「お金がなくて帰れない」「急な施設費用を誰が払うのか」――親の介護や看取りでは、感情だけでなく金銭的な問題が家族の絆を引き裂きます。最期の瞬間に後悔しないための備えを解説します。


『毒親を在宅で見送った緩和ケア医が伝える 関係のよくない親を看取るということ』(岡山容子著)では、不仲な親の介護や看取りにおける、子供世代のリアルな葛藤と解決策についてお伝えしています。

今回は本書から一部抜粋し、きょうだい間の不公平感を解消し、スムーズな看取りを実現するための「共同積立」の具体的な活用術について紹介します。

■帰省の交通費を補填する
私たち姉妹の場合の「積み立て貯金」の使い方は、次のような形です。

たとえば遠方のきょうだいが親の用事で帰省をする場合、回数が多くなると交通費の負担感が強くなります。

積み立て貯金があると「そこから交通費を出したら? 」と言えますから、きょうだいでの紛争の種が一つ減ります。私たち姉妹も、母の死を目の前に、東京から妹2人が足しげく往復できたのは、この貯金があった面も大きいと感じます。

東京から京都までの往復の新幹線代は3万円弱。お見舞いから看取り、葬式まで最終末の時期は、何かと往復する機会が増えます。

姉妹には、「時間だけ作ってもらえたらありがたい。交通費は貯金から出すことにしよう」と関西に住む私と長女が提案しました。するとやはり妹たちも「交通費を負担してもらえるのはありがたい」と言っていました。

■施設入居の初期費用に
そうした遠隔地に住むきょうだいの経済的負担を軽くするためにも、大きな効果があったように思います。
また、親がサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)入所などで一時的にお金がまとまって必要になるときにも役に立ちました。

わが家は、母は死を前にして自宅での療養が無理と判断し、バリアフリーのサ高住に引っ越します。そのサ高住に入居するにあたって60万円程度の入居費用(当月と翌月の家賃)が必要でした。

しかしそれも積み立て貯金から出したのです。母本人も父も事態が目まぐるしく動くことに気持ちがついていっていない状況でしたから、お金の話は精神的負担が大きかったと思います。

■親の説得や精神的負担
そうした親に負担に思わせず、スムーズにことを運ぶためにも、「経済的なことで両親を説得する」などの手間を省くためにも、メリットが大きいものでした。もちろん読者の方々のケースはさまざまでしょう。

実際に「積み立てよう」と提案しても、きょうだいそれぞれの言い分があってできないことも多いのではないかと思います。

しかしながら、少なくとも子ども世代で「親対策の積み立て」ということをしておくと、看取りの際のお金やその後の葬儀やお墓関係のお金なども含めて使えますからおすすめですよ、ということを知識として知っておいて損はないとお伝えしておきます。

岡山 容子(おかやま・ようこ)プロフィール
医師。おかやま在宅クリニック院長。1971年、大阪府堺市生まれ。
四人姉妹の次女として育つ。1996年、京都府立医科大学卒業後、麻酔科医として京都府立医科大学病院や西陣病院にて勤務、その後在宅医療分野へ転向。2015年、京都市内に在宅療養支援診療所おかやま在宅クリニックを開設し、訪問診療、緩和医療、認知症治療などに携わる。2018年より産経新聞大阪本社地方版でコラム「在宅善哉」を連載開始(筆名:尾崎容子)で。現在は終末期をみる医師として、地域密着医療を実践するほか、看取りの勉強会を主宰する。
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