トヨタのカローラといえば、世界累計販売台数が5000万台を超える、50年以上の歴史を持つ「大衆車」。もっとも多様化や個性が重んじられる時代において、この大衆車という言葉が今でも生きているのか別として、トヨタは時代に合わせたカローラのバリエーションモデルを投入してきたことは事実。
そんなカローラにSUVモデルが初登場。トヨタのSUVラインアップは既に8車種あり「そんなに作ってどうするんだ?」と思いながら、クルマ大好きモデルの新 唯(あらた・ゆい)さんをお迎えして、SUVの大衆車とはどういったものか? を取材しました。
トヨタのエンブレムがないので一瞬戸惑う
取材は1月下旬。取材の前に唯さんをお迎えにあがるため、早朝にエンジンをかけた不肖。気温はひと桁前半でパワーユニットはキンキンに冷え切った状態です。走り始めて気づくのは、エンジンの暖まりが驚くほど遅いこと。とにかく暖まらない。暖まらないと何が起きるのか? というと、信号でアイドリングストップが動作しません。「なんだよ、ガソリン代ケチっているのか?」と思われるでしょうけれど、そういうことではありません。エンジン音が車内に低く響くのですが、その音が生理的に心地悪い音なのです。人によって感じ方は様々ですが、「ゴーッ」という低い音で、しかも意外と大きいものですから「サッサとアイドリングストップ動いてよ!」と願わずにはいられませんでした。

人間イライラしている時は、些細なことでもイライラします。
とはいえエンジンが暖まってくると「カローラ クロス、よくできているなぁ」と関心しきり。プリウスなどと同じ、スプリット式(エンジンとモーターを使い分けて走る)を採用する1.8リットルのハイブリッドユニットは、加速時に唸るような音はするものの、気持ちのよい走りが楽しめるし、乗り心地は柔らかめだけれど、腰砕けにならず。室内も暖まってくれば静粛性が高まって、快適そのもの。温まれば人の心も穏やかになるというものです。
クルマも不肖の心も暖まったところで唯さんをお出迎え。ですが、カローラ クロスを見た唯さんは開口一番「これ、どのメーカーのクルマですか?」などと言うではありませんか。いや貴女、モーターファン別冊「統括シリーズ 2022年 国産新型車のすべて」(三栄/780円)にモデルとして出演しているじゃないですか! とツッコミを入れる不肖。これに「いや、あちらの取材のときは運転していないので、そこまで詳しく覚えてないんですよ」と、ややSっ気の血をたぎらせて反論する唯さん。ガチギレされる前に、早々に取材現場へと向かうことにしましょう。

「トヨタのクルマなんですね」と唯さん。そうなんです。カローラはフロントグリルにトヨタのエンブレムはなく、代わりにカローラのエンブレムが取り付けられているので、クルマに詳しくない人は、このクルマのメーカーがわかりづらいのです。ということで、ASCII.jpの唯さん的には初めてのトヨタ車試乗となりました。


ボディーサイズは全長4490×全幅1825×全高1620mm。価格的にライバルとなる日産「キックス e-POWER」が全長4290×全幅1760×全高1610mm、Honda「VEZEL」が全長4330×全幅1790×全高1590mmですので、カローラ クロスの方が一回り大きい、ということになります。「え? ということはお買い得じゃないですか!」というのは、取材に同席した担当編集のスピーディー末岡。確かに同じ値段なら大きい方がオトクに感じます。



大きさの違いはラゲッジにも現れていて、その容量は487リットルとライバルを圧倒。「しかもパワーゲート付きなので閉めるのもラクラクですし、後部座席の背もたれは前へ倒せるんですよね」というわけで、手早くシートを倒す唯さん。さらにセンターにあるプライバシーシェードの棒も取り外してしまいました。さらなる荷室空間に驚く一同ですが、荷室には大きな段差が……。

「確か、ここにあったような……」とトランクを見渡す唯さん。モーターファン別冊撮影時の記憶が蘇ってきたようで「ありました」と指差したのは、AC100Vアウトレット。「これがあれば、ロケでもヘアアイロンとか使えて便利ですよね」と唯さんが言うと、「確かにノートPCの充電ができますね」とスピーディー末岡。会話が噛み合っているようで噛み合っていませんが、このコンセントはオプションで4万円ですというと「絶対につけますね」と息ピッタリ。


パワーユニットは1.8リットル直4ハイブリッドと、同じく1.8リットル直4エンジンの2種類をラインアップ。駆動方式はFFとAWDが用意されています。今回お借りしたのは、ハイブリッドでFFのモデルでグレードZと呼ばれるモデルです。ライバルが1.5リットル以下なので、車体が大きい分だけ、排気量も大きくなっているのでしょうか。最高出力はエンジン側が98馬力、モーター側が72馬力。一緒になれば170馬力、と単純な話にはならないでしょうけれど、必要にして十分といったところです。ちなみにエンジン仕様車の最高出力は140馬力。




後席をチェックしましょう。「思ったより足元が狭いような気がします」と唯さん。どれどれ? と座ってみると、たしかにVEZELやキックスといったライバルよりも狭い印象です。装備面に目を向けると、USB Type-Aレセプタクルが2系統用意。「あー、Aですかー。Cがあるといいんだけどなぁ」と、PD対応のUSB Type-Cじゃないと許さない男、スピーディー末岡と不肖はちょっとションボリ。「最近はノートPCの充電がUSB Type-Cなんですから、65Wから100Wくらいに対応にしてくれないと」と言いたい放題です。でも幅広いユーザーをターゲットとするクルマなら、日本ではまだType-Aが主流なので、間違っていないのかもしれません。


続いて運転席へ。「こちらは広くていいですね」という唯さん。「良い意味で特徴はないみたいですね。あるべきところに、あるべきスイッチがあるから、わかりやすいですし」ということで、このあたりの作り込みは、さすがトヨタといったところ。

感心したのは、スマホトレイが縦置きなところ。横って案外使いづらかったりします。こういう細かなところもさすがトヨタ。「メーターも見やすいですし、いいと思います!」ということで、いざ試乗開始です。
このサイズで燃費が良い!
目立った長所がない

「普通ですね」という唯さん。「足はちょっと柔らかいかな。乗り心地はいいですから、ファミリーカーとして、いいクルマだと思います」というのが主だったご感想。実はこれが大衆車らしいところで「どういいのかがうまく言えないけれど、不満が少ない」「とりたててご紹介したい美点が少ないけれど、目立った短所も見当たらない」というライター泣かせなのが、大衆車たるゆえんとするところ。「平均的だけど平均値が高い。すごいよなぁトヨタって。これは勝てないよ」とスピーディー末岡もただただ感心するばかり。

驚くのは燃費のよさ。なんと燃費に厳しいハズのストップ&ゴーを繰り返す都内一般道で、リッター20kmを記録してしまったのです。

では単なるエコカーなのかというと、SPORTモードにしたらガンガン進むからステキ! SUVゆえの重心の高さゆえ、ワインディングでコーナーをガンガン攻めるという向きではないですが、それっぽい気分は十二分に味わえます。さらに「イイな」と思うのはブレーキ制御が自然なこと。ハイブリッドの場合、モーターによる回生と油圧ブレーキの複合となり、その制御技術は大変むずかしいのですが、さすがトヨタ。長年ハイブリッドを手掛けているだけあって、実に自然です。スポーティーでも街乗りでも実にコントローラブルです。

ということで、唯さんは運転を楽しまれていると思っていたのですが「あの、視点が高すぎて酔ってきました……」と、慣れないSUVの視界にギブアップ。スポーツカー大好きの唯さん的に「私、車高が低いクルマじゃないとダメなのかな」というわけで、唯さん運転による取材は終了となりました。いそいそと助手席に座る唯さん。「あー、やっぱりこっちの方がいいですね」と満足げ。
この仕上がりで約300万円は安い!
さすがのカローラブランド


カローラ クロスに不満がないわけではありません。でもどれも重箱の隅をつつくようなもので、いわゆる「木を見て森を見ず」みたいなもの。全体を通してみれば「これで300万円は安い!」というのが正直な感想でした。大衆車だからといって侮ってはいけません。その場にいた誰もが「カローラって凄いな」という心の声がダダ漏れしていたことを告白します。

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モデル紹介――新 唯(あらた ゆい)

栃木県出身10月5日生まれ。2020年に小林唯叶としてモデルデビュー。2020年シーズンのSUPER GT「マッハ車検GAL」をはじめ、SUPER FORMULA、スーパー耐久シリーズのレースクイーンとして活躍。2021年4月の芸能事務所プラチナム・プロダクションへの移籍に伴い新唯に改名。現在ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技の勉強中。