日本アニメの傑作が海外で実写映画化された。『カイト/KITE』が4月11日より全国公開する。
本作は1998年に梅津泰臣監督が手がけた18禁アダルトアニメを原作としている。原作アニメは、両親を殺され暗殺者と化した少女・砂羽の復讐譚を「エロス」と「バイオレンス」の過激な描写に加え、スタイリッシュなアクションを通じて描いた傑作。国内のアニメファンのみならず海外のクリエーターからもカルト的な人気を博す。
映画では、原作の基本的要素は活かしつつオリジナル要素を加えた。少女たちが性の奴隷として売買される荒廃した近未来を舞台に、主人公・サワの内面により深く斬り込んだ物語とした。

日本のクリエティブはどう海外で受け取られ変容したのか?そして日本の作り手はそれをどうみたのか?映画公開に先立ち、原作者の梅津泰臣さんにインタビューを行った。映画『カイト/KITE』の見どころ、実写化の意義など話を聞いた。
[取材・構成=沖本茂義]

■ 実写ならではの魅力があった

――映画化の企画が持ち上がったのは今から13年ほど前とうかがいましたが、当時話を受けてどう思われましたか?

梅津泰臣さん(以下、梅津)
とにかくびっくりしました。ディスタント・ホライゾンいう製作プロダクションを筆頭に、その後も複数のスタジオからリメイクの話をもらった。そもそも日本のアニメがハリウッドで実写化されることは稀なこと。しかも18禁のアダルトアニメだったのでなおさら驚きました。

――実写化にあたり原作者として何かオーダーはありましたか?

梅津
「『A KITE』というタイトルは変えないでほしい」とだけお願いしましたが、それぐらいですね。
スタッフには自由につくってほしかったのでシナリオにもあまり口出しはせず。一時期は、ヒロインは傭兵の少女という設定で、戦争状態の国で戦うという物語になっていたこともありました(笑)。

――それは原作とだいぶ違いますね。完成した映画では、シナリオなどかなり原作に準拠していました。

梅津
2011年、監督がロブ・コーエンからデヴィッド・R・エリスに代わり、彼がプロデューサーに「原作に沿った脚本に戻したい」と話してくれた。それで現在のような形になりました。
しかし、撮影に入る一週間前、エリスが急逝してしまい……非常にショックを受け、「映画化はもう無理なのか」と諦めていたところ、プロデューサーが今回の監督ラルフ・ジマンを連れてきてくれた。そしてプロジェクトが再開し、ようやく映画化が実現しました。

――ヒロイン・サワの名前がアニメと同じだったり、原作へのリスペクトを感じる映画でした。

梅津
リスペクトしてもらってとても幸せでしたね。舞台が日本からヨハネスブルグに移るなど、アニメと違うオリジナルの部分もありしたけど、むしろそこが面白かった。ロケーションも良くて街の荒廃した雰囲気がよく出ていました。


――いくつかのアクションシーンでは、カット割りまで徹底的に踏襲されていました。

梅津
こそばゆい印象もありましたが(笑)、アニメと同じようなシチュエーションでやってくれたことには感謝します。またアクションシーンは実写ならではの表現が多くて、そこもよかったです。

――結末もオリジナルとなっています。アニメの場合、フィルム・ノワール的なズシリと重いたいものが残るような感じでしたが……。

梅津
映画のエンディングはとても気に入っています。アニメは全編を通して砂羽の秘めた情念がメインで、結末も未来を暗示させていません。もちろんそれが良いという人もいるとは思いますが(笑)。
今回、映画スタッフがアニメの物語を彼らなりの解釈で映像化していた。それがよかったですね。やっぱりアニメから丸写しただけではリメイクする意味がなくなってしまうので。

――原作アニメへのリスペクトがありつつ、実写ならではの魅力があったと。
原作者としては嬉しい映画化だったのでしょうか。

梅津
もちろんです。キャラクターにしても、アニメでは出せない実写ならではの魅力がたくさん描かれていた。キャスト、スタッフがキャラクターに愛情を持ってつくってくれたおかげです。

■『A KITE』の位置づけ

――今回ハリウッドの実写映画化で、あらためて梅津監督の海外での人気を感じました。ご自身的には海外の評価をどうとらえていますか?

梅津
『A KITE』の何が気に入って実写化したのか? 僕の原作・演出のどんなところに反応したのか? 実のところ自分ではよく分かりません。

――海外ファンからのリアクションはいかがですか?

梅津
当時からファンレターはときどきいただいて、よく彼らは「クールだ」という表現をされます。また仕事で北米の方たちと一緒に仕事をするときも、必ずと言っていいほど『A KITE』の話がよく出て「クールだ」と評価される。ただ、我々が使うクールとは少しニュアンスが違っていて「日本語に訳せない」らしく、そのあたり難しいところです。

――梅津監督というと、18期禁向けの『A KITE』や『MEZZO FORTE』(00)のような「セックス&バイオレンス」といったイメージを持つファンも多いと思いますが、ご自身的にはいかがですか?

梅津
『A KITE』や『MEZZO FORTE』に関しては、18禁アニメの場合、「エロ」という要素を踏まえれば企画を自由につくることができる。そういう「条件」のもと僕のオリジナルを発表したというだけなんです。でも作品のインパクトが強過ぎた、ということですよね。
『MEZZO FORTE』はエロの要素を抜いても成立する作品で、のちに続編としてTVシリーズ『MEZZO-メゾ-』(04)をつくりました。

――近年も『ガリレイドンナ』(13)や『ウィザード・バリスターズ~弁魔士セシル』(14)のように、オリジナル作品を意欲的に作られています。

梅津
『ガリレイドンナ』と『セシル』で20代のファンの人たちが増えきました。ただ、『A KITE』や『MEZZO-メゾ-』を見てきたファンからは、ああいったもっと過激でアグレッシブな作品をもう一度見たいと言われますけど(笑)。

――今振り返って、梅津監督にとって『A KITE』はどのような作品でしょうか?

梅津
とても重要な作品ですよね。OVAということもありクオリティとして満足につくれたわけではないですが、当時自分がやりたいと思っていたテーマ、要素を詰め込められたオリジナル企画だったので。

――では最後にあらためてメッセージをお願いします。

梅津 
映画『カイト/KITE』は、原作アニメで描かれたテーマやニュアンスがちゃんと織りこめられています。サワ役のインディア・アイズリーも可愛らしく魅力的なので、生身の人間が演じる実写ならではの世界観を楽しんで欲しいです。

映画『カイト/KITE』
4月11日(土)全国ロードショー

[出演]
インディア・アイズリー、サミュエル・L・ジャクソン、カラン・マッコーリフ
監督:ラルフ・ジマン
原作:梅津泰臣「A KITE」
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