日本のアニメ・映像の可能性を新たに目指す場として、2014年11月より始まった日本アニメ(ーター)見本市」。スタジオカラーとドワンゴが協力して、注目のクリエイターが次々に短編映像シリーズを制作する。

3月13日(金)からは、日本アニメ(―ター)見本市セカンドシーズンも開始する。その第1作目は第6話『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』も監督した前田真宏監督と第3話「ME!ME!ME!」の監督を務めた吉崎響氏とのタッグだ。
「日本アニメ(ーター)見本市」の前田真宏監督のインタビューの後半では、監督が考える「アニメ」、そして「アニメの可能性」などのお話を伺った。
[構成・執筆=数土直志]

第6話 『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』
監督: 前田真宏
原案・キャラクターデザイン: 本田雄
http://animatorexpo.com/nishiogikubo/

セカンドシーズン第1話 『Kanon』
3月13日(金)配信 (予告編) http://www.nicovideo.jp/watch/1423459443
監督: 前田真宏
演出: 吉崎響
美監: 串田達也

■ 「アニメは自分の血と肉」(前田真宏監督)

――アニメ(ーター)見本市はアニメの可能性を探るところがあると思いますので、アニメ全体の話も伺っていいですか。今回、これを作ることで普段できないことができた充実感はあったのでしょうか。

前田
それはとてもあります。もともと本田君とその友人の皆さんと仕事ができるチャンスは滅多にないですから。しかもやりたいことをやっていい、常日頃何かやりたいなと思っている人間にとってはまたとないチャンスです。
ただ業界とか、アニメに対して何か新しいアプローチができたかは、それはどうだろうとは思ったりします。結局、作品を作り出すとその中に入ってしまいそのことしか考えませんので。

――そこはみんなに楽しんでもらいたいと意識するんですか。

前田
それは考えています。
やっぱり伝えたいこともあるし、面白かったと思って欲しい。自分も面白がりたいというのは明確にあります。
それと単なる作画の見本市じゃなく、間口の広さがある作品にしたいと思いました。技巧を誇るのでなく、そんなに知識がなくても普通に見てもらえるものにしたいという狙いは達成されたと思います。

――日本アニメーター見本市が始まる前に庵野秀明さんが日本橋でトークをした際に、日本のアニメはたくさんあるけども、バリエーションは減っている言われていました。前田さんもそれは考えられたりしますか。

前田
庵野さんと同世代としてそれに共感します。もっといろいろあっていいじゃないかと正直思っているんです。
ただそれは決して今のアニメの状況の否定するものでもないんです。制限された中で、面白いことをやっている人はいます。深夜アニメにも、「これはすごいな」という作品が最近、本当に多いんです。よくこんなことをテレビでできるなと、文芸もそうですし、表現もそうです。
演出のレベルの底がものすごく上がってきています。
反面、きりきりとした尖り具合が気にはなっています。これがどこに行きつくのか、スタンダードのひとつとして根を下ろせばいいんだけど。そこにはやや不安は感じます。

■ 前田真宏の考える“アニメ”とは?

――抽象的な質問をさせていただいて宜しいですか?前田監督にとって「アニメ」とは何ですか。アニメでしかできないことは何なのでしょうか?

前田
難しい質問ですね。やっぱり自分の血と肉ですね。僕は子どもの頃、マンガの週刊誌を読むことがなかったんです。立ち読みすることはあったんですけど毎週読むという習慣がなくて、それは小遣いがなかったからなんですけど。
アニメにはまったのは、テレビっ子だったからと、お金がいらないのが結構大きかったなと思っています。「ただでこんなに面白いものが見れる。」そんな原体験があって、テレビアニメがいろんなことを教えてくれました。
成長して小説が面白い、実写映画が面白い、ハリウッド映画が面白いとか、だんだんオタク世界にいきますが、人生の最初にいろんなことを教えてくれたのはアニメだったんじゃないかと思っています。
物語を楽しむ原型と言ったらいいんですかね。出発点です。どんなジャンルのものでも、「何で俺はこれを好きなんだ」と思った時には大概はアニメが原体験にあるなと思います。

話は外れますが、僕が庵野さんをいいなって思うのは、庵野さんは寄り道しなかった人だからなんです。僕は若い頃はそれがよく分からなくて、「何で特撮のことばっかり」「世の中にはもっといろいろあるでしょう」と思って勝手にイライラしたりしていたんだけど、それは違うというのをいますごく思っています。
庵野さんは「ずっと好き」なんです。簡単なようでいて、とてもむずかしいことです。それが一番リスペクトしているところですね。

前田真宏監督

■ 人間が物語を求め続ける以上、アニメの立ち位置もきっとある?

――あと最後にもうひとつ教えてください。これもまた抽象的ですが、「アニメ」はこの先どうなると思いますか。

前田
「人間が物語を求めることを放棄することはない」、これははっきりしていますよね。何かの表現を通して物語を求め続ける以上、アニメの立ち位置もきっとあるだろうと僕は思います。

アニメは現実をカットするのではなく、描写することでその世界がまるであるかのように嘘をつきます。こうした表現は人間がそれを求める限り絶対これからも続くと思っています。そのなかで日本のアニメが独自の進化を遂げていく、アプローチしていく余地はまだまだあるんじゃないかでしょうか。
『青の6号』を作った頃はもう少し逆のことを考えていて、何でも取り入れたらいい、もう少し違う世界で勝負したい、外へ出ていく作品をすごく作りたいと思っていたんです。でも最近は、むしろガラパゴスでいいかなという気がします。どんどん特化して、突き詰めるところまでいったっていいじゃないか、インターナショナルじゃなくても、僕らだけの何かをたまたま見た人が「何だ、これ、面白い」と言ってくれたらいいんじゃないのかなと思っています。

前田
『青の6号』の時には、CGを使うという新しい武器を手に入れたのになぜ表現を制限するセルルックに落とし込まなければいけないのかと思っていたんです。せっかく立体視できる、グルッと回せる背景が手に入った、それをセルキャラクターの二次元の感じに近づけるのは全然意味がないと思えて、作品ではあえて生煮えのままぶつけているんです。
今回の見本市の中でも『HILL CLIMB GIRL』がセルルックの表現をしていますが、それがいまはすごく面白いなと思っています。逆に新しい世代の人たちが、アニメが好きというなかでCGをやっていて結構衝撃を受けています。僕から見るとものすごく出来がいいんです。彼らが素直にグラフィックの様式としてセルルックを捉えているのがはっきり分かるんです。

極論かも知れませんが、たぶん、それは日本でしか生まれない表現なんです。CGでアニメといったら『アナと雪の女王』やピクサーですが、海外はみんな「人形劇」なんですよ。

――海外CGのアイディアはストップ・モーション・アニメーションの延長線上ですね。

前田
場があって、そこで人形がお芝居をして、よく動く人形劇なんです。日本のアニメはどこまで行ってもそれにはなれない。二次元のグラフィックなんです。
グラフィックで物語を見せていく面白さ、これは日本人が得意としてきたことだし、まだまだこれからも続くんじゃないか。その新しい出口としてセルルックのCGアニメというのはすごくいいなと思っています。僕は個人的に、むしろこの表現のほうが『アナと雪の女王』より進んでいるのじゃないかとひそかに思ったりします。

『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』
――前田さん自身がセルルックのCGを次やることは考えたりはあるんですか。

前田
願望としてはありますね。ぜひやってみたいですね。
ただ話がもとへ戻りますが、手描き描線の魅力も別にあります。例えとして変かもしれませんが、3DCGは木版刷りの浮世絵の良さ、手描きは肉筆画の浮世絵の良さ、両方ありじゃないかと思います。
いまはアニメの創作はデジタルツールを手にしたことで、個人作家に戻っていく流れがあると思うんです。一人一人が工房や発信元になれるわけですから。じゃあ、それに対してマスプロは何をしたらいいのか、そこにはやはりまだまだ工夫の余地はあるし、やるべきことはあると思っています。

『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』
監督: 前田真宏
原案・キャラクターデザイン: 本田雄
http://animatorexpo.com/nishiogikubo/

“『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』
いつもの部屋のソファの上で目を覚ましたリカ。
ふとした違和感に気付く・・・
駅から少し離れた2LDK、ただいま内覧受付中。“

日本アニメ(ーター)見本市
http://animatorexpo.com/

■ ニコニコ生放送
「日本アニメ(ーター)見本市-同トレス-」2ndシーズン開始特番
2014年3月9日(月)22時~23時(予定)
http://live.nicovideo.jp/watch/lv204660678
出演者:前田真宏、鶴巻和哉、樋口真嗣、出渕裕
□「日本アニメ(ーター)見本市」セカンドシーズンや日本アニメ(ーター)見本市OP募集企画の選考発表を行います。  

前田真宏監督
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