今年1月に放送を終えたTVシリーズ『ウルトラマンアーク』の劇場版、『ウルトラマンアーク THE MOVIE 超次元大決戦!光と闇のアーク』が現在上映中だ。

これまでのニュージェネレーションウルトラマンシリーズの劇場版とは一風変わった仕掛けの数々、ムーゴンやギルアークといった今作が初登場のキャラクターが注目された。
『アーク』ファンのみならずウルトラマンシリーズファン必見の一作と言えるだろう。

飛世ユウマ役の戸塚有輝さん、石堂シュウ役の金田昇さん、TVシリーズのメイン監督で劇場版でも監督を務めた辻本貴則さんに、劇場版の裏話や『ウルトラマンアーク』への想いを伺った。

>>>3人の撮り下ろし写真や場面カットを見る(写真12点)

◆辻本監督はウルトラマンの掛け声先生?◆

――今作はギルアークの登場が最大のトピックでした。

辻本 ギルアークは製作側から「敵対する悪いウルトラマンを出しませんか」と提案されました。製作側の人たちが諸々の問題をクリアしてくれて、観客に喜んでもらえそうだとも思い、『アーク』らしい内容の中で考えたものがギルアークでした。

――シュウがギルアークに変身する展開も、多くのファンが驚いたと思います。

辻本 変身者を誰にするのかという話になったとき、今回の物語ならシュウが変身するのが絶対に良いなと思ったし、そこは満場一致で決まりました。

金田 まさか自分が変身できるとは……とても光栄でした。

辻本 本当はもうちょっと普通に変身したかった? 特殊な変身の仕方で、苦しそうな感じで演じてもらったから。

金田 全然! ノリノリでやっていました。楽しかったです。でも、撮影までアークアライザーを使ったことがなかったので、変身シーンは怖かったですね。
隣で有輝が「こうだよ」とやっているのを見て、ビビりながら動かしていました。

戸塚 そうだったんだ(笑)。

金田 アークアライザーで変身できたのは貴重な機会だったし、『ウルトラマンアーク』という作品に携わった中でも、すごく印象的な出来事になりました。

――ギルアークの声も金田さんが演じていますよね。

金田 そうですね。自分が声も演じると知って、アークの声を聴き直して参考にしました。上手くできるか不安だったのですが、監督が実演してくださって、それに続けて言っていきました。監督が「ヘェアッ!」と言ったら、僕も「ヘェアッ!」と言って。

辻本 そうそう。「イヨーワッ!」とか。

金田 監督に甘えて、しっかりと真似させていただきました。

――インナースペースでユウマとシュウが掴み合うシーンは、ユウマが激しく感情を見せる『アーク』では珍しい場面でグッときました。


辻本 最終回でギルバグが生み出したニセお父さんの前で感情を発露したので、その後だったら何が来ても皆さん受け入れてくれるだろうと思ったんです。何よりも相手が闇落ちしてしまったシュウなわけですから、「シュウさんを失いたくない!」と強く叫んじゃっても大丈夫だろうと。戸塚くんはお芝居で見事に応えてくれましたね。

戸塚 謎の空間で走ったり挟まれたりという場面はグリーンバックでの撮影で、演じているときはどうなっているのかわからない部分もあったんです。でも、掴み合いのところは金田くんと一緒にお芝居できたから集中できて、とても頼りになりました。

金田 今まで怪獣を見ている場面とかはグリーンバックで撮影していましたが、ユウマやレポ星人との会話みたいなシーンを撮ったのは劇場版が初めてだったので、演じながら「有輝はずっとこんなことをやっていたんだな」という気持ちが湧いてきました。

◆バラエティ豊かな3エピソードと怪獣たち◆

――劇場版は3つのエピソードによるオムニバスという構成で、物語全体に関わるキーパーソンがサスカルでした。

戸塚 サスカルとのシーンは、台本を読んだときから演じるのが楽しみでしたね。竹中直人さん(サスカル役)はものすごくフレンドリーに接してくれて、竹中さんのやることに対して素直にお芝居をするだけで楽しい空間になる、面白いシーンになるというのが流石だなと思いました。胸を貸していただき、ありがたかったです。

辻本 竹中さんと一緒にお仕事をするのは初めてだったので、最初から弾けたお芝居……いわゆる ”竹中節” 全開でガンガン来るのか、そういうわけじゃないのかもわからなくて。最初は恐る恐る、探るようにやっていったんですが、次第に楽しめるようになりました。


――戸塚さん以上に緊張していたんですね。

辻本 そうなんですよ。彼は堂々としていて、「何だよ、もうちょっと緊張してくれよ!」と思っていました(笑)。

――1本目はヒロシ、2本目はリン、3本目はシュウにそれぞれ見せ場があったのは、『アーク』のファンには嬉しいポイントじゃないかなと。

辻本 そして、ユウマはずっと翻弄されているという。上手いことやってるでしょ(笑)?

戸塚 はい、美味しいところだらけです(笑)。

――1本目のエピソードに登場したムーゴンには驚きました。愛犬のむーちゃんの出演が辻本監督回のお約束でしたが、ついに怪獣になったのかと(笑)。

辻本 「アイツまたやりやがったな」って話題になっていましたね(笑)。ただ、最初から犬の怪獣を出すことありきではなくて、脚本の継田(淳)さんが考えてくれた中にいわゆる良い怪獣が出てくる話があったんです。子どものことを昔助けて、その子が成長してからも交流があってという、ラストも含めてすごく感動的な話だった。それでこの怪獣をどうしようとなったとき、今まで犬の怪獣を出したことはなかったから、プロデューサーにお願いしました。
「しょうがねえな」という顔をされましたが(笑)、自分でデザインを描いて、ドグルフという怪獣の正式名称はありつつムーゴンというあだ名をつけた設定に。とにかく『アーク』では心残りがないよう、僕がやりたいことを全部詰め込みました。

――ムーゴンの目の芝居は力が入っていましたね。

辻本 ムーゴンの芝居に感情が入らないと、観ていて冷めちゃうじゃないですか。だから、合成を使って瞬きをさせたり目玉を動かしたりして、いつも以上に目の芝居にはこだわりました。職権乱用と思われてますが(笑)、おかげで一風変わった見え方がする怪獣になったし、新しい技術も生まれて、僕も役に立てたのかなと思っています。

――2本目のエピソードは、ほぼ全編SKIP星元市分所が舞台となっていました。

辻本 分所のセットをメインにした話を1本入れようというのは、プロットを作る前から考えていました。4人のお芝居がたっぷり見られるし、天候に左右されず撮影できるといったメリットもあって、何よりあのセットで撮れるのは劇場版が最後なので、思い出になるものを銀幕に残したいなと。

――密室劇というのも、『アーク』では今までなかったシチュエーションで。

辻本 確かに! 意外とありませんでしたね。

金田 SKIPの所内にアークがいるというのも、間近でアクションを見たのも初めてでとても新鮮でしたし、撮影していて楽しかったです。


◆前に走り続けることが『アーク』のため◆

――3本目のエピソードはレポディオス、ゼロゲロスなどさまざまな怪獣が登場しましたが、レポ星人は合成で実体がわからない表現になっていましたね。

辻本 レポ星人は頭がレポディオスの腕のパーツで、身体はザラブ星人なんですよ、実は。合成のエフェクトで身体の部分は全然見えませんが。ゼロゲロスはディゲロスの角を全て無くした姿にもできると知って、そちらのほうが新鮮味もあって面白そうだなと。バンダイさんがゼロゲロスを再現できるようにソフビを作ってくれて、一粒で四度美味しい怪獣になりました(笑)。

――戸塚さんは終盤、普段のユウマとは違ったお芝居が求められる場面がありましたね。

戸塚 僕もセリフで語られた以上のことはわからなくて、監督に質問したんです。服装のこととか、そこまでに起きたこととか。演じるときは監督に聞いたことも念頭に置きながらやっていました。

辻本 正直、鑑賞した皆さんがどう感じくれるのかわからない部分もあるんですが(※取材時は劇場版の公開前)、驚いてもらえていたら嬉しいです。

――皆さんにとって、『ウルトラマンアーク』はどんな作品になりましたか?

辻本 今までは各話監督の立場で好き勝手撮っていて、初めてメイン監督という責任のある立場で関わったんですが、『アーク』は僕にとってのウルトラの一つのゴールみたいな感覚があります。一から考えて、「これ以上に愛すべきウルトラマンは出てこないだろう」という気持ちで作り終えることができた。
「もっとこうしておけばよかったな」という後悔もほとんどなくて、生み出した責任をちゃんと全うできたのかなと。戸塚くんや金田くんにはここから羽ばたいてもらって、時々夜空を見上げてこの丸い顔を思い出してくれたら嬉しいです。

戸塚 お月さまを見ながら(笑)。

辻本 そうそう、「辻本監督丸かったな」って(笑)。

金田 (笑)。僕にとって『ウルトラマンアーク』は初めてのレギュラーで、いろいろなことを学ばせてもらいました。自分の俳優として仕事を続けていく中で初心に帰るとなったら、『アーク』の現場で感じた皆さんの優しさを思い返すのかなと。『ウルトラマンアーク』は自分の実家と言える、何年経っても僕の中に残り続ける作品になると感じています。

戸塚 ユウマは第25話みたいに自分の過去を振り返るときもありますが、最終的には前を向いて進んでいくんですよね。過去を捨てるわけではないけど、前に進むには過ぎたことを振り返らず、ずっと走り続けていかなければいけないというのが、僕はこの作品のメッセージだと感じていて。僕も時には振り返って懐かしむことがあるかもしれませんが、ずっと前を向いて走っていきます。それが僕のためになると思うし、『ウルトラマンアーク』のためになると思いますから。

(C)円谷プロ (C)ウルトラマンアーク特別編製作委員会
編集部おすすめ