亀山陽平監督の『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』が毎週木曜21時54分~TOKYO MXにて好評放送&公式YouTubeにて11言語で配信中だ。
本作は、2022年に亀山監督がほぼ一人で自主制作として発表した短編アニメ『ミルキー☆ハイウェイ』の続編だ。
それだけに留まらず、本作は放送に合わせて展覧会も開催されることになった。『ミルキー☆サブウェイ』のユニークな世界観を直に体験できる貴重な機会となっている。本稿では、その展覧会の模様と亀山監督のインタビューをお届けする。
■ミルキー☆・サブウェイに乗り込んだよう!?展覧会レポート
会場は池袋PARCO本館の7階。入るなり等身大のマキナたちが出迎えてくれる。マキナの顔が劇中同様、デジタル仕様になっていて画面が切り替わる。
キャラクター等身大のマグショットもある。ここでは自分の名前を書いて自分のマグショットを撮影することも可能だ。
キャラクターたちの衣装も再現されている。細かいところまで作りこまれている。
監督自ら声を当てたビデオコンテと、声優陣が声を当てた完成作品の比較映像も見ることができる。
展覧会は作中でチハルやマキナたちが織り込む銀河特急を模している。駅構内の再現度も非常に高い。
ひときわ目を引くのが本作2話に登場する車掌さん型ロボットのO.T.A.M.(オータム)ちゃんの等身大人形だ。作中ではかなり古い型であると説明されるが、その古さを再現した絶妙な汚し具合で、本当に年季が入っているように見える。
作中に登場するレトロな自動販売機も再現されている。この展覧会場にいると、レトロフューチャーに迷い込んだような感覚を味わえる。
アフレコ用台本も展示されている。サインは寺澤百花、永瀬アンナ、内山昂輝ら声優直筆だ。
Tシャツ、トートバッグ、アクリルキーホルダーなど、グッズも豊富に取り揃えられている。
作品世界を非常にリアルに再現しており、奇妙な異世界に迷い込んだような雰囲気を味わえる。またマキナやチハルたちの等身大の姿が見られるため、自分もあの列車に乗り込んで旅をしているような気分を味わえる。
なお、本展は9月5日より仙台PARCOて巡回展を開催。作品の世界観にハマった人はぜひ訪れてみてほしい。
■亀山陽平監督インタビュー「ブレードランナーが生まれた時代の空気感が好き」
――今回のシリーズ制作に至った経緯を教えていただけますか。
亀山:2022年に『ミルキー☆ハイウェイ』を公開したあと、いろいろなところから反響を
いただきました。その中でシンエイ動画さんから「シリーズを作らないか」というお話をいただき、当時の自分の技術力で可能な範囲を考えて、今回の形で制作を進めることになりました。
――『ミルキー☆サブウェイ』は、前作『ミルキー☆ハイウェイ』の続編という位置づけですね。同じ世界観で物語を続けるという構想は、以前からお持ちだったのでしょうか。
亀山:いえ、当初は細かいストーリーはまったくありませんでした。ただ、前作で登場したキャラクターを好きになってくれた方が多く、このキャラクターたちを主人公にして、もう少し物語を展開できるのではと考えたのがきっかけです。まず「1話3分半、全12話」というフォーマットを先に決めて、そこにうまくハマるようなストーリーをあとから考えていきました。
――キャラクターが本当に魅力的です。デザインや設定はどのように作られたのですか?
亀山:キャラクターのビジュアルや大まかな設定は、コンテを描き始める前から、なんとなく頭の中にありました。
――デザインからモデリングまで、すべて監督がおひとりで手掛けられているのですね。
亀山:はい、キャラクター制作に関しては、今回も自主制作のときと同じようにひとりでや
っています。
――どこか懐かしい世界観も素晴らしいですが、どのように構築されたのでしょうか?
亀山:もともとノスタルジックなデザインが好きで、レトロフューチャーな見た目から発想を広げていきました。「60年代に人類の宇宙開発が成功し、地球の人々が知らないところで一部の人類が宇宙で社会を築いている」という設定になっています。地球から定期的に物資や情報が届くのですが、非常に遠いため20年のタイムラグがあるので、彼らの世界では20年前の地球の文化が最先端なんです。もちろん、そうした設定をまったく知らなくても楽しめるようには作っています。
――その世界観は、何か影響を受けた作品があるのでしょうか。
亀山:特定の作品から大きな影響を受けたということはありません。ただ、『ブレードランナー』に代表されるようなサイバーパンクというジャンルが確立された80年代の空気感が好きなんです。また、現代は文化が出尽くしてしまったのではないかと思うんです。
――今回、舞台に「列車(サブウェイ)」を選んだのには、何か理由はありますか?
亀山:列車を舞台にした映像作品には面白いものが多く、映像と非常に相性がいいと思っていました。常に動いているので緊張感やドキドキ感があり、背景が変わり続けるので観客を飽きさせません。それでいて、ほかの乗り物とは違って車内を歩き回ることができるので、空間でのアクションも可能です。「乗り物としてのスリル」と「部屋としての物語の展開」、その両方を兼ね備えている点が、舞台として非常に魅力的だと感じました。
■リアリティを追求した馴染みやすいセリフ
――脱力感ある独特のセリフのやり取りが魅力的です。セリフもすべて亀山監督が考えているのですか?
亀山:そうですね。役者さんのアドリブはほとんど入っておらず、ビデオコンテを作成する時点で、僕自身がすべてのセリフを喋ってタイミングなどを固め、それを役者さんにお渡しするという方法を取りました。3分半というシビアな時間制限の中で、会話が実際に音になったときに面白くなるかを検証する必要があったためです。
――あの独特なセリフのセンスは、どのように磨かれたのでしょうか。
亀山:「もし自分が友達とこの状況に置かれたら、どういう会話をするか、どんな言葉を選ぶか」というのを常に考えています。
――10ヵ国語での吹替版も制作されるそうですね。
亀山:そうなんです。吹替版の制作が決まったと聞いたときは驚きました。英語版を見てみましたが、自分の意図したニュアンスと少し違う部分もあれば、「これはこれで新しい魅力があるな」と感じる部分もあり、よくできていました。とくに、英語の脚本は教科書的な表現ではなく、現地の人が使うようなナチュラルな言葉選びになっていました。僕が元々こだわっていた日常的な会話の雰囲気を、海外の制作チームも汲み取ってくれたのだと思います。
■個人でやれる範囲をどこまで広げていけるか
――アニメシリーズだけでなく、リアルな場での展覧会まで実現されました。このお話を聞いた時、どう思われましたか。
亀山:こんなに大きな規模でやっていただけるなんて、一体何を展示するのだろうと、最初は想像もつきませんでした。「作中の舞台を再現しましょう」と言っていただき、衣装や小道具まで作ってもらえると聞いて、本当に驚きました。
――展覧会をご覧になって、とくに印象的だった点はどこですか?
亀山:映像の中で見ていたものを、実際のスケール感を肌で感じられる点です。キャラクターのパネルが実寸大で置かれているのを見て、「こいつ、意外と顔が大きいな」と感じたり(笑)。 そういう現場でしか味わえない発見がたくさんありました。また、僕が制作の裏側やこだわりを解説したコメントも展示されています。完成映像とVコンテの比較映像もあって、僕の吹き込んだ声がずっと会場に響いているのは少し恥ずかしいですが、映像がどのように作られていったのかがわかる面白い展示になっていると思います。
――今後の目標やビジョンについてお聞かせください。
亀山:自分の作ったもので見てくれる人が喜んでくれるというのは、本当に幸せなことで、この先もずっと続けていけたらと思っています。可能であれば、制作の規模は少しずつ大きくしていきたいです。もちろん、今の体制のまま作れる量を増やせるならそれに越したことはないのですが、個人でやれる範囲をどこまで広げていけるか、挑戦していきたいですね。
――最後に、ファンの方へメッセージをお願いします。
亀山:今回の展覧会では、第4話までの舞台を再現してもらっていますが、ぜひアニメの4話以降も楽しみにしていてください。小規模なチームで、自分たちの手の届く範囲で作っているからこそ、この先にどんな最終回が待っているのかまったく予想できないと思います。どうか最後まで楽しんでください。
(C)亀山陽平/タイタン工業
(C) 2022 ミルキー☆ハイウェイ
本作は、2022年に亀山監督がほぼ一人で自主制作として発表した短編アニメ『ミルキー☆ハイウェイ』の続編だ。
自主制作ながら、YouTubeで公開すると、レトロフューチャーを意識した世界観と独特のペーソスあふれる会話劇で大きな話題となり、シリーズとしてあらためて制作されることとなった。
それだけに留まらず、本作は放送に合わせて展覧会も開催されることになった。『ミルキー☆サブウェイ』のユニークな世界観を直に体験できる貴重な機会となっている。本稿では、その展覧会の模様と亀山監督のインタビューをお届けする。
■ミルキー☆・サブウェイに乗り込んだよう!?展覧会レポート
会場は池袋PARCO本館の7階。入るなり等身大のマキナたちが出迎えてくれる。マキナの顔が劇中同様、デジタル仕様になっていて画面が切り替わる。
キャラクター等身大のマグショットもある。ここでは自分の名前を書いて自分のマグショットを撮影することも可能だ。
キャラクターたちの衣装も再現されている。細かいところまで作りこまれている。
監督自ら声を当てたビデオコンテと、声優陣が声を当てた完成作品の比較映像も見ることができる。
本作がどのような工程で出来上がっているのか、気になる人は要チェックだ。
展覧会は作中でチハルやマキナたちが織り込む銀河特急を模している。駅構内の再現度も非常に高い。
ひときわ目を引くのが本作2話に登場する車掌さん型ロボットのO.T.A.M.(オータム)ちゃんの等身大人形だ。作中ではかなり古い型であると説明されるが、その古さを再現した絶妙な汚し具合で、本当に年季が入っているように見える。
作中に登場するレトロな自動販売機も再現されている。この展覧会場にいると、レトロフューチャーに迷い込んだような感覚を味わえる。
アフレコ用台本も展示されている。サインは寺澤百花、永瀬アンナ、内山昂輝ら声優直筆だ。
Tシャツ、トートバッグ、アクリルキーホルダーなど、グッズも豊富に取り揃えられている。
作品世界を非常にリアルに再現しており、奇妙な異世界に迷い込んだような雰囲気を味わえる。またマキナやチハルたちの等身大の姿が見られるため、自分もあの列車に乗り込んで旅をしているような気分を味わえる。
なお、本展は9月5日より仙台PARCOて巡回展を開催。作品の世界観にハマった人はぜひ訪れてみてほしい。
■亀山陽平監督インタビュー「ブレードランナーが生まれた時代の空気感が好き」
――今回のシリーズ制作に至った経緯を教えていただけますか。
亀山:2022年に『ミルキー☆ハイウェイ』を公開したあと、いろいろなところから反響を
いただきました。その中でシンエイ動画さんから「シリーズを作らないか」というお話をいただき、当時の自分の技術力で可能な範囲を考えて、今回の形で制作を進めることになりました。
――『ミルキー☆サブウェイ』は、前作『ミルキー☆ハイウェイ』の続編という位置づけですね。同じ世界観で物語を続けるという構想は、以前からお持ちだったのでしょうか。
亀山:いえ、当初は細かいストーリーはまったくありませんでした。ただ、前作で登場したキャラクターを好きになってくれた方が多く、このキャラクターたちを主人公にして、もう少し物語を展開できるのではと考えたのがきっかけです。まず「1話3分半、全12話」というフォーマットを先に決めて、そこにうまくハマるようなストーリーをあとから考えていきました。
――キャラクターが本当に魅力的です。デザインや設定はどのように作られたのですか?
亀山:キャラクターのビジュアルや大まかな設定は、コンテを描き始める前から、なんとなく頭の中にありました。
そういったアイデアの断片がずっと自分の中にストックされていて、物語を作る段階で、ストーリーに合うように少しずつ修正を加えながら当てはめていった形です。それぞれのキャラクターに漠然としたイメージがあり、それを物語に落とし込むために具体化していきました。
――デザインからモデリングまで、すべて監督がおひとりで手掛けられているのですね。
亀山:はい、キャラクター制作に関しては、今回も自主制作のときと同じようにひとりでや
っています。
――どこか懐かしい世界観も素晴らしいですが、どのように構築されたのでしょうか?
亀山:もともとノスタルジックなデザインが好きで、レトロフューチャーな見た目から発想を広げていきました。「60年代に人類の宇宙開発が成功し、地球の人々が知らないところで一部の人類が宇宙で社会を築いている」という設定になっています。地球から定期的に物資や情報が届くのですが、非常に遠いため20年のタイムラグがあるので、彼らの世界では20年前の地球の文化が最先端なんです。もちろん、そうした設定をまったく知らなくても楽しめるようには作っています。
――その世界観は、何か影響を受けた作品があるのでしょうか。
亀山:特定の作品から大きな影響を受けたということはありません。ただ、『ブレードランナー』に代表されるようなサイバーパンクというジャンルが確立された80年代の空気感が好きなんです。また、現代は文化が出尽くしてしまったのではないかと思うんです。
2000年代以降、インターネットとスマートフォンの普及で情報が常に更新されるようになり、かつてのように「その時代を象徴するスタイル」が定着しにくくなったと感じています。そうした中で、自分が自然と好きになれるレトロな要素を無意識にピックアップしているのかもしれません。
――今回、舞台に「列車(サブウェイ)」を選んだのには、何か理由はありますか?
亀山:列車を舞台にした映像作品には面白いものが多く、映像と非常に相性がいいと思っていました。常に動いているので緊張感やドキドキ感があり、背景が変わり続けるので観客を飽きさせません。それでいて、ほかの乗り物とは違って車内を歩き回ることができるので、空間でのアクションも可能です。「乗り物としてのスリル」と「部屋としての物語の展開」、その両方を兼ね備えている点が、舞台として非常に魅力的だと感じました。
■リアリティを追求した馴染みやすいセリフ
――脱力感ある独特のセリフのやり取りが魅力的です。セリフもすべて亀山監督が考えているのですか?
亀山:そうですね。役者さんのアドリブはほとんど入っておらず、ビデオコンテを作成する時点で、僕自身がすべてのセリフを喋ってタイミングなどを固め、それを役者さんにお渡しするという方法を取りました。3分半というシビアな時間制限の中で、会話が実際に音になったときに面白くなるかを検証する必要があったためです。
――あの独特なセリフのセンスは、どのように磨かれたのでしょうか。
亀山:「もし自分が友達とこの状況に置かれたら、どういう会話をするか、どんな言葉を選ぶか」というのを常に考えています。
とくに、今回のようなシュールな世界観の作品では、セリフ選びで現実味を出さないと、見ている人が自分を重ね合わせることができず、物語に入り込めなくなってしまいます。リアリティと非現実感のちょうどいいバランスを保つことは、常に意識していますね。
――10ヵ国語での吹替版も制作されるそうですね。
亀山:そうなんです。吹替版の制作が決まったと聞いたときは驚きました。英語版を見てみましたが、自分の意図したニュアンスと少し違う部分もあれば、「これはこれで新しい魅力があるな」と感じる部分もあり、よくできていました。とくに、英語の脚本は教科書的な表現ではなく、現地の人が使うようなナチュラルな言葉選びになっていました。僕が元々こだわっていた日常的な会話の雰囲気を、海外の制作チームも汲み取ってくれたのだと思います。
■個人でやれる範囲をどこまで広げていけるか
――アニメシリーズだけでなく、リアルな場での展覧会まで実現されました。このお話を聞いた時、どう思われましたか。
亀山:こんなに大きな規模でやっていただけるなんて、一体何を展示するのだろうと、最初は想像もつきませんでした。「作中の舞台を再現しましょう」と言っていただき、衣装や小道具まで作ってもらえると聞いて、本当に驚きました。
実際に会場を見たら、本当にその通りに作り込まれていて感動しました。
――展覧会をご覧になって、とくに印象的だった点はどこですか?
亀山:映像の中で見ていたものを、実際のスケール感を肌で感じられる点です。キャラクターのパネルが実寸大で置かれているのを見て、「こいつ、意外と顔が大きいな」と感じたり(笑)。 そういう現場でしか味わえない発見がたくさんありました。また、僕が制作の裏側やこだわりを解説したコメントも展示されています。完成映像とVコンテの比較映像もあって、僕の吹き込んだ声がずっと会場に響いているのは少し恥ずかしいですが、映像がどのように作られていったのかがわかる面白い展示になっていると思います。
――今後の目標やビジョンについてお聞かせください。
亀山:自分の作ったもので見てくれる人が喜んでくれるというのは、本当に幸せなことで、この先もずっと続けていけたらと思っています。可能であれば、制作の規模は少しずつ大きくしていきたいです。もちろん、今の体制のまま作れる量を増やせるならそれに越したことはないのですが、個人でやれる範囲をどこまで広げていけるか、挑戦していきたいですね。
――最後に、ファンの方へメッセージをお願いします。
亀山:今回の展覧会では、第4話までの舞台を再現してもらっていますが、ぜひアニメの4話以降も楽しみにしていてください。小規模なチームで、自分たちの手の届く範囲で作っているからこそ、この先にどんな最終回が待っているのかまったく予想できないと思います。どうか最後まで楽しんでください。
(C)亀山陽平/タイタン工業
(C) 2022 ミルキー☆ハイウェイ
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