新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、2020年と2021年は開催されなかった鈴鹿8時間耐久ロードレース(鈴鹿8耐)。「真夏の祭典」という呼び名で親しまれ、日本でもっとも有名な二輪レースとして圧倒的な人気を誇るこのレースが鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)にて2019年以来3年ぶりに開催された。


※8月19日、リザルトが確定し順位の変動などはございません。
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鈴鹿8耐はライダーがマシンに駆け寄るル・マン式スタートによって火蓋が切られる

日本中から、そして世界から強豪チームが参戦!

 二輪スプリントレースの最高峰として知られる「MotoGP世界選手権シリーズ」と並び、二輪耐久レースの世界一を決める「世界耐久選手権」(EWC)も有名だ。今回の鈴鹿8耐はそんな「EWC」の今シーズン第3戦に該当する一戦だったが、いまだコロナ禍が収まらないこともあり、「EWC」のレギュラー参戦チームのいくつかは参戦を見送ることとなった。


 ただし、真夏という過酷な環境下で行なわれる伝統のレースである鈴鹿8耐だからこそ、逆に参戦を表明したチームもあった。ホンダワークスの33号車「Team HRC」とカワサキワークスの10号車「Kawasaki Racing Team Suzuka 8H」がそれだ。今回の見どころはメーカーの威信を賭けて挑んだその2大ワークスに「EWC」レギュラー参戦チームを交えたトップ争い、そして「走り慣れた鈴鹿でのレースだから我らにも上位入賞のチャンスがある!」と考えて参戦した、普段は全日本ロードレース選手権を戦うチームたちの奮闘だった。


必勝体制で臨んだメーカー系ワークスチーム

 まず注目を集めたのはいわゆるファクトリーチームだ。1980年代のバイクブームの時代から各メーカーは8耐スペシャル的なマシンを作り、年に一度のお祭りとも言えるこのレースへの参戦をはたしてきた。ただし、2015年から2018年まで4連覇を果たしたヤマハワークスは今回不参加。2014年以来の優勝を狙うホンダワークス vs 2019年大会の覇者であるカワサキワークスの優勝争いが焦点となることが当初から予想された。


バイク世界最速を決める鈴鹿8時間耐久レースが3年ぶりに開催されホンダが圧勝!
♯33「Team HRC」長島哲太/高橋巧/イケル・レクオーナ
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♯10「Kawasaki Racing Team Suzuka 8H」レオン・ハスラム/アレックス・ロウズ/ジョナサン・レイ

耐久の戦い方を熟知する
「EWC」レギュラー参戦チーム

 続いての注目は「EWC」にレギュラー参戦しているチームの面々だ。耐久ではレース時間が長いレースほど獲得できるボーナスポイントが多くなるが、レース時間がそれほど長くなく、ボーナスポイントが期待できないことに加え、日本への渡航費やマシンなどの輸送に掛かる費用が高騰していることから、鈴鹿8耐への参戦を見送った「EWC」レギュラー参戦チームも多かった。しかし、それでも耐久ならではのマシン作りを含めた戦略、そして耐久レースの感動を知る「耐久スペシャリスト」と言える5チームが参戦した。


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♯1「Yoshimura SERT Motul」グレッグ・ブラック/渡辺一樹
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♯5「F.C.C. TSR Honda France」ジョシュ・フック/マイク・ディメリオ
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♯7「YART-YAMAHA OFFICIAL TEAM EWC」マービン・フリッツ/ニッコロ・カネパ/カレル・ハニカ
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♯11「WEBIKE SRC KAWASAKI France」ランディ・ド・プニエ/エティエヌ・マソン/フロリアン・マリノ
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♯37「BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM」マーカス・レイターバーガー/イリア・ミカルキク/ジェレミー・グラハニ

【8月5日(金曜日)】
11番以降のグリッドを決める公式予選

 この日は全ライダーが20分間ずつの公式予選を2セッションずつ走行。チーム内で速いタイムをマークしたライダー2名のベストラップのアベレージタイム順によって「トップ10トライアル」に進出する10チームと11番以降のグリッドが決まった。事前テストおよび8耐ウィーク中の合同テストでは#33「Team HRC」が速さを見せつけ、予選直前のフリープラクティスでも長島哲太が唯一の2分05秒台となる2分05秒823をマークしたが、その長島がこの予選ではなんと2分04秒942という驚くべきタイムをマーク。

アベレージタイムも「Team HRC」が最速だった。


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走り2分04秒942をマークし、公式予選中のコースレコードを塗り替えた♯33「Team HRC」長島哲太

【8月6日(土曜日)】
3大会連続で中止となったトップ10トライアル

 鈴鹿8耐の特別ルールとして「トップ10トライアル」というものがある。これは予選上位10チームのみに走行が許されるスペシャルステージで、1台ずつがコース貸し切り状態でアタックするワンラップタイムトライアル。この「トップ10トライアル」に進出した10チームはそれぞれ2名のライダーが走行し、その2名のベストタイムによって10番目までのグリッドが決まる。


 悪天候により、2018年大会、2019年大会と中止が続いていたこの「トップ10トライアル」だが、なんと今回も天候悪化が予想されたため、40分間の計時予選方式に変更に。「Team HRC」長島哲太がここでも好調ぶりを披露し、2分04秒934のトップタイムをマーク。「Team HRC」がポールポジションから決勝レースに臨むこととなった。


バイク世界最速を決める鈴鹿8時間耐久レースが3年ぶりに開催されホンダが圧勝!
走りトップ10予選でも♯33「Team HRC」長島哲太が唯一の2分04秒台をマーク。8月5日(金)の公式予選で自身が塗り替えたコースレコードをさらに更新!

2番グリッド/♯10「Kawasaki Racing Team Suzuka 8H」
3番グリッド/♯7「YART-YAMAHA OFFICIAL TEAM EWC」
4番グリッド/♯5「F.C.C. TSR Honda France」
5番グリッド/♯73「SDG Honda Racing」
6番グリッド/♯72「Honda Dream RT 桜井ホンダ」
7番グリッド/♯17「Astemo Honda Dream SI Racing」
8番グリッド/♯25「Honda Sofukai Suzuka Racing」
9番グリッド/♯37「BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAM」
10番グリッド/♯2「EVA RT 01 Webike TRICKSTAR Kawasaki」


【8月7日(日曜日)】
そしていよいよ決勝レース

 定刻通り午前11時30分、ル・マン式により(コースサイドからマシンに駆け寄って乗り込む)、8時間に及ぶレースがスタート。4番グリッドスタートの♯5「F.C.C. TSR Honda France」ジョシュ・フックが真っ先に1コーナーへ。それに♯33「Team HRC」高橋巧、♯10「Kawasaki Racing Team Suzuka 8H」レオン・ハスラムと続く。オープニングラップの130R進入で♯10ハスラムが♯33高橋をパス。♯5フック、♯10ハスラム、♯33高橋のオーダーでオープニングラップを帰ってくる。


 5番手走行中の♯17「Astemo Honda Dream SI Racing」作本輝介が2周目のスプーンカーブで転倒。

これに4番手走行中の♯73「SDG Honda Racing」浦本修充が巻き込まれて転倒したことにより、セーフティーカーがコースに入る。


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鈴鹿8耐、そして「EWC」の名物となっているル・マン式スタート。エンジンに火が入ったマシンが一斉に1コーナーへと雪崩れ込んでいく様は圧巻だ
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2周目に早くもセーフティーカーがコースインするという波乱の幕開けに。先頭が8周目のデグナーカーブに差し掛かったところでレースがリスタートする

2大ワークスの後方で3番手の座を争った
「EWC」レギュラー参戦チーム

 22番グリッドからスタートした♯1「Yoshimura SERT Motul」グレッグ・ブラックは2周目には4番手に急浮上。8周目にレースがリスタートすると、♯1ブラックが♯10ハスラム、♯5フック、♯33高橋を立て続けにパスして一気にトップに立つシーンもあった。その後、♯33高橋と♯10ハスラムが後続を引き離すことに成功すると、その後方で♯1ブラックと♯5フックの「EWC」レギュラー参戦チーム勢が3番手争いを展開。そこにスタートで大きく出遅れた♯7「YART-YAMAHA OFFICIAL TEAM EWC」ニッコロ・カネパが追い付くと、♯7カネパは14周目に♯5フックと♯1ブラックをパスして3番手となる。その間に♯33高橋、♯10ハスラムがそれぞれ単独トップ、単独2番手の座を築き、レースは膠着状態となる。


バイク世界最速を決める鈴鹿8時間耐久レースが3年ぶりに開催されホンダが圧勝!
前評判通り、序盤から♯33「Team HRC」と♯10「Kawasaki Racing Team Suzuka 8H」の2大ワークスがトップ争いを展開
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2大ワークス並みの速さを披露した♯7「YART-YAMAHA OFFICIAL TEAM EWC」。スタートで出遅れるも、気づければ「EWC」レギュラー参戦チーム勢のトップに
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他の「EWC」レギュラー参戦チームも「EWC」を戦うチームならではの堅実な走りを披露。派手な動きは少なめだが、要所で見せる安定感が印象的だった
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約1時間ごとに訪れるピットワークも緊張感漂う瞬間

 鈴鹿8耐の見どころはレース中のトップ争いだけではない。ライダー交代、タイヤ交換、燃料補給などを行なうピットワークも順位を左右する大きな要因となる。ライダーがコースでコンマ何秒を詰めるのは難しく、無理をすれば転倒のリスクを抱えることにもなるが、メカニックやエンジニアたちがピットワークでライバルに1秒、2秒の差を詰めることはまだ可能。こういったことからもわかる通り、鈴鹿8耐はチームの総力戦なのだ。


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昨シーズンのEWCチャンピオンであり、今シーズンもポイントランキングをリードしている♯1「Yoshimura SERT Motul」のピットワークは迅速かつ確実!
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ポイント差「15」で「EWC」ランキング 2番手の♯5「F.C.C. TSR Honda France」。序盤のリアブレーキのトラブルにより、4分強をロスする

時間が経過するほどに
ホンダワークスがトップの座を盤石なものに!

 レースがスタートして2時間18分が経過する頃、デグナーカーブ二つ目で転倒し、出火したマシンがあったことにより、このレース2回目のセーフティカーが導入される。トップを走る♯33「Team HRC」イケル・レクオーナと2番手を走る♯10「Kawasaki Racing Team Suzuka 8H」アレックス・ロウズが別々のセーフティカーに先導されたことにより、その2台の間に約半周の差がつく。3時間50分弱が経過する頃、ロウズからライダーチェンジした♯10ジョナサン・レイが200Rシケインで転倒。これにより、♯33高橋のトップの座がさらに盤石なものとなる。レースが残り1時間を切った頃、3番手を走行する♯7「YART-YAMAHA OFFICIAL TEAM EWC」マービン・フリッツが他車と接触してスプーンカーブで転倒。3回目のセーフティカーが導入される。


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♯33「Team HRC」が単独トップのまま迎えた18時すぎ頃の130R。サーキットを包む夕闇の中をヘッドライトが流れる様子が幻想的だ
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鈴鹿8耐のチェッカーが振られるのは19時30分。暗闇の中でもラップタイムがそれほど落ちないトップライダーの走りは驚異的!
バイク世界最速を決める鈴鹿8時間耐久レースが3年ぶりに開催されホンダが圧勝!
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全車を周回遅れにした
ホンダワークスの「Team HRC」が完全勝利!

 例年通り、8時間におよぶレースの先にある栄光を賭け、各チームが最後まで白熱したバトルを披露した今シーズンの鈴鹿8耐。このレースは「スプリント耐久」と言われることもあり、8耐スペシャルと呼ばれるマシン開発を進めてきたホンダワークスの♯33「Team HRC」とカワサキワークスの♯10「Kawasaki Racing Team Suzuka 8H」の一騎打ちになるだろうと予想されたが、その前評判通り、2大ワークスが序盤からワンツー状態に。


 フルモデルチェンジと同時に「R」が3つも付く車名となった「CBR1000RR-R」をベースとするワークスマシンを初めて鈴鹿8耐で走らせたホンダワークスが、事前テストから8耐ウィーク中の合同テスト、さらには公式予選、トップ10予選、そして決勝レースまで、パーフェクトウィンと言えるレースを披露した。ホンダは過去に27回もの優勝を飾り、1997年から2006年までは10連覇を成し遂げた歴史を持っている。そのホンダが2014年以来6大会ぶり、ホンダワークスとしては2008年以来12大会ぶりの優勝をさらったのだった。


 さて、鈴鹿8耐を熱いモノにしてくれた「EWC」参戦チームだが、9月15~18日に最終戦のボルドール24時間(フランス)を控えている。今回、数々の見せ場を作ってくれた彼らのさらなる活躍にも注目したい。また、残念ながらスズキは今シーズン限りで「MotoGP」および「EWC」から撤退することを正式発表している。


 クルマもバイクも耐久レースは数々のドラマが見られるので、興味を持ったらぜひ足を運んでいただきたい。


バイク世界最速を決める鈴鹿8時間耐久レースが3年ぶりに開催されホンダが圧勝!
ホンダワークスの♯33「Team HRC」がポールtoウィン。ホンダが鈴鹿8耐通算28勝目を飾った
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8時間頑張ったレースクイーンたち!

♯2「EVA RT 01 Webike TRICKSTAR Kawasaki」

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♯3「KRP三陽工業 & RS-ITOH」

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♯9「Murayama.Honda Dream.RT」

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♯17「Astemo Honda Dream SI Racing」

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♯33「Team HRC」

バイク世界最速を決める鈴鹿8時間耐久レースが3年ぶりに開催されホンダが圧勝!
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♯38「K's WORKS RACING」

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♯54「GOSHI Racing」

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♯104「TOHO Racing」

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