大ヒット公開中の劇場版『チェンソーマン レゼ篇』。「少年ジャンプ+」で連載中の、『ファイアパンチ』や『ルックバック』、『さよなら絵梨』など話題作を次々と生みだす鬼才・藤本タツキによるマンガを原作としており、今作はファンからの人気も厚い、TVアニメの最終回から繋がる「レゼ篇」を映画化している。
主人公・デンジが偶然出会った少女・レゼに翻弄されながら予測不能な運命へと突き進む物語が、MAPPAならではの疾走感あふれるバトルアクションと共に描かれている。

しかし、レゼが翻弄したのは、デンジだけではなかった――。

翻弄された人物とは、筆者のこと。映画を観てから、レゼのことを考えない日はない。公開されて早1ヵ月が経ち、鑑賞数は12回となったが、まだレゼのことを考えている。

どうしてレゼはこんなにも私の心を掴んで離してくれないのか? 筆者が思う理由と魅力を大いに語らせてほしい。

※以下の本文にて、本テーマの特性上、作品未視聴の方にとっては“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。

■「なんだこのあざとい女」から急激に転がり落ちた“レゼ沼”はバイカル湖よりも深い(※ロシアにある、世界で最も深い沼のこと。水深は1600m以上)
劇場版のタイトルにもなっているように、今作においてキーパーソンとなるレゼ。

突然降って来た雨を避けるためにデンジが電話ボックスへと逃げ込むと、同じくレゼも雨宿りのためにボックス内へと入って来る。

そこでデンジが口の中からガーベラを取り出すというマジック(※実際は、募金のお礼にもらい飲み込んでいたガーベラを吐き出しただけ。
極貧生活を送っていたゆえの、何でも口に入れていたデンジの特技(?))を見せ、そのガーベラをレゼにプレゼントしたことで、彼女はそのお返しをしたいと、自身のバイト先であるカフェ「二道」へと誘ってくる。

口から吐き出したものじゃん……ということは置いといて、花をもらって喜ぶ女の子に惹かれない人なんていないだろう。だが、まだだ。ここはまだときめきポイントではない。

素直にお礼をもらいに「二道」を訪れたデンジに、レゼはコーヒーをごちそうしてくれただけでなく、隣に座って顔を近づけ、上目遣いで見つめ、やたら触ってきて、話を聞いて笑ってくれる……。ここでデンジはレゼが自分に気があると思い、「自分のことを好きな人が好き」なデンジは、自身もレゼに惹かれ始めるのだ。

私が男性だったら、もうここでレゼ沼に落ちていたと思う。でも私は女だ。ここまではまだ「なんだこのあざとい女」と少しの嫌悪を感じていたくらいだった。

しかし、これが“油断”だったのだろう。ここから急激に“レゼ沼”へと転がり落ちていくことになる。

■夜の学校でプールにダイブ!最高じゃあないっすか…

デンジは単純なので、そこから「二道」へ通うように。
そこで学校の話題になり、デンジが学校に通ったことがないと話すと、レゼは「行っちゃいますか? 夜」と学校に忍び込もうと誘うのだ。

廊下で手を繋いだり、お互い裸になってプールに飛び込んだり、泳げないデンジにレゼが泳ぎ方を教えてくれたり……。そのシーンの、なんとも幻想的なこと。月夜のせいなのか? 照明がたかれているのか? なぜか照らされたように発光するプール。そこで蠱惑的(こわくてき)な笑みを浮かべたレゼが、デンジに向かって言うセリフ「私が全部教えてあげる」の破壊力といったら……!

話の流れでいったら「泳ぎ方」や「学校のこと」とわかるのだが、シチュエーションから“もっといろんなこと”を教えてくれそうで、こんなの心臓をわしづかみされるに決まっている。

さらにこのシーンのレゼの表情、したたる水滴、月夜に照らされたプールなど、すべての描写においてMAPPAの作画力が発揮されすぎている。美しすぎて、もう一生忘れられないんじゃないかというほど私の脳裏に焼き付いている。

また、教室での2人の会話も。「デンジ君って本当に小学校も行ってないの?」「それってさ、なんか……なんか……ダメじゃない?」「ダメっていうか、おかしい」「16歳ってまだ全然子供だよ? 普通は受験勉強して、部活がんばって、友達と遊びに行って……」と、レゼはデンジの境遇がおかしいと訴える。

この会話が、私がレゼ沼に落とす最大の伏線になるとは、この時点では思ってもいなかった。

■レゼはどこまでが“ウソ”だったのか?
その後、一緒に夏祭りへと行き、カフェのマスターに聞いた「花火が見えて誰も人が来ないマル秘スポット」へ。ここでもレゼは、デンジに再度「16歳なのに悪魔と戦わせられているのはおかしい」と伝える。
そして、「仕事やめて……私と一緒に逃げない?」「私がデンジ君を幸せにしてあげる 一生守ってあげる お願い」と――。

このお願いをデンジが断ったことで、レゼの正体が「爆弾の悪魔=ボム」であることが明らかに。ここから怒涛の戦闘アクションが繰り広げられる。

この戦いは、「爆弾は湿気ていたら爆発できない」と悟ったデンジがレゼと一緒に海へ沈んだことで決着。砂浜に打ち上げられたレゼは、デンジに対しての好意は全部ウソだったこと、すべて訓練で身に着けた態度だったことを打ち明ける。

そしてデビルハンターに捕まる前に逃げようとするレゼに、デンジは「一緒に逃げねぇ?」「今日の昼に……あのカフェで待ってるから!」と告げ……。







場面は変わり、駅のホームに立つレゼ。目の前に到着した新幹線には乗らず……向かった先は、デンジに「待ってる」と言われたカフェ「二道」。歩いて、歩いて、もう目の前に店の扉が――という時に、大量のネズミが出てきて積み重なったと思ったら、中からマキマが現れる。

とっさに首のピンを抜こうとするも、マキマの攻撃により制されてしまったレゼ。ビルの上にいた天使の悪魔の槍に心臓を貫かれ、絶命するのだった。

その際、店の窓から覗くデンジの頭を見つめながらのレゼの言葉。

「デンジ君 ほんとはね 私も学校行ったことなかったの」

もう何度も映画を見ているが、ここで泣かなかった日はない。なんなら思い出すだけで泣ける。

このシーンの前に、ソ連がモルモットと呼ばれる子供たちの体を実験に使っていたと岸辺が語っていた。レゼもそのひとりなのだと。

デンジに伝えた「16歳で学校に行っていないのはおかしい」という言葉は、自分に対して言っていたんじゃないか? 夏祭りで言った「一緒に逃げよう」は本心だったんじゃないか? 新幹線に乗らず「二道」へと来た理由は、交流を重ねてデンジへの好意が生まれていたんじゃないか?

ウソの中に少しの真実を混ぜると信憑性が増すというのは誰もが知っていることだが、レゼは果たして本当に「全部がウソ」だったのだろうか?……考え始めると止まらない!

レゼの生い立ちを勝手に想像して泣いて、真相が知りたくてまた映画館に通って、そしてまた泣いて、レゼのことを考えて……そんなことを繰り返し、公開から1ヵ月が経とうとする今もずっとレゼのことを考えている。

■いつ“レゼ沼”から抜け出せる…?誰か助けてください!!
冒頭に「ネタバレあり」の記載をしたにも関わらず、ここまで読み進めたあなたはきっと劇場版鑑賞済みのはず。さらに、筆者と同じくレゼに囚われてしまったひとりなのではないだろうか?

原作者の藤本先生も、「見た後にレゼちゃんのことを考えて眠れなくなりました!」とコメントを寄せている。

先生すらそんな状態になるんじゃ、私がレゼ沼から抜け出せなくなるのも頷ける。私は一体、いつまでレゼのことを考え続けるんだろうか。明日から3連休(※執筆時)、また映画館に通ってしまう。

(C)2025 MAPPA/チェンソーマンプロジェクト(C)藤本タツキ/集英社
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