敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第8弾は、『呪術廻戦』より両面宿儺の魅力に迫ります。
『呪術廻戦』の主人公、虎杖悠二は色々なものに縛られている。
TVアニメ第一話の冒頭、虎杖がいきなり拘束された状態から物語が始まるのは象徴的だ。彼は、呪いが込められた特級呪物の指を食らって、呪いの王と言われる両面宿儺の器の資格を得たことから、今すぐ死刑になるか、全20本の指を取り込んでから死ぬかの2択を迫られる。なんて理不尽な二択だ。
元々、正義の味方はいろんな使命感を負っているので、悪人よりも不自由なことが多い。本作の虎杖と彼が取り込んだ宿儺を見ているとそのことが良くわかる。
両面宿儺は、1000年前に存在した呪いの王である。主人公たちの前に立ちはだかる呪霊の中で最強の存在だ。虎杖が指を取り込んだことで、宿儺と虎杖は身体を共有することになった。
虎杖は宿儺の強大な呪いに耐える適性を持っていたため、肉体の主導権は虎杖にある。宿儺は自由に身体を使えない状態にある。
TVアニメ第4話「呪胎戴天」では、その相容れなさと強大な力の頼もしさの両方が発揮された。特級呪霊に追い詰められた虎杖は、宿儺に交代しろと告げるが、宿儺は交代すれば仲間を先に殺すと告げ、選択困難な二択を突きつける。虎杖は先に仲間の伏黒を逃してから宿儺に交代する方法を選び、宿儺は特級呪霊を圧倒する。
しかし、宿儺も使われっぱなしでは終わらず、虎杖の心臓を抜き取り命を人質に取るという、またしても困難な二択を虎杖に突きつける。宿儺は心臓がなくても生きられるが、虎杖は肉体の主導権を取り戻した瞬間に死んでしまうのだ。
最終的には、宿儺は虎杖を生き返らせるのだが、この際も虎杖を弄ぶかのような問答で自分に都合の良い条件をつけている。肉体の主導権は持たないとは言え、宿儺は虎杖に対して精神的には常にリードしているのだ。肉体の主導権がないからと言って怒るでもなく(忌々しくは思っているようだが)、悠々と自らの生得領域(精神世界の具現化)の中で全てを見下ろしている。肉体はなくても彼の精神を縛るものはなにもないのである。
一方、主人公の虎杖はどうだろうか。
虎杖は、例えば海賊王になるみたいな夢があるわけではない。彼の行動原理は、祖父が残した2つの言葉、「オマエは強いから人を助けろ」「大勢に囲まれて死ね」を守ることだ。
TVアニメ第2話「自分のために」で虎杖は「自分(テメエ)の死に様はもう決まってんだわ」と、祖父の遺影を見た後に言う。高校生が祖父の遺言を守るために死に様を決めてしまっている。原作マンガではこの台詞は火葬場の外のシーンで言われるが、アニメでは祖父の骨を拾う火葬室の中に変更されている。まるで暗くて死の臭いが立ち込める狭い部屋に囚われているかのようだ。
他人を助けるのは尊い行為だし、虎杖は立派な正義感の持ち主だ。しかし、その正義感と祖父の遺言ゆえに死刑という人生を受け入れることになった。その選択は全て虎杖自身が納得して選んだものだとしても、祖父の言葉がある種の「縛り」になったとも言えるのではないか。「大好きな祖父を呪うことになるかもしれんぞ」と言う学長の言葉は的をえている。
肉体的な自由を持ち、精神的には不自由な主人公に対して、肉体的には不自由でも精神的な自由な悪役。
『呪術廻戦』
(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
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