連載第126回
高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義  
[取材・構成: 高浩美]

■ 「アイドル×落語、アイドルが魅せる、寄席へようこそ」

じょしらく』は、「別冊少年マガジン」に連載されたギャグマンガ作品、原作は久米田康治、作画をヤスが担当した。ガールズ落語家マンガで、日常のどうでもよいことからネタを広げ、話を展開させる。

落語をしている場面よりも寄席の楽屋での会話が主体となる。一話完結スタイルで、外には出ない。

また各話のタイトルはそれぞれ古典落語に由来する。2010年に単行本第壱巻が通常版とキャラ落語CD付き特装版の形式で同時発売された。2012年1月にはテレビアニメ化が発表され、同年7月に放送された。
メインキャラクターは全員が高座名で語られており、本名は不明。登場する落語家は5人。皆、個性的な高座名だ。

暗落亭 苦来(あんらくてい くくる)ダウナー系で躁鬱気質、浮き沈みの激しい性格、愛称はくくる。空琉美遊亭 丸京(くうるびゆうてい がんきょう)話の導入や繋ぎ、展開、オチ、さらには色気ネタをも担当することもあり、万能キャラ。蕪羅亭 魔梨威(ぶらてい まりい)やや見栄っ張りでノリやすい性格で進行役兼ツッコミ役。防波亭 手寅(ぼうはてい てとら)。
ノリの良い性格で”テトちゃん”と呼ばれている。高座名の由来は防波堤とテトラポット。波浪浮亭 木胡桃(はろうてい きぐるみ)天真爛漫でロリキャラ、仲間たちからは”キグちゃん”と呼ばれている。
この個性的な面々に乃木坂46のメンバーが挑戦、しかもトリプルキャストとなる。

制作によれば観劇オススメポイントは3つあるそう。「まず、トリプルキャスト。チーム『ら』『く』『ご』と3チームに分かれているため、脚本は同じでも、舞台は三者三様。どの公演も、各チームならではの色と味があって、見ごたえたっぷり。ぜひ、お気に入りのチームを探してみて下さい」と語る。同じ脚本・演出でも役者が変われば空気も変わる、とのこと。
そして2つ目は「オリジナルストーリー、今回の舞台の題材である、漫画『じょしらく』のマンガをベースとしながらも、彼女たちだから演じられる“女子落語家”のオリジナルストーリーも織り交ぜてお届けします」。原作の魅力+α、ここは要注目である。

そして3つ目はアイドルが落語に本格挑戦。舞台の目玉でもある“落語”を、各メンバーが日替わりで披露すること。「披露する演目は、この『じょしらく』の為だけに作られた創作落語です。5キャラクター15人が紡ぐ、その一席を見逃さないで欲しい」と締めくくった。
トリプルキャストなので、3チーム全て観たいのは率直なところだが、それはなかなか大変だ。しかし、各チームの千秋楽がライブビューイングで映画館で体感出来るので、3チーム全て見届けることが可能だ。キャストの名落語家ぶりに期待したい。

■ アイドルと落語家、オリジナルストーリーならではの仕掛けや構成

まず、蕪羅亭 魔梨威の前口上、それから早々に5人の”どうでもよい会話”、これが『じょしらく』の面白さ、「宝くじが当たったらどうする?」どんどん会話があらぬ方向に進み、あげくの果てには「マックでクーポンを使わなかったから、きっと当たったに違いない」と仲間を疑惑の目で見たり……。
それからオープニング曲がかかる。明るい、ノリのよい楽曲だ。スクリーンにタイトルロールやキャラクターの”紹介”楽曲の歌詞もよく聴けば、キャラの説明になっているので、原作を知らなくても、ここでざっくりわかる、親切な幕開きとなっている。中央のスクリーンには頻繁に”ある断り書き”が映し出される、「この物語は女の子の可愛さをお楽しみいただくための差し障りのない会話を楽しむ……」。

確かにそうではあるが、会話はシュールな方向かつ、ブラックでシニカルなユーモアもあり、アイドルあるある皮肉もちらほらあり(アイドルグループの人事異動とか)、時事ネタもあり、それが”あるある”でもあるが、”そりゃないだろ”的な方向もちょっとあって、この具合がいい感じ。ここは観てのお楽しみだ。

オリジナルストーリーということだが、ここに演劇的な”仕掛け”が施されている。『じょしらく』の出演者は乃木坂、もちろん、皆、バリバリのアイドルだ。アイドルと落語家、アイドルである乃木坂46が落語家を演じる意味・意義。そして演劇というのは虚構の世界だ。
虚構に虚構の”入れ子状態”。それにアイドルと落語家の違いやポジションを絡ませてちょっと哲学的なニュアンスを含ませ、物語の構成に工夫を見せている。また、会話も面白いだけでなく、物事の根源的な問いかけもあって考えさせられる。
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ゲネプロはチーム『ら』であった。芝居はもちろん、ギャグもあり、なかなかの熱演。アイドルシーンは、流石だ。

また、毎回新作落語を必ずやるのであるが、ゲネでは空琉美遊亭 丸京、こと堀 未央奈。最初はやや緊張の面持ちであったが、途中からはかなりの落語家ぶりで稽古の成果を見せてくれた。演目は『猫の丸皿』。元ネタは古今亭志ん生の『猫の皿』。コレクターと喫茶店のオーナーの駆け引きであるが、現代ならではの話題も絡ませ、オチまでの過程もなかなか面白い。創作落語は脚本・演出もする川尻恵太。

基本的に楽屋で繰り広げられる話なのだが、そこから”出る”ところもあってここは”変化球”である。アイドル服を着て歌って踊るシーンもあれば、まさかの”お笑い着ぐるみ”やかぶり物もあって乃木坂ファンなら、ここは”美味しい”ポイントだ。
チーム『ら』、山崎怜奈演じる暗落亭 苦来、眉毛を八の字にして不幸感全開、堀 未央奈の空琉美遊亭 丸京、”暴力メガネ”ぶりとクールさのバランスがなんとも言えない感じ、斉藤優里演じる蕪羅亭 魔梨威は”暴力メガネ”に殴られる時の倒れっぷりがアッパレ、防波亭 手寅役の伊藤万理華、ノリの良いキャラをなんとものびのびと演じており、星野みなみの波浪浮亭 木胡桃は可愛くキメているが、腹黒さをそこはかとなく窺わせる。
1幕もので上演時間は約1時間40分強。川尻恵太、舞台構成が巧みで一気に見せる。難しいことは考えずに、気楽に観られる。
なお、チーム毎に違う楽曲もあり、全チーム制覇するなら、ここは要チェック。ライトなコメディ、楽しく笑って、楽しい気分になれること、うけあいだ。

なお、ゲネプロの前に囲み取材があった。登壇したのは全てのチームのメンバー(松村沙友理、高山一実はスケジュールの都合上欠席)、総勢13名であった。
初日の意気込みを尋ねられて斉藤優里は「稽古が長く、しっかりとっていただいたので、メンバーと不安なところをしっかり確認しあったので、いい本番が迎えられそうです」とコメント。星野みなみは「チーム一丸となって頑張っていきたい」と元気よく語った。山崎怜奈は「アニメやマンガを知ってる原作ファンの皆様にも(私たち)乃木坂46が『じょしらく』をやってよかったって言われるような舞台にしたいです」と発言、どのメンバーも今回の舞台にかける想いは熱い。実際に落語家の指導もあったとのこと。また、メンバーの中で一番落語が得意なのは能條愛未だそう。なんと「アイドル辞めて落語界に来れば?」と、”引き抜きオファー”があったとか。
また、ゲネプロ終了後、斉藤優里は「ライブより緊張した~」と一言。ゲネの後はなんとも言えない自信と安堵の表情の5人、他のチームのメンバーもゲネプロを観劇していたが、いい刺激になったであろう。
チームごとに、よい意味で競い合って欲しい。

舞台『じょしらく』
2015年6月18日(木)~6月28日(日)
AiiA 2.5 Theater Tokyo
原作:久米田康治/漫画:ヤス
脚本・演出 川尻恵太
http://www.nelke.co.jp/stage/jyoshiraku/

『じょしらく』
(C)久米田康治・ヤス/講談社
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