忘れられない名勝負 「少年マンガらしさ」の体現
『聖闘士星矢』は1985年12月、週刊少年ジャンプで連載が始まった。単行本の著者近影下の説明によると、前作が不本意な終わり方をした車田先生は、次の作品つまり『聖闘士星矢』では、より多くの読者に受け入れられる作品にしようとしたようだ。40周年を記念した原画展で流れていたインタビュー動画では、「ファンは大切だけれど、その人のためだけにマンガを描いていてはだめ。たまに読んでくれるような人の手を止めさせるパワーがあるかが重要」と話している。単行本1巻が出た時点でアニメ化が進んでいるなど、狙いは当たったようだ。
物語は星座とギリシャ神話がベースになっている。「この世に邪悪がはびこるとき現れるという希望の闘士、聖闘士(セイント)」が物語の中心。女神アテナに仕え、星座を守護としてそれにちなんだ聖衣(クロス)と呼ばれる防具をまとって敵と戦う。
主人公の星矢は、この聖闘士になるべく、「グラード財団」によってギリシャに送り込まれる。聖衣を手に入れたあとは、ほかの聖闘士とともに、女神アテナと地上を守る戦いに身を投じていく。
この聖衣には、「青銅」「白銀」「黄金」とランクがあり、星矢ら主人公側がまとうのは「青銅」。敵に比べて格下の聖衣でありながら、仲間とともに下克上(=よりレベルの高い敵を倒す)していくところも、子供心をひき付けたのではないだろうか。
主人公の星矢は、抜きん出て強いとはいえないが、どの戦いでも、最後に己の力を発揮して勝利をおさめる。実はその前進を支えているのは、紫龍、氷河、瞬、一輝ら星矢の仲間たちだ。仲間が星矢に代わって引き受けた数々の戦いから、魅力的なものを紹介したい。
■ 聖域の章 1
(白銀聖闘士編)
<紫龍VSペルセウス座のアルゴル>
星矢側と、敵側の聖域(サンクチュアリ)が黄金聖衣を奪いあう中での戦いのひとつ。アルゴルは、敵側の聖域から送り込まれた白銀聖闘士のひとりで、ギリシア神話通り、見た者を石にしてしまうメドウサの盾を持つ。星矢や瞬が石になってしまったところに、紫龍が駆けつけた。
石になるのを防ぐため、紫龍はなんと自らの目をつぶしてしまう。「これからの戦いに不利では?」と読者や視聴者は驚かされるし、それ以外の選択肢もあったかもしれない。だが紫龍は星矢との試合や、敵のひとり、デスマスクとの戦いのときも全力を尽くすために聖衣を脱ぐなど、非常に潔くまっすぐだ。この潔さや正々堂々と立ち向かう姿勢が紫龍の魅力を高め、男の子にとって憧れの対象になった。
アニメ!アニメ!『聖闘士星矢』特集
http://animeanime.jp/special/358/recent/
(c)車田正美/集英社・東映アニメーション
■ 聖域の章 2
(十二宮編)
<氷河VS水瓶座のカミュ、氷河VSミロ>
聖闘士が守るべきアテナの化身で、グラード財団を率いる城戸沙織を救うため、聖域の十二宮に攻め込む星矢たち。ここでは、黄金聖衣をまとう、黄金聖闘士が十二宮の各宮を守っていた。氷河が戦うことになったのは、水瓶座の宮を守っていたカミュだ。
(※カミュは原作では氷河の師匠、アニメでは「師匠の師匠」という設定になっている)
倒さなくては大切な人を救えないが、恩義のある師に拳を向けられない――そんなジレンマに読者や視聴者はハラハラさせられた。しかし氷河は、戦いのなかで自分を見つめなおし、立ち向かう。追い詰められたところでカミュの技「オーロラエクスキューション」を自らのものとし、相打ちに持ち込んだ。
師匠であるカミュが、氷河に自分を超えさせるため、自らが犠牲になり最後に重要なことを伝える――こんな師弟愛にはヤンキー魂がくすぐられる。
さらにこの氷河VSカミュは、続く戦いである「氷河VS蠍座のミロ」の布石にもなっている。「氷河を殺したくない」との思いを抱えていたカミュに対し、ミロはこれを「侮辱だ」として氷河に全力で対峙する。「おまえたちが十二宮を突破するのは夢だ」といったミロに対し、氷河は「どんな夢だって信じてつらぬけば現実のものになる」と言い放つ。この「車田節」ともいえる熱い言葉に心うたれた人も多かったようだ。
<瞬VS魚座のアフロディーテ>
十二宮を進む星矢と瞬。
それまで自分の力を師匠にも隠し、力の勝負では兄を立てるなどやさしさ故に力を抑える部分があり、女性的な魅力も感じさせていた瞬の本気が見える対決だった。また、瞬もアフロディーテも作中では「美形」「美しい」と形容されるキャラクター。「美の対決(=共演)」というところも、当時の少年漫画としては画期的だった。
<一輝VSシャカ>
十二宮を進む中、星矢らの前に、黄金聖闘士のなかで「最も神に近い男」といわれる、乙女座のシャカが立ちはだかる。星矢や瞬が敗北する中、窮地を助けにきたのが一輝だ。「神に近い存在と戦うのに、命をかけずにいられるか」という「それはそうだけれども、普通はそこまで言い切れないよ」と思いたくなるセリフを叫び、本当に仲間のために命をかけて戦う。
徐々に敵が強くなる中、この時点でシャカは最強に近いキャラクターとされる。しかもその最強キャラが単なる悪役ではなく、自ら善悪を判断して敵側に回っていること。さらに「最も神に近い美しい男」という少年漫画らしからぬ存在だ。
アニメ!アニメ!『聖闘士星矢』特集
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(c)車田正美/集英社・東映アニメーション
■ 海王ポセイドンの章
<一輝VSリュムナデスのカーサ>
海王ポセイドンを守る闘士のひとり、カーサ。その人が心の底で大切にしている人の姿に攻撃してくるため、師匠や兄の姿を見せられた星矢や氷河、瞬は倒されてしまう。ここでも危機を救うのは、一輝だ。強さと冷徹さを併せ持ち、弟・瞬の姿になったカーサにも容赦はしなかった。
だがこの戦いのハイライトは、メーンが終わった後。死に際のカーサが、なんとか弱みを探ろうとし、一輝が聖衣を手に入れるための修行中に出会った女性に姿を変える。その姿を見せられ涙するシーンは、冷徹なだけではない一輝の奥深さを感じさせる。
魅力的なバトルシーンに共通するのは、「勝てそうにない格上の敵との戦い」「仲間を信頼し、前に進むことを宣言する熱い言葉」だ。さらにこれに、敵の技や戦い方を自らのものにしながらの成長が加わることで、単なるバトルマンガに終わらない作品になっている。
「ここまでやるか」というぐらい仲間のための自己犠牲を口にし、巧みに組み立てられた因縁=戦う理由を背負って戦いに挑み、華麗な技を披露する――このシンプルな物語が多くのファンを熱狂させたのは、細部に宿る魅力的なバトルシーンとキャラクター=作者が訴えるメッセージだろう。
[文:マンガナイト・山内康裕、bookish]
アニメ!アニメ!『聖闘士星矢』特集
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