マンガ家・桂正和さんの代表作を原作とした、TVドラマ『ウイングマン』が完結を迎えた。特撮ヒーロー作品の名手である坂本浩一監督が手がけた迫力のアクションと特撮演出、原作の物語や要素を巧みに再構成したストーリー展開、年代を問わない大小さまざまな東映特撮ネタなど、放送中は毎週話題を振りまいていた。


そのなかでもファンから注目されていたのがキャスト陣、特に主人公・広野健太役の藤岡真威人さんの熱演。憧れのヒーローになろうと特訓に励み、自作のヒーローを空想する健太の真っ直ぐさや熱さ、彼の胸の内にある優しさを体現し、心から応援したくなるヒーローとして演じきった。

今回は藤岡さんに、健太として”生きていた”と言う撮影の日々、今作や健太に込めた想いを、たっぷりと語っていただいた。

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◆美紅は恋愛感情、アオイは……◆

――中盤から健太、アオイ、美紅の三角関係が本格的に動き出し、物語の主軸となっていきました。

藤岡 僕個人としては、アオイさんも美紅ちゃんも健太の中の大切な存在で、守りたい人なのは変わりないんですが、二人に抱いている想いは、似て非なるものだと思います。美紅ちゃんは恋愛的な好意を持つ相手で、アオイさんは本物のヒーローになるきっかけをくれた人であり、自分の足りない部分を助けてくれる、一緒に死線をくぐり抜けてきた相棒。だから、美紅ちゃんには最初から照れとかドキドキみたいな感情を見せるんですけど、アオイさんとはそういう場面があまりなくて。そんなアオイさんがナァスにそそのかされて、自分のもとを離れてしまったときに、健太は初めて彼女がいなくてはならない存在だったと気づくんですよね。それは恋愛的なものではなくて、もっと奥深い、お互いを支え合う家族愛に近い愛情なのかなと。

――確かに第8話のナァスとの戦いは、健太とアオイの関係が変化する大きな転機でした。

藤岡 はい。アオイさんとずっと一緒にいたいと自覚してからは、健太の戦い方が彼女を守ることを意識したものに変化して、普段の会話からも気遣いが感じられるようになった気がします。
『ウイングマン』は健太がヒーローとして、一人の人間として生きていくうえで、欠かせない存在が誰なのかに気づいていく物語でもあったんじゃないかなと思いますね。

――健太といえば、ライバル的存在であるキータクラーとの関係性も注目されました。

藤岡 最大級の褒め言葉として言うんですけど、気持ち悪いですよね(笑)。健太としては自分の身の回りを危険な目に遭わせてきた、自分に固執して何度も邪魔してくる一番の敵、という印象だった気がするんです。でも、そんな敵が黒幕であるリメルとの決戦では、体を張って何度も健太を救ってくれた。キータクラーが息絶えるシーンは、自分も演じていてすごくグッときましたし、「なんて美味しいキャラなんだ」と思いました。しかも、宮野真守さんの演技で謎の敵として現れた最初から、ラストまでの変化がより印象深くなっていて、原作以上に愛されるキャラになるだろうなと強く感じました。こんなの絶対好きになります、ズルいですよ!

――美紅との場面だと、最終決戦前のやり取りが印象的でした。

藤岡 あそこでは”いつもの自分を演じている”ということを意識していました。最後の戦いの前、健太は一生の別れになるかもしれないから、アクション演劇部の部員一人一人と会って話をするけど、美紅ちゃんの前では弱気な自分を見せたくない。大好きな美紅ちゃんには心配をかけたくない。ヒーローとして「全然大丈夫だよ」って姿を見せたいんです。
でも、美紅ちゃんには見抜かれていて、最後はちょっと涙ぐんでしまったんですが。

――他人に対して強がっているところを見せるのが、健太の特徴の一つだと思います。

藤岡 健太はとにかく、行動原理の全てが「ヒーローならこうする」「ヒーローだったらこれはしない」なんです。だから、人前でも自分が考えるヒーロー像でありたいという想いが根底にあって、弱いところを見せないし、弱音も吐かないんじゃないかなって。

――憧れたヒーローのように振る舞おう、という意識を持っている?

藤岡 というより、健太はもう自分のことをヒーローだと思っているんですよ。健太も、自分が本物のヒーローになれるとは想像していなかっただろうし、目の前に未知の敵が現れていざ実戦となったら、絶対に怖いはずなんです。それでも自分以外の人を危険に晒さないために敵に立ち向かい、「こういう技で倒したい」みたいなヒーロー的なアイデアがあふれてくる。それはヒーローに対する”好き”って気持ちが、相当なければできないことだと思います。

(C)桂正和/集英社・「ウイングマン」製作委員会

◆健太と自分自身の感情を重ねた最終回◆

――健太の気持ちを表現するうえで、大事にしていたことはありますか。

藤岡 なんだろう……。僕、『ウイングマン』に関しては感情を作っていったようなところが全くなくて。自分がどれだけ傷つこうと、世界や守るべき存在のために戦う。
そんな健太の中のヒーロー像をブレさせないことを意識して、湧いてきた感情をそのまま表現しただけなんです。

――では、健太を演じたというより、カメラの前で健太として生きていたという感覚だった?

藤岡 そうですね、演じた感覚は全然ありませんでした。僕は自分との共通点を見つけて、そこを軸に役作りしていくんですが、健太の場合は自分が好きなものを人生の軸にして、それに向かって突っ走る純粋さが、僕と同じところだと感じました。ヒーローオタクらしい言い回しや動きをするために、事前に特撮作品の研究はしましたが、内面の部分は人生の主軸をヒーローに置き換えたくらいしか、役作りらしいことはしていないです。たぶん健太って僕なんですよ。だからこそ、皆さんに「すごくハマっているね」と言っていただけるんでしょうし、健太役のお話をいただいたことは運命だったと思います。

――藤岡さんが特に思い出深いシーンやエピソードはどこですか?

藤岡 最終回は台本を読んだときに、「なんて良い終わり方なんだ!」と泣きそうになったくらい大好きな回です。理想のヒーロー像と自分を重ねて突っ走ってきた健太が、大切な存在を守るために、ヒーローとして頼もしく立っている姿は感動しました。大切に大切に演じたいと思って、撮影の前に健太の感情を整理し、改めて役作りをして現場に臨みました。思い入れのある場面を挙げたらキリがないんですけど、一番は「アオイさんを助けて」とドリムノートに書いていくシーン。目的を果たしたのに、リメルの最後の一撃でアオイさんが倒れてしまう。その落差は演じていても、感情が追いつかないところがあって……。
ドリムノートのシーンは撮影で何度か演じたんですが、そのたびに涙がぽろぽろ出てきましたね。今でもあのシーンのセリフを言ったら、撮影当時と同じ感情がこみ上げてくるくらい、自分の心に刻み込まれています。

――そのくらい強く記憶に残っているんですね。

藤岡 はい。健太としての感情だけでなく、アオイさんを演じる(加藤)小夏さんと一緒に撮影を駆け抜けてきた、僕自身の気持ちも重ねた分入れ込んで、セリフを覚えるときから涙があふれてきました。視聴者の皆さんにとっても、心に残るシーンになっていると嬉しいです。『ウイングマン』は今振り返っても、「あのときもっとこうできていたら」という後悔はなくて。健太と同じく僕自身も俳優として大きく成長させてもらった、絶対に忘れられない作品になりました。出演することができて、本当に良かったです。

――最後に、ドラマ『ウイングマン』を応援してきたファンに向けてメッセージをお願いします。

藤岡 まだ最終回まで放送されていないので(※取材当時)、「いかがでしたか?」と感想を聞いてみたいですね。僕は『ウイングマン』が令和の時代に、実写化という新しい形で復活したのは、本当に意味のあることだったと感じているんです。
そもそも40年前に描かれたマンガ自体、現代にも響くメッセージ性が内包されていて。最初の段階から細部までこだわって作品づくりに携わってくださった原作者の桂(正和)先生、CG技術の進化、役にマッチしたキャストの皆さん……。いろいろなパズルのピースがハマって出来上がったからこそ、今の世の中に届く作品になったのかなと。観てくださった皆さんにもそう感じていただけていたら、役者冥利に尽きます。今回は全10話の30分枠のTVドラマでしたが、『ウイングマン』はもっと大きなステージでも成立する、スケール感を持った作品だと思うんです。僕としてはここで終わらせたくない。続編とかでまた『ウイングマン』に携わる機会ができたら本望ですし、そのためにはファンの皆さんの「また観たい!」という声が必要不可欠になります。これからも応援し続けてくださったら嬉しいです!

<プロフィール>
ふじおか・まいと
俳優。SANKIワールドワイド所属。2020年にセガ設立60周年CM「せが四郎」で俳優デビュー。最近の出演作に映画『八犬伝』、TVドラマ『君とゆきて咲く ~新選組青春録~』、『三屋清左衛門残日録』など

(C)桂正和/集英社・「ウイングマン」製作委員会
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