2022年5月25日から27日の3日間にかけて、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜にて「人とくるまのテクノロジー展2022 YOKOHAMA」が開催された

今後の自動運転に役立ちそうな技術を見た
人とくるまのテクノロジー展

 5月25~27日の3日間にわたって、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜にて「人とくるまのテクノロジー展2022 YOKOHAMA」が開催された。これはタイトルの通り、自動車関連の技術展示会で、今年の開催が29回目となる。自動車メーカーも出展しているが、展示の主役となるのは、いわゆるサプライヤーと呼ばれる企業たちだ。

今回も自動車関連企業484社が出店し、発売中のクルマだけでなく、これから発売されるクルマ、さらには開発中という技術などが惜しみなく発表されている。日本における、最新・最先端のくるまのテクノロジーに触れることができる展示会だ。


「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
29回目のリアル開催となる今年は、484社1055小間(オンラインのみ27社)が参加した
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
5月25日から27日の3日間にかけて、合計4万3665名が来場。最終の27日金曜日は1万6881名で、非常に混み合っていた

 そんな展示会に、“最新の自動運転技術”を念頭に取材に赴いたが、残念ながら、今年のトレンドは「電動化」であり、自動運転技術の目新しい展示を見ることはできなかったのだ。


 逆に「電動化」関連の展示は、非常に多彩で充実したものであった。自動車メーカーで言えば、トヨタが燃料電池車の「MIRAI」とEV「bZ4X」のベアシャシーを展示。同様にスバルはEVの「ソルテラ」、日産は「アリア」と「サクラ」と2台のEVを並べる。三菱自動車は「アウトランダーPHEV」、ダイハツは「ロッキーHV」のハイブリッド車。多くの自動車メーカーのメインの展示が電動車であったのだ。


「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
トヨタのブースでは、発売開始されたばかりの新型EV「bZ4X」のベアシャシーが展示されていた
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
スバルのブースでは、発売開始されたばかりの新型EV「ソルテラ」のカットモデルが展示されていた
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
いすゞのブースでは、東南アジアで発売された新型SUVの「MU-X」が展示されていた

さまざまなサプライヤーから登場した「eアクセル」とは

 サプライヤーのブースに目を移しても、目立つのは電動化技術だ。特に今回は「eアクセル」の展示が多かった。これはEVなどの電動車に使われる、モーター一体型の車軸だ。「eアクセル」を大きく展示するのは、アイシンを筆頭にジャトコ、ボッシュ、シェフラー、ヴァレオといった大手サプライヤー。

トヨタとスバルのEV「bZ4X/ソルテラ」へ、採用されているアイシンの製品以外でも、多くのサプライヤーの「eアクセル」は、今後2~3年後に市販車に搭載される予定があるという。それだけ、今後数年で新型EVが続々登場するということだろう。


「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
アイシンのブースでは、発売開始されたばかりのEV「bZ4X」と「ソルテラ」のeアクセルが展示されていた
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
シェフラーのブースでは、開発中のeアクセルが展示されていた。モーター、インバーター、遊星ギヤが一体化されている
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
ボッシュのブースでは、2025年に量産車に採用予定のeアクセルが展示されていた
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
ヴァレオのブースでは、複数のeアクセルが展示されていた。左側のモーター、インバーター、減速機を一体化したスマートeDrive
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
ジャトコのブースでは、2025年に量産開始予定の同軸と三軸の2つのeアクセルが展示されていた

コンチネンタルの次世代LiDARが可能性を感じさせた

 そんな中で、個人的にこれは! と思った「自動運転技術」の展示は、コンチネンタルにあった。新世代のライダー(LiDAR)だ。ブースの角の柱の上にライダーを設置し、通路を通る人を検知するというもの。2020年にコンチネタルが出資した、カリフォルニアのAEye社と共同開発している。ポイントは「300m先までセンシングが可能」「2024年に量産を計画」という部分だ。


「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
コンチネンタルのブースに展示されていた、次世代LiDAR。2024年からの量産を予定
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
会場に設置した次世代LiDARでセンシングした会場通路の様子。300m先までを検知可能

 実は現在、量産されているLiDARのほとんどが300m先をセンシングする能力がない。しかし、100km/hで走行するクルマは、1秒間に約27.8mを進む。

つまり、10秒間の余裕を得るには、300m先の道路状況を詳細に把握する必要がある。そしてタイヤが落ちていたり、路面に穴が開いていたりするのを把握するには、カメラとレーダーだけでは足りない。LiDARにも300m先を見る力が必要なのだ。逆に言うと、この300m先を見ることのできるLiDARが登場して初めて、レベル3の自動運転が実現化すると言ってもいいだろう。量産は2年先ということは、そこまでレベル3の自動運転の登場を待つ必要があるということだ。


「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
コンチネンタルのブースの角の高い場所に設置された次世代LiDAR。四角い部分で赤外線を発光させ、丸い部分で受光する
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
コンチネンタルのブースに展示さえていた、ディスプレイ埋め込み式のドライバーモニタリングシステム

 また、自動運転関連としては、トヨタ車体の試みも発表されていた。トヨタ車体が発売する小型EV「コムス」を使った自動運転の実証実験を、ここ1年ほど実施しているという。「コムス」に取り付けたLiDARだけでなく、インフラ側のカメラと組み合わせることで、簡便に自動運転システムを構築するという。走行環境は、自社工場内という限られた場所となるが、今後の商品化も検討中だという。工場内の資材運搬などに利用できそうな技術だ。


「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
トヨタ車体による小型EV「コムス」を使った自動運転のデモカー。
屋根にLiDARが設置されている
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
日立とホンダの複数の子会社によって設立された新会社「日立Astemo」は小型EVのコンセプトを展示

 それ以外で、個人的に気になったのが市光工業による「e-Grille」という技術だ。これはクルマのグリル部分をライティングのためのスペースに使おうという提案だ。クルマの電動化が進むほどに、エンジン冷却のためのフロントのグリルの必要性が低下する。そこで空いたスペース(グリル)に明かりの機能だけでなく、コミュニケーションの機能も持たせるというアイデアだ。自動運転中に、ドライバーに代わって周囲に意思表示することもできるし、EVの充電状況を知らせることもできる。電動車や自動運転技術が普及するほど、このアイデアを採用する車両が増えることだろう。


「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
市光工業による「e-Grille」。グリル部に発光パネルを設置し、車外とのコミュニケーションに利用するというアイデアだ

 自動運転技術は残念ながら足踏み状態だが、電動化の進化は着実で力強い。今後2~3年は、新型EVの登場の話題が多くなることを予感させる展示会であった。


「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
日立Astemoは、インホイールモーターのコンセプトを展示
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
ジェイテクトのブースでは、リンクレスのステア・バイ・ワイヤーが展示されていた。2022~2025年に量産を予定
「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
HKSのブースでは、エンジン車の排気ガスの力で発電するコンセプトが展示されていた

筆者紹介:鈴木ケンイチ

 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。

国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。


 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。



「人とくるまのテクノロジー展 2022横浜」で感じた自動運転技術の今
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