1980年、映画『ドラえもん のび太の恐竜』を上映して以降、アニメ「ドラえもん」は現在までほぼ毎年「映画『ドラえもん』」を公開し続けている。2006年からは声優陣を一新し、藤子・F・不二雄原作の大長編リメイクとオリジナル劇場作品が交互に上映、話題を呼んできた。

2015年、映画ドラえもんは35周年を迎えた。35周年記念作品は映画『ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)』。ヒーローごっこから展開するのび太たちの冒険を描いた物語だ。今までの作品の中でも“異質”であり、さまざまな要素が詰まった作品となっている。
35周年記念作品として監督を務めたのは本作が初監督となる大宜弘さん。見どころの多い本作がどのように成り立っていったのか、話を伺った。
[構成・執筆=細川洋平]

映画『ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)』
2015年3月7日(土) 全国ロードショー
http://doraeiga.com/2015/

■ 『ドラえもん』をもう一回「ギャグまんが」に戻したかった

―アニメ!アニメ!(以下、AA)
本作を観るとこれまでのシリーズと比較して「異質な作品だな」と感じました。本作のきっかけはどのようなものでしたか。

―大杉宜弘監督(以下、大杉)
最初のオファーから「笑い路線、明るいものでやってくれ」だったので、感動路線とは違うもの、という形でスタートしました。

―AA
まるまる一本明るいものでと。

―大杉
そうです。勧善懲悪、わかりやすいストーリー、絶対悪がいて、のび太たちが戦って、です。
『ドラえもん』というのは元々「日本一のギャグまんが」というコピーが付くくらいの作品(※)なので、やっぱり「ギャグまんがである」なんです。もう一回「ギャグまんがなんだ」に立ち返るのがあったと思うんです。
(※ コロコロコミック連載当初に付けられていたコピー)

―AA
映画ドラえもんは近年、大人に対するアプローチも重要なポイントになっています。「笑い・ギャグ」は意識する世代によって大きく変わっていくと思いますが、本作はギャグのメインターゲットをどこに定めているのでしょうか。

―大杉
小学校高学年までを意識して作っています。まんがやアニメは本来、子どものものであって、子どもに返してあげたいという思いがありました。大人の意見がどうしても入って来やすいので大人向けに行きがちなんですが、そこは踏ん張ろうと(笑)。

―AA
ドラえもんは”キッズアニメ“の大前提があると同時に、2006年の『のび太の恐竜2006』以降は「大人も楽しめますよ」というメッセージも強く入れられていました。

―大杉
そう作られてきたと思います。だけどそれに引きずられすぎてしまうと、メインターゲットが大人になってしまう。そこを今回、ガッと引き戻して子ども向けとして焦点を絞ろう、と自分の中でも大きく意識して作りました。

―AA
原作『ドラえもん』にはどういった思いを抱かれているのでしょうか。


―大杉
子どもの時から『ドラえもん』は普通にありました。「ドラえもん」や藤子・F・不二雄作品が大好きでした。憧れの存在でもありました。

―AA
その作品を自分が監督する。監督は旧TVシリーズ『ドラえもん』時代からアニメーターとしては関わられていますが、心の準備はされていたのでしょうか。

―大杉
いや、何にもです(笑)。自分にそんな話が来るなんて思っていませんでした。大変なことだと思っていましたので、最終的には「やってみないことにはわからない」と引き受けることにしました。

―AA
現在の映画はリメイク作品とオリジナルを取り混ぜて制作しています。その中で今回はオリジナルです。

―大杉
企画がまず「ヒーローもの、アクションもの」だったので、ある程度フォーマットに則ってベタにやらないと成立しないですね。ただ、やり過ぎるとドラえもんではなくなるので、まんがの大長編や単行本を読んだりしてリズムや空気感を掴んでいきました。


■ コミカルなアクションをするために頭身を下げて普通の線を採用

―AA
本作で一番驚いたのはドラえもんたちのキャラクターの立ち具合。ドラえもんをはじめみんなが強烈な粒として描かれていてとても楽しかったです。

―大杉
尋常じゃないですね(笑)。最初のオファーの段階で「全員を活躍させてもらいたい」との話が出ていたんです。それで全員に見せ場を作っていくわけですが、意識しないとバランスが崩れるので非常に難しかったですね。

―AA
物語中盤でのび太たちが“遊び”から“本気”へ意識が切り替わっていくシーンが出て来ます。その描き方が細やかですし、非常に印象的です。それは「大杉監督作品」の個性を狙っているのでしょうか。

―大杉
それはにじみ出たものですね。むしろ自分の立場では「藤子・F・不二雄作品に、『ドラえもん』にしなくちゃいけない」という思いで必死でした。それでも完成した作品を見た人には「今回は変わってるね」と言われることが多くて(笑)。
やってる間は必死なので気づかないんです。
個性があるのなら、それは狙って出すものではないと思っているんです。若いアニメーターには「ルールに則って物事を描いていけば、自分の個性は自然と出るんだよ」って言ってます。そういうことですよね。

―AA
個性は勝手気ままに描くことではなく、基礎・ルールに則っているからこそ出てくるものだと。

―大杉
ええ。なにしろ本作には「ドラえもん」という偉大で揺るぎのない基礎がありますからね(笑)。

―AA
本作で監督がこだわったのはどういった部分でしょうか。

―大杉
バトルを残虐に描かない、ということです。ヒーローアクションもので勧善懲悪。そうなるとバトルがたくさん出て来てしまうんです。それを残虐にしないためにキャラクターの頭身をあえて縮めてコミカルにしました。
アニメーターはキャラクターの造形でアクションが変わるんです。
前作『新・のび太の大魔境』(2014年)までは情感を出すために頭身が高めだったんですね。そうなると描き手側もリアルに描こうとしちゃう。それを今回は思いっきりコミカル寄りに振りました。

―AA
デザインから調整をしていったと。

―大杉
線も通常の線を使用しています。今までは鉛筆の感じや情感を出したりしていました。今回はシリアス話ではないしコミカルにアクションをするには通常の線の方が合っていると踏んだんです。

―AA
最後にメッセージをお願いします。

―大杉
まずは何も考えず見てもらって、見終わった後に笑顔で「今日はよかったなあ」と思ってもらえたらいいですね。映画はやっぱり特別な時間だと思うのでそれを味わってもらいたいです。細かいところまで意味を込めて作っていますが、シーン細部の意味はみなさんそれぞれ家でゆっくり考えてもらえればと思います。種明かしは5年10年経ったあたりでしたいですね(笑)。


映画『ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)』
2015年3月7日(土) 全国ロードショー
http://doraeiga.com/2015/
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