アニメの音楽=アニソンの今について、業界のトップで活躍するおふたりであるランティス代表取締役社長の井上俊次氏とドワンゴ執行役員CPO(チーフ・プロダクツ・オフィサー)の太田豊紀氏にトークしていただく第2回。今回は、アニソンと海外について話していただいた。

日本のアニソンは本当に海外で人気があるのか?その状況は?海外ファンのためになにができるのか?

海外に向けた活動も積極的なお二方だけに、今後海外のファンに向けてしなければいけないことも明確なビジョンを持たれている様子だった。第2回「アニソン、海外を目指す!」をお届けする。
[取材・構成:数土直志]

ランティス http://www.lantis.jp/
ドワンゴ http://info.dwango.co.jp/
「animeloLIVE!」 http://live.animelo.jp/ 

■ 海外のアニソン人気、次のステップはきちんとしたかたちでライブを見てもらうこと

-先に海外の話が出ましたが、やはりアニソンは海外で人気があると考えていいのですか。

-太田豊紀氏(以下太田) 
間違いなく人気はあります。ただ、人気の深さ、届いているアニソンのジャンル、そういうものは地域によって違います。アジアは、日本と同じタイミングで同じものが流行っています。遠いブラジルですと戦隊ものなど、むしろ昔の日本で流行ったものが大人気というイメージです。

-井上俊次氏(以下井上)
そうですね。ブラジルは15年前の日本みたいな感じです。これから変わっていくとは思います。

-太田
アニメはネットで早く観られるようになってきたので、パッケージや吹き替えを待つこともないですよね。今は放送直後に字付きで配信されますからね。


-その時に日本との感性の違いやズレはないと?

-太田
ないと思いますね。ズレはもともと日本の中にもあります(笑)。アニメを見ない層はいますから。
もちろん文化的な面で若干違うこともあります。たとえば中国の学園生活は日本と違うので、中国の方は日本のアニメの学園生活を憧れとして見ているという話も聞いています。

-アニメロサマーライブは海外展開を見据えていると、以前、太田さんにお伺いしました。一方で、ランティスさんもランティス祭りを海外に展開させていこうとしています。これは重なっているのですか? それとも別々の動きなのですか?

-太田
別々ですけど、情報交換はさせて頂いている感じです(笑)。

-井上 
太田さんとは、中国でどうやってアニソンのイベントをできるか、もう少し風通しをよくできるかを、いろいろ話しましたね。チームになっていろいろ活動をしていたんです。
中国にもファンがいらっしゃるので、その人たちにちゃんと伝えたいと。ここで止めないで、自分たちでできることをする。
太田さんはアニサマというかたちでやられますが、たぶんいい関係になりますよね。

-ソニーミュージックさんも、アニメ・フェスティバル・アジアで海外に出ています。皆さんが同じことを同じ時に考えるのは、何か流れがあるのでしょうか?

-太田
これまでは海外マーケットを北米、ヨーロッパを中心に考えていたのですが、今はアジアが注目されているという事実はあると思います。アジアの単価が上がってきていますから。

-井上
ランティスにも中期計画の重点施策があって、そのひとつが海外のアニソンファンにアニソンを伝道するというものです。まだ仲々ビジネスにはなりませんが、呼ばれたらきっちり行って、歌ってくるのをテーマにしているんです。

-海外の方はライブで見られることが大変うれしいと思います。

-井上
この間、日本のスタッフを連れてアメリカのアニメボストンに行ってきたんです。ちゃんとバンドも連れて総人数30人くらいできちんとしたかたちで見せてくる。それが次につながっていくと思うんです。
2015年はランティス祭りを海外でやらせて頂きます。日本のランティス祭りのスタッフを連れて、ちゃんとした音響や照明があるなかで見ていただく。

イベントのなかで歌わせてもらうのは数多くやってきましたので、これが僕たちの次のステップです。伝えに行くのが一番大事です。ファンの人たちに満足してもらって、終わってちゃんと握手をして、サイン会もやって帰ってくる。皆さんがアジアに注目しているのはあると思います。

-確かにイベントで呼ばれるのと、ランティスのブランドを持っていくのは、大きな違いですね。

■ 中国からアジア、そして南米、ヨーロッパ、アメリカまで

-太田さんはどうですか。アニメロサマーライブは、なぜ海外に行くのですか?

-太田
少なくとも、中国本土に関しては採算が合うからです。

-それが不思議なのですが、これまで中国ビジネスを目指したかたはみなさんどうも中国はお金にならないと、10年くらい言われています。状況が変わっているのですか?

-太田
状況が変わっているというよりは、やり方だと思います。要は、自前でイベントを行うことです。興行のほとんどを自分たちでコントロールしたのは、たぶんアニサマぐらいです。すべてを自前でコントロールできれば収支は同じぐらいになります。
とんとんにはなります。数年後にビジネスになる状態は作れると思いました。
いまは情勢が厳しいですが、海外で日本と同じくらいの集客を期待できるのは今のところは中国本土だけなんです。

-日本のアニメが人気というと、上海についてよく言われます。中国は広いのですが……。

-太田
いろんな地方から来ますよ。それこそウイグル地区からもチケットを買う人がいます。
中間層のかたがすごく増えました。特に上海には、中流層がたくさんいるという感じです。

―中国以外はどうですか?ほかに大きな市場はシンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ。そこにもアニメファンはいますか?

-太田
まずは台湾を考えています。シンガポールのアニメ・フェスティバル・アジアにはものすごい人数が集めりますが、ほとんど近隣諸国から来ているんです。
シンガポール単体ではなく、タイやインドネシアからも集まっています。ただ、インフラの面で不安があります。政情不安がなければ、タイはすごく魅力的です。

-いまはアジアの話が中心でしたが他の地域はどうですか? JAM Projectはラテン・アメリカでとても人気があります

-井上
一昨年、南米4カ国をまわったんです。ブラジル、チリ、ペルー、アルゼンチン。とくにブラジルは6000人ぐらいお客さんに来ていただきました。4カ国まわるのに2週間かかるんですけど(笑)。
片道32時間かかるのですが、それはやっていかないといけない。アメリカでは、ロサンゼルスやボストン、ボルチモア、今度はラスベガスでオタコンがありますが、そうしたところにうまく参加していこうと思っています。

-太田さんはいかがですか? 欧米、あるいは南米は?

-太田
現実問題として距離的に遠い地域は、ライブイベントを持って行くにハードルが高いと思います。アニサマの場合は、ランティスさんみたいに自社のアーティストさんが出るわけではなく、いろいろなメーカーさん、声優さん、アーティストさんとスケジュールを組まなければいけません。お金の問題ではなくて、スケジュールの問題です。
2泊3日、あるいは1泊2日、さらにシンガポールだと0泊3日とか、そうしたスケジューリングを組まないと実現は出来ないですね。だから北米、欧州、南米は、今は除外しています。

-それだけ難しい調整をしても海外に出るということですね。

-井上
グッドスマイルカンパニーの安藝(貴範)さんとよく話すんです。日本だといろんなイベントがあって、無料でショーが見れたり、無料で豪華な紙袋に入ったグッズが配られています。すごいサービスをしているんですね。それに対してお客さんが、いろいろなものにお金を払ってくれているんですよ。
そしてこれを買っていただいたので、次はこういうもの作れますとか。良い循環になっていると思うんです。
これを海外でもやらないといけないんです。ただ誰かそれをやっているかというと、あんまりやってないんです。今やっとはじまりましたが、たぶん10年くらいかかると思うんです。
イベントに企業が参加して、お客さんに握手をしたり、写真をしたり、サインしたりというのを積み重ねていくと、喜んでお金を払っていただくファンが増えていくんじゃないかなと僕は夢見ています。

-太田
どうしても、海外はコミュニケーションがおろそかになるんです。けれどそこをちゃんとすれば、お客さんが満足してもらえる状態ができると思っています。
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