『映画クレヨンしんちゃん』のシリーズ32作目となる最新作『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』が、2025年8月8日より公開される。インドを舞台に大乱舞を繰り広げる本作では、「カスカベ防衛隊」の癒しの存在でありながら謎多きキャラクター・ボーちゃんが、邪悪な“紙”の力に導かれ“暴君(ボーくん)”となってしまう。
アニメ!アニメ!では、ボーちゃん役の佐藤智恵にインタビュー。いつもと違うボーちゃんを演じてみての感想のほか、本作のテーマの1つ「ボーちゃんらしさ」について、長年ボーちゃんを演じ続ける佐藤の思いも聞いた。
[取材・撮影=米田果織]
■謎多きキャラ・ボーちゃんが“暴君”に!「とても新鮮な気持ち」
――すでに完成した映像を見たとのことですが、いかがでしたか?
ものすごくエネルギッシュで、パワーあふれる作品に仕上がったと思いました。ボーちゃんは物語の展開に大きく関わるキャラクターですが、アフレコしている最中はまだ映像ができていなくて。「このセリフにどんな映像がつくの!?」と少し不安に思う部分もあったのですが、完成したものを見て、なんて素晴らしい作品になっているんだと。
今回は歌やダンスシーンもあるのですが、映像に加えて音楽が入ることによって、こんなに物語が広がるんだと感じました。とても楽しく、そして見てくださった方の心に残る作品になっていると思います。
――インドが舞台、さらにボーちゃんが“暴君”になるという、とんでもないストーリーが展開します。最初に台本を読んだときは、どう思いましたか?
うれしかったですね。しかし、いつものボーちゃんとは明らかに違う様子だったので、「これはどう演じればいいのか……」と悩みもしました。基本的にボーちゃんって、低い声でゆっくり話すじゃないですか。そのまま話してしまうと暴君っぷりが半減してしまうと感じ、今回はもう少し早く、キレのある感じを出して、カッコいい路線に寄せてみようと思いました。
――実際に演じる際、監督から何か指示などはあったのでしょうか?
監督からも「カッコよくやってみてください」と言われました。ほかにも「上から目線で話してほしい」などの指示があり、本当にこれまでのイメージとはまったく違ったボーちゃんを演じました。観た方はきっと驚くと思います。
――私も試写で拝見しましたが、驚かされました。
本当ですか? よかった! 実は台本が出来上がる前から、「次の作品はインドが舞台で、ボーちゃんをメインにする」というのは聞いていたんです。脚本のうえのきみこさんが、ボーちゃんのファンなんですって。「私が書くしかないでしょう!」と言っていて(笑)。だからこそ、ボーちゃん愛にあふれる作品にしてくださいました。
――いつもと違うように演じてみていかがでしたか?
最初は戸惑いましたが、演じているうちにどんどん楽しくなりました。これまでボーちゃんが悪役として描かれることなんてなかったですしね。とても新鮮な気持ちで演じました。
――先ほど「カッコいい路線に寄せて演じた」と言っていましたが、具体的にいつものボーちゃんからどんな変化をつけて演じられたのでしょうか。
いつもはわりと短いセンテンスをゆっくりボソッと話すボーちゃんですが、今回は長いセリフもあって、それをいつものようにしゃべると尺が大変なことに(笑)。そこは“暴君”ということで、いつもとは違い、抑揚をつけて早く話すようにしました。それにキリっとしたニュアンスをつけて、私の中でイメージしたのは「いつもよりお兄さんなボーちゃん」です。また“暴君”にしても第1形態、第2形態と変化していくので、変わるごとに監督に「これくらいの変化で大丈夫ですか?」と確認し、グラデーションを意識して演じました。
■謎多きボーちゃんの胸中にホロリ…佐藤智恵が思う「ボーちゃんらしさ」
――“暴君”になるきっかけとなる“紙”ですが、あれは人の欲望を増幅させるもの。変わりようだけでなく、ボーちゃんに“あんな欲望”があったことにも驚いたのですが……。
いえ。あればボーちゃんの中にあった元々の欲望ではなく、「インドで皆と一緒に楽しく踊りたい」という思いが悪い方向へ行ってしまっただけなんです。楽しく歌って踊りたいだけなのに「なんですぐ着替えてくれないの?」「なんですぐ踊ってくれないの?」と。
ボーちゃんの中にはボーちゃんなりの正義があって、それが“紙”によって悪いように作用し、「なんで思い通りにしてくれないの?」「なんで邪魔するの?」としんちゃんたちに攻撃的になってしまったのだと思い、“暴君”の演技にもそのニュアンスを加えて演じました。
――『クレヨンしんちゃん』の長い歴史の中で、多くの謎に包まれていたボーちゃん。そんな彼の心のうちが少しだけ滲むシーンもありました。
ボーちゃんはあまり態度や言葉には出しませんが「カスカベ防衛隊」の皆のことがすごく大好きで、大切な友達だと思っています。その中でもとくに、幼稚園に入って初めてお友達になったのがしんちゃん。本作でその回想シーンが出てきましたが、私はあのシーンが一番お気に入りで、なんだかホロっとしてしまいました。
ボーちゃんがあの思い出をずっと心の中に仕舞って大切に大切にしてきたと思うと、愛おしいですよね。今風に言うと「エモい」と言うのでしょうか。この言葉、使って見たかったんです(笑)。
――歌うシーンもありましたが、そこに対する難しさは感じましたか?
私自身は歌が大好きなのですが、ボーちゃんとして歌うとなると、いつも「これは歌じゃないな」と思うんですよね。一定のリズムで言葉を話しているだけのような。また、ボーちゃんは“暴君”になってしまったとはいえ、そこまで大きく歌い方は変わらず。歌はアフレコで“暴君”を演じきってからの収録で、さらにひとりずつの収録、私の順番が最後のほうだったこともあり、皆の歌声を聴きながら収録できたので、私はやりやすかったです。
ただ、私以外の皆は大変だったみたいです。アフレコのときにデモ音源をいただいて皆で一緒に聞いたのですが、「英語の歌詞があるぞ!?」と。
――劇中「ボーちゃんらしいって何?」というセリフが登場しました。長年演じ続けている佐藤さんにとっての“ボーちゃんらしさ”とは?
すごく哲学的なセリフですよね。ボーちゃんのセリフにも「僕の何を知っているの?」というものがあったり、さらに象徴的なセリフとして「鼻水はもう流さない」と言っていたり。私の中でのボーちゃんは、とてもニュートラル。誰かに肩入れすることもなく、誰かを責めることもしません。しんちゃんやマサオくん、風間くん、ネネちゃんの皆に、それぞれ良いところがあるとわかっているんでしょうね。
だからこそ、普段はあまり感情が入らないように演じています。微妙な変化は付けていますが、すごく怒ったり、すごく喜んだりは絶対にしません。振れ幅を少なく作っているからこそ「何を考えているかわからない」という、皆さんがボーちゃんに持つイメージの“謎”を表現できているのかな。ずっとそうやって作ってきたので、私からもあえて「こんな子です」「ここがボーちゃんらしさです」と明言しないでおこうと思います。
――では、佐藤さんにとって『クレヨンしんちゃん』とはどんな存在かもお聞かせてください。
生活の一部です。1992年にアニメの放送が開始になってからずっと、毎週毎週アフレコに通っていますから。声優陣も皆仲が良いんですよ。一緒に映画も見に行くし、コロナが流行る前は、アフレコ後に必ず皆でご飯を食べに行っていました。今年4月に新宿に「クレヨンしんちゃんオカシナもぐもぐワールド」という施設ができたのですが、それもカスカベ防衛隊+みさえで見学に行きました。本当にアニメの中の関係性みたいでしょう(笑)? そんな仲の良さがアニメにも表れているからこそ、長く愛される国民的アニメになっているのだと思います。
【作品概要】
『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』
8 月 8 日(金) ROADSHOW
■原作:臼井儀人(らくだ社)/『まんがクレヨンしんちゃん.com』(双葉社)連載 中/テレビ朝日系列で放送中
■監督:橋本昌和
■脚本:うえのきみこ
■声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ ほか
■声の特別出演:賀来賢人・バイきんぐ
■主題歌:Saucy Dog 「スパイス」(A‐Sketch)
■製作:シンエイ動画 テレビ朝日 ADK エモーションズ 双葉社
■配給:東宝
(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2025
しんのすけたちは、ボーちゃんの暴走を止められるのか!?
アニメ!アニメ!では、ボーちゃん役の佐藤智恵にインタビュー。いつもと違うボーちゃんを演じてみての感想のほか、本作のテーマの1つ「ボーちゃんらしさ」について、長年ボーちゃんを演じ続ける佐藤の思いも聞いた。
[取材・撮影=米田果織]
■謎多きキャラ・ボーちゃんが“暴君”に!「とても新鮮な気持ち」
――すでに完成した映像を見たとのことですが、いかがでしたか?
ものすごくエネルギッシュで、パワーあふれる作品に仕上がったと思いました。ボーちゃんは物語の展開に大きく関わるキャラクターですが、アフレコしている最中はまだ映像ができていなくて。「このセリフにどんな映像がつくの!?」と少し不安に思う部分もあったのですが、完成したものを見て、なんて素晴らしい作品になっているんだと。
今回は歌やダンスシーンもあるのですが、映像に加えて音楽が入ることによって、こんなに物語が広がるんだと感じました。とても楽しく、そして見てくださった方の心に残る作品になっていると思います。
――インドが舞台、さらにボーちゃんが“暴君”になるという、とんでもないストーリーが展開します。最初に台本を読んだときは、どう思いましたか?
うれしかったですね。しかし、いつものボーちゃんとは明らかに違う様子だったので、「これはどう演じればいいのか……」と悩みもしました。基本的にボーちゃんって、低い声でゆっくり話すじゃないですか。そのまま話してしまうと暴君っぷりが半減してしまうと感じ、今回はもう少し早く、キレのある感じを出して、カッコいい路線に寄せてみようと思いました。
――実際に演じる際、監督から何か指示などはあったのでしょうか?
監督からも「カッコよくやってみてください」と言われました。ほかにも「上から目線で話してほしい」などの指示があり、本当にこれまでのイメージとはまったく違ったボーちゃんを演じました。観た方はきっと驚くと思います。
――私も試写で拝見しましたが、驚かされました。
本当ですか? よかった! 実は台本が出来上がる前から、「次の作品はインドが舞台で、ボーちゃんをメインにする」というのは聞いていたんです。脚本のうえのきみこさんが、ボーちゃんのファンなんですって。「私が書くしかないでしょう!」と言っていて(笑)。だからこそ、ボーちゃん愛にあふれる作品にしてくださいました。
――いつもと違うように演じてみていかがでしたか?
最初は戸惑いましたが、演じているうちにどんどん楽しくなりました。これまでボーちゃんが悪役として描かれることなんてなかったですしね。とても新鮮な気持ちで演じました。
――先ほど「カッコいい路線に寄せて演じた」と言っていましたが、具体的にいつものボーちゃんからどんな変化をつけて演じられたのでしょうか。
いつもはわりと短いセンテンスをゆっくりボソッと話すボーちゃんですが、今回は長いセリフもあって、それをいつものようにしゃべると尺が大変なことに(笑)。そこは“暴君”ということで、いつもとは違い、抑揚をつけて早く話すようにしました。それにキリっとしたニュアンスをつけて、私の中でイメージしたのは「いつもよりお兄さんなボーちゃん」です。また“暴君”にしても第1形態、第2形態と変化していくので、変わるごとに監督に「これくらいの変化で大丈夫ですか?」と確認し、グラデーションを意識して演じました。
■謎多きボーちゃんの胸中にホロリ…佐藤智恵が思う「ボーちゃんらしさ」
――“暴君”になるきっかけとなる“紙”ですが、あれは人の欲望を増幅させるもの。変わりようだけでなく、ボーちゃんに“あんな欲望”があったことにも驚いたのですが……。
いえ。あればボーちゃんの中にあった元々の欲望ではなく、「インドで皆と一緒に楽しく踊りたい」という思いが悪い方向へ行ってしまっただけなんです。楽しく歌って踊りたいだけなのに「なんですぐ着替えてくれないの?」「なんですぐ踊ってくれないの?」と。
ボーちゃんの中にはボーちゃんなりの正義があって、それが“紙”によって悪いように作用し、「なんで思い通りにしてくれないの?」「なんで邪魔するの?」としんちゃんたちに攻撃的になってしまったのだと思い、“暴君”の演技にもそのニュアンスを加えて演じました。
――『クレヨンしんちゃん』の長い歴史の中で、多くの謎に包まれていたボーちゃん。そんな彼の心のうちが少しだけ滲むシーンもありました。
ボーちゃんはあまり態度や言葉には出しませんが「カスカベ防衛隊」の皆のことがすごく大好きで、大切な友達だと思っています。その中でもとくに、幼稚園に入って初めてお友達になったのがしんちゃん。本作でその回想シーンが出てきましたが、私はあのシーンが一番お気に入りで、なんだかホロっとしてしまいました。
ボーちゃんがあの思い出をずっと心の中に仕舞って大切に大切にしてきたと思うと、愛おしいですよね。今風に言うと「エモい」と言うのでしょうか。この言葉、使って見たかったんです(笑)。
――歌うシーンもありましたが、そこに対する難しさは感じましたか?
私自身は歌が大好きなのですが、ボーちゃんとして歌うとなると、いつも「これは歌じゃないな」と思うんですよね。一定のリズムで言葉を話しているだけのような。また、ボーちゃんは“暴君”になってしまったとはいえ、そこまで大きく歌い方は変わらず。歌はアフレコで“暴君”を演じきってからの収録で、さらにひとりずつの収録、私の順番が最後のほうだったこともあり、皆の歌声を聴きながら収録できたので、私はやりやすかったです。
ただ、私以外の皆は大変だったみたいです。アフレコのときにデモ音源をいただいて皆で一緒に聞いたのですが、「英語の歌詞があるぞ!?」と。
「この英語のパートは誰が歌うんだ!?」と一瞬顔を見合わせてしまいました(笑)。
――劇中「ボーちゃんらしいって何?」というセリフが登場しました。長年演じ続けている佐藤さんにとっての“ボーちゃんらしさ”とは?
すごく哲学的なセリフですよね。ボーちゃんのセリフにも「僕の何を知っているの?」というものがあったり、さらに象徴的なセリフとして「鼻水はもう流さない」と言っていたり。私の中でのボーちゃんは、とてもニュートラル。誰かに肩入れすることもなく、誰かを責めることもしません。しんちゃんやマサオくん、風間くん、ネネちゃんの皆に、それぞれ良いところがあるとわかっているんでしょうね。
だからこそ、普段はあまり感情が入らないように演じています。微妙な変化は付けていますが、すごく怒ったり、すごく喜んだりは絶対にしません。振れ幅を少なく作っているからこそ「何を考えているかわからない」という、皆さんがボーちゃんに持つイメージの“謎”を表現できているのかな。ずっとそうやって作ってきたので、私からもあえて「こんな子です」「ここがボーちゃんらしさです」と明言しないでおこうと思います。
――では、佐藤さんにとって『クレヨンしんちゃん』とはどんな存在かもお聞かせてください。
生活の一部です。1992年にアニメの放送が開始になってからずっと、毎週毎週アフレコに通っていますから。声優陣も皆仲が良いんですよ。一緒に映画も見に行くし、コロナが流行る前は、アフレコ後に必ず皆でご飯を食べに行っていました。今年4月に新宿に「クレヨンしんちゃんオカシナもぐもぐワールド」という施設ができたのですが、それもカスカベ防衛隊+みさえで見学に行きました。本当にアニメの中の関係性みたいでしょう(笑)? そんな仲の良さがアニメにも表れているからこそ、長く愛される国民的アニメになっているのだと思います。
【作品概要】
『映画クレヨンしんちゃん 超華麗!灼熱のカスカベダンサーズ』
8 月 8 日(金) ROADSHOW
■原作:臼井儀人(らくだ社)/『まんがクレヨンしんちゃん.com』(双葉社)連載 中/テレビ朝日系列で放送中
■監督:橋本昌和
■脚本:うえのきみこ
■声の出演:小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ ほか
■声の特別出演:賀来賢人・バイきんぐ
■主題歌:Saucy Dog 「スパイス」(A‐Sketch)
■製作:シンエイ動画 テレビ朝日 ADK エモーションズ 双葉社
■配給:東宝
(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK 2025
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