世界中にファンを持つ作品であることから実現されたニコニコ動画などの世界同時配信、そして隔週ごとに送り届けられる新エピソードなど、他のTVシリーズとは放送方法も異なり大きな話題を呼んでいる。
本作の大きなポイントとしては、原作コミックス準拠で物語が進行していくこと、そしてキャラクターのリデザインが行われたことが挙げられる。この度、アニメ!アニメ!では『美少女戦士セーラームーンCrystal』でキャラクターデザインを担当した佐光幸恵さんにインタビューを行った。
[取材・構成:細川洋平]
美少女戦士セーラームーン20周年プロジェクト公式サイト
http://sailormoon-official.com/animation/
■ まさか自分が関わることになるとは
―アニメ!アニメ!(以下、AA)
今回『セーラームーンCrystal』(以下、『Crystal』)に関わることになった経緯を教えていただけますか。
―佐光幸恵さん(以下、佐光)
2013年6月にキャラクターデザインのオーディションを受けないかというお電話をいただいて、打ち合わせも兼ねて東映アニメーションさんに行きました。それまで原作を読んだことがなかったので、その時に読ませていただきました。
ただ、当時作画監督をやっていた『銀河機攻隊マジェスティックプリンス』がクライマックスのすごく忙しい時期だったので、オーディション用のイラストは睡眠時間を削って何とか仕上げました。
―AA
オーディションでは何を描かれたのでしょうか。
―佐光
セーラームーンの世界観を表すようなポスターを描いてくれということで、サイズ指定も特になかったので、A3の紙にイメージを膨らませて描きました。A3というのは後々の作業との兼ね合いもあってアニメのポスターの作業上の最大サイズとされているんです。
―AA
少しさかのぼりますが、2012年にニコニコ生放送で行われた制作発表というのはご存じでしたか?
―佐光
はい。
今まで東映アニメーションさんとも、監督の境(宗久)さんともお仕事でご一緒したことがなかったので、まさか自分が関わることになるとは思っていませんでしたね。
■ 原作の絵を可能な限りアニメに
―AA
オーディションを経てキャラクターデザインを務めることになったわけですが、『Crystal』のデザインは、どういった所から取りかかられましたか。
―佐光
「原作の絵を可能な限りアニメにしたい」、ということをオーディションの段階から境さんがおっしゃっていました。そこで、武内先生の描かれた絵をどうしていくのか、という部分に心を砕きました。
漫画は連載を続けていくなかで絵が変化していくものなので、原作ファンの記憶している『セーラームーン』の絵はどのあたりなのかはすごく考えましたね。
ファンも「鮮明な記憶」というよりは、「こんな絵だったな」という印象の方が強く残ってると思うんです。その最大公約数を少しずつ求めていく、という感じです。
境さんから「この絵でやりたい」と言われたのが、完全版※の表紙に描かれた絵です。「武内先生の最新の絵はこれだろう」と話されたものです。今回のキャラクターが、大人っぽいところには、そうした理由もあります。
(※『美少女戦士セーラームーン』完全版として、一新された表紙の全10巻シリーズが2013年11月からリリースされた)
―AA
佐光さんご自身がされた初期デザインと、決定したデザインではどういうところに変化がありましたか?
―佐光
まずは顔のバランスですね。今のアニメで主流とされているものとは全く違うバランスで描いているんです。今のキャラクターというのは頭全体(頭頂から顎)の真ん中に目が来るようにデザインされていて、鼻筋が長いんですね。『Crystal』の決定デザインでは、頭の真ん中よりも下の位置に眉毛・目・鼻・口と描いています。
今流行りの絵と同じ感覚で捉えると、一風変わった感じを受けるかも知れませんが、この顔のバランス感覚はとても重要なことだと境さんもお考えだったようです。ここまで辿り着くのにかなり試行錯誤しました。
―AA
本作に当たって、例えば前作のTVシリーズでは少し崩した顔というのもありました。そうしたことも想定されるのでしょうか。
―佐光
打ち合わせでその話も出て、ラフで一回描いてはいます。だけど決定稿までいきませんでした。『Crystal』には必要ないだろうという考えです。
原作を忠実にというコンセプトもありましたし、境さんもそういったシーンを描こうと特別考えていなかったような印象を受けましたので。前作のテレビシリーズのデザインは、やはりギャグも想定されてのデザインだったと思いますので、そこは今回は違うと思います。
前作の印象はやはり強いなと折々で実感しますね。ただ、10月4日に配信された第7話以降、物語は大きく変わってきます。そうしたなかで今回のキャラクターデザインの必然性は理解してもらえるのかなと思っています。
『美少女戦士セーラームーンCrystal』
(C)武内直子・PNP・講談社・東映アニメーション
■ 原作の持つ、時代に左右されない魅力
―アニメ!アニメ!(以下、AA)
原作に忠実にとのことでしたが、実際にはアニメにするという点でデザインは変わってきます。
―佐光幸恵さん(以下、佐光)
大きく違うのは、目の処理です。漫画では上の瞼を曲線でシャッと描いていますが、アニメでは目尻、目頭、瞼の3つにパーツを分けないと立体的な描写が難しくなってしまうんです。その上で、武内先生の絵に近づける。特に水野亜美ちゃんの目などは、タレ目に見えるように、さらに工夫を加えています。
―AA
頭身に関しても、原作に近づける形になっているということですね。
―佐光
そうですね。
―AA
うさぎちゃんの靴下が懐かしの三つ折りということにふと第1話を見ながら思ったのですが。
―佐光
「時代の流行り」というものからは解き放ちました。やむを得ず外した部分以外は、原作の世界を細部まで再現したデザインになっています。
(地場)衛の懐中時計とかも随時ちゃんと描き込んでますし。細部まで描き込むのは大変ではあるんですけど『Crystal』ではそれをやる、ということも重要なポイントなんです。原作がそもそも「かわいい」とか「憧れ」を詰めこんだ世界観になっているので、「現代っぽさ」というものはデザイン上では特に意識していませんね。
―AA
キャラクターとしては、月野うさぎと愛野美奈子は髪の色といった部分に近い要素がありますが、そこに関して工夫されている部分というのはありますか?
―佐光
デザインの中心は美奈子ちゃんになっているんです。実は主人公的な要素は美奈子ちゃんがより多く持っているので、描くときも美奈子ちゃんの方をよりオーソドックスな美少女として描いています。
一番の美人は火野レイちゃん、美奈子ちゃんは正統的な美少女ですね。
―AA
逆に男性キャラクターのタキシード仮面のデザインなどはどのような工夫をされましたか。
―佐光
タキシード仮面のデザインは神木(優)プロデューサーに何度もダメ出しされました(笑)。最初のうちは自分でも「違うなあ」と思っていたんですが、描き直していくうちに神木プロデューサーとタキシード仮面をめぐる戦いみたいになっていって(笑)。
武内先生の描く男性のバランスは難しくコツを掴むのに苦労しました。衛は作品における唯一無二の美男子なので、今のデザインになるまでかなり試行錯誤して、すごく繊細なバランスになっています。今でも描くのは難しいです。
■ 前作のDNAを持たない強さ
―AA
セーラームーンの思い出は何かありますか?
―佐光
前作のテレビアニメシリーズですが、佐藤順一さんが担当されたギャグ回や、ルナとレッドバトラーという猫が一緒に戦う話は何度も見た思い出があります。すごく笑いました。
アニメーターになろうと上京してきた時にアニメの『セーラームーン』もはじまったのですが、当時は、土曜日の夕方に『幽遊白書』を見て、『セーラームーン』を見て、『スラムダンク』か『南国少年パプワくん』を見る一時間半がとっても楽しかった思い出です。ただ絵は影響を受けることもなく、それが逆に本作で自分がデザインをする際には、よかったなと思います。
加えて当時キャラクターデザインをされた只野和子さんや伊藤郁子さんといった方々とも現場で一度もご一緒したことがないんです。私の中にはそのDNAがなんです。だから「武内先生の原作を元に」と言われたときにも対応できたと思います。「前作とは明確に違うもの」を私には求められていたのかなと思いました。
―AA
本作にキャラクターデザインとして関わられたお気持ちをお願いいたします。
―佐光
アニメーターにとって「キャラクターデザイン」というのはひとつの目標ですが、誰もがなれるものでもありません。私も長年アニメーターをやってきていますが、なかなかそういう機会には恵まれてきませんでした。この先も自分にはないのかなうと思っていたところにポンといただけたお話だったんです。
「これが決まらなかったらアニメーターはもうやめよう」くらいの覚悟で取り組みました。振り返れば『セーラームーン』という作品は、アニメーターになろうと思って上京したときにはじまり、仕事を始めてから20年、自分の節目でもある時期にその新作に関われるというのは、巡り合わせなのかなと思っています。
―AA
ありがとうございます。それでは最後にファンにひと言お願いします。
―佐光
純然たる少女漫画をアニメ化するのはなかなかないことだと思います。前作のアニメシリーズは知っているけど、原作をまだご覧になってない方は、その部分をぜひ楽しんでいただけたらと思います。またこれを機に原作もぜひ読んでみていただければと思います。
美少女戦士セーラームーン20周年プロジェクト公式サイト
http://sailormoon-official.com/animation/
アニメ「美少女戦士セーラームーンCrystal」Blu-ray初回限定豪華版 第1巻
発売日:2014年10月15日発売
価格: 7,500円+税
収録内容
Act.1・Act.2 アップグレード版収録
映像特典
OP・EDノンテロップ
音声特典
オーディオコメンタリー
Act.1・Act.2:三石琴乃・野島健児・境 宗久・小佐野文雄
Act.1:ももいろクローバーZ・境 宗久
パッケージ仕様
小坂明子アレンジオリジナルオルゴール内蔵 特製BOX仕様
(※オルゴールの楽曲はOP曲「MOON PRIDE」)
アニメ版権描き下ろしデジパック
封入特典
株式会社バンダイ製作オリジナルチャーム「ムーンスティック」「バッグチャーム」封入
28Pフルカラーブックレット
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全巻収納BOXが貰える応募券封入
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『美少女戦士セーラームーンCrystal』
(C)武内直子・PNP・講談社・東映アニメーション