理想のe-bikeを探せ企画第3弾は、1度乗ってみたかったVanMoofのe-bike「S3」だ。
・第1回 オシャレだけど走りはガチのe-bike! BESV「PS-1」は電動アシストが切れても快適に走れる
・第2回 68万円の価値はアリ! キャノンデールのグラベルロードe-bikeはバッテリー持ちがスゴイ!
ここ数年で一番革新的な自転車といっても過言ではなく、自転車好きはもちろんデジタルガジェット好きな層にひびくe-bikeだ。なにしろ、スマートでハイテクなのである。
見た目が特徴的なのは置いとくとしても、4段変速だけどシフトは全自動(つまり自動車でいうオートマ!)だし、ライトは自動点灯(これは珍しくない)、ロックも内蔵されていて登録してあるスマホを持っていればボタン1つで解錠できるし、アップルの「探す」機能にも対応しているので今どこにあるか見つけられるし、走行データは全部スマホのアプリで管理できるしで、ガジェット好きにはたまらない仕様なのだ。
「人力でこいで、効率よく車輪を回して移動する原始的なメカ」という自転車に、モーターを追加したのが「電動アシスト自転車」だとすれば、はじめから「電気とモーターありき」でデザインしたのがVanMoofなのである。
ぱっと見、e-bikeに見えないデザインもいい。バッテリーや各種回路はフレーム内に、モーターは前輪にあるので、いわゆる「電動アシスト自転車」のシルエットではないのだ。すでに新型の「S5」と「A5」が発表されてはいるが、今回は既発売の主力モデル「S3」をお借りして、その未来のe-bike感を味わってみた。

スマホとe-bikeの華麗なる連携とは

スマホありきのe-bikeとはどんななのか。まずは、アプリ(iOS、Android両対応)をダウンロードしてアカウントを作ってログインし、自転車の電源を入れてペアリングする(今回は試乗用のe-bikeということで、PR用のアカウントを使わせてもらった)。

これで準備完了だ。あとは「スリープと復帰」を繰り返しつつ、自転車に乗るだけ。電源のオンオフは不要と、もうこの感覚からしてスマホっぽい。アプリを起動した状態で(バックグラウンドで動いてるので一度起動してればOK)近づくと、S3がスマホを認識してくれる。

逆にスマホと遠く離れてるときは、最後に接続が離れたのは何時間前で、その時の場所はここですよ、と教えてくれる。

スマホアプリの機能はおいおい、ということでロックを解除して走り出そう。S3はロックを後輪部分に内蔵している。だから別途チェーンロックなどを用意する必要はない(安全のために駐輪場所によってはあった方がいいけど)。
ロックされているS3に近づいてスマホが認識されたら、ロック解除できる。その方法は3つあるけど、3つめは緊急用のスマホなしで解錠する方法なので普段は使わない。2つのうち1つはスマホアプリから「Tap to Unlock」をタップ。

すると「がちゃん」とロックがはずれ、5秒のカウントダウンが始まるから、0になる前にちょっと動かす。ロック解除しても動かさないでいると、再度ロックがかかるというセキュリティーだ。
もうひとつは左ハンドルバーのボタン。S3のボタンはハンドルバーの左右にある2つだけ(リセットボタンもあるけど、普段は使わない)と、e-bikeとしては画期的に少ないのも特徴のひとつだ。左のボタンがロック解除・スリープ解除・警告音(ベル)の役割。スマホがS3と接続された状態で、このボタンを押すとロック解除されるのだ。自動車でいうキーレスエントリー感覚なので、普段はこれを使うのが簡単。

ロックがかかっている状態で自転車を動かそうとすると盗難防止のアラームが鳴る。ちなみに、S3はディスプレーも超簡素。液晶モニターは持たず、トップチューブ上のシンプルなインジケータに自転車の状態やバッテリー残量が表示されるのだ。逆に、ロックするときは後輪にあるキックロックを蹴る。蹴るんじゃなくて指で押してもいいけど。このとき、白い線(6ヵ所にあるのでそう大変じゃない)をだいたい合わせてから押すこと。そうすると、がちゃっとロックがかかり、自動的にスリープするわけだ。

言葉でいってもわかりづらいだろうから、S3に近づいて左ハンドルボタンでロック解除し、S3がスリープから復帰し(ほわんほわんという音が聞こえる)、走って止まって、ロックするという一連の動作を動画にしてみた。トップチューブの表示にも注目だ。
ロック解除から走って止まってロックするまでの流れが、あまりにスムーズでびっくり。自転車をここまで「電気仕掛け」にできるのだなあとめちゃ感心する。
初心者向けコラム:ドロップハンドルは怖くない
ロードバイク系で採用されるドロップハンドル。大人になって初めて乗るにはちょっとハードルが高いと感じるかも知れないけど、実はすごく楽で簡単。そのポイントは握る場所。写真のようにブレーキレバーの上に手を置く。そうすると必要以上に前傾にもならず、ブレーキに指をかけたまま自然な形で握れるのだ。

ここが基本。さらにドロップハンドルのいいところは、必要に応じて好きな場所を握れること。握る場所によって前傾度合を変えられるので、より前傾で走りたい(その方が空気抵抗が減るし)ときは下を握るといいし、身体を起こしたいときはハンドルの上部分を握る(このときはブレーキレバーから手が離れるので注意)。



スポーツ車は少し前傾になるぶん、ペダルを踏むときに体重を乗せやすいし、お尻と手の両方に荷重がかかるのでお尻も痛くなりづらい。街乗り系の自転車はハンドルバーの位置が近く、身体が起きるので姿勢としては楽だが、お尻に体重がかかるので長時間の走行には向かないし、スピードも出しにくい。

自転車を選ぶときは乗車姿勢も大事なのだ。
前輪駆動に4速オートマのe-bikeなのだった
自転車としてのメカの話もちょっとしよう。変速機は内装4段で後輪のハブに内蔵されている。オートマと書いたけど、そもそも電動式の変速をS3内蔵のコンピュータが動かしており、時速何kmになったらシフトアップ、時速何kmに落ちたらシフトダウンという動作を自動的にするのだ。そのアルゴリズムもあらかじめ、平地(Flat)と起伏がある場所(Hilly)用の2つのプリセットがあるほか、自分で細かく設定できる。


平地用はほんとに真っ平らな土地に住んでる人向けだなと思う。VanMoofはオランダの会社なんだけど、さすがフラットなオランダって感じのセッティングだ。ちょっとでも坂があるなら「Hilly」にした方が快適だろう。スポーツ自転車に乗り慣れてる人は、自分の感覚に合うようカスタムセッティングがオススメ。

変速はマニュアルがいいって人は手動変速も可能だ。変速レバーはないので、シフトアップは右ハンドルボタンをダブルクリック、シフトダウンは左ハンドルボタンを押しながら右ハンドルボタンをダブルクリックという操作になる。めちゃIT機器っぽい。
電動アシストのモーターは前輪のハブにはいっている。ちょっと珍しい前輪駆動(正確にいえば、前輪+ペダリングによる後輪の両輪駆動)なのだ。おかげでモーターもコンパクトだし、ペダル回りもすっきりしててe-bikeに見えない。

アシストレベルは1~4の4段階。注目すべきは「ターボブーストボタン」だ。右ハンドルのボタンを押している間だけアシストが最強(アシストレベル4)になるという仕組み。

だから、普段はノーマル(アシストレベル2)にしておき、上り坂だけターボブーストボタンを押して強力アシストをお願いするという使い方がオススメかも。このアイデアは最高に素晴らしい。疲れてしんどくなったら押せ、みたいな使い方をしてもOK。
もうひとつ、スマホで設定しておきたいのは「ライト」。前後のライトを内蔵していながら、自転車自体にライトのオンオフボタンはなく、アプリからコントロールするのだ。オートにしておくと、暗くなると自動的に点灯する。感度も変更できるので(デフォルトでは少し暗くなるだけで付いちゃう)自分の環境に合わせて感度を調節したい。内蔵のライトはトップチューブの前と後ろにある。これはなかなかカッコいい。




充電はトップチューブの裏側に充電端子を使う本体内充電式。なので購入時は充電場所を考えること。ガレージとかあればいいけど。室内に持ち込んで充電だと場所をとるからね。

それは日本と欧米の家庭事情の違い、自転車保管環境の違いといっていいかも。
街中を快適に走るためのe-bikeだった
準備ができたら走るのである。自転車本体のインジケーターは最小限だが、スマホを自転車に装着すると細かい情報を見られる。専用のスマホマウントは用意されてないので(新型のS5にはある)、わたしは普段使っているマウントをつけた。すると速度や走行距離、最高速度、地図も表示できてありがたいのだ。


また、乗るたびに自動的に「ライド」が自動的に記録されるので、いつどのくらい走ったか、1回のライドでバッテリーをどのくらい消費したかも記録される。走行ルートは記録されないので(記録されたら困る人もいるかもだし)、GPSログが欲しい人は別途それが可能なアプリを使うべし。

ちなみにバッテリーは504Whで走行可能距離は60(アシストレベル4)~150km(アシストレベル1)。ライドデータを見ると、フル充電してから70kmほど走ったあとで37%残っていたので(アシストは時々ターボブーストかける以外は2か3で走行)、よほど坂道が多くない限り、1回の充電で100km以上はいけそうだ。

あれこれ走り回ってわかったのは、このe-bikeは「街乗り仕様」であるということ。変速はオートマ。信号などでストップすると自動的に1番軽いギアになるので、変速に慣れてない人でも安心だ。駐輪場に止めたりちょっと買い物、ってときはスタンドを立ててロックボタン押せばいいし、解錠もボタン1つ。暗くなると自動的にライトは点灯。楽すぎて堕落しそうだ。
おおむね自転車任せにできるので、スマホをポケットやバッグにいれたままでも、何の問題もない。

その代わり、高速でびゅんびゅん走ったり急坂をぐいぐい上ったりには向いてない。アシストが切れる時速24kmを超えるとちょっとペダルが重いし、乗車姿勢もアップライトだ。いつもの急坂でテストしたけど、スポーツ仕様のe-bikeに比べるときつい。

下の動画はS3でこの坂を上ったときの車載。ターボブーストボタンで助かった部分あり。
なので超快適に街中を駆け抜ける、最先端のe-bikeだと思っていいだろう。
ひとつだけ注意すべきは、フレームがデカいこと。オランダ生まれといわれると納得しちゃうけど、S3の場合、推奨身長が170cm以上なのだ。約170cmのわたしだと、サドルを一番下に下げてギリギリだった。新型の「S5」は5cm下がったので、背が高くない人はそっちを狙うのがいいかと思う。
さらにフレームサイズとタイヤが小さい「A5」なら、身長155cmからなので気軽に乗り降りしたい人はそっちも良さげだ。機会があったら新型もぜひ体験してみたい。


いずれにせよ、新時代の自転車である。バッテリーを内蔵していればあれも、これも自動化できるんだよと、未来を示してくれた。これこそが真の進むべき「アシスト自転車」なのだろう。日常の足として欲しい!
次のページからは今回の企画を総括する。
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【まとめ】三者三様でユーザーのライフスタイルに合わせて選べる
まずは「e-bikeの現在地を知ろう」ということで、今回はスマホと連携するe-bikeから3台選んで紹介した。日本にはヤマハ(1993年、世界初の電動アシスト自転車開発)やパナソニックサイクルテック(かつてのナショナル自転車。実は老舗の自転車ブランド)、ブリヂストンサイクル(子供用からロードレース用まで手がける日本を代表するブランド)といったおなじみのブランドが多くあるが、今回は「大人の趣味のe-bike」に相応しい、ひと味違うものを、ってことで知る人ぞ知るという海外からの製品たちである。
それが電動アシスト自転車専門のブランドとして登場したBesVの主力モデル「PS-1」、アメリカのスポーツ自転車ブランドでロードレースにも機材を提供しているキャノンデールの「Topstone Neo Carbon Lefty 3」、そしてスマホとの連動を前提に設計された新世代の電動アシスト自転車VanMoof「S3」だ。
どれもしっかりデザインされていて、バッテリーもうまくボディーにマッチしてて「電動アシスト自転車然」としてないのが魅力だ。この3台を向き不向きで並べてみるとこんな感じ。
自転車の用途として、日常の足として使う「街乗り」、のんびり自転車散歩を楽しむ「ポタリング」、もうちょっと遠出する「サイクリング」、さらにより高く、より速く、より遠くに的な「スポーツ」を想定して図にしてみた。

ロック解除から走行、そしてロックするまでほぼスマホと自転車おまかせで気軽に自転車を楽しめるVanMoofは街乗りでは最強といっていい。すべてお膳立てされてるから、追加の出費(鍵とかライトとか)も不要だし、自分で変速する手間もない。

見た目も普通に「ヨーロッパっぽいデザインのおしゃれな自転車」だ。何より、未来の自転車はこうなるべきだよな、と思わせてくれる。スポーツ系の自転車ってセッティングやメンテナンス、どういうタイミングでどう変速するか、など快適に走るにはちょっとノウハウが必要になってくるのだけど、VanMoofはその辺を自動的にやってくれるし、ライトも内蔵してて自動だし、チェーンもカバーでおおわれてるので、特に自転車が好きなわけじゃないって人に超オススメ。フロントにキャリアを付けられるのもいい。
そして、その真逆がキャノンデールのグラベルロード「Topstone Neo Carbon Lefty3」。

ガチのスポーツ系なのでモーターも強力だし、どんな坂もぐいぐい上るし、何しろ走っていること自体が気持ちいい。体力に自信はないけど、いろんなところを自在に走り回りたい、風を切って走る楽しさを味わいたいって人に最適だ。これなら躊躇するような峠でも攻めれるわけで、坂を上るときなんか快感ですらある。こちらは自転車好き向けだ。
また、意外と幅広く対応してくれるのがBESVの「PS-1」。

小径車なので街乗り用ぽいし、確かに小回りも利いて街乗りにいいけど、その中身は結構スポーツ系。その気になればスピードも出るし長距離ライドにも対応できる。しかも、車体が17.4kgとe-bikeとしては軽いのもよい。自転車としても本格的な仕様なのでカスタマイズの楽しみもある。
ちなみに、どれも日本の法律に準拠しているので、アシスト力は最高で人力の2×(ただし速度による)だし、時速24kmを超えるとアシストはゼロになる。ただ、モーターの最大トルクには差があって、VanMoofのS3は59Nm、キャノンデールのTopstone Neo Carbon Lefty3は75Nm。街中の走行ではまったく差は感じないが、激坂を上るときに違いが出る。
カッコいい街乗り自転車か、小回りが利いて街乗りからサイクリングまで幅広く楽しむのか、休日に趣味道楽で自転車に乗り回して時には峠も攻めたいのか。バッテリーに関してはどれも70~100kmは走れそうなので、よほどの遠出をしない限り問題なさそうだ。
じゃあ、どれが理想のe-bikeかというと……難題すぎるので先送りしていいですか?