『「平成の天皇家」と「令和の天皇家」 二つの家族はなぜ衝突したのか』(大木賢一著)は、皇室取材を続けてきた元宮内庁担当記者の著者が、天皇家の30年を描き出す一冊。
本書から一部抜粋し、雅子さまが皇室入りしてからの約10年間を振り返り、ご自身の理想と皇室の現実の間で揺れ動いた複雑な内面をひも解く。
■忍耐と沈黙の皇太子妃時代
雅子皇太子妃は関心のある分野として「難しい境遇に置かれている子供の問題」を挙げている。
「最近の子供たちをめぐる状況には心痛む」「児童の虐待が急速に増加していると聞きます」「薬物の乱用が広がりを見せている」「子供たちを社会全体で守っていくこと」「世界中の子供たちにとって明るい将来が開かれるようになること」(1999〈平成11〉年の会見)などの発言が目を引く。
このころの会見録を読み返していて思うのは、自分の存在意義にも関わるほど大事に思っていたはずの海外訪問から遠ざかっていた時期なのに、少しもそうしたことへの不平や要望めいたことを口にしていないことだ。
言及として唯一目に留まるのは1998(平成10)年の会見であり、記者から、国際親善において皇太子夫妻が果たすべき役割を聞かれて、こう答えた。
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「国際親善は、皇室の担っている役割の中でも一つ大切な事だと思っております。外国への訪問ということにつきましては、皆様もご存知のとおり、政府の決定によって参ることでございますので、もし、そのような機会が与えられることがございましたら、私のできる限りで務めを果たしたいと思っております」
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■愛子さまの個性を語る母の眼
この4年後の2002(平成14)年の会見になると、結婚以来、外国訪問することが難しかった状況について「適応することになかなか大きな努力が要った」と話すことになるが、これは、あくまで訪問が再開された後のことであり、過去を振り返っての話であった。
外国訪問が許されなかった当の時期には、「外国訪問は政府が決定すること」と遠慮がちに語ることしかしていなかったことを、ここで確認しておきたい。
同じ2002(平成14)年の誕生日会見では、ちょうど1歳になった愛子内親王の様子を母親らしく生き生きと語っているが、そこには雅子皇太子妃自身の持つおおらかでユーモラスな人柄と感性がにじみ出ているように感じる。
まず、まだ1歳の「乳児」と言ってもいいような赤ちゃんについて「身体が丈夫で、そしてまた、おおらかな性格といいますか、皇太子さまに似ましたのか、何ていうのかしら、ゆったりと、どっしりとしております」と語った。
また、「私驚きましたのは、赤ちゃんでも、本当に2ヵ月、3ヵ月でもユーモアのセンスというのがあるんだなというのがビックリしたことだったのですけれども」と話している。
何のことかと言うと、徳仁皇太子が床にガーゼを落としてしまった時に、雅子皇太子妃が「あっ」という顔をしたところ、子どもが「にやっ」と笑ったのだそうである。
さらに愛子内親王の性格について「余り細かい、余りやっぱり神経質な感じは余りないかしらという思いがする」と続け、御用邸のある栃木県・那須の駅頭で大勢の出迎えを受けた時の様子について「何か皆さんの喜んでくださっているというのを、感じますのか、自分から一所懸命手を振ったりというのも、私たちが全く教えたわけではなくて、きっと皆さんのうれしそうにしている様子というのを感じ取って、それを素直に自分なりに表現しているのかしらと考えるのです」と話している。
■「人格否定発言」への導線
成人した愛子内親王の姿や振る舞いを知っている者としては、幼いわが子の性格を見抜く母親の観察眼を感じさせられる。待ち望んだ末にわが子を得た雅子皇太子妃は、現代的キャリアウーマンのイメージを脱し、母親としての姿を周囲に印象付けるようになっていく。
本章では、雅子皇太子妃が皇室入りしてからの約10年間を振り返った。そこからは外交官としてのキャリアを断念しつつも、皇族にしか、自分にしかできない国際親善や仕事を希求し続けていたことが分かる。
そしてそれは、より「実務的に人に役立つ行い」「自分という個から生み出される自分らしい行動」への志向だったと、私はとらえている。
しかし、残念ながらこうした求めは、ついにかなえられることがなかった。「男児出産」と「皇太子妃として求められてきた公務の在り方」という、外からの二つの圧力にさいなまれ、雅子皇太子妃はやがて心の病を発症する。
そして陥った窮状を救うべく、徳仁皇太子による告発「人格否定発言」がなされるのである。
大木 賢一(おおき・けんいち)プロフィール
1967年、東京都生まれ。1990年、早稲田大学第一文学部日本史学科卒業。
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