~2016杭州アニメフェスティバルを訪ねて~
[増田弘道]
■ 見えてきたビジネスモデル、大IP、そして汎娯楽
ようやく市場が立ち上がってきた中国のアニメーション産業。そこには自からビジネスモデルで確立しつつあるが、最近中国人がよく口にするのが「IP(Intellectual Property)」である。
さらには汎娯楽である。2011年から中国最大手のネットポータルサイトであるテンセントが唱えた概念だが日本流で言うならばクロスメディア戦略である(表4)。「大IP」を中心に「アニメ」「音楽」「演劇」「書籍」「ゲーム」「映画・ドラマ」で展開するという図式となっているが、これはネット上でゲームの運営や映像の配信を管理できるIT企業ならではの強みであろう。フィジカルなメディア(DVDやCD)やグッズが主流の時代においては発想すら浮かばなかった「汎娯楽」が日常的なテクニカルタームになってきたということは、先にも述べたようにようやくビジネスモデルが生まれてきたという証拠である。
そしてポイントは「大IP 汎娯楽」のIPを何にするかという問題である。日本はマンガが起点となるケースが多いが、そのような文化がない中国においては手っ取り早く他国のヒットIPを入手するのが近道と受け取られている。それが日本のアニメ原作の取得ラッシュという形になっているのだが、必ずしも表現の自由が保証されているとはいい難い中国においては柔軟な発想力は生まれにくい。
それもあってか最近は比較的自由度が高いネット小説を原作とするものが急速に増えている。四半世紀も前からアニメのノウハウが海外移転するのではという議論があったが、中国に関してはこの問題が解消されない限りその心配は無用ではないかと考える。
■ 日本のアニメに取っての中国市場~チャンスはあるのか?
ものすごいスピードで様変わりを遂げつつある中国のアニメーション産業。果たして日本のアニメにチャンスはあるのか?
まず放送メディアについては明確に法律で制限されているので現時点ではほぼ絶望的である。
今後おそらく日中でもこのような取り組みが展開されるであろうが、懸念点として挙げられるのは中国政府の検閲である。もし今後ネットでもテレビ並みの制約が課せられれば現状のビジネスが元の木阿弥になる可能性も否定できない。だがこの点に関し、中国人関係者は総じて楽観的である。日本人から見るといつか当局から規制の通達が来るのではないかと不安になるところであるが、そこは「上に政策あれば下に対策あり」の中国人、その時はその時で迅速に対処するつもりなのであろう。
■ 映画の可能性
2015年5月28日に中国で公開された映画『STAND BY ME ドラえもん』の興行収入は初日2708万元(約5億円)、6月26日(興行終了日)までの累計収入は5.3億元(約95億円)と歴代アニメーション興業2位となる好記録となったものの、表4の2015年に中国で公開された海外アニメーションの成績を見ても分かる通り日本の存在感は薄い。対照的にハリウッド作品が圧倒的に多いのは、アメリカが中国政府と輸入制限枠(年間基本64作)に関してきっちりと交渉した結果である。
もちろんアメリカ以外の国の映画も輸入されてはいるのだが、香港や台湾は輸入映画の制限枠外、韓国も2014年に中国と協議を結んだ結果、中韓共同制作の映画は今後中国市場において国産映画としての待遇を受けられるようになった。
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