カラーとドワンゴがアニメーションの可能性を探るプロジェクト「日本アニメ(ーター)見本市」は、数々の実力派が登場し、自由に作品を制作する企画だ。その第8弾『そこからの明日』では、アニメーター・演出でもある林明美さんが監督を務めた。

フルーツバスケット』のキャラクターデザインや『ヱヴァンゲリオン新劇場版:Q』の作画監督などで知られた才能が、「アニクリ15」でタッグを組んだバンド・Avaivartikaの音楽に乗せて、カフェで働く女の子少女の日常が繊細なタッチで描く。本作で林明美さんがチャレンジしたことを何だったのか?話を伺った。
[聞き手:数土直志、構成:沖本茂義]

日本アニメ(ーター)見本市
http://animatorexpo.com/
『そこからの明日。』
http://animatorexpo.com/tomorrowfromthere/
*『そこからの明日。』を含む、日本アニメ(―ター)見本市の1期作品(第1話~第12話)の視聴、同作品のニコニコ生放送「日本アニメ(―ター)見本市―同トレスー」の視聴は5月31日(日)24時に終了します。

監督: 林 明美
イメージボード: 品川宏樹
音楽: Avaivartika

■ 「音楽と映像」 両方からアプローチした作品

――カフェで働く女の子の日常がミュージック・クリップのようなテイストで描かれる本作ですが、着想のきっかけは?

林 明美(以下、林)
時間も限られていましたし作業の負担も考慮して、すぐに取り掛かれるテーマにしようと。そこで前回「アニクリ15」で描いたテーマをもう一歩踏みこんで作ってみようと思いました。

――音楽のAvaivartikaさんとは「アニクリ15」でタッグを組まれていますが、制作はどのように?


前作『ナミダの向こう・・・』と同様に、曲ありきで映像を作っているというよりも、音楽サイドと映像のアプローチの同時進行でした。まずイメージボードをお見せして、「今回はこういうテーマです」「こういう主人公です」とイメージを共有してから、曲づくりに入ってもらいました。

――再びAvaivartikaさんを選ばれたのは何故でしょう?


歌詞を担当されている(宇治田)愛さんが作る歌詞がすごく好きなのと、テーマを共有した時に出てくるモノにあまりズレがないんです。それと、彼女が言葉を大事にしていることろが好きですね。たとえば日本語の細かいところで「いく」と「ゆく」のニュアンスまで気を配っていたりとか、そういう繊細な言葉選びをしてくれる所とか信頼しているので今回もお願いしました。


――イメージボードの品川宏樹を起用されたのは?

林 
品川さんとは、面識はあったんですけど、実際にお仕事を一緒にするのは今回が初めてでした。ただ、彼が描いたものは何度か観ていてテイストは知っていましたし、ちょうど彼がフリーになって「仕事何でもやりますよ」と言ってくれてたので今回誘ってみようと。
前作は企画段階は自分ひとりで始めたんですけど、今回はいろんな人の色を入れて,尚かつ男性だと面白いかなぁ・・・とwそしたらあがってきたボードデザインが思いの外、乙女チックで意外でした(笑)。

――あえて男性ということですが、女性のほうが意思疎通しやすいんですか?


そこはやはり感性の差はあると思います。たとえば、『ME!ME!ME!』のような作品は、女の人は共感という意味では難しいかもしれませんが、絵が好き!ビジュアルが好き!という感覚は理解出来ます。。男性特有のフェチズムの話をされても。男女の間では分かり合えない感覚がどうしてもあると思うんですが、でもそのズレが意外性を生むこともあって、今回の品川さんの参加は面白い化学変化だったと思いますね。わたしのやりたいことやビジュアルイメージを汲んでもらえたのもありがたかったです。

――本編を観ていて、キャラクターの線が少ないのが印象的でした。


作業全体のカロリーを考えたときに、不必要なディテールは要らないと思ったので。そこはいつも考えていている部分ですが、その分色でコントロールしようと。
カット単位で色は変えていますし、背景も微妙に色のテンションを変えたりしています。ある意味贅沢なつくりにはなっていますよね。w

――作画をご自身でやられたカットはありますか?


原画として関わったところはないです。ただ、もともと絵描きなので、レイアウトチェックや原画チェックしているときにやっぱり手は入れてしまうんですよ。画面の調整をしたあとは、キャラはすべて作監さんに任せていますが。

■ あえて説明しない

――よくよく見ると本作は謎が多いですよね。たとえば、結局彼女は何からの電話を待っていたのか明かされません。


とくに正解があるわけではないので、どう受け取ってもらってもいいんです。たとえば恋人かもしれないし、家族かもしれない、そこは観る人の自由だと思っています。どう感じてもらっても間違ってはいませんw

――近年の商業アニメーションでは、よくも悪くも説明が非常に丁寧ですが、そういうアンチテーゼもあったのでしょうか?


ありますね。なので、あえて必要以上には説明しないようにしています。私も普段TVアニメなどを観ていても説明ゼリフが多いな~と感じていて。

登場人物がどういう気持ちなのか、どういう状況なのかすべてセリフで語られてしまっている作品が多く、気にはなっていました・・。だから本作では語りたい説明は最小限に留めて、セリフで説明するのではなく大部分は歌詞にその役割を担ってもらっています。
尺が短いので、どちらにしても全部説明するのは無理なんですが(笑)

――終盤の盛り上がりどころで、少女が駆け出すシーンが印象的でした。あれはどなたが担当されたのでしょうか?


あのカットはみんなの本田さんです(笑)。主人公の気持ちが転換する場面で、なおかつ動きにも躍動感が出るきっかけのカットということで、ここは師匠にお願いしよう、と。本田さんは、コンテの意図はちゃんと汲みつつも、やっぱりちょっと“足してくる”んですよね~。
コンテにプラスして、作画のスパイス的な感じでカットのクオリティが増してあがってくるので、こっちのテンションも上がりましたね(笑)。

――あのシーンは、主線が色トレスになり雰囲気が変わりますが、あれはどういった意図で?


あれは結局、彼女の深層心理で、「自分の気持ちひとつで見え方が変わる」というシーンことです。彼女の気持ちに変化が出て、周りも楽しげな発色の良い景色に変わる(見える)。現実世界ではなくて心象風景なので、髪がほどけたりと印象重視なカットが続きます。気づいた方がいるか分かりませんが、途中の街中を歩いているカットの下にある水たまりには現実の世界が映り込んでいます。電車に乗っていたときのままのお団子ヘアで、背景も実景になっているのは本当はそれが現実世界だからなんです。


後編に続く
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