アニメが企業とコラボレーションするケースが目立っている。そのバリエーションはイベントやフード、グッズなど多岐にわたる。
しかし増えたからこそ、近年では目新しさはなく日常化してしまった。ただ、その中でも作り手の強いこだわりや、熱い思いが反映されたものがある。

そしてそうした思いを感じられる眼鏡を置く「執事眼鏡eyemirror」は池袋にある眼鏡専門店。アニメイト本店からも徒歩1分程度の場所にある。2012年にオープンしたこのお店は、その名の通りスタッフは「執事」×「眼鏡」。店内に入るとまるで洋館のような、上品な雰囲気の空間が広がる。ここでは眼鏡を注文すると、待合室に案内され、お茶とお菓子が提供される。単なる“眼鏡店”とは言い切れない至れり尽くせりのおもてなしだ。
店内には数多くの眼鏡が並ぶが、その眼鏡もスタッフが選んだこだわりの逸品ばかり。あまり見かけないデザインが多く、ブランドものはもちろん、アニメやマンガ作品とのコラボ眼鏡もある。2013年よりスタートした「東方眼鏡」をはじめ、「執事眼鏡eyemirror」独自のアニメコラボ商品も多い。そのデザイン性の高さに驚かされ、作り手の熱量を感じた。

2016年からはコミックマーケットに企業ブースで参加し、さらなる展開を広げる「執事眼鏡eyemirror」。店主である朝倉鏡介さんに、そのこだわりや眼鏡への熱い思いをうかがった。
[取材・構成:タカロク]

「執事眼鏡eyemirror」
http://www.eyemirror.jp/index.html

■眼鏡の面白さを伝えたいからこその「執事」

――「執事眼鏡eyemirror」は執事のいる眼鏡店という今までになかったコンセプトのお店ですが、立ち上げた理由を教えてください。

朝倉鏡介(以下、朝倉)
元々私は眼鏡業界に長くおりまして、いつもどうすれば若い方に眼鏡の新しい面白さを伝えられるかを考えておりました。
特に眼鏡店は近年リ―ズナブルなお店が増えております。それが決して悪いわけではないのですが、前職の眼鏡店では実際に接客をしていて、「同じような眼鏡しかない」という声を耳にしました。また、それ以外ですと「金額が高い」というご意見もあったので、価格的にその間口を下げ、若い方へもいろんな面白い眼鏡があるということを伝えたくて、立ち上げました。

――そこに“執事”という要素を入れたのはなぜでしょう。

朝倉
眼鏡は日常的に使う物の中でも高価格なものですから、多くのお店が丁寧な接客を行っております。接客がメインということもあり、スタッフにはかなり執事然としている方が多いんですね。それで今の若い方や、アニメ・マンガなどが好きな方はメイドや執事に馴染みがある方が多いので、できるだけ受け入れやすいコンセプトとして執事というものを選びました。

――実際に自分が執事になると思ってましたか?

朝倉
思っておりませんでした…(笑)。

あと最初に店を手伝ってくれる事となった父にコンセプトを説明する時に「執事喫茶」を例に出したんですが、父に全く知識がなかったため、ずっと動物の「ひつじ」と勘違いされていまして…ひつじのコスプレをして眼鏡店を経営すると思われていました。

――“し”と“ひ”を間違えてしまったんですね(笑)。

朝倉
そうなんです。私は相手が分かっているつもりで説明していたんですが、一ヶ月ほどすれ違いがありました。かたくなに「上手くいくわけがない」と言われ、私は「何がそんなにいけないんだろう」と分からなくて…根本的に聞き間違えていましたね(笑)。写真を見せてようやく誤解が解けました。

――ずいぶんと長い期間すれ違っていたんですね……。誤解もそうですが、他にも大変だったことや苦労があったのではないでしょうか?

朝倉
執事の要素を含め全てが初めてのお店だったので、最初の仕入れまでが最も大変でした。実績がないので、「そういったところには卸せません」という話になってしまい…今は逆に「置いてください」と声をかけられるまでになりまして、大変ありがたい限りです。

――実際にお店を拝見すると分かるように、いろいろな工夫やこだわりが伝わったんでしょうね。お店としてこだわったところはありますか?

朝倉
一番こだわった点は、「きちんと眼鏡屋さんであること」です。ここは外れてはいけないと思っているので、丁寧な接客を心がけております。
測定にも通常の2倍ぐらいの時間をかけています。
店舗や内装は基本的には私の方でデザインしているのですが、なるべく“館”に近い、普段とは違った雰囲気を楽しんでほしいと思っております。

――池袋という立地を選んだ理由はあるんでしょうか?

朝倉
最初は池袋か秋葉原で迷いましたが、執事というコンセプトは、女性のファンが多い街の方が良いだろうと考えました。加えて、池袋は再開発をしていくということでしたので、先を見据えてこちらにしました。
元々女性のお客様をメインとしていたのですが、口コミが広がるにつれて徐々に男性のお客様が増えていきました。こういった時計や眼鏡などの小物にこだわったり、“集める”ことは男性の方が多いといった印象です。

――男性の方が多いんですね、意外でした。

朝倉
最初は女性の方が多かったのですが、今は男性のお客様が6割以上です。コラボ眼鏡もございますので、その作品のファンの方も多いですね。

――女性や男性で選ばれる眼鏡に特徴などはあるんでしょうか?

朝倉
女性の方が好まれて選ぶのは、可愛らしい、綺麗なデザインや色使いの明るいもの、飾りがあるものです。男性は個性的なデザイン。ちなみに不思議なもので、一番人気の色は赤なんですよ。
眼鏡では一般的には黒、シルバー、茶色が人気なのですが、「執事眼鏡」では一番が赤で次に青、三番目にようやく黒がきます。

――赤!たしかに二次元のキャラは赤眼鏡多いですもんね。

朝倉
おっしゃる通りです(笑)

――豊富なブランドの眼鏡を取り揃えていますが、どういった基準で選ばれているのでしょうか?

朝倉
お客様が初めて見るような眼鏡を置きたかったので、パッと見て「面白いもの」です。池袋は眼鏡屋も多く、駅から離れている当店に来てこそ手に取れるものでなくてはと思い選んでおります。

(次ページ:「東方Project」からはじまったコラボ眼鏡)

■「東方Project」からはじまったコラボ眼鏡

――男性のお客様が増えたきっかけはあったのでしょうか?

朝倉
「東方Project」とのコラボがきっかけとなります。

――初めてコラボされたのが2013年の「東方Project」だったんですよね。その理由は?

朝倉
私が好きだからです!(笑)。あと当時友人が鍋島テツヒロ先生の「東方MEGANE」の同人誌を持っていて、「これはいい!」ということでお話させていただきました。実際に「東方Project」の上海アリス幻樂団さんにご相談し、熱意を汲んでいただきまして制作の許可をいただきました。

――店内のBGMもさりげなく「東方Project」(クラシック調)ですね(笑)。

朝倉
一般の方も来られるので、分かる方には分かるようセレクトしております(笑)。

――その「東方Project」コラボ眼鏡の最初の反応はどうだったんでしょうか?

朝倉
最初はどちらかというと批判が多かったです。
ファンの方からも知名度を利用していると言われてしまいまして……。でも今こうして多くのお客様が来ていただいているのは、モノづくりとして評価していただけたからではと考えております。

――どのコラボ眼鏡も、モデルとなったキャラクターをちゃんとデザインに落とし込んでいる所がすごいですよね。あそこまで再現されるのは大変そうですが……。

朝倉
最初の頃、工場に発注する際、見てもいない状態で断られることが多く苦労致しました。工場もベテランの方が多いので、初めて聞くような作品の眼鏡を作るというと、まずお話をうかがっていただけません。お話をさせていただくまでにたどり着くのが精一杯でしたね。かなりの数の工場にお話しさせていただき、ようやくという形でした。

――実際作るにあたって、どういった話し合いをされたのでしょうか?

朝倉
まずコンセプトや作品について話し、ファンの認知度やどれだけ熱量があるかをご理解いただきました。あとはひたすらこちらの熱意を「お願いします!」と…!

――第1弾は霊夢と魔理沙のコラボ眼鏡でしたよね。最初は批判があったとのことですが、どこがきっかけで変わったのでしょうか?

朝倉
評価が変わりはじめたのが、第2弾のアリスモデルと白蓮モデルからとなります。第1弾の眼鏡を買ったお客様のTwitterやSNSで口コミが広がり、徐々に反応が変わっていきました。


――キャラクターも個性的とあってデザインにも反映されているのですが、咲夜モノクルモデルはどう誕生したのでしょうか。片眼鏡ってかなり珍しいと思うのですが。

朝倉
まず片眼鏡の歴史から説明させていただきますと、元々西洋の社交界のステータスアイテムだったんです。ステッキやシルクハット、そういったものと同じように、男性がつけられるアクセサリーとして発展したものなんですね。女性のようにピアスなどが付けられないので、男性にとって唯一顔に付けられるアクセサリーというポジションでした。
正直、本当にお客様に購入していただけるのだろうか…という不安もありました。でも、出してみると反響がすごく大きかった。「今にないからこそ欲しい」というお客様も多く、「再販してください」という声も聴くのですが、残念ながら工場にパーツが残っていないんです……。

――コミックマーケットの企業ブースで出展されている時も、注目を集めていましたよね。ちなみにコミケ出展は昨年の2016年夏からですが、なぜこのタイミングで出展されたんですか?

朝倉
元々、博麗神社例大祭(※)でも販売していたのですが、東方以外の作品コラボも増えているということで、出展できればなと考えておりました。特にコミケは私自身もずっと参加していたので(笑)。やはり「初めて知りました」と声をかけていただくことがとても多かったですね。

※毎年定期的に開催されている「東方Project」の同人誌即売会

――それぞれの作品とはどういった経緯でコラボされているのでしょうか?

朝倉
基本的にはこちらから声をかけさせていただいておりますが、最近は逆にお話をいただくことも増えてまいりました。アニメのコラボも増えて、次は『Fate/stay night[Unlimited Blade Works]』のコラボ眼鏡が3月25日に発売予定となります。私自身も大好きな作品です(笑)。

――ちなみに最近のコラボで反響が大きかったものはなんですか?

朝倉
『ガールズ&パンツァー』ですね。元々ファンの方がとても多いのですが、皆さん「よくぞ作ってくれました!」とおっしゃってくださる方が多かったです。グッズはたくさんあるのですが、特に眼鏡系はありませんでしたので。

――デザインが素敵ですよね。そうしたコラボ眼鏡をつくるにあたり、こだわっている点は?

朝倉
私の中での一番のコンセプトなんですが、「分かる人が分かるように作りたい」です。私は長らく一般企業に勤めていたんですが、当時は隠れオタクだったんですね。なので前面に絵柄などが出ているようなものは、仕事でも日常でもなかなか付けられませんでした。なので分かる方に分かる、分からない方にもかっこよく見える。そういった“隠れた遊び心”を取り入れています。

――ファンにとってもそういったさりげないポイントがあるオシャレな商品は嬉しいです。あと「執事眼鏡」には、コラボだけでなく独自のブランドもありますよね。

朝倉
声優のランズベリー・アーサーさんにイメージモデルをしていただいている、アンダーリム専門のブランド「under score」があります。アンダーリム自体はコアな層に人気があるのですが、専門のブランドというのが今までになかったので作りました。制作に関しても日本のトップブランド「Lessthanhuman」のデザイナー・甲賀 潤さんにデザインしていただいています。

――こちらもデザインがとても素敵ですね。今後の展開が楽しみです。ちなみに今コラボしたい!という作品はありますか?

朝倉
『Fate/Grand Order』ですね!

――個性的なキャラクターがたくさんいるのでデザインのしがいがありそうですね。それでは最後にお店が気になるという読者の方へ、メッセージをお願いします。

朝倉
これからも様々なコラボレーションや取り組みなど眼鏡を通じた新しい面白さをご提案して参りますので、ご期待頂ければ幸いです。また、池袋にお越しの際は、是非お気軽に当店にお立ち寄りくださいませ。

―ありがとうございました!
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