2021年に公開され、独特の世界観とユーモア、斬新なキャラクター造形で話題となった堀貴秀監督の『JUNK HEAD』。その待望の続編『JUNK WORLD』が6月13日より絶賛公開中だ。
今回は、前作の1042年前を舞台にした物語。人工生命体マリガンが地下世界を支配する時代、人間とマリガンで地下世界の異変を探る調査チームが結成され、女性隊長・トリス率いる人間チームと、クローンのオリジナルであるダンテ率いるマリガンチームが地下の奥深くへと進み、奇妙な新興宗教団体との戦いに巻き込まれたり、次元の歪みに囚われ、時空を超えた壮大な物語が展開していく。
今回、アニメ!アニメ!では前作よりもスケールアップした作品世界へのこだわりについて、堀監督に伺った。
[取材・文=杉本穂高]
■前作は話題になったが儲かっては…ない?
――前作『JUNK HEAD』は話題になりましたが、公開当時の反響を振り返っていかがですか。
堀:評判になっていたと思うんですが、実際、個人としては1円も儲かってないんですよね。パンフレットの売上やDVDなどでなんとか食いつなげたという感じなので、いまいち話題になったという実感がないんです。
――そうなんですか。しかし、前作の評判のおかげで2作目の製作が実現したのだと思いますが、今作では制作体制に変化はありましたか。
堀:最初に作った短編版は一人で制作していましたが、今回は最初から6人のメンバーで制作に入りました。
――それでも6人なんですね。少人数で作ったということを感じさせない、大掛かりなスケール感が出ていますね。
堀:そこは皆の頑張りのおかげです。
――前作の制作では、ご自身の所有する工場に6分の1スケールのセットを組んだとおっしゃっていましたが、今回も同じですか?
堀:今回も同じです。
――日本で、このサイズのセットのストップモーションを作るのは珍しいですよね。
堀:少ないと思います。6分の1でもかなりのスペースが必要ですから。
――ちなみに、本作の制作でとくに大変だった点はなんでしょうか?
堀:前作は、手で粘土をこねて人形を作りましたが、今回は3Dプリンターを導入したので、ゼロからソフトの操作を覚えるのが大変でした。
――3Dプリンター導入の狙いは作業の効率化ですか。
堀:そうです。ただ、3Dってどこまでも細かいところまで作りこめてしまうので、結局こだわりすぎて、作業時間的にはあまり変わりませんでした。でも、そのおかげでクローズアップになってもリアルに感じられる造形になったので、映像表現の質としては3Dプリンターのおかげで各段に向上したと思います。
それと、今回は3DCGで作ったカットもあります。ロングショットの引きの画のとき、キャラクターが歩いているシーンなどはCGです。引いた構図を作ることでスケール感も出て、世界観に広がりが出たと思います。
――映像のスケールはもちろん、今作は次元を超えるスケールの大きな展開となります。
堀:基本的にSFが好きで、時代を超えていく話は定番だというのと、予算の制約もあって、時間をループすることでセットを使いまわそうという狙いもありました。最後に出てくるゲートや会議室、途中の岩場のシーンなんかも、セットの反対側に回っているだけだったりします。基本的に会議室から次元のゲートまでを4回繰り返していく話なので、この構成によってだいぶ節約できました。
■日本語吹替版と「ゴニョゴニョ版(日本語字幕)」が登場
――今回の作品では登場人物たちが日本語を話していますね。そのおかげか前作よりも内容がわかりやすくなりました。
堀:前作で「ゴニョゴニョ語」を思いついたのは、声優を雇う余裕がなく、全部自分で声を当てないといけなかったための苦肉の策だったんです。普通に日本語でしゃべったほうがわかりやすくなるのは最初からわかっていました。セリフの量が前作と比べて倍近くになっているので、全部字幕で見るのはきついだろうなとも思いました。
――日本語をしゃべっているとは言え、各キャラクターのしゃべり方に独特の味がありますね。
堀:やっぱりキャラクターが人形なので、表情がそんなに動かないですから、セリフで肉付けしていきたいという思いがありました。とくに子どもロボットの子ロビンは『JUNK HEAD』のときと比べて違和感ないようにしてみたりなど、いろいろ工夫しています。
――キャラクター設定もユニークですね。いただいた資料によると、トリスの顔の傷は、小さい頃にタンスの角にぶつけてできたとなっていました。なぜ、このような設定にしたのですか?
堀:キャラクターのモデリングしているときに、なんか顔が寂しくて、アクセントがほしくなったんです。僕はわりとビジュアルから入ってからそれにつながる設定や物語を考えることが多いので、この手の後付けはよくやります(笑)。
――大使やその補佐のキャラクターも個性的でしたね。人間が間抜けでマリガンのほうがしっかりしているなと思えたんですが、そのように見せようという意図だったんでしょうか。
堀:そうですね。
――また、マリガンの中には新興宗教を盲信している者も登場します。
堀:現代でも宗教を名乗る団体もありますし、こういう者はなくならないんだろうと思うんです。マリガンが人間に変わって支配的になっても、彼らが人間に変わってそういうものを信じるんじゃないかなと考えました。
亀甲縛りをしている教祖は、ビジュアルから入ったのでこれも後付けですが、20人の頭脳が身体に収まっていてそれを鎮めるためという設定になっています。ある種の儀式的なものですね。20人の頭脳が暴走して大きくなるのは決まっていたから、服は最初から脱がせようと思っていたんですけど、脱いだだけではちょっと寂しかったので、縛ってみることにしました。隙間があると足したくなっちゃうんですよね(笑)。
■全154ページ! パンフレットも必見
――このシリーズは3部作と発表されています。今作は前作の1042年前の物語ですが、当初から構想にあったストーリーなのですか?
堀:実は、これは『JUNK HEAD』完成後に考えた物語です。前作は2017年に完成したんですが、なかなか上映させてもらえなかったので、『JUNK HEAD』が公開できなくても通用するような、単独でも完結できる物語を考えておこうと思い作ったのが『JUNK WORLD』です。
――元々構想していた3部作はまた別の物語だったのですか。
堀:そうですね。普通に『JUNK HEAD』の続きの話を考えていました。主人公のパートンとニコが別の次元の世界に行って生命の木の謎を追っていくような話でした。
――3部作の最後を飾る作品の構想はすでにできているのですか?
堀:大筋はできています。『JUNK HEAD』から数年後を舞台に考えています。
――前作では豪華なパンフレットも話題になり、だいぶ売れたと聞いています。今回もパンフレットは豪華な仕様になっているようですね。
堀:パンフレットの売り上げのおかげで食いつなげたので、自分としてはパンフレットが映画制作の肝だと思っています。映画を作った人間がパンフレットも作れば、リアルで充実した内容にできると思うんです。映画が面白ければかなりの人が買ってくれると思うので、自主制作の場合、制作者が自らパンフレットを作っていくというやり方を確立すれば、もっと盛り上がるんじゃないかと思っています。
――今回は何ページあるんですか?
堀:154ページです。パンフレットというよりムック本ですね。
――映画とあわせてチェックしたいですね。最後に、これから映画をご覧になるファンにメッセージをお願いします。
堀:スケール感も大きくなり、何回見ても楽しめる要素をたくさん盛り込んでいます。ぜひ、何度も劇場に足を運んでください。
(c)YAMIKEN
今回は、前作の1042年前を舞台にした物語。人工生命体マリガンが地下世界を支配する時代、人間とマリガンで地下世界の異変を探る調査チームが結成され、女性隊長・トリス率いる人間チームと、クローンのオリジナルであるダンテ率いるマリガンチームが地下の奥深くへと進み、奇妙な新興宗教団体との戦いに巻き込まれたり、次元の歪みに囚われ、時空を超えた壮大な物語が展開していく。
今回、アニメ!アニメ!では前作よりもスケールアップした作品世界へのこだわりについて、堀監督に伺った。
[取材・文=杉本穂高]
■前作は話題になったが儲かっては…ない?
――前作『JUNK HEAD』は話題になりましたが、公開当時の反響を振り返っていかがですか。
堀:評判になっていたと思うんですが、実際、個人としては1円も儲かってないんですよね。パンフレットの売上やDVDなどでなんとか食いつなげたという感じなので、いまいち話題になったという実感がないんです。
――そうなんですか。しかし、前作の評判のおかげで2作目の製作が実現したのだと思いますが、今作では制作体制に変化はありましたか。
堀:最初に作った短編版は一人で制作していましたが、今回は最初から6人のメンバーで制作に入りました。
――それでも6人なんですね。少人数で作ったということを感じさせない、大掛かりなスケール感が出ていますね。
堀:そこは皆の頑張りのおかげです。
――前作の制作では、ご自身の所有する工場に6分の1スケールのセットを組んだとおっしゃっていましたが、今回も同じですか?
堀:今回も同じです。
――日本で、このサイズのセットのストップモーションを作るのは珍しいですよね。
堀:少ないと思います。6分の1でもかなりのスペースが必要ですから。
――ちなみに、本作の制作でとくに大変だった点はなんでしょうか?
堀:前作は、手で粘土をこねて人形を作りましたが、今回は3Dプリンターを導入したので、ゼロからソフトの操作を覚えるのが大変でした。
――3Dプリンター導入の狙いは作業の効率化ですか。
堀:そうです。ただ、3Dってどこまでも細かいところまで作りこめてしまうので、結局こだわりすぎて、作業時間的にはあまり変わりませんでした。でも、そのおかげでクローズアップになってもリアルに感じられる造形になったので、映像表現の質としては3Dプリンターのおかげで各段に向上したと思います。
それと、今回は3DCGで作ったカットもあります。ロングショットの引きの画のとき、キャラクターが歩いているシーンなどはCGです。引いた構図を作ることでスケール感も出て、世界観に広がりが出たと思います。
引きの構図でも人形で動かせないことはないですが、一歩歩かせるだけでも何時間もかかるところ、CGならポンと出せますから、そこは助かりました。ただ、どこまでCGを使うかは悩みどころでした。使いすぎると面白くなくなるし、ストップモーション独特の動きの面白さが失われてしまいますから。
――映像のスケールはもちろん、今作は次元を超えるスケールの大きな展開となります。
堀:基本的にSFが好きで、時代を超えていく話は定番だというのと、予算の制約もあって、時間をループすることでセットを使いまわそうという狙いもありました。最後に出てくるゲートや会議室、途中の岩場のシーンなんかも、セットの反対側に回っているだけだったりします。基本的に会議室から次元のゲートまでを4回繰り返していく話なので、この構成によってだいぶ節約できました。
■日本語吹替版と「ゴニョゴニョ版(日本語字幕)」が登場
――今回の作品では登場人物たちが日本語を話していますね。そのおかげか前作よりも内容がわかりやすくなりました。
堀:前作で「ゴニョゴニョ語」を思いついたのは、声優を雇う余裕がなく、全部自分で声を当てないといけなかったための苦肉の策だったんです。普通に日本語でしゃべったほうがわかりやすくなるのは最初からわかっていました。セリフの量が前作と比べて倍近くになっているので、全部字幕で見るのはきついだろうなとも思いました。
でも、ゴニョゴニョ版の受けがよかったので、今回は日本語吹替版とゴニョゴニョ版を作ることにしました。ゴニョゴニョ版は、普通のことを言っているのに変なことを言っているように聞こえて笑えます。
――日本語をしゃべっているとは言え、各キャラクターのしゃべり方に独特の味がありますね。
堀:やっぱりキャラクターが人形なので、表情がそんなに動かないですから、セリフで肉付けしていきたいという思いがありました。とくに子どもロボットの子ロビンは『JUNK HEAD』のときと比べて違和感ないようにしてみたりなど、いろいろ工夫しています。
――キャラクター設定もユニークですね。いただいた資料によると、トリスの顔の傷は、小さい頃にタンスの角にぶつけてできたとなっていました。なぜ、このような設定にしたのですか?
堀:キャラクターのモデリングしているときに、なんか顔が寂しくて、アクセントがほしくなったんです。僕はわりとビジュアルから入ってからそれにつながる設定や物語を考えることが多いので、この手の後付けはよくやります(笑)。
――大使やその補佐のキャラクターも個性的でしたね。人間が間抜けでマリガンのほうがしっかりしているなと思えたんですが、そのように見せようという意図だったんでしょうか。
堀:そうですね。
あの世界において立場が逆転していく過渡期の物語なので、そういった点も表現しようと思いました。
――また、マリガンの中には新興宗教を盲信している者も登場します。
堀:現代でも宗教を名乗る団体もありますし、こういう者はなくならないんだろうと思うんです。マリガンが人間に変わって支配的になっても、彼らが人間に変わってそういうものを信じるんじゃないかなと考えました。
亀甲縛りをしている教祖は、ビジュアルから入ったのでこれも後付けですが、20人の頭脳が身体に収まっていてそれを鎮めるためという設定になっています。ある種の儀式的なものですね。20人の頭脳が暴走して大きくなるのは決まっていたから、服は最初から脱がせようと思っていたんですけど、脱いだだけではちょっと寂しかったので、縛ってみることにしました。隙間があると足したくなっちゃうんですよね(笑)。
■全154ページ! パンフレットも必見
――このシリーズは3部作と発表されています。今作は前作の1042年前の物語ですが、当初から構想にあったストーリーなのですか?
堀:実は、これは『JUNK HEAD』完成後に考えた物語です。前作は2017年に完成したんですが、なかなか上映させてもらえなかったので、『JUNK HEAD』が公開できなくても通用するような、単独でも完結できる物語を考えておこうと思い作ったのが『JUNK WORLD』です。
――元々構想していた3部作はまた別の物語だったのですか。
堀:そうですね。普通に『JUNK HEAD』の続きの話を考えていました。主人公のパートンとニコが別の次元の世界に行って生命の木の謎を追っていくような話でした。
――3部作の最後を飾る作品の構想はすでにできているのですか?
堀:大筋はできています。『JUNK HEAD』から数年後を舞台に考えています。
――前作では豪華なパンフレットも話題になり、だいぶ売れたと聞いています。今回もパンフレットは豪華な仕様になっているようですね。
堀:パンフレットの売り上げのおかげで食いつなげたので、自分としてはパンフレットが映画制作の肝だと思っています。映画を作った人間がパンフレットも作れば、リアルで充実した内容にできると思うんです。映画が面白ければかなりの人が買ってくれると思うので、自主制作の場合、制作者が自らパンフレットを作っていくというやり方を確立すれば、もっと盛り上がるんじゃないかと思っています。
――今回は何ページあるんですか?
堀:154ページです。パンフレットというよりムック本ですね。
ストーリーが入り組んでいるので、時間の流れやキャラクターがどこで何をしているという基本的な解説から、キャラクターと風景写真、さらに全カットを一覧で見られるページも作りました。制作の裏側、技法的なことや使った道具も全部公開しています。ストップモーションの技法に興味ある方にはかなり勉強になる内容になっていると思います。
――映画とあわせてチェックしたいですね。最後に、これから映画をご覧になるファンにメッセージをお願いします。
堀:スケール感も大きくなり、何回見ても楽しめる要素をたくさん盛り込んでいます。ぜひ、何度も劇場に足を運んでください。
(c)YAMIKEN
編集部おすすめ