フラペなんかどれも同じやん。うっかりビンディングなんかで舗装路ばかり走っているとそう思いがちですが、そんなわけはまったくなかったのでした。
車輪の付いた乗り物のパーツを買った情報2023……くらいにしておきたい私は四本淑三です。今回も話題の中心といたしますのはフラペ。自転車のフラットペダルであります。すんません、また自転車で。
前回は、国産で安いからと何気なく買ったMKSの「RMX」でした。これはフラペ入門の定番だったそうで、なるほど納得。一般的な自転車のオーナーがこれに交換したら「なんかいいペダル買っちゃた」と満足すること請け合いであります。なにせ私がそうだったので。
しかし、これが入門であるのなら、くぐった門の奥にあるのは何か。そう考え買い進めていくうちに、利用環境やシューズに合わせて様々な選択肢があることに気づくのでありました。
クルクル回るMKS「ALLWAYS」

2番目に買ったのは同じくMKSの「ALLWAYS」でした。
いやー、これまたびっくり。軸の回転がべらぼーに軽い。
RMXと同様、ペダル本体はアルミダイキャストで、重さは左右ペア実測で384.0g。CNCの切削品と比べれば決して軽いとは言えませんが、薄く整形されて精密感があり、指で叩くと「チーン」と鐘のような音がします。風鈴か。さらに叩きながら回し続けるとドップラー効果によるフェイズシフトサウンドも楽しめます。ジミヘンか。
購入時の価格は、これまた正確には覚えていませんが、いまAmazonで見ると税込5574円。同じアルミダイキャストのクランクブラザース「スタンプ2」は1万2000円前後。円安で海外ブランドが割高なこともあるでしょうが、お安いことは間違いなし。
スニーカーで踏んだ際の食いつきの良さもRMX譲り。こちらは大小6個の丸いピンが滑り止めで、これがソールのパターンにハマってくれるというものです。

RMXに比べて踏面が広く、また厚みがあることでクランク軸の低いロードレーサーなんかでコーナーを攻めると路面に干渉しやすいかもしれません。でも、そこはペダリングを止めて曲がる方向の足を上げればいいだけ。
RMXと違うのは、踏面が軸中央部に向けて窪むように湾曲していることです。おかげでソールがふにゃふにゃのランニングシューズでも踏んでいて疲れにくい。足裏の親指付け根にある膨らんだ部分、いわゆる母指球の辺りが踏面に圧迫されにくいんですな。
リフレクターがないことを除けば、普段使いの最上級ペダルとして、大抵の用途にハマるはず。だから「ALLWAYS」というネーミングなのでしょう。

ですが、これはもう、あまりに特殊な事例で、例外視していただいてまったく構わないものでありますが、ソールに雪が付くと滑ります。いや、ほんと、難癖を付けているようで誠に申し訳ないのですが、丸く角のない形状のピンは雪に対してなす術がありません。ツルツル。

ソールに雪が付くのはパターンの凹部。ALLWAYSのピンは、このパターンの隙間にはまることでグリップを得ているわけですから、ここに雪が詰まると滑るしかないわけです。
8本のスパイクで食いつくMKS「GAMMA」

そこで強力なスパイクピンが埋め込まれたMKSの「GAMMA」を購入。
サンフランシスコの自転車ブランド、リベンデルバイシクルワークスとの共作だそうで、価格はAmazonで税込4869円。左右ペアの実測重量は455.0gで若干ヘヴィですが、相変わらずお求めやすい。
同じMKSの「LAMDA」にイモネジをネジ込んで緩み止めで固定したような、いかにも手作り感のある仕上がりですが、これが大変よろしい。手で掴むと痛いくらいのスパイクピンで、踏面にシューズを載せたらソールに刺さって動きません。ビンディングだって多少は動くので、この食いつき感は異次元のものでありました。
そして一見するとオフロード向きのようですし、もちろんその通りなのですが、実はロングでも良さを発揮しそうなペダルです。踏面が前後に長いおかげで力を入れやすく、またソールがズレることもないのでペダリングも超安定。疲れません。
リフレクターが付いているので市街地はもとより、田舎の山道でソロライドなんて状況でも安心なはず。グラベルロードで悪路を挟んだツーリングなんかはぴったりかもしれません。

もちろん雪が付いても全然平気でした。
ううむどうしたものかというので、また別のペダルを買ってしまいました。
氷雪路最強のMKS「XC-III Bear Trap Pedal」

買ったのはまたしてもMKSの「XC-III」。かつて存在したSUNTOUR「CX-II」の復刻版ということで、幡ヶ谷のおしゃれ自転車ショップのブルーラグさんがMKSに造ってもらっているもののようです。左右ペア実測重量は399.0g。ブルーラグ通販価格で税込7370円。軽くもないし、他よりちょっとお高いですが、これはですね、まあ素晴らしく良いものです。

「ベアトラップペダル」というペットネーム通り、トラバサミのような形をしていまして、この円弧状に並んだ突起のおかげで、どんな角度で踏面にシューズを載せてもソールのパターンに食い込んでくれる。
そして何より柔らかいソールへの攻撃性が低い。おまけに踏面が薄い一枚板なので、雪が付着してもペダルに足を置けば落ちてしまう。結局この冬はこのペダルで過ごしました。

強いて欠点を挙げるなら、ソールが薄く柔らかいシューズで長いこと踏んでいると、土踏まずのあたりが痛痒くなってくること。ただ、横の張り出し部分に土踏まずを当てると、いい感じのマッサージになってこの痛痒みも乗り越えられます。いいところも悪いところも、この形状ならでは。
愛でずにいられない「Still in Japan」
以上、昨年の秋から冬にかけて4セットのフラペを買って試したわけですが、それぞれキャラがはっきりしていて使い所があるので、散財した気がまったくしません。
ま、それにしても気がついたら全部MKSのペダル。いやー奇遇だなぁ。
なんてことはなくて、ハナからMKS以外は選択肢にありませんでした。昭和の時代にランドナーやスポルティーフのブームを経験してきた私のような世代には、ペダルと言えばMKS。とはいえ他所のメーカーとも一応比較しましたが、過去の栄光に縛られることなく、今の時代に沿ったアップデートや座組も積極的に行っている。「おや三ヶ島ではないか」と何気に手に取ったRMXの良さと価格には泣けたものです。
MKSは埼玉に本社工場のある日本の企業で、正式な社名は株式会社三ヶ島製作所。最近は「Made in Japan」ならぬ「Still in Japan」が企業キャッチのように使われているようですが、まさにその通り。今はここが自転車のペダルを設計・製造する国内唯一の企業となってしまいました。競輪のNJS認定を受けたペダルも三ヶ島の製品だけで、製造をやめてしまうと困る人が大勢いるはず。
そんな貴重な日本製だから高いのかと言えば、むしろ安い。品質も昔ながらの水準を維持していて、海外での評価も高い。もちろんデザインは人の好みによるでしょうし、より専門的なニーズに対応する高度な製品もあるでしょう。でも、さあ、これからいっちょ冒険に出かけるぜ!という前のめり感のある「三ヶ島ペダル」のパッケージロゴが私は好きです。

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