ND型ロードスターを開発した山本修弘氏がマツダを定年退社しました。その山本氏を囲むプライベートな慰労会が4月に開催され、幸運なことに筆者もそのイベントに参加できたので、レポートします。
NC、NDとロードスターの主査を務めた山本氏とは?
マツダの山本修弘氏が2023年2月に定年退職しました。御年68歳、入社から50年の節目となる退職です。
元ロードスター主査の山本修弘氏
山本氏は、2代目(NB型)と3代目(NC型)ロードスターを生み出した貴島孝雄氏の元でロードスターの開発に携わり、3代目(NC型)ロードスターの主査、そして4代目となる現行ND型ロードスターの主査を務めてきました。直近は主査を譲り、マツダ社内において後進の育成、車外に向けてはロードスターのアンバサダーとして活躍してきました。
ロードスターの歴史を継続させ、今に伝えた功労者なのです。現在のロードスターオーナーすべての恩人でもあります。もちろん、長らくロードスターを愛車としてきた筆者も同様です。さらに、こちらは仕事を通じて、10年以上のお付き合いがあります。まさに、公私ともにお世話になってきたのです。
そんな山本氏の退職に際して、これまでの慰労と感謝を込めて「囲む会」を開催するので参加しませんか? というお誘いがあったのは今年1月のこと。以前のマイカーを譲った知人からの連絡でした。話を聞くと、どうもマツダがらみではなく、小規模なプライベートの開催とか。参加者でお金を出し合って、広島に住む山本氏を招待し、神奈川県三浦で食事会とドライブをしようというのです。
2014年の現行(ND)ロードスターの
お披露目イベントからの付き合い
集合となったのは4月中旬の日曜午前9時。まずは、主催者に挨拶して話を聞いてみました。ロードスターオーナーの今野繁幸さんです。
「山本さんとは2014年の舞浜での発表会で知り合いました。発表会のステージで新型ロードスターに乗れるという抽選に当選したんです。世界で最初にNDに乗ったんですよ(笑)」と今野さん。確かに、当時の発表イベントの写真を見直すと、最初に乗ったユーザーとして今野さんの写真が残っていました。
「それから実際にNDロードスターを買って、軽井沢ミーティングで納車式をやってもらって。山本さんも僕のことを気にしてくれたようで、それ以来、頻繁に連絡をとっていたんです」と今野さん。そして山本氏の退社の話を耳にして、「お疲れ様会」を開こうという流れになったとか。
「それと、今日行くイベント会場のリバイバルカフェは、ロードスターと同じようにいろいろな出会いと幸せを貰っているお店なので、この店に山本さんを呼んで、ロードスター・ミーティングをやるアイデアをずっと温めていました」とのこと。
このイベントのユニークな点は、参加者の顔ぶれです。というか、参加車そのものにあります。初代(NA型)、2代目(NB型)、3代目(NC型)、4代目(ND型)、そして10周年、20周年、25周年、30周年という節目の記念車、さらにはM2車両という、ロードスターの歴史を一気に振り返るラインナップを揃えたのです。そのため参加は29台のみ。おもに今野さんのお友達ネットワークで集められました。筆者は幸運にも、そのネットワークの端に引っかかることができたため、数少ない参加枠を得られたというわけです。
クルマをテーマにした
三浦のユニークなお店「リバイバルカフェ」
イベント当日の朝9時に会場最寄りの高速道路のSAに集合した後、「リバイバルカフェ」に向かいます。ここで主催者から会場入りに対する細かい注文が。数台ずつ、5分刻みで行けというのです。なぜなら、会場となるカフェは、個人経営の小さなお店のため、29台のロードスターを駐車するのは至難の業。そこで最初から29台それぞれの駐車位置が厳密に定められており、決められた順番に入庫しないと入りきらないのです。しかも1台でも遅刻すると目論見がパー。
しかし、この日は全員が時間厳守で集まり、1時間ほどかけての駐車は無事成功。
会場となった「リバイバルカフェ」は、蔵を改造した母屋にテラス席が備わるお店。クルマをテーマにしたカフェですが、アメリカ風ではなく欧州風というのが特徴です。フード類もおしゃれで凝ったものが多く、店の規模に比べて駐車場が広いこともあって、三浦半島をドライブする人たちに人気となっているとか。今回のイベントの主催者である今野さんが「出会いと幸せを得られる」とファンになるのも納得の雰囲気です。
山本氏から直接マツダと
ロードスターの歴史の話を聞く
カフェにクルマをぎゅうぎゅうに駐車できたら、ようやくミーティング開始。まずは参加者全員の自己紹介から。全員という点は参加29台という、こぢんまりとした規模だからこそできること。自己紹介を聞いていますから、知らない人にも声がかけやすくなります。ここで、イベント前日に新車が届いたというオーナーの納車式も行なわれました。山本氏とともに、シートや内装のビニールを剥がしてゆきます。
その後は、カフェ2階部屋を使って約30分の山本氏によるマツダとロードスターの歴史講演。
そして、13時すぎに山本氏による挨拶。そして山本氏へのプレゼント贈呈と、逆に山本氏からのお土産が参加者に配られたのです。
気が付けば時間は14時過ぎ。カフェに滞在した4時間は、あっという間でした。小規模のイベントですから、山本氏の隙を見つけては、サインを求めて参加者が次々と突撃。最初から最後まで山本氏は大忙し。それでも山本氏は、最後まで楽しそうな様子です。
NDロードスターができるまでの本の執筆
そして未来のマツダへ
イベントを終えたところで山本氏に話を聞くことができました。その様子をインタビュー形式で紹介します。
――お仕事を辞めてからは、いかがですか?
山本氏 2月10日に会社を辞めましたが、次の週に広島のマツダ・ミュージアムでファンイベントがありました。その後は、横浜での「ノスタルジック2デイズ」があって、4月には「スタイルカウンシル」もあります。久慈でのファンミーティングもあるし、講演をやってほしいという話もあります。結構あるんですよ、忙しいなと思うし、ありがたいとも思っています。
――退社した後も、遠くまで出かけるのは大変ですよね?
山本氏 それは逆ですね。こうやって、ロードスターのお客さんと話もできて、素晴らしい時間が過ごせる。こんなに良いことはありません。うれしいし、ありがたい。僕の方が呼んでいただいて感謝しますという感じです。
――今後もこういう機会があれば、顔を出すということですね?
山本氏 行きますよ。
――普通、会社をやめると暇になって困るという話を聞きますが。
山本氏 逆に時間があるので、まさに本を書くのに絶好なタイミングだなと思ってます。実は出版社から本を書きませんかと言われたんですよ。NDロードスターができた後のことは、いろいろ言っているけど、できる前の8年間でどんなことが起きたのか。どういう風に仕上がったのかは、僕にしか書けないことがあるし、書きたいと思います。マツダ広報にも相談してみたら「いいよ」と言ってくれたしね。こういうチャンスはないので、ぜひ残していきたいなと。
だから今は、すごい充実していますよ。朝起きて、ウォーキングしながら、今日は何を書こうかなと考えて。午前中にザーッと書いてゆく。そういう日々が続いています。でも、会社に行かないのはちょっと寂しいなと感じながら(笑)。
――本ができるのは来年ですか?
山本氏 来年でしょうね。応援してもらいたいし、逆にプレッシャーを貰った方がいいと思うので。ついつい僕らが書くとレポートになってしまうんですね。本とレポートは違うので、難しいですね。
――ところで、会社をやめた後のロードスターに不安はありませんか? ちょうど今、クルマを取り巻く環境が大きく変わっていますし。
山本氏 大変だよね。でも、振り返ってみれば、僕が生きた時代もいろいろなことがありました。オイルショックがあってAM出向(1970年代に販売不振の全国の販社にマツダの社員が応援に出向したこと)があったり、2002年に2000人がリストラされたり、いろいろと会社の苦心を何度も体験しています。でも、大変なことがあったときこそ、まさに変革のチャンスなんですね。そういうことがあったからこそ、マツダは独自の道をちゃんと今までやってこれました。
ですから、CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electricの総称)になろうとも、電動化になろうとも、マツダのファンがいる限りマツダネス(マツダらしさ)を持ったクルマが絶対に出てくるんだと思う。そういった想いを期待しないといけないね。お客さんの、そういった想いはすごく響くんですよ。批判じゃなくてエールを送り続ける。応援するというのは、お客さんとして大事なんだろうなと、すごく思いますね。
――次のロードスターがエンジン車かどうかわからなくても、それでもマツダらしいクルマが出てくるということですね?
山本氏 ロードスターも、そのほかのクルマもそうですけれど、クルマは社会の影響を受けています。環境対策、安全対策は当たり前ですよ。その上で、何を価値にするのかと考えるますが「人がクルマを運転する」ということは、まったく変わりません。人が求める価値も、よくよく考えると、変わっていないんです。そう考えるとブレる必要はないんです。
電動化もCASEもパーパス(目的)じゃなくて、ソリューション(解決手段)なんです。その手段を使って、マツダが何を目指すのか。そこさえ見失わなければ、マツダはずっとお客さんの期待に応えることができる。そう思うから、全然心配していません。ロードスターの電動化も、どんどんやっていけばいい。マツダならではの電動ロードスターを、みんな期待していると思います。
もし僕が現役で会社にいれば、全力で作りたいと思うよね。だって、新しいことができるもの。エンジニアは、きっとそう思い描いているんじゃないでしょうか。そのためには技術がいる。今までできなかった新しい技術を、ブレークスルーして作る。それがエンジニアの仕事なので、今はやりがいがあるんじゃないですか。新しい価値を生み出さなくてはならないから大変かもしれないけれど、だからこそモチベーションをもってやっているんじゃないかな。また、やる価値もあると思いますよ。
──ありがとうございました。今後のご活躍も期待しています!
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筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。











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