知らんうちに自転車情報になっとるで2022、私は四本淑三です。今回の話題の中心といたしますのも自転車。


 前回に引き続き、サスペンション付きステムREDSHIFT「ShockStop Suspension Stem」を取り付けてみたというお話であります。ステムというのはハンドルとフォークコラムを接続する棒のようなもので、これを上下に動かして振動を吸収するというものです。


 装着する車両は、まだアメリカで造っていた頃のキャノンデール製シクロクロス。2003年か2004年のモデルで、アルミフレームのあちこちに貼られた「HAND MADE IN USA」の文字と星条旗が誇らしげ。ご存知の通りこれは栄華の終わりを示すフラグと化してしまいましたが、何処で造ろうがキャノンデールは相変わらずキャノンデールであり続けているのは素晴らしいことであります。


 この自転車にREDSHIFTのサスペンション付きシートポスト「ShockStop Suspension Seatpost」を装着したところ期待を上回る効果を見せ、そのおかげでハンドルの振動が余計に目立ってきた。そこでハンドルにもサスペンションを付けてやれというわけです。


円軌道で上下するスイングアーム式サス

フルサス装備で世界のナベアツ化した自転車について

 一見すると普通のアルミ製ステムと変わりません。そして普通のステムと同様に取り付けられます。


 対応するフォークコラム径は標準的な28.6mmと、オーバーサイズ31.8mmの2種類。ハンドルクランプの径はやはり標準的な31.8mm。私の自転車のハンドルは旧い26mm規格のためシムをかませて合わせましたが、大抵のロードバイクに装着できるはずです。


 ステムの長さは、80mmから120mmまで10mm刻みで選べます。

上向き、下向きの取り付けに対応。アングルはプラスマイナス6度で、80mmと100mmには30度のアングルも用意されています。


 サスペンションの形式としては、コラム付け根の軸を支点としてスイングアームが上下する構造。これは180度ひっくり返したトレーリングアーム式サスペンションのようなもの。スイングアームが円軌道で上下するため、サスが動くとホイールベースも変化する特徴も同じです。


 ステムの長さはサスペンションアームの実効長とイコールですから、ステムの長短で衝撃の減衰効果も違うはず。私はプラスマイナス6度で、キャノンデール純正と同じ長さの80mmを選びました。後も出てくる乗り心地などの感想は、あくまで80mmサイズの話としてお読みください。


エラストマーの組み合わせでバネの硬さを調整

フルサス装備で世界のナベアツ化した自転車について

 最初に体重に合わせ、取説通りにバネの強さを設定します。この設定が適用できる体重は、80mmサイズの場合、ドロップハンドルで93kg、フラットバーが98kgまで。ステムとしての許容荷重は135kgです。


 バネとなるのはエラストマーで「黄・橙・青・緑・黒」と硬さの違うグミのようなものが5個付属し、これらを2つ組み合わせて、あるいは1個単独で、ステム中に挿入します。


フルサス装備で世界のナベアツ化した自転車について

 ステム内には十字に間仕切りされたプレートがあり、エラストマーはその上側の2室に収まります。


 このプレートはフォーク側のクランプに固定されており、可動するのはハンドルクランプを持つ外側のケース。その間にエラストマーを挟んで圧縮する仕組みです。自動車のサスで言えば、プレートがサスを支える車体側のアッパーマウント、ケースがスイングアームという見立てもできます。


フルサス装備で世界のナベアツ化した自転車について

 このエラストマーを適度に圧縮してプリロード状態を作るため、十字プレートの下側にクサビ型のパーツを差し込みます。これでアングルは上向き6度、あるいは下向き6度に固定されます。


 このステムで面倒なのは、調整のたびにクランプを外し、エラストマーやクサビの着脱をしなければならないことです。乗車姿勢によってステムにかかる荷重も違いますから、初期設定が気に入らなければエラストマーの組み合わせは試したい。私はこのステムを上向きに取り付けましたが、下向きにするならエラストマーとクサビの挿入位置も逆にしなければなりません。


 でもその作業はやってみるとちょっと楽しい。


 先のクサビ型のパーツ、挿入するにも抜き取るにもそれなりの力が要るため、挿抜用の赤い専用工具が付いてきます。なかなかしっかりした造りの工具で、自転車のクランクを抜くエキストラクターのようで面白い。


フルサス装備で世界のナベアツ化した自転車について

 そして十字プレートを固定するネジのトルク指定は3Nm。

5Nm以下を測れるものがなかったので、ついでにシブイチ(1/4インチ、6.35mm軸)のトルクレンチを奮発してしまいました。ちっちゃい東日、とっても可愛い。


坂を登るには不利だが平地は楽勝

フルサス装備で世界のナベアツ化した自転車について

 そんなこんなでフルサス仕様のシクロクロスが完成。


 このステムは見て分かるような派手なストロークもしませんし、大きな突き上げにもあまり効果を感じません。路面の凹凸でガクガクとハンドルが上下するようでは怖くてやってられませんから、それで正解です。


 その代わり振幅の短い振動をよく吸収するようで、乗車時間が長くなるほどありがたみが増すタイプ。2~3時間走った程度では手に痺れもやってきません。ぶ厚いバーテープやゲルシートの入ったグローブで我慢していた昔は何だったんだというくらいのものです。


 だけど値段が高いじゃないか。そう思う方もいらっしゃるでしょう。確かにアマゾンで2万5244円は安くありません。


 でもアルミのステムと比べるからそう感じるだけ。振動吸収性に期待してカーボンハンドルを買うよりは安く、その効果もカーボンの比ではありません。

以前この自転車に3Tのカーボンハンドルを付けていたので、それは断言できます。


 ただ重い。今回の80mmサイズで実測251.0g。同じ長さのキャノンデール純正80mmステムは136.0gでしたから、115.0gも重い。前回のサスペンションシートポストと合わせると446.0gも重い。実にボトル一本分。坂を登る人なら途中で捨てたくなるくらいのものでしょう。


 でも平坦路なら大丈夫。砂利道はだいたい平坦なものです。


私はこれでホイールベースになりました

 予想外の効果もありました。このサスペンションは車輪の路面追従性を上げるものではなく、ただ自転車から乗員を浮かすだけのものです。それでもトラクションをかけて走れる場面が増えました。

私をバラストとするマスダンパーのような効果も得ているのでしょう。でも明らかに変わったのは私の乗り方です。


 路面の突き上げを避けるために腰を浮かす場面でも、座って荷重をかけたままペダルを踏める。だから悪路でも減速せずに進める。何十年も補修されずに粉砕されグラベルと化したアスファルト路面など、北海道にありがちな悪路も平気。これで平均速度も微妙に上がった気がします。


 もうひとつ驚いたのは、前後のサスの動きが合成されて起きる珍現象です。


 上向きのステムが円軌道を描いて水平近くまで下がると、サドルとの距離が微妙に伸びる。これは先に申し上げたトレーリングアーム式サスの特徴です。加えてパンタグラフ式のサスペンションシートポストは斜め後ろに下がりますから、これも沈み込むことでまたハンドルとの距離が微妙に伸びる。


 では前後輪が衝撃を受け、前後サスが同じタイミングで圧縮されるとどうなるのか。自動車だったらホイールベースが伸びるでしょう。

でもこの自転車で伸びるのは力点を握る人体。つまり私とホイールベースが一心同体となるのです。


 それはまるで尺取虫にでもなったかのような未知の感覚。ぬるっと身体が伸びる不思議な体験であります。しかもごく一瞬の出来事で、忘れた頃にしかやってまいりません。ついでに不意を突かれて思わず変な声も出ます。前後サスが同じ位相で縮んだときだけ尺取虫になる、世界のナベアツ式サスとでも申しましょうか。


 長く走っているとホイールベースの声まで聞こえるようになります。


 ボク、ホイールベース。
 いつもタイヤとタイヤの間にいるよ。
 ただの距離だから触れないけど、ボクがいないとキミは真っ直ぐ走れないんだ。
 ほら、ランチアストラトスを覚えているだろ。
 クルクル回っていた、あのクルマさ。
 あれはレースに勝ちたい人間の欲のために捨てられたホイールベースたちの呪いなのさ。
 ボクらの存在を無視して乗り物を造らないで欲しいんだ! 
 ボクらを感じて欲しいんだ、ホイールベースの気持ちを!
 ボクらは一輪車なんか、だーいっきらいなんだあああああああ!


フルサス装備で世界のナベアツ化した自転車について

 そんな妄想に耽りながらペダルを回しておりますと、気がつけば遠く離れた河川敷にいて、取水施設なんかをボーッと眺める無能の人と化していますから最高です。


 ならば、もっと気軽に乗れるようにとフラットペダルに交換し、シューズも高校生以来のVANSに。冬も走ったろうと、モンベルやパールイズミのウェアやグローブを購入。グラベルロードらしくタイヤをグラベルキングに交換し、下ハンが広がったフレアハンドルもお試し中。雪が降ったらスパイクタイヤも仕入れてしまうでしょうし、低圧でさらに乗り心地が良くなるチューブレスホイールも注文してしまうでしょう。


 結局、新車のグラベルバイクが買えるくらいの出費になってしまいそうですが、気分は最高です。それではまた。

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