ライトノベル作家の主人公・羽島伊月と、彼に恋する後輩のラノベ作家・可児那由多をはじめとし、個性豊かなクリエイターたちが織りなす青春お仕事アニメ『妹さえいればいい。』。本作のBlu-ray BOX上巻が、1月26日に発売された。『妹さえいればいい。』スタッフインタビューを連載しているアニメ!アニメ!では今回、パッケージデザインやキービジュアルのほか、作中のグラフィックデザインも手がけたデザイン会社・BALCOLONY.にインタビューを敢行。同社より染谷洋平さん、加藤祐太さん、太田規介さん、さらにバンダイビジュアルの田中太郎プロデューサーにも同席いただき、作中の「ウミガメのスープ」をはじめとする内容説明パートのインフォグラフィックスデザインや、サブタイトルに秘められた仕掛け、Blu-ray BOXのパッケージデザインのこだわりまで、「デザイン」を切り口に本作の魅力を語っていただいた。[取材=沖本茂義(下着派)/構成=かーずSP(下着派)]『妹さえいればいい。』Blu-ray BOX 上巻価格:¥18,000(税抜き)発売日:2018年1月26日>『妹さえいればいい。』公式サイト>Blu-ray BOX 上巻 販売ページ( バンダイビジュアル公式ショップ)■作中のグラフィックデザインを担当するのは、アニメの現場では珍しい――今回、BALCOLONY.さんは「アートディレクション」とクレジットされていますが、作品との具体的な関わりはどういったものだったのでしょうか?加藤祐太さん(以下、加藤)パッケージのデザインやキービジュアルのほか、作品内で使われるサブタイトルや次回予告、作中のボードゲームのシーンに出てくるインフォグラフィックス(情報やデータを視覚的に表現したもの。『妹さえいればいい。』ではボードゲームのシーンにおける記号など)のデザインなどを担当しました。なので肩書きとしては、「作中デザイン」や「静止画デザイン」という言い方のほうがピンと来るかもしれません。ただ「デザイン」と表記してしまうと、アニメ業界的には「キャラクターデザイン」や「プロットデザイン」と被ってしまうんです。――確かに、同じ「デザイン」ですが仕事内容はずいぶん違います。染谷洋平さん(以下、染谷)アニメの現場で、グラフィックデザイナーが作品にまつわるグラフィックを手がけたり、テロップやプロップ(小道具的な細かい形のデザイン)まで深く携わっていくような試みが目立ち始めたのが、ここ10年位なんです。だから呼び方がまだ業界的にも確立されてなくて、「グラフィック制作」「グラフィックデザイン」なんて呼ばれ方もされます。弊社としてはいいようにクレジットしてくださいというスタンスでして、今回はアートディレクションという名前でクレジットされました。――ゲームシーンのインフォグラフィックスのように、本編まで深く関わることは、アニメ作品では珍しいケースだと思います。第1話に登場したゲーム「うみがめのスープ」のインフォグラフィックス加藤近年、意識的に行なっている作品が増えているように思いますが、まだ珍しい部類に入るかと思います。例えば、弊社が関わらせていただいた『ラブライブ!』では映像の内容にはノータッチで、宣伝物のポスターやBlu-rayのパッケージデザインを担当させていただきましたが、『妹さえいればいい。』では、それに加えて、作中のサブタイトル、オープニングのテロップ、目立つところでは作中のインフォグラフィックスのデザインなど、色々とやらせていただきました。田中太郎(バンダイビジュアルプロデューサー。以下、田中)大沼心さんが以前に監督された『ef - a tale of memories.』でもそうでしたが、もともとグラフィックデザインにも興味がある方だからこその抜擢だと思います。■エッチ描写とのバランスを考えた、“知的な感じの”インフォグラフィックス――そもそもBALCOLONY.さんが本編の中身まで深く関われるようになったのは、どういった経緯があったのでしょうか。加藤最初サブタイトルのデザイン案をシリーズディレクターの玉村仁さんがすごく褒めてくださって、そこから次回予告の制作、1話の「ウミガメのスープ」パートのインフォグラフィックスを担当させていただくことになりました。その流れで4話の「確定申告」パートや7話の「TRPG」パート、その他ボードゲームの内容を説明するパートで使用するグラフィックデザインも提供させていただくことになりました。染谷アニメは最終形が完成するまで、誰もどういう映像になっているのかを知らないまま作業しなければいけません。もちろん、「最終的な動きはこんな感じかな」とイメージしながら制作をするのですが、今回の「ウミガメのスープ」は、グラフィックパーツのみお渡しして、アニメーションを撮影の方にお任せしています。加藤なので、どのようなかたちに仕上がるのか私達もとても楽しみにしていました。完成されたアニメフィルムを見ると、思いもしない良さが出てきて、アニメはたくさんの人が関わって生まれる総合芸術だと改めて感じました。――作中のインフォグラフィックスについて、「こういったデザインにしてほしい」など具体的なオーダーはありましたか?染谷田中さんからは企画当初に、「“知的な”感じにしてください」とオーダーをいただきました。田中『妹さえいればいい。』は変態的なキャラクターやエッチな描写がたくさん出てくる一方で、クリエイターのドロッとしたメンタリティなどリアルな高い描写も混在している作品です。 変態描写は非常にインパクトが強いので、どうにかバランスを取って頂こうという目的もありました。加藤キャラクターデザインである木野下澄江さんがインタビュー(「妹さえ」連載インタビュー【第4回】)で「変態シーンがあるからこそ純愛が生きる」とおっしゃっていたのは本当にその通りで、漫画的・アニメ的なおバカなシーンがあるからこそ、現実的でリアルな葛藤や想いを描いた真面目なシーンのギャップが活きるんです。なのでアニメのお約束的な、過度にデフォルメされたUIではなく、現実の日常の延長線上にある、スマートフォンやWebデザインの画面を参考に制作しました。■キービジュアルに実写を起用した斬新なアイディア――そのほか大きなお仕事だと「キービジュアル」がありますが、いわゆるラノベ原作のデザインとしてはかなりフックがあるなと感じました。『妹さえいればいい。』キービジュアル染谷「お仕事もの」も「妹もの」も飽和状態にある中で、一発目のキービジュアルを出す時に、普通のことをしていたのでは埋もれてしまうので、とにかく違和感があるビジュアルで、目立つものにしたいというオーダーを最初に田中さんから頂いたんですよね。太田規介さん(以下、太田)それもあって、はじめは弊社内でのアイデア出しで「実写はどうですか?」「えーまたまたそんな、エッジの効いたことを(笑)」と冗談っぽく話してましたが、次第に「アリなんじゃないか…」という考えに行き着き、提案させていただきました。染谷デザイナーは誰でもエッジの効いたものを作りたがる悪い癖がありまして、そのアイデアが出た時には「またそういう癖が出ちゃってるんじゃないの?」って思いました(笑)。でも改めて考えてみると、すごくハマる表現になりまして、やってみて正解でした。太田「実写とアニメ絵の融合」で印象的だったのが、染谷が昔手がけた『電波女と青春男』のオープニング曲「Os-宇宙人」のCDジャケットでした。河川敷にヒロインのエリオがひとりで立っているビジュアルで、当時高校生だった私はそれを見て、むちゃくちゃ刺さったんですよね。その経験から着想を得た形です。染谷『電波女と青春男』以前にも実写とアニメ絵を組み合わせている先駆者の方々はもちろんいらっしゃるんですけどね。『妹さえいればいい。』に関して言えばギャグ的に誇張されてますけど、すごくリアルな思春期ものだと感じています。社会とどう向き合っていくのかを伊月たちは深く考えていて、現実の若いユーザーが抱えている問題と地続きになっている作品なので、リアルな写真表現がハマったんです。■次回予告の記号には本編の伏線も込められていた――サブタイトルのオシャレな感じも、アニメでは珍しいと感じました。加藤サブタイトルのデザインは内容を想起させるような、でも曖昧なものにするというさじ加減で決めています。話の内容がサブタイトルの回答になっているのもありました。田中千尋の性別を明かしている2話ですね。第2話「奇跡さえ起きればいい」次回予告加藤2話は「奇跡さえ起きればいい」というサブタイトルなんですけど、1話の次回予告では謎のオス(♂)とメス(♀)のマークがあるだけでした。本編が始まってもサブタイトルが出ないままストーリーが進んで、最後に千尋がお風呂に入っているシーンで、サブタイトルやオスとメスのマークの意味が明かされる、という展開を意識して作ったんです。ちなみに♂と♀のマークの数は2話の登場人物の数と合わせていて、よく見ると千尋が♀だったりしています。■映像製作にグラフィックデザインが起用されることは今後も増えていく――話を広げてお訊きしたいのですが、今回の『妹さえ』のようにグラフィックデザイン会社が作品の中身まで深く関わることについてはどう思われますか?染谷昔から『機動警察パトレイバー』など事例はありましたし、草野剛さんが『交響詩篇エウレカセブン』を手がけられた時はすごく衝撃でした。ただアニメ業界でグラフィックデザインを意識的に活用しようという動きが目立ち始めたのはここ10年位で、今はちょうど過渡期だと思います。今の10代は、ニコニコ動画やアドビ(アドビシステムズの提供するソフトウェアのこと。ここでは「Photoshop」や「After Effects」などを指す)で作られたグラフィックを見て育っているので、若い世代は今回のインフォグラフィックスを見ても「普通」と思うかもしれません。加藤今の時代はウェブCMやプロモーションビデオなど、当たり前にインフォグラフィックスが使用されていて、見慣れていますから。染谷映像制作がデジタル化されてから、アニメでもゲームでも「After Effects」的な表現が入ってきて当たり前になってきています。だから我々としてはエッジの効いたものを作っているという認識はないんですよね。特にゲーム界隈は境目がなくて、『ペルソナ 5』では3Dパートも2Dアニメパートも、UIを上手いことコーディネイトして、ひとつの質の高い体験を提供していらっしゃいますね。加藤最近の海外ゲームでも、ミッション前の作戦会議でインフォグラフィックスを使った戦術説明のシーンが当たり前に存在しています。今の若い世代はゲームをプレイして直に触れているので、当たり前になってきているんでしょうね。染谷アニメもこういうグラフィックデザインをとりこんだ演出が増えてきていて、その手の演出のクオリティが上がっていく段階にあるのではないかと思います。■ツルツルの表紙とザラザラの帯で、『妹さえ』の二面性を表現――本作のBlu-ray BOXもデザインされています。この作品ならではのこだわりポイントはいかがでしょう?『妹さえいればいい。』Blu-ray BOX上巻染谷「美少女もの」や「キャラもの」のパッケージだと、普通、カメラに向かって決めポーズを取るヒロイン、みたいなのがユーザーも作り手も求める王道鉄板のデザインです。でもキービジュアルの時にお話したように、単なるバカで明るくポジティブ100%ってアニメじゃなくて、シビアでピュアな部分がこの作品の感動できるポイントです。だから作品の顔であるパッケージを、お気楽極楽なノリに持っていくべきなのか、すごく悩みました。加藤Blu-ray BOXは映像を見て伊月たちのピュアなところに感動した人が買うものだから、最終話を見終わった時に「こうだよね」と思えるように、情緒的なジャケットにしたんです。染谷『妹さえいればいい。』とタイトルに代表される「美少女もの」のノリは、あくまでも入口。出口としてはこういう風景じゃないかと話し合って、カントクさんにはしっとりとした彼らのなんでもない日常を描いてもらいましょう、とオーダーさせていただきました。加藤紙の選び方も、情緒的な内容に合わせて紙質をしっとりさせた方がいいのか、あるいはツルツルしたものがいいのかで議論しました。ツヤツヤ・テカテカしてる帯に「楽しい日常。でも何かが足りない」という平坂読先生のコピーが合うかどうかも悩みどころで。表紙全体はツルツル、帯はザラザラした紙質。『妹さえ』の二面性をデザインで表現染谷ツルツル系の紙は「ポップ」「ポジティブ」「未来的」「前に進む」といったイメージがあります。ザラザラした紙は反対に、「オールドスクール」「内面的」「静かな」というイメージになります。今回は、イラストのほうをツルツルの紙にしつつも、帯の紙質をザラザラにして、「楽しい日常。でも何かが足りない」というコピーを入れて、紙の質感のギャップを出すことでコピーを活かす方向に決めました。加藤『妹さえいればいい。』は二面性が魅力なので、ボックス本体もザラザラした紙にしてしまうよりは、ツルツルさせて、帯のしっとりさと対比させています。――ツルツルの紙質なので、カントク先生の描くキャラがより瑞々しく感じられていいですね。加藤パッケージが情緒的な雰囲気で、中を開けると楽しいカラフルな雰囲気。これも作品の二面性を表現しています。太田盤面を外した時に各キャラクターのタイムスケジュールが描かれていたりと、ちょっとしたネタも入れてみました。【『妹さえ』特集連動記事より】「妹さえ」アニメ!アニメ!編集部がBD BOX特典をチェック 妄想捗るアレやコレが満載! ディスク1は伊月、ディスク2は千尋、ディスク3は那由多、ディスク4は京、ディスク5は春斗……と、それぞれの表面にはキャラクターの顔がデザインされており、ディスクを外すと各キャラの1日のスケジュールが見られるという仕様。たかがケースかもしれませんが、こういうところにも遊び心が詰まっているのは嬉しい。ここに載っている生活パターンも各自“らしい”もので、特に那由多は「なるほどな~!」と謎の納得をしてしまいました。加藤伊月は普通にフリーランスっぽいんですけど、那由多がヒドい(笑)。下巻はもっととんでもない事になっているのでお楽しみに。■パッケージ制作は、コンセプトを決めた時と放映中でズレが生じる難しさ染谷今みたいにパッケージをデザインする時は、まずコンセプトを立てるんですが、アニメはナマ物なので大変です。――といいますのは?染谷DVD・Blu-rayの仕様は早い段階で決めなきゃいけなくて、発売の半年前から紙の種類や加工を設計し始めないといけません。その時点でパッケージのコンセプトを固めないといけないんですね。でも実際のデザインデータを作るのは、ちょうど1話2話くらいが放送されるくらいの時期なんです。半年前に仕様を決めた時の作品に対する気持ちと、作品が1話2話放送された後に実際にデザインしている時の気持ちにズレがあって、「『妹さえいればいい。』ってこういう作品だろう」「いやこっちだ、この色だ!」と、半年前にコンセプトを決めたはずなのに、社内でも意見が割れて、デザインを納品する直前まで議論は尽きなくなります(笑)。本作のパッケージでも、たとえば色を決める段階で「いや、ここはやっぱり白だ!」といった選択をギリギリまでジャッジしていました。――普段何気なく手に取るパッケージには、それほどまでのこだわりが込められていたんですね。染谷文字を配置するときも、2万円近い商品を買っていただく時に、どういう温度感だったらエンドユーザーとしての自分が嬉しいかを考えます。ソリッド過ぎても萌えが好きな自分は嬉しくないし、かといって萌え萌えな造形の装飾過多で字を並べても安っぽくなってしまって、「俺は円盤を買ってるんだぞ!」っていう自己満足感というか、虚栄心が満たされない(笑)。加藤お客さんがどんな気持ちで買うのか、最終的な体験まで含めてプロダクトにしないといけません。例えば、漫画雑誌を買うときとBlu-ray BOXを買うときの心構えは全然違いますよね。低価格帯の商品には、手軽に楽しめるわかりやすいデザイン必要です。でも高額な商品では、最大限ファンを満足させてくれそうな佇まいを感じさせないといけないんです。■BALCOLONY.の3人にとっての「○○さえあればいい」は?――「○○さえあればいい。」という質問を『妹さえ』スタッフの皆さんに訊いているのですが、皆さんにとっては何があればいいですか?染谷「優しさ」があればいいかな。この年になると過剰な愛がしんどくなってくるので、もっと日常系美少女的な世界観で、世界が優しさに包まれてほしい(笑)。加藤僕は「面白さ」さえあればいいかな。今回はアニメの映像パートの一部を作らせていただいたことが楽しかったです。これでまたひとつ、デザイナー兼オタクとしての夢が叶いました(笑)。今後も興味深くて面白い仕事をたくさんやっていけたらいいなって思います。太田僕は「アニメ」さえあればいいかなって。高校生の頃にアニメにハマって、ハッピーな世界が広がっていることを知りました。それが今、こうして仕事に繋がっているので、僕にとってはアニメがあれば、他には何もいらない!って思うほどです(笑)。――意外にも「アニメ」とお答えいただいたスタッフさんは初めてでした! では最後に、Blu-ray BOXではこういうところに注目してほしいなど、オススメポイントを教えてください。太田カントクさんのパッケージイラストがめちゃくちゃ素晴らしいので、いつでも見られるところに飾って置いておいたほうがいいですよ!加藤本編を見ていると、仕事は辛いこともあるけど、楽しいこともいっぱいあるよね、ということを感じられる作品だなと思います。Blu-ray BOXで皆さんにも同じ気持ちになってもらえたら嬉しいです。染谷自分が身銭を切って買ったものは、人生の中で大事な作品になります。投資した数だけ俺は強くなれるっていう、オタクとしての業が上がっていく感じ。それが楽しいので、迷ったら買ったほうがオタク人生は絶対楽しくなりますよ。『妹さえいればいい。』のBlu-ray BOXでオタ充していただけたなら、デザイナー冥利に尽きます。――本日はありがとうございました!『妹さえいればいい。 』Blu-ray BOX 上巻価格:¥18,000(税抜き)発売日:2018年1月26日>バンダイビジュアル公式ショップ 販売ページBlu-ray BOX 下巻価格:¥18,000(税抜き)発売日:2018年3月23日>バンダイビジュアル公式ショップ 販売ページ