見た目が地味な中学生の影山茂夫(通称=モブ)は強大な超能力を持った少年だが、普段はその力を押さえつけている。しかし知らず知らずにストレスが溜まっていき、数値が100を迎えるとーー。
モブの師匠でインチキ霊媒師の霊幻新隆や神になろうと企む霊・エクボといった個性的なキャラクターがモブを取り巻き事件を起こしていく。
ワンパンマン』でも知られるONE原作のTVアニメ『モブサイコ100』。本作は今年の2月にPVがネットで公開されるや否や大きな話題となった。さまざまな手法で彩られたアニメーションは、本放送がはじまってからも毎話ふんだんに取り入れられている。挑戦的な画面作りは監督の立川譲、キャラクターデザイン・総作画監督の亀田祥倫、そしてアニメーション制作を担当するBONESの気概に寄るものも大きいが、それだけではない更なる才能が集まって作られている。顕著なのがオープニングとエンディングだ。
今回、立川監督と亀田総作画監督、そしてPVおよびオープニングで重要な役割を果たしたクリエーションスタジオ10GAUGE代表の依田伸隆に集まっていただき、オープニング映像の魅力に迫った。
[取材・構成:細川洋平]

「モブサイコ100」1話~7話 振り返り上映会
2016/08/30(火) 開場:23:50 開演:24:00
http://live.nicovideo.jp/gate/lv273222347

■完成は10GAUGEに一任された

ーー今回は大きく話題となったオープニング映像についてお話をうかがいたいと思っています。絵コンテも担当された立川譲監督やキャラクターデザイン・総作画監督の亀田祥倫さんに加え、今回は映像集団の10GAUGEさんも大きく関わっているとのことで、依田伸隆さんにもお越しいただきました。まずは依田さんはどのように本作に関わるようになったのでしょうか。

依田
僕は最初にPVを作らないかと永野(優希)プロデューサーに言われて、最初のPVを作ったんです。ONEさんの原作を読んだ時はめちゃくちゃセンスがいいし、いい意味でよくわからない作品だったのでどうしたものかと悩みました。
それで原作の単行本3巻発売記念アニメを見たんです。

立川
賢者さん(※映像作家)が作ったPVですね。

依田
はい。チューニングが狂ったギターが鳴っていて、超絶センスがよくて、ウェルメイドになりすぎずおもしろい事をやっていた。僕たちが作ったPVでもそれはかなり意識しましたね。アニメ本編でも立川監督がちゃんと原作をアニメ作品として見事に翻訳していたので改めてすごいなと思っています。

立川
いえいえ。依田さんに作っていただいたPVが一番最初に世に出たものなんですよ。すごく印象的でした。

ーー現在YouTubeで130万回再生されていますね。今年の2月の公開当時『バットマンVSスーパーマン』の告知映像と同じ回数再生されてワーナー社内でも話題になったそうです。

立川
すごいじゃないですか(笑)。


ーーPVを作った段階でOPは10GAUGEさんに頼もうと考えていたのでしょうか。

立川
いえ最初は普通にカットを作って編集して繋いで、ということを考えていました。放送の2ヶ月くらい前に曲が来て、その音源を何度も聴いていく内に中毒性みたいなものを音楽から感じ始めたんです。『モブサイコ100』は超能力がテーマのひとつでもあるので、超能力感が映像から出てくるようなものを作りたいなとはじめに思ったんです。それから自分が思いつく範囲で超能力感のある資料映像を集めたり、亀田君からアイデアをもらったりして、いろいろ映像を見ていたんです。その時に初期のPVを作ってもらった10GAUGEさんに頼みたいなと思い声をかけました。こちらは素材を提供して、コラージュ(バラバラの素材を組み合わせる技法)メインで行きたいということを絵コンテを描く前に依田さんに相談しました。

依田
歌詞の譜割りみたいに、コラージュ部分とそうでない部分でパート分けしてもらいましたね。

立川
「ここからここまでは全部コラージュです」って、素材とイメージ映像を一緒に渡して。だからコンテには「コラージュ」って描いてるだけ。

亀田
その部分、コンテに絵は全くないですもんね。

立川
こんな風に使ってくれるかなというイメージはこちらにもあるんですけど、10GAUGEさんがどう味付けするのか想像しつつ完成を待っていました。


ーーコラージュは10GAUGEさんの仕上げに完全にお任せしたと言うことですね。具体的にどのカットがコラージュなのでしょうか。

依田
冒頭のビルが終わって、最初のカウントアップのところから……。

立川
携帯電話が並んで入っていくところも。サビ前の横スクロールの長いカットもそうですね。そのあたりは全て絵コンテは真っ白で、文字で「コラージュ」としか描いてないですね。爆発からブロッコリー、エクボ、たこ焼きへ、といったメタモルフォーゼ(※次々とモチーフが変化していくこと)のカットはこちらで描いています。ただ、任せたのはコラージュもそうですけど、最終的に映像にまとめる部分までお願いしているんです。

ーー映像にまとめる部分、とはどういうことでしょうか。

依田
現場からは絵の素材や背景素材をもらって、あとは前もって用意してもらっていたキャラクター素材や本編素材と合わせてこちらで撮影までやったんです。

立川
僕たちは編集にも立ち会っていないので、依田さんの方で繋いで音楽に合わせて。アニメの撮影をイチからやるというのもあんまりないんじゃないですか?

依田
そうなんですよ。
うちはアニメメインの撮影会社じゃないので今回かなり勉強になりました。

ーー具体的にはどういう作業になるのでしょうか。

依田
素材を全てプリントアウトしてモーションごとにタグ付けするように並べていきます。「赤、動きがある」「青、回転がある」みたいにざっくりと。その後フォトショップで肝になる構図を静止画で組んでいきます。これをコンテ代わりにするので、ポスターを何枚も作って行くイメージですね。そのポスターをどう繋げたらいいのか、カメラの回転などを整合性を付けながら作って行きます。

■モブサイコでこだわった「手」の表現

ーー素材を作る段階で立川監督から亀田さんへ何かオーダーはしたのでしょうか。

立川
素材段階ではオーダーしてないと思いますね。

亀田
そうですね。コンテが出来た時点でそれに準じて作業を進めました。描く素材がとりあえず多くて大変でしたね。
多すぎて減らしてもらいました。

立川
たくさん用意した素材を依田さんは全部活用して下さいました。

亀田
本編の映像からも切り取ったり、いろいろ工夫してもらいましたね。

依田
原作漫画の素材も使いました。

ーー最後のタイトルにオーバーラップしている部分ですね。

立川
ONEさんが喜んでましたよ。「あんな風にカッコよく使ってもらって、うう?!」って。

依田
ONEさんの顔がOP映像の中に入ってるの、分かりました?

立川
ONEさんの顔?!

依田
横に流れているコラージュカットの下の方に学校があるんですけど、壁面にメリッと埋まってるんですよ。

亀田
ああ、あれってONEさんの顔なんだ! ああいう霊かと思ってました(笑)。

ーーエンディングの映像を担当した佐藤美代さんに話をうかがった時に、亀田さんが手にこだわっていらっしゃるという話がありました。

亀田
手、そうですね。個人的にですけど、自分は男女関係なくグローブみたいにゴッツく描いちゃうんです。
それが好きでもあるので、キャラクターデザインをするなら手も設定として押し通せるかなって。ONEさんの作品もゴツゴツした指をしているので、その折衷案にしたという感じですね。そうしたらアニメーターに配られてるキャラクター設定表の一番上に手の設定が来ていて驚きました。

立川
その設定がなかったら中CM前後のアイキャッチは手にならなかったよ。

亀田
ははは(笑)。あれじゃんけんと思いつつ、たまにグーでもチョキでもパーでもないものが出てくるんですよね。

ーーOP映像でも手のモチーフはいっぱい出てきます。

亀田
ありましたね。使ってもらえてうれしいです。

依田
最初に設定を見た時に重要だと思いましたから。

立川
実際手は重要ですよね。モブはよく正面を指さすようにしているじゃないですか。それを強調している絵も多い。しかもモブの超能力は手や指をヒュッと動かすことで発動していたりするので。

ーーその他、OP映像ではトメさんの口の中にトメさんがいるという絵もありますね。

依田
一コマだけ入ってますね。かわいいなあって思いました。

亀田
あれは佐藤利幸さんですね。アニメーターのお遊びで、のどちんこに顔を描くといったものが昔からあるんですけど、同じ流れの遊びだと思います。佐藤さんはよくそういう遊びを入れてくれるので、僕は大好きなんです!!

ーーOP映像を担当した原画さんの印象的なお仕事で他に挙げておきたいものはありますか?

立川
やっぱり亀田君の仕事です。

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■亀田さんの凄まじい仕事=超絶ビルカット

ーー亀田さんはどこを描いたのでしょうか。

立川
冒頭のネオンのようなビルからの長尺カットです。動画まで全部やっていて、実際動画まで見たらそのすごさが伝わると思います。

依田
本当にすごいですよ……見た時は本当に感動しました。

亀田
筆ペンと青ペン、赤ペン、緑ペンを使って描きましたね。

ーーどういうことでしょうか。

立川
描いた原画、動画をPCに取りこんで色を塗る際に2値化という処理をするのですが、アニメの特性上、紙には4色までしか使えないんですよ。

亀田
赤・青・緑・黒の4色で色分けしないと、色を塗る「仕上げ」という工程の時に塗れなくなってしまいますから。

立川
その4色の色分けを意識しながら背動(※背景動画)しないといけない。これはものすごく技術と根気が要されるんです。ずーっとやってましたね。

依田
どういうとっかかりで描き始めるのか、全く想像できないです。

亀田
今回はラストの絵から描き始めました。OPの最後、製作委員会の表示が出るビル群の一枚から始めて、徐々にビルを動かしました。

立川
エンピツではなくてマジックで描いてるから修正が効かなくて、直しは修正液でね。

ーー下書きはないんですか?

立川
レイアウトではエンピツで下書きをしてました。

亀田
イメージを固めて描き進めた訳ではないので、最後まで描けたときは自分でも「よく描けたな」と思いました(笑)。

ーー映画『クロニクル』に出てくるような空を飛んでいるイメージだったのでしょうか。

亀田
自分の中ではスパイダーマンがビルの中を飛んでいるような雰囲気が一番近いかなと。画造りはMIYAVIというアーティストのPVに実写をアニメーションにおとこしんだものがあって、それを参考にしました。

ーーOPは最初と終わりが完全に同じ絵でループするように作られています。それに気づいた時もまた驚きました。

立川
ループのアイデアは亀田君からもらったんです。特に製作委員会表示を最後に消す、というアイデアは僕では絶対に思いつかない!

亀田
ちゃんと消してループさせないとつながらないですもんね(笑)。

立川
亀田君が「いいよ、消して」って(笑)。僕は消してはいけないものだと思っていたんですよ。

亀田
絵コンテではスタートと「近い雰囲気」になってたので、それならいっそのことと思いまして。

立川
まさか全く同じものにするなんて。でも製作委員会のみなさんも「いいよ」と言ってくださったので実現しました。

亀田
エンディングでも製作委員会はテロップされるし、OPは気にしなくていいよ、って。ありがたいですね。

ーー画期的なエピソードですね。依田さんにとってOP映像で印象的なところはどこでしょうか。

依田
やっぱりビルのカットが来た時に「これで行ける!」と思いましたね。コラージュ部分は僕らの中では感覚で進めてしまうんです。だから最後に繋げるまで不安は残ったりするんですけど、ビルがあることで安心したというか、成立させる説得力がすごくありました。

亀田
うれしいですね……。

依田
立川さんが提示するイメージには根本ですごく昭和感がありますよね。カウントで数字が表示されるニキシー管はそれに近いイメージなので採用しました。他にもモブを模した迷路とか、すごくいいなと思ったんですよ。

立川
迷路は自分の子どもがやり出しているんですよ。キャラクターが迷路になってるものを。改めて見るとキャラクターの顔をデザイン的に迷路に組み込むってすごくいいアイデアだと思って。

依田
そういった日常的な超能力と、ビルを爆破するような大きな超能力が共存しているのが面白いですね。

亀田
超能力っていうと『幻魔大戦』が頭に浮かんできますが、結局それも昭和ですね(笑)。

立川
ONEさんの感覚もそれに近い所があるんじゃないかと思っています。原作の2巻の表紙はミステリーサークルの中にモブが体育座りしていたり、行動と場所がミスマッチしていて、それが逆にいい。すごくセンスがいいですよね。

■バトルシーンを入れない決断

ーーOP映像を振り返っての感想はいかがでしょうか。

亀田
自分でも初めて依田さんから上がってきたOPのチェックムービーを見た時には今期ナンバーワン! と思ったほどです。依田さんありがとうございます。自分たちが描いたというよりは、お客さんとして興奮しました。この感覚がお客さんにも伝わっていると思うので、それは本当によかったと思います。

依田
立川監督の決めてくださった敷地の中を存分に遊び回らせてもらいました。亀田さんも立川さんも本気で遊んでいるんですよね。その中で一緒に遊ばせてくれているというのがやっていて一番幸せなんです。いろいろなものから自由ですごくうれしかったです。

立川
今回は絵コンテで真っ白な部分を作って、依田さんに委ねる部分が多かった。OPでこういうやり方をしたのは初めてでしたが、これは癖になるなと思いました。真っ白にして、イメージを伝えて素材を渡せば、自分の中から出ないアイデアが足されるわけですから。これはいい! と思いましたね。

亀田
依田さん、これからも大変ですよ(笑)。

一同
はははは(笑)。

立川
それからOPで一番悩んだのがバトルシーンを入れるかどうか。王道アニメのOPなら入ると思うんですけど、思い切ってバトルを落として歌のサビにメタモルフォーゼのカットを持ってきています。「引くなら何を引くか」という中でこの決断をしたことも結果としてよかったんじゃないかと思っています。

――本日はありがとうございました!
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