トヨタ/GRスープラRZ
育ての親が違う双子「GRスープラ」と「BMW Z4」にクルマ文化と面白さをみた
BMW/Z4

 車好きなら2019年に登場したトヨタ「GRスープラ」とBMW「Z4」の2台が、エンジンやシャシーといったプラットホームが共通の兄弟車であるのは誰もが知るところ。ですので、人によってはGRスープラのオープンカーがZ4という論をとなえる方もいらっしゃいます。

一方で「全然違う!」という人もいて、正直なところ不肖もよくわからず。たまたま同時期にGRスープラの2020年仕様と、Z4の直列6気筒エンジン搭載モデルを試乗する機会がありましたので、今一度この2台の違いをご紹介したいと思います。


トヨタとBMWの共同開発だが
2台は似て非なるモノ

 2011年に技術提携を締結したトヨタとBMW。GRスープラとZ4は、その第1弾モデルとして誕生しました。シャシーは先代Z4を基本的に流用し、そこにBMWのパワーユニットを搭載。生産もBMWグループと生産委託契約を結んでいるマグナ・シュタイヤー社のオーストリア・グラーツ工場で作られています。ですので、製造事業者はBMW(Bayerische Motoren Werke AG)名義で、トヨタは輸入販売元として位置付けられています。


 開発はBMWに丸投げ、と思いきや違います。というのも、車体の構成に不可欠な主要部品をBMWと共同開発したのちにトヨタ側は5代目スープラ、BMW側では第3代目のZ4を開発するチームが別個に立ち上げ、互いの車両の構想を練った後に共有できるものは両車種で共有したのだとか。いわば「双子だけれど、育ての親が違う」というわけで、でき上がった2台は似ても似つかないのは言うまでもありません。


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Z4のフロントマスク
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GRスープラのフロントマスク

 まずはエクステリアから。実際に乗ってみて感じたのは、GRスープラとZ4では、バンパーのアプローチアングルが異なるということ。GRスープラはリップをつけ地面と平行であるのに対し、Z4は角度をつけているのです。

見た目はGRスープラの方がかっこいいのですが、これがガソリンスタンドの入口で気を使うことしばしば。ちなみに最低地上高はGRスープラが112mm、Z4が114mmですので、立体駐車場によっては入庫を断れられる場合があります。このあたりはスポーツカーあるあるです。


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BMW Z4の最低地上高は114mm。注意しないとバンパーは大抵の輪留めに擦ってしまうだろう

 同じくスポーツカーあるあるが、駐車場の輪留めブロックにバンパーをあててしまうこと。ですので、バックはほどほどにした方がいいでしょう。あとは特に気を付けることはありません。どちらもロングノーズのクルマですが、普段乗りで「前が見えない!」というシーンは少ないでしょう。なお、GRスープラはフロントフェンダーが少し盛り上がっているので、車幅感覚がつかみやすい印象を受けました。


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GRスープラの室内
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BMW Z4の室内
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運転席の左脚側に大きなパッドがあるGRスープラ

 インテリアは似ているようで、かなり異なります。筆者は身長185cmあるのですが、GRスープラは、乗降が結構大変。GRスープラの全高は1290mm、Z4は1305mmと15mmしか変わらないハズなのですが、乗り込み時でラクなのは圧倒的にZ4。

この乗降性の違いは、おそらくシートに起因しているもので、GRスープラの方がフルバケットシートに近い、サイドサポートの形状が高いのです。それはスポーツカーとしては、とても「らしい」と思う半面、慣れなかったり日常使いでは不便に感じることも。それを助長するのが、左側にあるニ―パッドの存在。


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 スポーツ走行時には体を支えるのに便利なアイテムなのですが、普段は狭さであったり、またはセンターコンソールまわりにスマホなどを置いた時に邪魔だなぁと思ったりもします。


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 Z4は、身長185cmの人が快適に過ごせること、というBMWの設計基準があるため、実に快適そのもの。またシートもサイドサポートも高くありません。逆にいえば「スポーツカーらしさ」というのは希薄ともいえます。


メーターパネルはどちらもスポーツカーらしい

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Z4のメーターパネル
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GRスープラのメーターパネル

 そのスポーツカーらしさ、というのはメーターパネルにも表れています。GRスープラはセンターに指針式タコメーターを配置してスポーツムードいっぱい。Z4はBMWらしく左側に速度、右側にエンジンの回転数を表示します。見やすさという点ではGRスープラに軍配をあげましょう。


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育ての親が違う双子「GRスープラ」と「BMW Z4」にクルマ文化と面白さをみた

 インテリア関係で違いを見出すなら、センターコンソールまわりでしょう。基本的なレイアウトは似ているのですが、GRスープラにはオートブレーキホールドのボタン(機能)はありません。

またスポーツモードのボタンがとても大きくなっているのも特徴的。Z4側は、ほかのBMWと基本的なレイアウトを踏襲しています。SPORTモードのボタンに大きくはありません。


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Z4のトレイ
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GRスープラのトレイ

 そして小物入れのフタがZ4にはあって、GRスープラにはなく、USBやアクセサリーソケットの位置も若干異なります。ナビ画面はどちらも同じサイズですが、Z4の方がドライバーに向いているようにも見えます。またメーターパネルと一体のような形状。GRスープラの造形はメーターパネルと独立させ、正面に向けています。


収納はクローズドボディーのスープラに軍配だが……

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GRスープラのラゲッジスペース
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Z4のラゲッジスペース

 スポーツカーといえども、収納は重要な要素です。Z4の方が幌を収納することもあって、どうしても容積は少なくなるのは仕方のないところ。GRスープラは広いバックドアを開けて収納はとてもラク。ですがバックドアは結構な重さがあったりします。


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 シート裏に仕切り板の有無も違いとして挙げられます。ドライバーが乗り込む際、カバンを助手席のシートバックに置こうとすると、Z4はアタッシュケース程度の薄さなら入りますが、ボストンバックを置くことは無理。

GRスープラは荷物のサイズに制限はないものの、荷室に仕切り板がないため、運転中カバンが右にいったり、左に行ったり……。運転後にカバンを取って出る際に、バックドアを開かなければならない、ということになったりします。


スポーツカーを意識させるスープラ
グランドツアラーのZ4

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 運転フィールは、否応なく常にスポーツカーを意識させるGRスープラに対して、スポーティーテイストで留めるZ4とまったくの別物。GRスープラのサスペンションは硬めで、フラットではない路面では、結構強めのショックをドライバーに伝えてきます。Z4も相応に硬いのですが、そのショックの角は丸みを帯びているといえそう。


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 そしてアクセルやハンドルの操作に敏感に反応するGRスープラに対して、Z4は普通のクルマのような、操作系に遊びを感じるところも。それは挙動にも表れており、Z4は安定志向でリアに加重がしっかりかかっている印象で、GRスープラはサイズ感を忘れる機敏で軽快な反応です。スポーツカー好きにはたまらないフィールでしょう。


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 視界は結構異なり、GRスープラは上下方向がかなり狭い印象。ですので、信号待ちで停止線に停めると、体をハンドルに近づけない限り信号を見ることができない時があります。ゆえに停止線のかなり前に車を止めることになることも。またルームミラーの位置が低いため、常にルームミラーが目に入ります。

後方に白と黒のクラウンの有無を確認するにはとても便利。


 居住性に目をむけると、両車とも常に排気音が室内に聞こえるのですが、その音量はGRスープラの方が大きい雰囲気。音質は、乾いた感じのZ4に対して、どこか湿り気を帯びた低音を響かせるGRスープラという雰囲気。どちらも同じマフラーらしいのですが、かなり印象が異なります。GRスープラの場合、助手席の人の声が小さいと聞き直すこともありました。


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 話を走りのことに戻しましょう。お楽しみのSPORTモードです。GRスープラは、もともと俊敏だった印象が、より研ぎ澄まされるといいますか、抑制されていた本能を開放したかのような暴れっぷりをみせます。ちょっと公道で使うのは怖いかも。Z4はGRスープラの標準状態に変わるという印象。それ以上に驚いたのは排気音がかなり太くなり、さらにアクセルオフ時にブリッピングをするなど、演出面でも耳を楽しませてくれます。街乗りでも使いたくなるSPORTモードといえるでしょう。


育ての親が違う双子「GRスープラ」と「BMW Z4」にクルマ文化と面白さをみた

 さて、筆者ならZ4とGRスープラのどちらを選ぶか? 本音を言えば「両方欲しい」のですが、どちらかといえばZ4です。ですが20代や30代の血気盛んな時期なら、GRスープラを選択するでしょう。GRスープラの車内に轟く排気音にハードな乗り味は、スポーツカー好きの心をつかんで離さない魅力にあふれていて、「このクルマを作った人は、いい意味で変態だな」と思いますし、作り上げたトヨタには拍手喝采です。


 年を重ねると、ハードな演出のスポーツカーに長時間乗ることが辛くなるのです。BMWのZ4は、スポーツカーというよりも、スポーティーなグランドツーリングカーといった印象。このクルマに乗って知らない土地を、ルーフを開けて走ったら楽しいだろうなという夢を抱かせるのです。ここに、高級車を作り続けてきたBMWの教養を感じずにはいられません。


 GRスープラとZ4、生まれは同じでも、育て方の違いでここまでクルマは変わるのかと驚いた次第。そこには自動車メーカーの個性がきちんとあり、グローバル化が進んでもお国柄は出るものなのだなと、改めて感じました。


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