12月27日より映画『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の200年前の物語を、全編手描きのアニメーションで映像化した『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』の全国公開がスタート! 今回はこのハリウッド超大作に大抜擢された神山健治監督に、タイトなスケジュールのもとで困難を極めたという制作エピソードや、オススメの見どころなどを聞いてみた。
――本作に参加することになった経緯からお聞かせください。
神山 2021年の5月に「『ロード・オブ・ザ・リング』をアニメーション映画として作ることができるか?」という相談をプロデューサーのジョセフ・チョウを通じて受けたのが始まりとなります。そのときから「3Dではなく手描きアニメで」という話だったので、僕は「これを(全編)スケジュール内に手描きのアニメーションで作るのは難しいと思う」と最初は返答していました。そのうち「ヘルム王の話を映画にすると面白いんじゃないか」と具体的な話が出てくるにようになりまして。「これは俺に監督をやらないかとオファーしているのか?」と気づいた感じです(笑)。
――監督としてのオファーはすぐに決められたわけですか?
神山 いや最初は「本当に難しいぞ」ということで、参加についてはすごく慎重に対応していました。ただ『ロード・オブ・ザ・リング』を自分で監督できるようなチャンスは、そうあるものではないですからね。いろいろ悩んだ末に「やれるかどうかわかんないけどやろう!」と決断することにしました。
――アニメーション制作はどこから手をつけていかれたのでしょうか?
神山 アニメーション制作についてはジョセフが代表を務めるSola Entertainmentがアニメを手掛けることになって、僕も『攻殻機動隊SAC_2045』など三作品ほど一緒に映画を作ったりしていたんですが、Sola Entertainmentは元々フル3Dのアニメーションを作っていた会社だった。でも今回のオーダーは手描きの2Dアニメということで「どうしよう」という話になりまして。スタッフもいるわけではないので「とにかく新しくアニメのスタジオを作ろう」というところからスタートしました。僕も元々は作画でアニメーションを作っていたので、スタジオ立ち上げに必要な人材をアドバイスしながらメインスタッフを集めました。
――本作の監督業務について教えてください。
神山 最初から最後までほとんど全ての作業に関わらせてもらいました。脚本はワーナーブラザーズ・アニメーションのジェイソン・デマルコ、ロード・オブ・ザリングシリーズ全てに関わってきたフィリッパ・ボーエン等と一緒に作っていますし、ストーリーボード、コンテについては全て自分で描いています。もちろんイギリスで行われたセリフの収録にも立ち合、プレスコ(先に声を録ってから映像を作る)ということもあって、映像のイメージを説明しながらフィリッパとともにディレクションしています。
――制作スケジュールですが極めてタイトだったと聞いています。
神山 この作品を作るにあたって一番優先せざるを得なかったのはスケジュールでした。制作期間について最初2年でと言われていたんです。実際は1年8ヶ月ぐらいだったんですけど(笑)。それを聞いたときには流石に「無理じゃない?」と正直思いましたね。ハリウッドの実写映画だと撮影からポスプロまでなら「丸2年あったらできんじゃない?」って感覚なのかもしれないですが、日本のアニメは昨今4年くらいが平均的な制作期間ですよね。それでも、そんな厳しい状況の中で「最高のものを、どうやったら作れるだろうか?」と考えていくことになりました。
【関連画像】『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』神山監督と名シーンを見る(画像25枚)
「CG一原」でクオリティとスピードをアップ
――作業スピードを上げるために、どのような工夫をされたのでしょうか?
神山 アニメに時間がかかるのは、アニメーター不足もあるんですが、とにかくレイアウトから一原(キャラクターや背景などの基本的な動きを捉えたラフ画)までの作業がネックになっているんです。しかも、クオリティを担保しないと作品全体の出来に関わるので、絶対に手を抜けないんです。
――新しい作業スタイルを神山監督が作った上で制作に臨んだということですか?
神山 あるものは何でも使ってクオリティとスピードを上げていこうと思ったわけです。アニメーターの人たちには「正確なレイアウトと、正確なアニメーションの一原を一年後に用意するから、残りの一年で作画で最高のものに仕上げてくれ」みたいな、そんな作戦でしたね。3Dのスタッフにも大変なことをお願いすることになりましたが、トライアンドエラーが可能な3Dアニメーションのおかげで、最終的にスピード化とクオリティーの担保がが図れました。
――神山監督はどのように携わっていたのでしょうか?
神山 まずはモーションキャプチャーを使って全てのカットをアクターさんに演じてもらう撮影ですね。ここでアクターの方に僕が演出を指示して芝居内容や、キャラクターの造形を深めて行きました。続いて、モーションキャプチャーのデータを3Dキャラクターにコンバートしてアニマティクス(各シーンの検討のために簡単に映像化したもの)を作り、そこから最終的なカメラワークとカット割り、そしてライティングを施して、レイアウトとラフ原を作っていきました。こちらも全カットカメラの位置からキャラクターの動きまで演出しています。もう気分的には実写監督でしたね。そこからようやく手描きのアニメー制作に入るという進め方でした。
――編集まで一貫して監督が作業されたわけですか?
神山 劇伴のオケ収録から最後のファイナルミックスまで全て立ち合いました。編集についてもファイナルカット権を映画会社に持っていかれる場合もありますが、本作については「お前に任せよう」と言ってもらえて。もちろん日本で作るときに比べて、要望はすごく来るんですけど(笑)。でも、どのカットを切るかについては自分に一任してもらっています。
――全ての作業を終えたとき、どのような感想をお持ちになりましたか?
神山 やり切ったというよりは、もうとにかく大変だったとしか言いようがなくて。制作期間中ずっと映画を完成させるためにはどうすればいいのかを、考えていました。スタッフの数と作業内容と残りの日数でパズルをやっている感じで、いまでも「よく出来たな」と思っています(笑)
手描きの凄みを体感できる騎馬戦
――神山監督オススメの見どころについてお聞かせください。
神山 やはり2000騎の騎馬兵とムマキルを率いたダンレンディング兵との合戦シーンには注目してほしいですね。日本のアニメの歴史の中でも、これだけの軍勢が登場する騎馬戦を手描きでやったことは、いままでにないと思うんです。細かいディテールが施された甲冑を身につけた騎士たちが、乗馬とともに一斉に戦場を駆けて戦う迫力の映像が展開されているので、「これを全部手で描いているんだ」という凄みを感じとってもらえるはずです。
――籠城戦も見どころ満載ですね。
神山 籠城戦は映画三部作にはない城攻めのギミックを登場させています。三部作でも攻城兵器のアイデアはいくつもありましたが、本作の攻城櫓のアイディアを製作総指揮のピーター・ジャクソンも「面白い」と喜んでくれていたので。ただ新しいアイディアというだけでなく攻城櫓の存在自体が主人公たちの危機を伝えるタイムレース的な要素にもなっていますので、そういったところも楽しんでもらえたら嬉しいです。
――映画三部作のファンの方には、どういったところを楽しんでほしいですか?
神山 WETA(WETAデジタル。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作を手掛けたVFXプロダクションのスタジオ)が全面協力してくださったので、実写三部作の映画の設定と全く同じものを共有しています。映画三部作のファンの方々に「これは!」と驚いてもらったり、見つけてニヤッとしてもらえるようなシーンが、そこかしこにありますので、そういった細かい部分もぜひチェックしてほしいですね。
――『ロード・オブ・ザ・リング』作品を初めて観る人にもメッセージをお願いします。
神山 『ロード・オブ・ザ・リング』の映画を観てないという人にも、一本の映画として成立するように意識しながら作りました。ヒロインのヘラに視点を置いてみることで、どこかの国の昔話として、またその時代を生きた割と現代的な女性を描いた物語として、この映画を楽しんでもらえたらと思います。
【PROFILE】
神山健治(かみやまけんじ)
3月20日生まれ。アニメーション監督、脚本家、演出家。主な監督作品はTVアニメ『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ、『精霊の守り人』、『東のエデン』。
――本作に参加することになった経緯からお聞かせください。
神山 2021年の5月に「『ロード・オブ・ザ・リング』をアニメーション映画として作ることができるか?」という相談をプロデューサーのジョセフ・チョウを通じて受けたのが始まりとなります。そのときから「3Dではなく手描きアニメで」という話だったので、僕は「これを(全編)スケジュール内に手描きのアニメーションで作るのは難しいと思う」と最初は返答していました。そのうち「ヘルム王の話を映画にすると面白いんじゃないか」と具体的な話が出てくるにようになりまして。「これは俺に監督をやらないかとオファーしているのか?」と気づいた感じです(笑)。
――監督としてのオファーはすぐに決められたわけですか?
神山 いや最初は「本当に難しいぞ」ということで、参加についてはすごく慎重に対応していました。ただ『ロード・オブ・ザ・リング』を自分で監督できるようなチャンスは、そうあるものではないですからね。いろいろ悩んだ末に「やれるかどうかわかんないけどやろう!」と決断することにしました。
――アニメーション制作はどこから手をつけていかれたのでしょうか?
神山 アニメーション制作についてはジョセフが代表を務めるSola Entertainmentがアニメを手掛けることになって、僕も『攻殻機動隊SAC_2045』など三作品ほど一緒に映画を作ったりしていたんですが、Sola Entertainmentは元々フル3Dのアニメーションを作っていた会社だった。でも今回のオーダーは手描きの2Dアニメということで「どうしよう」という話になりまして。スタッフもいるわけではないので「とにかく新しくアニメのスタジオを作ろう」というところからスタートしました。僕も元々は作画でアニメーションを作っていたので、スタジオ立ち上げに必要な人材をアドバイスしながらメインスタッフを集めました。
――本作の監督業務について教えてください。
神山 最初から最後までほとんど全ての作業に関わらせてもらいました。脚本はワーナーブラザーズ・アニメーションのジェイソン・デマルコ、ロード・オブ・ザリングシリーズ全てに関わってきたフィリッパ・ボーエン等と一緒に作っていますし、ストーリーボード、コンテについては全て自分で描いています。もちろんイギリスで行われたセリフの収録にも立ち合、プレスコ(先に声を録ってから映像を作る)ということもあって、映像のイメージを説明しながらフィリッパとともにディレクションしています。
――制作スケジュールですが極めてタイトだったと聞いています。
神山 この作品を作るにあたって一番優先せざるを得なかったのはスケジュールでした。制作期間について最初2年でと言われていたんです。実際は1年8ヶ月ぐらいだったんですけど(笑)。それを聞いたときには流石に「無理じゃない?」と正直思いましたね。ハリウッドの実写映画だと撮影からポスプロまでなら「丸2年あったらできんじゃない?」って感覚なのかもしれないですが、日本のアニメは昨今4年くらいが平均的な制作期間ですよね。それでも、そんな厳しい状況の中で「最高のものを、どうやったら作れるだろうか?」と考えていくことになりました。
【関連画像】『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』神山監督と名シーンを見る(画像25枚)
「CG一原」でクオリティとスピードをアップ
――作業スピードを上げるために、どのような工夫をされたのでしょうか?
神山 アニメに時間がかかるのは、アニメーター不足もあるんですが、とにかくレイアウトから一原(キャラクターや背景などの基本的な動きを捉えたラフ画)までの作業がネックになっているんです。しかも、クオリティを担保しないと作品全体の出来に関わるので、絶対に手を抜けないんです。
さらに現代劇が主流のアニメの中、ゼロから設定を起こして作らなきゃいけないファンタジーですから、そういったプリプロ、コンテ、一原までで一年以上かかることが予想されました。そこでCGをクオリティアップ、そしてスピードアップのために使おうと考えたわけです。「CG一原」と呼んでいたんですけど、レイアウトから一原までの作業についてはモーションキャプチャーと3Dアニメーションを多用しています。
――新しい作業スタイルを神山監督が作った上で制作に臨んだということですか?
神山 あるものは何でも使ってクオリティとスピードを上げていこうと思ったわけです。アニメーターの人たちには「正確なレイアウトと、正確なアニメーションの一原を一年後に用意するから、残りの一年で作画で最高のものに仕上げてくれ」みたいな、そんな作戦でしたね。3Dのスタッフにも大変なことをお願いすることになりましたが、トライアンドエラーが可能な3Dアニメーションのおかげで、最終的にスピード化とクオリティーの担保がが図れました。
――神山監督はどのように携わっていたのでしょうか?
神山 まずはモーションキャプチャーを使って全てのカットをアクターさんに演じてもらう撮影ですね。ここでアクターの方に僕が演出を指示して芝居内容や、キャラクターの造形を深めて行きました。続いて、モーションキャプチャーのデータを3Dキャラクターにコンバートしてアニマティクス(各シーンの検討のために簡単に映像化したもの)を作り、そこから最終的なカメラワークとカット割り、そしてライティングを施して、レイアウトとラフ原を作っていきました。こちらも全カットカメラの位置からキャラクターの動きまで演出しています。もう気分的には実写監督でしたね。そこからようやく手描きのアニメー制作に入るという進め方でした。
そこから原画を全カット見ていく。
――編集まで一貫して監督が作業されたわけですか?
神山 劇伴のオケ収録から最後のファイナルミックスまで全て立ち合いました。編集についてもファイナルカット権を映画会社に持っていかれる場合もありますが、本作については「お前に任せよう」と言ってもらえて。もちろん日本で作るときに比べて、要望はすごく来るんですけど(笑)。でも、どのカットを切るかについては自分に一任してもらっています。
――全ての作業を終えたとき、どのような感想をお持ちになりましたか?
神山 やり切ったというよりは、もうとにかく大変だったとしか言いようがなくて。制作期間中ずっと映画を完成させるためにはどうすればいいのかを、考えていました。スタッフの数と作業内容と残りの日数でパズルをやっている感じで、いまでも「よく出来たな」と思っています(笑)
手描きの凄みを体感できる騎馬戦
――神山監督オススメの見どころについてお聞かせください。
神山 やはり2000騎の騎馬兵とムマキルを率いたダンレンディング兵との合戦シーンには注目してほしいですね。日本のアニメの歴史の中でも、これだけの軍勢が登場する騎馬戦を手描きでやったことは、いままでにないと思うんです。細かいディテールが施された甲冑を身につけた騎士たちが、乗馬とともに一斉に戦場を駆けて戦う迫力の映像が展開されているので、「これを全部手で描いているんだ」という凄みを感じとってもらえるはずです。
――籠城戦も見どころ満載ですね。
神山 籠城戦は映画三部作にはない城攻めのギミックを登場させています。三部作でも攻城兵器のアイデアはいくつもありましたが、本作の攻城櫓のアイディアを製作総指揮のピーター・ジャクソンも「面白い」と喜んでくれていたので。ただ新しいアイディアというだけでなく攻城櫓の存在自体が主人公たちの危機を伝えるタイムレース的な要素にもなっていますので、そういったところも楽しんでもらえたら嬉しいです。
――映画三部作のファンの方には、どういったところを楽しんでほしいですか?
神山 WETA(WETAデジタル。『ロード・オブ・ザ・リング』三部作を手掛けたVFXプロダクションのスタジオ)が全面協力してくださったので、実写三部作の映画の設定と全く同じものを共有しています。映画三部作のファンの方々に「これは!」と驚いてもらったり、見つけてニヤッとしてもらえるようなシーンが、そこかしこにありますので、そういった細かい部分もぜひチェックしてほしいですね。
――『ロード・オブ・ザ・リング』作品を初めて観る人にもメッセージをお願いします。
神山 『ロード・オブ・ザ・リング』の映画を観てないという人にも、一本の映画として成立するように意識しながら作りました。ヒロインのヘラに視点を置いてみることで、どこかの国の昔話として、またその時代を生きた割と現代的な女性を描いた物語として、この映画を楽しんでもらえたらと思います。
【PROFILE】
神山健治(かみやまけんじ)
3月20日生まれ。アニメーション監督、脚本家、演出家。主な監督作品はTVアニメ『攻殻機動隊 S.A.C.』シリーズ、『精霊の守り人』、『東のエデン』。
映画『ひるね姫~知らないワタシの物語~』、『009 RE:CYBORG』ほか。
編集部おすすめ