「Compact Sport Utility Vehicle(コンパクト・スポーツ・ユーティリティ・ビークル)」、略して「コンパクトSUV」やら「都市型SUV」と呼ばれるクルマに乗るたびに疑問に思うことがあります。それは踏んでも進まないエコなエンジンを載せているため、まったくもって走りが楽しめないこと。
そういうクルマではないけれど
走りはやっぱり楽しめたほうがいい
コンパクトSUVの「踏んでも進まないイライラ問題」に加え、もう1つ不満なのが「コーナーが楽しくない」ということ。というのも、SUVは重心が高いため、コーナーリングの姿勢が不安定なのです。コーナーのたびに車は大きくロールするので、怖くなって速度を下げがちに。峠などでは気がつけば後ろのクルマに追いつかれてしまうわけです。コンパクトSUVは「便利だけど楽しくないクルマ」というのが個人的印象です。

そんなコンパクトSUVのひとつ、アウディQ2を試乗した時のこと。サイズ感はバッチリ。内装だって悪くない。お値段は「まぁ、アウディだし」というプライスなのは納得しましょう。よって「普通にイイ」クルマなのですが、一方走りの面で「アウディ、お前もか」と感じたのも事実。「トルクがもう少しあれば、街乗りでもアクセルをあまり踏まずに静かなのに」「高速道路の合流や追い越しで、ここまで踏まないとダメなの?」というように、「足とシャシーはメッチャいいけれど、エンジンがね」という印象を受けました。


そんなQ2のエンジンをパワーアップさせたのがSQ2ということになります。
エクステリアはあまりQ2と変わらず
したがって高級感もそのまま



まずはエクステリアから。違いはどこ? と見ると、フロントグリルがSモデル専用に変更されている程度。あとはエンブレムやフロントグリル、フロントのエアーインテークあたりが黒になっているということ以外、見分けはつきません。ですが、これはオプションのブラックスタイリングパッケージで15万円。通常はシルバーになります。アウディというと、自動車メーカーとしては初めてヘッドライトにLEDを使ったメーカーでもあります。その演出などは「マジでかっけー!」というもの。もちろん明るくて夜でも安心ですが、こちらもオプションで12万円。











インテリアはナッパレザーのシートに、赤い装飾エアコンの吹き出し口。

メーターパネルは、フル液晶画面で見やすいもの。さらにナビ画面そのものが表示されるので、視点移動が少なくとても便利です。これを一度使うと戻れないのですが、オプションで35万円と、国産ディーラーオプションのナビよりも高めの設定。ちなみに文字入力ですが、基本的にセンターコンソールのダイアルをグルグルしながら入力するのですが、正直使いづらいのが難点。基本的に、というのはほかにダイアル上を指でなぞっての手書き入力もありますが、上手くいきませんでした。右利きが左手で文字を書くのは難しいのです。







ラゲッジはQ2と同様。個人的にはプライバシートレイ(というのでしょうか)は邪魔だなと思っていて、取り外したいのですが、取り外すと「コレ、どこに置けばいいの?」となることがあります。これは他社も含めてなのですが、何か別の方法にしていただきたいところですね。
意外だったのは12Vアクセサリーソケットがなかったこと。イマドキ、12Vアクセサリーソケットを用意するクルマが増えているので、これはちょっと残念。
ここでお値段を見てみましょう。まず車両本体価格が620万円。ですが取材車両には文中のオプションのほか、アルミホイール(12万円)、赤いブレーキキャリパー(6万円)など147万円分加わって、総額767万円也! BセグSUVで767万円というプライスには言葉を失います。ですがオプション抜きで考えた場合、Q2は412万円からですので「プラス200万円で四駆と倍のパワーが手に入る」と考えると意外と良心的かも?
とはいうものの、よく見るとアダプティブ・クルーズコントロールもオプション扱いですので、「620万円のクルマ」ではなく「700万円台のクルマ」として捉える方がいいかもしれません。「さすがアウディ、いいお値段しますね」と思いながら、試乗を開始することにします。
300PSは伊達じゃない!
グイグイ進んで軽快に動く

アウディのスポーツモデルというと、「排気音が大変なことになる」と身構える方がいらっしゃるかと思います。筆者もその1人。そこで恐る恐るエンジンボタンを押したところ、実にジェントル。これならご近所迷惑にはなりません。

走行モードをAUTOにして走行開始。
Sスポーツサスペンションという専用の足ですが、硬すぎず柔らかすぎずのわずかに芯を残したアルデンテな乗り味。女性にうれしい軽やかなステアリングフィールと相まって、乗用車的アウディらしさを残しつつも、交差点を1つ曲がるだけでも「お! Q2と違って楽しいかも」と思わせるのです。ようするに「ちょっと遠回りしたくなる」ような気持ちにさせてくれる味わい。こう思わせるSUV、ありそうでないんですよ。
というのも「コンパクトSUV」という取り回しの良いクルマだから。高さ制限のある立体駐車場だって問題ありません。大きなクルマって、運転中に気疲れすることありませんか? 取り回しと加速の面でストレスが少ないのが、このクルマの最大の魅力といえるでしょう。
お楽しみのSPORTモード。右足の反応に一瞬のためらいもなく反応する直列4気筒2.0リッター TFSI ターボエンジンと、7速Sトロニックトランスミッション。重たくなるステアリング。
アウディのスポーツモデルは、運転していても、どこか冷静な自分が外から見ているという印象を受けていました。ですがSQ2はまったく異なるラテンのノリ。「え? これホントにアウディ?」と思いつつ、無限大の楽しさに「もう、どうでもよい」という気分。ただただ頬を緩めて走っていました。


アダプティブ・クルーズコントロールは、アウディらしくステアリングホイールにボタンはなく、レバーで設定。そしてクルーズコントロールの表示は右下に小さく表示され、動作状態はパッと見わかりづらいところがあります。効きはやや弱い傾向というか、白線内ならどこを走っても問題ないだろという雰囲気を感じました。




夜になるとイルミネーションが灯ります。ですが、なんかアウディらしくないような。

街乗りで使いやすく、それでいて楽しいクルマって、そうそうあるものではありません。すぐに頭に浮かぶのはアバルト595あたりでしょうか。でもアバルトには荷物が載りません。それを考えると、SQ2は実用性(Utility)とスポーツ(Sport)が融合した真のコンパクトSUVであり、逆に言えば、コンパクトスポーツSUVと呼べるのは、このクルマしかないと断言したくなります。
そこに700万円の価値があるのか? と聞かれると「大アリ!」と言いたいのですが、700万円も出すとなるとアウディQ4が視野に入るわけで、普通の人はコッチを選ぶだろうなと。やっぱりSQ2とはいえ、Q2とQ4では車格が2段階も上がるため内装は豪華だし、なにより広い。しかし、広いという事はクルマが大きいわけで、世田谷あたりの細い路地ではストレスを感じるでしょう。いや~、悩ましい選択です。そんなことを思ううちに「満足するアウディが欲しいなら最低600万円は必要」なのかと思った次第。頑張って働きます……。
SQ2を試乗して思ったのは、コンパクトSUVに必要なのはパワーだということ。ホットハッチ不在の世の中、自動車メーカーはコンパクトSUVに300PSのユニットを載せてください。絶対に楽しいですから。エコやSDGsも大切ですが、楽しくないクルマなんて誰も欲しくないと思うのです。
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