マツダは、フラッグシップモデルの「MAZDA6」が前身の「アテンザ」誕生から20周年の節目を迎えたことへの感謝として、クリーンディーゼル搭載車に特別仕様車「MAZDA6 XD 20th Anniversary Edition」を設定しました。そのアニバーサリーモデルに、特別なボディカラー「アーティザンレッドプレミアムメタリック」が登場。
マツダの「匠塗(TAKUMINURI)」ってどんな塗装?

お話を聞いたのは、マツダのデザイン本部 岡本圭一さんと技術本部 河瀬英一さん。デザイン面と塗装技術の両面から「匠塗」について説明をしてくれました。

マツダは「カラーも造形の一部」という思想に基づき、デザインテーマ「魂動」のダイナミックで繊細な面構成を際立たせるカラーの開発に力を入れています。そして、熟練の塗装職人が手塗りしたような精緻で高品質な塗装を、量産ラインで実現する技術を2012年に完成。「匠塗(TAKUMINURI)」と名付けることになりました。


その第1弾は、初代「CX-5」に採用されたソウルレッドプレミアムメタリック。それまで塗膜は1層目にカラー層、2層目に反射層、クリアー層の3層で構成されていました。ですが、それではフォルムの抑揚を出すための陰影感をもっと出してほしいというデザイナーからの要望が生まれます。そこで塗装技術側は、反射層とカラー層を反転。さらにアルミフレークを特殊な技術(体積圧縮)により平滑に並べることで、入射光の乱反射を抑えることに成功。

そしてソウルレッドプレミアムメタリックは、マツダを象徴するカラーとなりました。一時期マツダのディーラーは、すべてソウルレッドプレミアムメタリックの展示車が並んでいたように思います。




匠塗の第2段として登場したのは、マシーングレープレミアムメタリック。「マシンの美学」を表現するカラーとして、2015年末に北米市場へ投入された「CX-9」に初採用。翌2016年に「アクセラ」「アテンザ」に採用することで日本市場へも導入されました。金属感を出すため塗装技術の河瀬さんは、1層目に漆黒顔料を塗り、その上にアルミフレークを塗り重ねるというもの。
ポイントは2層目のアルミフレークはソウルレッドプレミアムと同様に体積収縮で平滑に並べる際に、1層目の漆黒が乾く前のウエットな状態で2層目を重ねるため、「1層目の塗膜表面を平滑にする技術を開発した」のだそう。これで陰影感が協調することができたのだそうです。



次なる匠塗はソウルレッドクリスタルメタリック。ソウルレッドプレミアムメタリックを進化させ、さらなる鮮やかで深みのある赤で、2017年に登場した新型「CX-5」の登場に合わせて作られました。ソウルレッドプレミアムの1層目は入射光を効率よく反射することに主眼が置かれていたのに対して、ソウルレッドクリスタルではそこに光吸収フレークを入れて反射と吸収の二役を担うようにしました。
これはマシングレープレミアムメタリックで得た知見なのだそう。さらに塗料のサイズを名のサイズとしたのだそうで、反射ではなく散乱という現象が起こり、赤い波長の光だけ目に届くようになったのだそうです。
赤だけでなく白も追加された
「ロジウムホワイトプレミアムメタリック」



匠塗の第3弾(ソウルレッドクリスタルメタリックはソウルレッドプレミアムメタリックに置き換わったため、第3弾と数えない)は、2022年に登場したロジウムホワイトプレミアムメタリック。根強い人気の白です。デザイナーの岡本さんは、白さと金属的な輝きの両立を目指したのだそう。いわゆるギラっとした白さではなく、滑らかで緻密な質感と、点や線ではなく面で輝くイメージを求めたのだそうです。
技術陣が考えたのは、アルミフレークの反射を最大限に使いながらも、入射光がその隙間を通って1層目の白顔料に届くようにすること。具体的には1層目の塗膜の平滑化をマシーングレーより進化させた上で、2層目のアルミフレークを平滑に、かつ均一の隙間で並ぶようにしたのだそう。アルミフレークを均一に分散させるために、その制御技術を開発したのだそうですが、開発中は塗装サンプルを、顕微鏡を使ってアルミフレークの数を数えたとのことです。


ここまででメタリック層をどこに置くか、ということで「レッド系」と「マシーングレー/ロジウムホワイト系」という2つの匠塗に分けられることがおわかりいただけるかと思います。そして、今回登場したのが匠塗誕生10周年を祝うアーティザンレッドプレミアムメタリックです。アーティザンレッドプレミアムメタリックは「熟練した職人によって創り上げられた赤」という意味で、デザインイメージは「最高峰の職人技で生み出される熟成されたワインのような赤」なのだそうです。
もともとはラージ商品群向けに開発したカラーなのですが、日本国内ではお祝いの意味も込めてMAZDA6 XD 20th Anniversary Editionに採用しました。


アーティザンレッドプレミアムメタリックは、基本的にソウルレッドクリスタルメタリックの応用になります。ですが従来の匠塗で使った技術を総動員しているのだそう。具体的にはシェードがより深く沈むことを重視し、光吸収フレークに加えてマシーングレーの1層目に使った漆黒顔料も入れ、2層目のアルミフレークはロジウムホワイトの応用だとか。こうして、従来のワインレッドでは再現できなかった表現ができるようになったのです。


匠塗は、こうして10年で3色をラインアップ。今後は赤、グレー、ホワイトの3色を基本にしていくようです。
さて、これだけ凝った匠塗。さぞかし塗膜が厚いのかと思いきや、3層合わせて100ミクロン(0.1mm)というから驚きです。ちなみにプライマーとかサーフェーサーといったものは、使っていないようです。それは塗装を乾かす際の処理で二酸化炭素の発生を抑えるためなのだとか。
匠塗はぶつけた場合にどうなる?
メンテナンス方法を聞いた

ここで意地悪な質問を河瀬さんにぶつけてみました。というのも、よく「匠塗は傷の補修が難しい」という話。
では、キレイな匠塗をいつまでも維持するには? についても聞きました。「匠塗だからいって、特別何かをする必要はありません。ですが、しいて言えば洗車前にしっかり水を流して、ホコリを落としてから洗車をはじめることをオススメします」とのこと。これで砂などでクリア層が傷つくことを防げるのだそうです。あとは普通に洗車するだけ。「車の塗装にとって大敵は水分と紫外線です。ですので、きちんとふき取っていただければと思います」。
ちなみに、クリア層にはある程度の自己修復機能は持たせているそうですが、「色味をはじめ、総合的に判断して塗料を選択、厚みを決めています。自己修復機能はありますが、謳うほどではありません」ということで、カタログには記載されていないようです。

仕上げ材については「特に何かは……」と笑いながら「車にとって大敵の水をはじく、という点では油分であるワックスの方が望ましいかもしれませんね」ということで、オススメはワックスだそう。では、最後に河瀬さん自身は気を使われているのかというと「平気な顔をして洗車機に入れています(笑)」とのことでした。
コダワリながらも普通に使える匠塗。ぜひチェックしてはいかがでしょう。
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