第27作目となる劇場版『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』が、現在公開中。ひろしとみさえを繋ぐ“愛”に感動するとともに、家族愛にも胸が熱くなるアクション・アドベンチャーだ。そんな本作で、野原しんのすけ役を担当しているのが小林由美子だ。2018年7月放送分より約10カ月TVアニメシリーズのアフレコに参加し、劇場版は今回が初めてとなる。長く愛され続ける作品の“顔”ともいえる主人公。彼女は、どのように向き合っているのだろうか――。[取材・構成=松本まゆげ/撮影=小原聡太]■しんのすけの声に対する子どものジャッジは「辛口」――まずは、野原しんのすけに抜擢されてからの役作りを伺いたいです。どのように作り上げていったのでしょうか?小林やっぱり歴史がある作品の長く愛されているキャラクターなので、“イメージを壊したくない”ということが一番にありました。先代の矢島(晶子)さんの声をひたすら聴いて、自分で同じように言ってみて、録音を聴き直してどのくらい違うか確認してもう一度録り直して……という、職人のようなことをしていました(笑)。――継承するというのは、緻密な作業が必要なんですね。小林そうですね。ただ、そうしているとどうしても声にばかり囚われてしまって、芝居として自然な表現ができなくなってしまう。なので、普段の家にいるときの会話をしんちゃんの声でやってみたりもしました(笑)。――日常生活に溶け込ませていると。小林子どもにもしんちゃんの声で接するので、戸惑う戸惑う(笑)!けど、付き合ってくれるし、「お母さん、変なことやってるな」と喜んでくれたので良かったです。――というと、普段とは違うアプローチで役を作っていったんですね。しかも、少年役を務めることが多い小林さんからするとしんのすけはちょっと違う少年ですし。小林そうなんですよね。私は熱血で元気いっぱいの少年役が多いので、それに比べるとしんのすけは淡々ひょうひょうとしていて。「俺についてこい!」というより「ついてくればぁ?」という感じ。なので、自分の得意だった部分を消して、ひょうひょうとした部分を意識していました。そうして、矢島さんから引き継げるところは全部引き継ごうという気持ちです。――なるほど。すでに自分の中にしんのすけは馴染んでいますか?小林いやー! それを言うとまだまだですけども(笑)!でも、初回から先輩方やスタッフさんが本当に温かく迎えてくれたんですよ。1回目から「こんなにやりやすくしていただいて良いのか」と思うくらい土台を固めてくださって、私はただ演じるだけでよかったくらいでした。もちろん緊張したんですけど、しんちゃん愛があるからこそやりやすい環境を整えてくれたんだと思うとすごくありがたかったです。馴染むかどうかは「時間よ解決してくれ!」という感じなんですけど、みなさんとお芝居したり台本を読んだりするのが、3・4回目くらいから楽しくなったのは確かですね。――最初の収録現場では、どんなディレクションを受けましたか?小林「もうちょっとマイペースで」とか「のらりくらりして」とか、「語尾の言い方をこんなふうにして」などいろいろあったんですけど、すごくありがたかったのが「あなたのしんちゃんをやってください」と言ってくださったこと。そこで、「私が思う、みんなに愛されているしんちゃんを演じればいいんだ」という気持ちになって少し緊張がほぐれました。――そうして、小林さんが演じるしんのすけは2018年7月に放送がはじまりました。家で発していたしんのすけの声がTVから流れることに、お子さんは不思議がっていたのでは?小林まだそこまで大きくないので完全にわかっているわけではなく、「半分くらいは理解しているのかな?」という感じです。面白いことに、やたらと辛口なんです。この前、私が「(しんのすけの声)どう?」って聞いたら、「うーん、ちょっとしつこいかな~」って返ってきました(笑)。――本当に辛口!小林私、周りに流されるタイプなので、なるべく周りの評判を聞かずにやっていこうと思っていたんですけど、辛口な子がすぐ隣にいました(笑)。意見を求めなければ普通に楽しんで観ているんですけどね。「いつもガミガミ言っているから仕返しされているのかな?」と、ここぞとばかりに言われます(笑)。→次のページ:「まだまだ」しんのすけを探求する日々■「まだまだ」しんのすけを探求する日々――そして今作が、小林さんにとって初めてしんのすけとして挑む劇場版です。小林監督をはじめ関わる方も変わるので、やっぱり緊張しました。だけど、台本を頂いて読んでみたら、あっという間に読み終えてしまうくらい面白かったんです。笑えるシーンは声出して笑っちゃったりして。なので、「早くアフレコやりたい」「みんなと掛け合いたい」と思ったのが第一印象です。――作中では、ひろしとみさえの愛が描かれました。小林しんのすけとして最初に関わった劇場版がこういう作品で、本当にラッキーでした。「この2人から野原しんのすけが生まれてきたんだな」「この2人の子どもだからこんなに自由にのびのびとしているんだな」という原点を知ることができたと思います。緊張していたので身構える部分もありましたが、スッと物語に溶け込むことができたのでありがたい一作目でした。――ともあれ、映画のしんのすけはTVシリーズよりカッコいいイメージがあります。演じるうえで難しくありませんでしたか?小林それが、橋本(昌和)監督(同劇場版監督)から、「いつものしんちゃんがオーストラリアに行ったという話なので、いつもどおりのしんちゃんをやってください」とお言葉をもらったんです。――TVアニメで見せたしんのすけを。小林10カ月くらいわたしがやってきたしんちゃんを、スクリーンにぶつければいいんだなとハッキリ見えたとき、すごくホッとしました。アクションもあるのでカッコいいセリフを言うときは、ついいつもの熱血に言ってしまうクセが出そうになるんですけど、「そこは素朴に言ってください」といったディレクションを受けながら収録していきました。――現場には共演者のみなさんもいるし、心強かったでしょうね。小林役者のみなさんが面白いですからね。今回、オーストラリアが舞台だったので、ガヤもずっと英語だったりするんですよ。そうすると、すごく雰囲気が増すんですよね。「わーオーストラリアにいる私!」って思うくらいのスケールの大きさを感じました(笑)。和気あいあいと楽しく録らせてもらいましたね。――ゲスト声優も大勢いらっしゃいます。とくに木南晴夏さん(インディ・ジュンコ役)は掛け合いが多かったですが、木南さんのお芝居はどう感じましたか?小林実は収録は別で、現場ではお会いしていないんです。なので完成したもので木南さんのお芝居をはじめて聞いたんですけど、とても素晴らしかったですね。憎めない美人っていうのがすごくよく出ていて、魅力的なキャラクターになっていました。それに、りゅうちぇるさんや小島よしおさんのアドリブの入れ方もスゴかった!ぺこさんはずっとガヤに参加していたらしいので、よく聞けば「あ、ここのガヤにいる!」と気づくかもしれません(笑)。アフレコしたときよりも何十倍も面白くなっていたので、楽しく見させてもらいました。――見どころが本当に多い作品でしたよね。小林そうですね。一つ挙げるならやっぱり、ひろしとみさえ。出会った頃の姿からは、普段見られない男と女の部分を観られました。そこから仲を深めていって結婚して子どもが生まれて……って思い返すことができて感慨深かったです。あとは、仮面族の言葉が面白くて、日本語とリンクする部分があるんです。ぜひ解読していただいて、辞書を作っていただけると嬉しいですね(笑)。そして、大人はアクションを楽しみつつ自分たちの若い頃を思い出してじーんとしてほしいし、子どもたちは思いっきり笑ってほしいと思います。――では最後に、しんのすけ役になってそろそろ1年ですが、小林さんにとってしんのすけはどんな存在になりましたか?小林うーん……今はまだ、常に考えている存在ですね。寝ても覚めてもしんちゃんというか。アフレコするときも、前回演じたものを聞いて「もっとこうしたほうが良かったかな」といつも反省して挑んでいるくらいです。ということはまだ自分のなかで落とし込めていないんですよね。早くしんちゃんを落とし込んで完全に自分のものにできるよう、これからも頑張って演じていきたいと思います。