※以下の本文にて、本テーマの特性上、作品未視聴の方にとっては“ネタバレ”に触れる記述を含みます。読み進める際はご注意下さい。
主人公・酒寄彩葉は、都内の進学校に通いながらバイトをいくつも掛け持つ超多忙な日々を送っていた。彩葉は母親のプレッシャーから実家を出て一人暮らしをしていたため、生活費と学費を自分で稼がなければならなかったのだ。
そんな日々の癒やしは、ネット上の仮想空間〈ツクヨミ〉に入って、管理人兼大人気ライバー(配信者)月見ヤチヨの配信を見ること。だれもが自分の分身で創作活動を行える〈ツクヨミ〉で、彩葉もまたバトルやゲームでお小遣い稼ぎをしていた。
そんなある日の帰り道、彩葉は七色に光り輝くゲーミング電柱を見つけてしまう。そこから現れたのが何と赤ちゃん。見捨てられずに連れ帰ると、みるみるうちに大きくなって彩葉くらいの年齢の女の子になってしまった。
電柱から現れたかぐや姫こと”かぐや”と彩葉は協力して〈ツクヨミ〉でライバー活動を始める。それは順調だったものの、かぐやが月へと連れ戻されるまでのカウントダウンは始まっていた――。
■ボカロの歌詞とリンクする2人の関係
映画を彩る懐メロともいえるボカロ曲の数々は、ただのBGMではなく、その歌詞で彩葉とかぐやの関係性をも物語る。
たとえばヤチヨが開催する“ヤチヨカップ”に優勝したあと、新生活の幕が上がる場面では「ハッピーシンセサイザ」が流れる。この曲は「君の胸の奥まで届くようなメロディ」や「心躍らせる飾らない言葉」で「君」を元気づけようとする健気な一曲であり、まさしく歌い手のかぐやの心情そのもののようにも見えるが、冒頭一番に「儚く散った淡い片想い」と、そもそもこの想いが成就していないことが示唆されている。明るくポップな曲調ではあるが、ここですでにかぐやと彩葉の別れは仄めかされている。あるいはすでに8000年の輪廻に取り込まれたかぐやが、彩葉との過去を回想して歌った曲とも読めるかもしれない。
ヤチヨとかぐやと彩葉、3人でのライブの1曲目は「ワールドイズマイン」だ。「おひめさま」でもあるかぐやとヤチヨが彩葉を取り合う展開はなんともかわいらしい。また黒とビビッドピンクの格子模様に寝転んでのパフォーマンスという原曲のオマージュも、製作陣のボカロへの本気度を感じさせる。
エンドロールの最後にはボカロの代表格ともいえる「メルト」が流れる。晴れ晴れしい片想いを歌うこの曲には、サビ前に「恋に落ちる音がした」という歌詞がある。本編中、彩葉とかぐやの間のある感情が”恋”だと明言されたわけではないが、その親密な愛情を「恋」として「メルト」を歌うこと――それは異性愛に回収されてしまいがちなラブソングを”百合”の文脈に読み替えたということであり、一種のクィア・リーディングであるといえるだろう。
『超かぐや姫!』は既存のボカロ曲を、彩葉とかぐやの物語として読み替え、歌う。音楽と物語との関わり合いにも注目だ。
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