2020年12月、東京都の小池百合子都知事が突如発表した「4輪は2030年、2輪は2035年以降、純ガソリンエンジン搭載車の販売を禁止する」という方針は、大きな衝撃をもって報じられました。自動車やバイクが電動化などにより、どのような進化を遂げるのかは楽しみですが、その一方で「今のうちにガソリンエンジンを搭載した一生モノのクルマやバイクを手に入れよう」と思われた方は多いのではないでしょうか。
バイクに乗れるのも、あと20年そこそこであると考えると、ここでラストガソリンエンジン搭載車を手に入れ、大事に乗り続けるのもアリではないかと真剣に考えるようになりました。では自分にとってのラストバイクは何がイイのか? 今回は誰もが一度はお世話になったであろうHonda「CB400 SUPER FOUR」、通称スーフォアをご紹介します。
2035年まで意外と時間がない
排ガス規制も厳しくなるかも
「2035年まで時間がある」とお考えの貴方。残念ながら、もう一つ大きな問題があります。その名は「排出ガス規制」。この規制をクリアしていないバイクは販売できません。そして、この規制は年々厳しいものとなっているのです。

悲劇の始まりは、1999年のユーロ1と平成11年排出ガス規制でした。ここで80年代の若者に人気の「NSR250R」を始めとする250ccクラスの2ストバイクが絶滅。それとともに、レーサーレプリカ時代が終焉しました。
次にバイク業界に激震を与えたのが2007年のユーロ3と平成18年排出ガス規制。平成11年排出ガス規制値の7~8割減という厳しい要件の上に、測定方法を「暖気モード(暖機後測定)から冷機モード(いきなり測定)」と変更されたことで、細かい燃調設定が難しいキャブ車が世の中から姿を消したのです。
2016年のユーロ4+平成28年排出ガス規制も大きな問題でした。ここで試験方法が国内独自のものから国連で定めたWMTCモードへと変更されたほか、OBD(車載式故障診断装置)の装着義務化が設けられたのです。
現在のユーロ5+令和2年排出ガス規制では、排気ガスはもちろんのこと、灯火類やABS標準装備の規制、OBDステージ2搭載の義務化により、ロングランの名車が消えようとしています。
不幸はいまだ続き、2024年にはより一層厳しい規制となることは想像に難くないユーロ6話がちらほらと。さらに2030年からは欧州でガソリンエンジン車の販売禁止が始まりますから、各メーカーともに一気に電動シフトすることでしょう。

もちろん中古車を購入するという選択肢もありますが、たとえば25年以上前のバイクであるNSR250Rの中古相場は、現行車である「CBR250RR」の新車販売価格を超えてますし、V型4気筒で鈴鹿8耐を席巻した「VFR750R」に至っては400万円近いプライスタグが。これらのバイクに対する想い出や憧れは当然ありますが、ここまで高額になってしまうのなら、修理代や補修パーツの事も考えて、今手に入る新車を、自分の手で愛情こめて育てるのも賢い選択と言えるのではないでしょうか。
誰もがお世話になったかもしれない教習車
「CB400 SUPER FOUR」

スーフォアの愛称で親しまれるHondaのCB400 SUPER FOURは、恐らく多くの方が教習所でお世話になったバイクではないでしょうか。私も始めて跨ったバイクがスーフォアでした。初めて教習所内を30km/h程度で走行した時「バイクを走らせるって、こんなに楽しいんだ」「ウイングマークが俺に新しい翼をくれた」と感動したものです。

その一方で、引き起こしをはじめ重たい車体には何度となく泣かされたのも事実。なんとか卒業検定を通過した時、最初に思ったのは「もうスーフォアに乗らなくていいんだ」という安堵感であったことを正直に告白します。

こうして軽二輪ということで車検がなく、スーフォアより30kg近く軽量な「CBR250RR」を購入した次第です。もちろん満足していますし、手放す気は現在のところ毛頭ありません。
CB400 SUPER FOURのエンジンには魅力がある

では、なぜ「アガリのバイク候補」としてスーフォアを選択肢の一つに選んだのか。ネイキッドという年齢をあまり選ばない普遍のスタイリングもさることながら、エンジンであることは言うまでもありません。というのもスーフォアが搭載する排気量399ccの水冷4ストローク4気筒16バルブエンジンには、Hondaの至宝VTEC機構が搭載されているのです!


VTECとはバリアブル(V)バルブタイミング(T)アンド リフト・エレクトロニック(E)コントロール(C)システムの略で、回転数に応じて吸排気バルブのリフト量とバルブタイミングを同時に変化させる世界初の技術。1989年に登場したインテグラのB16A型に初搭載され、自然吸気エンジンでありながらリッターあたり100馬力越えを実現しました。また、B16A型が高回転型エンジンだったという事も相まって、VTECのハイカム側に変わった際には、多くの人の心をつかみました。

その後、VTECはシビック、NSX、S2000をはじめとするHondaの名車に採用。さらにはレーシーなTYPE Rグレードも登場し、高回転域での官能的なパワー感とエンジンサウンドは、「ンバァァァァァァァ」という表現で愛されています。

スーフォアに搭載されているVTEC機構は、カムタイミングとリフト量を変更するのではなく、HYPER VTEC Revoという、1気筒あたりの作動バルブ数を回転数に応じて2個から4個へと切り換える、バイクとしては世界初の機構。これにより中低域では力強いトルク感を、高域ではパワー感が得られるというわけです。

そしてマルチシリンダーであることも見逃せない点です。Hondaは長年にわたり多気筒化によるエンジンストロークのショートストローク化と、1気筒当たりの動弁系を軽くすることで「多気筒=高回転高出力」を達成してきたメーカーで、その歴史はバイクレースのマン島TT初挑戦となった、1959年の250ccクラス参戦用マシンとして開発された「RC160」にまで遡ります。このRC160には、125ccクラス用のRC141エンジンを2連装したような同社初となる4気筒のエンジンが搭載されていたのです。しかも、なんとDOHCで1気筒あたり4バルブ化を達成! 残念ながらマン島TT参戦は見送られたのですが、同年開催の浅間火山レース・耐久ライトウェイト(250cc)クラスで、優勝のみならず上位を独占しました。

市販車においても69年に世界初の量産市販車4気筒エンジン搭載マシン「ドリーム CB750 FOUR」を発表。当時バイクの4気筒エンジンは、競技参戦車両か外国製のプレミアムバイクしか存在していない時代の中、排気量、出力などが桁違いのスペックな上に、さらに市販化ということで日本は勿論、海外も驚愕。その後、各メーカーが追従しました。
その後、78年には空冷4ストローク6気筒エンジンを搭載したCBX1000と、これまた量産バイクとしては世界初の偉業を成し遂げました。このようにマルチシリンダーこそHondaイズムであり、現存する400ccエンジンで唯一4気筒を採用するスーフォアは、実にホンダらしいエンジンを搭載したバイクといえるのです。

スーフォアに話を戻しましょう。登場したのは1992年のこと。既に29年近く生産しつづけているロングランバイクです。


エクステリアは「いかにもバイク」というネイキッドスタイルと、SUPER BOL D’OR(ボルドール=金杯)の名を冠したハーフカウルモデルも用意されています。ボディーカラーはキャンディークロモスフィアレッド、アトモスフィアブルーメタリック、ダークネスブラックメタリックの3色。ちなみにキャンディークロモスフィアレッド、アトモスフィアブルーメタリックの価格は92万8400円、ダークネスブラックメタリックが88万4400円です(ともに税込)。

気になる4気筒エンジンの出力は56馬力。自然吸気の軽自動車と変わらない出力を誇ります。同排気量のフルカウルバイク「CBR400R」(2気筒)が46馬力ですので、現行国産バイクでは最大出力を誇ります。トランスミッションは6段リターン式で、クラッチレスの変速を可能とするクイックシフターのような便利な純正アクセサリーは用意されていません。



メーターは指針式。左側が速度計、右側が回転計とシンプルなもの。

右手ハンドル部はスロットル、フロントブレーキのほか、エンジンのキルスイッチ、セルスイッチ、ハザードといったスイッチ類を配置。教習車にハザードってあったかなぁ? と思ったりしながら触れていました。

左側ハンドルはクラッチレバーのほか、ライトのハイ/ロー切替、ウインカー、ホーンボタンが設けられています。教習中、ウインカーを付けようとして間違ってホーンボタンを何度触れてしまったことか……。

ヘッドライトはLED化。これは時代の流れでしょう。ただCB250Rのような「馬蹄形イカリング」ではないのは個人的には好印象。
美しいカラーリングが施された燃料タンクの容量は18リットル。公表されている燃費は60km/h定地走行テスト値で31.0km/リットル。一回の給油で558km走れる、という計算になります。

シートはふかふかでイイ感じ。扱いやすいアップハンドルと足つきの良さと相まって、のんびりライディングも、スポーツライディングも思いのままというわけです。



ブレーキはフロントが直径296mmフローティングディスクを2枚に対向ピストン4ポットキャリパー、リアはシングルディスクに片押し1ポットキャリパーという仕様。フロントに2枚ディスクローターがある辺りが軽二輪とは違うことを思わせます。ABSも標準装備されているので、フロントロックする心配はなさそうです。
装備面で教習車との違いはメインスタンドがないこと。メインスタンドは純正オプションとして用意されており、価格は2万1780円。ちなみに取り付け費用として別途0.4H分の工賃が必要です。
カッチリとした質感と
4気筒らしい排気音がその気にさせる

教習所で習った通り、ハンドルを両手で持って、スタンドを払って跨りミラーを調整。ミラーは大きくて後方視界も見やすいものです。キーを回してニュートラルであることを確認。スターターボタンを押してエンジンをかけると「ヴォン」というイイ音。単気筒とも2気筒とも違う4気筒らしいサウンドであると共に「教習車って、こんなイイ音したかなぁ?」とも。教習車のことは気のせいとして走らせることに。
アップライトなハンドルポジションは、おそらく誰が乗っても快適なポジション。教習所で感じていた車体の重さも感じることはあまりなく、4気筒エンジンということもあり、重心の低さからくる安定感を感じます。クラッチやブレーキレバー、シフトペダルはカチッとした高い質感で、操作する喜びを感じさせるもの。指が喜ぶ、とはまさにこのことで、高級なバイクという風情を感じさせます。
都心の渋滞でも、苦痛を感じることなく取り回しも良好。ハンドリングも気持ちよく、実にコントローラブル。欠点という欠点を見出すことができない、恐ろしく完成度の高いバイクで、なるほど教習車に選ばれるだけのことはあるなと感心します。重たさもある程度の速度が出てくると気になりません。

気になるエンジンですが、4気筒ということもあり振動の少なさも美質。モーターフィーリングと言いたくなる気持ちの良い拭け上がりは「4気筒ってマジでイイナ」と心底惚れそうになるとともに、もっと回してみたいという欲望を抑えるのは難しいそう。VTEC切り替えポイントは6400回転あたりで、その領域から官能的なエンジン音を伴いながら怒涛の加速。8000回転、1万回転とエンジンを回せば回すほど、久しく忘れていた自然吸気VTECならではの力と官能が熱銭のごとく吹き出します。まさに「ンバァァァァァァァ」ココにあり! しかも400ccですから、どこでも、どこまでも回せる!
こんな楽しいことがあるでしょうか? いかなる高額スポーツカーよりも楽しい世界が約100万円で手に入る! 日本という国は、なんと素晴らしい国なのでしょう。低回転領域も実にトルクフルで扱いやすいのも魅力。普段はジェントル、回せば最高! HYPER VTEC、なんと凄くて、素晴らしいエンジンなのでしょう。
高速道路ではネイキッドというスタイリングであるため、筆者が所有するCBR250RRと比べると風はモロに受け、80km/h以上になると前傾にならざるをえません。なるほど、ハーフカウルのSUPER BOL D’ORが設定されているのは、こういう事なのかと納得。高速での遠出を考えられている方は、こちらを選択される事をオススメします。
ツーリングといえば、4気筒による振動の少なさは疲労低減に威力を発揮。CBR250RRで高速道路を1時間巡行すると手に痺れを感じるのですが、スーフォアではそのようなことはなく。さらに15馬力近いパワーの差は、巡航速度からのクルマの追い越しに効果を発揮! HYPER VTECと相まって、気持ちの良い加速が味わえます。さらに30kgという重量増は、高速巡行の安定性に寄与し、長距離ツーリングもこなせそうです。それにしても250ccと400ccというわずか150ccの排気量の差しかないハズなのに、ここまで違うモノとは思いもよりませんでした……。
【まとめ】始まりのバイクがアガリのバイクでもいいかも
長年熟成された完成度の高さが光る

乗りながら教習所の苦い経験から、スーフォアを「面白味のないバイク」と決めつけていたことを大後悔。最初からコレを買ったら、もう生涯これで満足すること間違いナシで、吾唯知足(われただたるをしる)とはこのことと思った次第。実に素晴らしく、多くのライダーを育てた偉大なバイクであるスーフォアは実に偉大なバイクです。
先日、販売店に行き、店員に「久しぶりに乗ったら、実にイイバイクですね」などと話をしたら、店員から「近々、新車で手に入れられなくなるかも、という噂があるんですよ」というではありませんか! 「始まりのバイク」であり「アガリのバイク」でもあるスーフォアが手に入らなくなるかもしれない……。そう思うと、一気に欲しくなったのは私だけでしょうか?
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