶれにくくなります。
・ルールは口頭でなく書き出す
家計なら「見える化」(共有口座・共有アプリ)、家事なら「役割分担」、会話なら「侮辱する言葉は使わない」といったルールを決めます。夫婦は愛情だけで回していると、壊れたときに立て直せません。
箇条書きで可視化したルールは、相手を縛るためではなく、自分たちを守るための手段です。
・離婚を決定したら先に生活の段取りを組む
離婚は感情の決断ですが、成立後は一人でのリアルな生活維持が待っています。
住まい、仕事、保険、年金、親の介護、家の名義。ここを整理せずに「別れる・別れない」を先に決めると、トラブル発生で長引きます。もし、すぐに家を出るのが難しい場合、段取りをしなければなりません。
「責めたいのではなく、今後のルールを決めたい」「同じ家で暮らすなら最低限の尊重が必要」と、“攻撃”ではなく“設計”の言葉で始めてください。
離婚を決めるなら粛々と段取りを、踏みとどまるなら「では、どう修復するか」を話し合いましょう。どちらに進むにせよ、一度は愛し合った二人。相手を貶めず、天に召されるその日に「あの結婚は無駄ではなく、私を成長させてくれた」と振り返れるように、向き合ってください。
▼三松 真由美プロフィール男女関係に悩む1万3000名の女性会員が集うコミュニティを展開。セックスレス・ED・女性性機能に詳しく、性を通して男女関係を円滑にするメソッドを考案。講演、メディア出演、著書多数の恋愛・夫婦仲コメンテーター。執筆家。









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