自分の子といえども、結婚して独立すれば別の家庭となるのだから、それまでとは精神的な距離感も違ってくるのが当然だ。ところが親は、ついつい「子どもかわいさ、孫かわいさ」で甘くなってしまう。
はたと気付くと、自分たちの家計が追いつめられかけている人もいるようだ。

■大事に育てた一人息子だから
息子が結婚したときは、「ものすごくさみしかった」とアイコさん(59歳)は言う。28歳のときに生んだ一人息子が結婚したのは、アイコさんが54歳のときだった。

「息子は就職してからも、私たちと同居していました。結婚なんて興味がないといった感じだったのに、ある日突然、『この人と結婚する』と連れてきたのが5歳年上、バツイチの女性だった。大事に大事に育てた一人息子を、こんな女に取られるのかと当時はけっこう落ち込んだものです」

だが、息子の人生は息子のもの。まだ26歳、早すぎると反対しても息子は聞く耳をもたなかった。

だが、何度か会っているうちに、アイコさんが思ったより彼女はずっと「普通の人」だと分かった。アイコさんは偏見と、息子への愛情から彼女に嫉妬していたのだ。

「夫も私も、息子がいいと決めたのなら反対はしないと伝えました。二人はすぐに婚姻届を出したけど、そのときにはもう妊娠していたようです。ちょっと裏切られた感じもしたけど、今の時代、そんなことも言っていられませんしね」

■息子の妻の言葉にイライラ
息子の収入は、まだそれほど多くはないから、息子の妻も当然、共働きである。
本当なら働きたくないけど仕方ないです、と彼女が言ったとき、アイコさんは「ちょっとイラッとしました。今どきの若い夫婦なら共働きは当然だろうと思った」からだ。

二人が結婚してしばらくたったころ、「あなたも大変でしょう。私は息子に家事をやらせなかったから」と言うと、息子の妻は「今はだいたいできるようになりましたよ」と笑った。

「私も働いているんだから、当然、家事をやってくれないと困りますと言われて、それもそうだけど、と内心では少し複雑でした。私の心のどこかに、『うちの息子に家事をやらせるなんて』という気持ちがあったんでしょうね」

あまり息子の家庭に踏みこむのはやめようと思っていたが、やはり気になってたまらなかったのだろう。

■子どもが生まれて
子どもが生まれてから、息子一家は頻繁にやってくるようになった。アイコさんと夫に子どもを預けては二人で出かけていくのだ。

「どうしても付き合いで出なければならない集まりがあるとか、仕事関係のパーティーに二人で出席するとか、もっともらしいことを言っていたけど、子どもを私たちに押しつけて遊びに行きたかったんじゃないでしょうか。そのうち週末になると息子から外食の誘いが来るようになりました」

子連れでも行けるイタリアンの店ができただの、子どもの頃行ったお鮨屋さんに妻も連れていきたいだのと理由をつけられては呼び出された。支払いはもちろん、アイコさん夫婦だ。

「夫が『食費を浮かすために毎週末、誘ってくるんだろう』って。
外食のあとうちに寄って食材をごっそり持っていくこともありました。息子が『お母さん、ジャガイモある? うち、ちょっと切らしてて』と言うわけですよ。

ジャガイモだけというわけにはいかないから、だったらあれもこれも持っていけばと、最初に私が言ったものだから、次の週からも持っていくようになった。常備菜や買ったばかりの冷凍食品を持っていかれて」

■息子夫婦に不信感が募り
気付けば、息子一家のために使う食費が激増していた。夫婦二人、老後の資金を蓄えながら質素に暮らしていたのに、貯金もできなくなっていた。

「息子に言ったんですよ。あんたのところの家計はどうなってるんだと。すると息子は『このままだと子どもの学費も貯められない』って。孫のために貯金してくれないかなと言われて、なんだか不愉快な気持ちになりました」

3年ほどたったとき、アイコさんは「もうこれ以上は無理。下手したらお父さんの退職金まで狙われるかもしれない」と夫に伝えた。夫も、息子夫婦のありかたはおかしいと思っていたようだ。

「孫に会えなくなるかもしれないけど、しばらく付き合いを断とうと夫と話しました。
息子の妻が必ずしも悪いとは言わないけど、息子はお小遣い1つせびる子じゃなかった。だんだん収入だって上がっているはずなのに、家計のやりくりが下手なのではないか、息子の妻が持っているブランド品は誰が買ったのか、いろいろ不信感が募ってしまったんです」

■「外食はしない」と息子に伝えたら
翌週、外食に誘われたとき、その日は用があるからと断った。それから3週連続で断り、「どうしたの」と息子に言われたとき、「もう外食はしない」と伝えた。息子は「孫に会いたくないの?」と迫ってきた。

「会いたいけど、うちはもう火の車。そのうちあなたにお金を借りなければ生活していけないかもと言ってやったんです。それきり連絡が途絶えました」

この1年で息子から連絡が来たのは2度だけ。元気にしてる? それだけだった。正月も来なかった。お金に困っているのではないかと思うこともあるが、そういう心配もしないことに決めた。

「適度な距離をもって、互いに独立した家族として接することができるならいいけど、孫を人質みたいにして、私たちを利用しようとする息子にはうんざりしました。あんな子に育てた覚えはないのに……」

どこか恨めしそうにアイコさんは言う。
息子たちに「たかられる」より、自分たち夫婦の先を見すえた生き方は、おそらく間違ってはいない。そう思いながらも、やはり時々息子一家が気になってたまらないと彼女は少し悲しげに言った。
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