[取材・構成:高浩美]
■ 今、アニメ以外の日本の文化で外国で稼げそうなビジネスが見当たらない
2014年、このエンターテインメント業界は大きな出来事があった年であった。一般社団法人 日本2.5次元ミュージカル協会の設立は大きな話題となってメディアを賑わせた。
2008年、シンガポールで開催されているアニメフェスティバル(AFA)にホリプロ所属のアーティストが出演、その後、毎年開催されているAFAにホリプロ所属アーティストが出演。2012年以降は『HORIPROブース』を出展。この状況を踏まえ、アジアを主軸とした海外展開の推進、さらに海外のユーザーに、日本のエンターテインメントに触れてもらえる拠点基地としての環境を作ることを目的とし、シンガポールのSOZO PTE LTDと資本提携するに至った。2015年の春にはいよいよ『デスノート THE MUSICAL』が開幕する。
アニメ産業自体は決して悪い状況ではない。例えば、日本の放送のコンテンツ輸出は2013年度は137.8億円。前年度が104.3億円なので、数字の上では好調である。うち、アニメは62.2%を占め、約86億7300万円。番組放送権輸出(インターネット配信権を含まない)は2013年度は62.1億円で、そのうち、アニメは47.2%を占める。
コンテンツ輸出では、地域別にみるとアジアが52%とおよそ半分以上(情報産業通信政策研究所調べ)になっている。この状況を見ても、アジアが日本にとって魅力的なマーケットであることは明らかである。
「アニメ業界の方たちと我々とは違うと思うんですが、手応えは……本当に大変だなってことですね。アジア全域はほとんど韓流なんで……10年遅かったっていうのをここ数年感じています。アニメ以外日本のコンテンツ業界のアメリカ進出ってことごとく上手くいかなかったようですしね」とシビアに語る堀義貴氏(ホリプロ代表取締役社長)。
「最近の傾向は、インターネットが発達したので、アジア、中国とかは、日本のアニメーションが好きな人たちがアクティブに検索をしている。見たい、という欲求がアジアの人たちにある……例えば、日本語のアニソンは外国の人が自国の言葉にローカライズして歌っているのを聞きたい訳じゃなくて、オリジナルの日本語で歌が聞きたい、そういう意味ではちょっと(状況が)変わってきていますね。正直、アニメ関連以外の日本の文化で今お金、ビジネスになりそうなものはないですね」
インターネットの普及によって業界を取り巻く状況は激変した。それ以前は日本のポップカルチャー、アニメ等を知りたかったら海外のファンは海賊版等で観たり知ったりしたものだが、インターネットの登場によってほぼタイムラグなしに知り得る状況になった。放送と同時の世界配信の一般化は2013年からのトレンドとなっている。昨今、日本のポップカルチャー、アニメが海外でブームと言われているが、堀社長は「ブームではない」と言う。
「今まできちんと日本で報道されていなかっただけで、以前からあったんです。ただ、観る機会がどんどん増えてきているんですね。
ほぼリアルタイムで情報をゲット出来る状況が生まれている現在、海外のファンはなおさら熱心に検索をする。それはある意味、潜在的に存在していたニーズが掘り起こされたといっても差し支えないだろう。そして”灯台下暗し”ということわざがあるが、日本にいる日本人が日本のこと、今の”現状”を知らない、わからないことがある。案外、外国のファンの方が詳しかったり、熱心だったりする。
「”大人”のひとたちってこういうものに造詣がない。要するに偏見なんですよ。”アニメごときが”とか”メイドカフェっておかしいよ”なんて思ってる日本人がいる。だからギャップがある。”なんで『デスノート』やるの?”って”大人の演劇人”にはたぶんわからないでしょう。高尚なものが素晴らしくて、でもお客様が入らない、それはお客様の側に問題があるのではないか?と、文化度が低い、という論調なんですよ。ポップカルチャーにはみんなお金を使って観にきてくれる、客席は満杯、で、なんでそれが”下”なの?と。
■ 観にきてくれる若い人たちが減る、だったらよそのマーケットを引っ張ってくる
演劇は敷居が高い、と思われがち。そこに風穴をあけようとしているのが、アニメ・コミック・ゲームを原作とした舞台、いわゆる”2.5次元ミュージカル”と呼ばれているジャンルではないだろうか。現在、観客動員も年々増加の一途をたどっている。2013年のアニメミュージカル(アニメ作品をテーマとしたミュージカル、ライブビューイング)のチケット売り上げはおよそ128億円(日本動画協会独自調べ)にのぼっている。
しかし、今後は少子化の影響もあり、日本の人口が減少していけば、たとえ相対的に増えたとしても、観客動員数や売り上げは、いずれは減少に転じる可能性がある。この問題はエンターテインメント業界だけでなく、日本全体の問題でもある。
「完全にデーターとしてわかっているのは人間が減っていく、ということ。経済の原則でいくと需要と供給、ですね。これから人口が減る、人間が減るってどこの先進国も経験したことがない。また、20年後や30年後の65歳は今の65歳とは明らかに可処分所得が違う、お金が十分に回っていかない状況になる。お金を使う人たちが減る、観にきてくれる若い人たちが減る、増えるものがひとつもないんです。だったらよそのマーケットを引っ張ってくる、拡大可能なマーケット、ニーズを増やす、それだけなんですね。
この問題は特定の業界に限ったことではないが、特に演劇は観に来る人がいてこそ成り立っているジャンル。観客動員が減れば、当然のことながら立ち行かない。そのためには今のうちに手を打っておかなければならない。しかし、ライブエンターテインメントの強みは”そこに行かなければ観られない”ということ。
だが、国内だけのマーケットでは人口減少のため”先細り”状態にあるのは否めない。そこで海外のマーケットに打って出る、という選択肢しか残されていないのではないかと思われる。そしてもはや躊躇している時期ではなく、まさに”やるなら、今でしょ”なのである。そして、海外に打って出るには、タイトルが海外に知れ渡っているアニメやゲーム、コミック作品が最適なのではないか?という結論に達するのである。さらにその”コンテンツ”を自前で作り、ヒットさせるのが理想ではあるが……。
「理想を言えば、そうなんですね。でもヒットしている原作なら、マーケティング上は安心なんです。
長く上演されつづけ、観客動員数を誇っているミュージカル『テニスの王子様』やゲームからアニメ、コミック、舞台と全て”自前”で展開しているマーベラスの『幕末Rock』等、いくつかの成功事例はあるものの、ヒットさせるのは並大抵ではない。
「そういうのって本当にそんなに数はないですよ。でも、こういった(アニメ・コミック・ゲームを元にした)作品を実写化したり実演(舞台化)することってファンからすると、ものすごいアレルギーがある。上手くいかないとコテンパンですからね~。この『デスノート』にしても演劇関係者からは”このキャスティングは面白い”って言われていますが、原作ファンからの”これは違う”という書き込み、山ほどあります。」
「実は映画の時もそうだった。Lが松山ケンイチ……最初の反応、初日の舞台挨拶で”松山ケンイチさんです”拍手がパラ、パラ、パラ……”誰だ、あいつは?”って感じでした。で、その次が大ヒット舞台挨拶、終わったとたんにブワ~ッと(万雷の拍手が)くる訳です。わかんないんですよ、ホント、観てから考えて欲しい、アニメと同じ人は絶対にいないんだから。もう観てもらうしかないです」
舞台でも映画(実写化)でもキャスティングされた俳優がファンから”○○と違う”とか”イメージが壊れる”等のブーイングはついて回る。本当にそうなのかは誰もわからない。
しかし、やる側は俳優はもちろん、それに関わるスタッフも作品をリスペクトしているので、当初抱いていたイメージと違ってても、いざ観たら”ハマってるな”ということはよくあること。観る側はよい意味での裏切りを期待したいものである。そして制作側はエンターテインメント業界でもアニメ業界でも、とにかく、次の作品を世に送り出さなければならない。
「いつまでも大量生産なんて出来ませんからね。下手したら、例えばアニメも”あれっ”って気づいたらよその国のアニメばっかり観てることになっちゃうかもしれない訳ですよ。どの業界もそうだと思いますが”お金持ち”にならないと人材が来ないですから」
■ 『デスノート』、フランスまで到達すれば『レ・ミゼラブル』みたいになる可能性だってある
いよいよ来年の春、2015年に『デスノート THE MUSICAL』の幕が開く。
「何故、『デスノート』をやれるのかっていうのは映画を作ったからなんです。藤原竜也がロンドンに留学したときや、ニューヨークで公演したときに街で声をかけられるんですよ”お前、映画スターだろう”と。『バトル・ロワイヤル』と『デスノート』に出演してたからなんですね。”こんなに知られているんだったら……日本の俳優が街中で声かけられるってなかなかのことですよ。ロンドンは日本のアニメ、そんなに凄い訳ではない。でも本当に”あ~みんな観てるんだ~”、そういう実体験があったから、それで『デスノート』なら海外に行けるなと思ったんです」
日本のミュージカル、いわゆる2.5次元ミュージカルが国内ではすでに大きなシェアを占めてはいるものの、『オペラ座の怪人』や『ライオンキング』等の海外ミュージカルのシェアもまだまだ大きい。海外で製作された作品に対しては権利料、つまりロイヤリティが発生する。世界中でヒットしている作品だったら、その収入は相当額にのぼるはずだ。
「外国の作品を上演するときは、日本側はほっといても10数%はロイヤリティを支払う訳です。『デスノート』ってタイトルやL(エル)とか月(ライト)とか日本人ぽくないし、ブロードウェイに出るつもりでやる。その前にアジア地区でやれればいいなと。『オペラ座の怪人』が日本でやってるように、海外でも(この作品が)やれたらいい。でもこれがハズレたら次はきついな~っていうのと、今からはずれちゃうとまた次を作るのに5年かかるし、この『デスノート』だって5年かかっていますから。」
「日本人の作曲家で日本人の脚本家で海外に持っていくのは大変です。だから作曲家はワイルドホーンさんで。で、彼は『デスノート』を知らなかったんですけど、息子さんが知ってたんで、一気に(企画が)スタートしたんです。これだけ作品が知られている訳ですから、彼らも商売になると思ってるんですよ。これでワンパッケージにして、最初は日本とアジアでオフブロードウェイみたいな感じでやる。もちろん、ブロードウェイにこだわっている訳ではありません。ハンガリーでもブタペストでもウィーンでも、どこでもやれればいい。それでロイヤリティが入ってくるし。
フランスまで到達すれば『レ・ミゼラブル』みたいになる可能性だってある。ロンドンにいくとか、その時は大改訂しないといけないかもしれないけど。原作の連載は終わっていますが、この作品テーマは普遍的ですし、長く生き続ける可能性のある作品です」
『デスノート』は善と悪の物語。善悪二元論、最後までそのどちらが勝利するか不定というのが完全基本原理で、この作品もその法則にのっとっている。”不朽の名作”と呼ばれる文学作品にはこういったテーマのものはかなりある。この『デスノート』もそういった見地では高い確率で後世に残る可能性のある作品ではないだろうか。
「世界に進出して大きくする作品であるならマンガであろうと小説であろうとこだわりはないです。ただ、小説は翻訳してさらに説明しなければならないから難しい。それに海外の観客層は日本より若いし、男女比率はだいたい半々ですね。そういったことを考えると日本のアニメって一番わかりやすいですよね」
来年の春からは渋谷のアイア シアタートーキョーが2.5次元ミュージカルの専用劇場となる。1年の期限付きではあるものの、この存在価値は大きい。
「ブロードウェイとかウエストエンドの劇場の観客の8割が観光客なんです」
ニューヨークに観光に行ったら”一度は本場のブロードウェイで人気ミュージカルを観劇したい”と考えるのは必然。”ブロードウェイ”という言葉自体にブランド性があり、”ここで観たい”と思わせるだけの吸引力がある。アイア シアタートーキョーに寄せる期待は大きい。
「『デスノート THE MUSICAL』みたいなものを常時やっていますよ、と。でも、(システムとして観光客の)受け入れ体制がないとね」
いずれにしても2.5次元ミュージカル、日本のエンターテインメント業界はここにきて岐路に立っている。2.5次元ミュージカルは今、クローズアップされており、追い風が吹いているものの、システムの問題や日本経済の情勢などを考えると、10年先、20年先を見据えた展望・企画が急務である。
日本のエンターテインメント業界を牽引する大手制作会社・ホリプロ。2015年は正念場の年となりそうだが、それはどこも同じではないだろうか。『デスノートTHE MUSICAL 』、是非とも世界に羽ばたいて欲しい。
『デスノート THE MUSICAL』
http://deathnotethemusical.com
【東京公演】 2015年4月6日~4月29日 日生劇場
【大阪公演】 2015年 5月15日~5月17日 梅田芸術劇場
【名古屋公演】 2015年5月23日~5月24日
【韓国公演】
2015年6月~8月 城南アートセンター オペラハウス
主催: C JeS CULTURE 演出 栗山民也
『デスノート THE MUSICAL』
(C)DEATHNOTEthemusical