◆今年も紆余曲折あったラリージャパン参戦
ASCII.jp読者のみなさん! お久しぶりです! ウェルパインモータースポーツのコドライバー、梅本まどかです。
2位のトロフィーと一緒に
2023年 FIA世界ラリー選手権(WRC)最終戦「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」のJRCar1クラスにトヨタ・GRヤリスで参戦し、今年も表彰台にのることができましたのでレポートします。
まず、応援してくださった皆さん、ありがとうございました!ラリーが終わった今は完走できホッとした気持ちと、少し悔しさ。また、今年は昨年以上にラリージャパンが盛り上がり反響が大きかったなと感じているところです。
◆クルマはプジョー208からトヨタGRヤリスにスイッチ
昨年はRC4クラスにプジョー「208R2」で参戦しました。WRCの正規クラスで完走できたので、今年のはじめに監督から「2023年は慣れ親しんだトヨタ・GRヤリスで国内車両のJRCar1クラスで」と話がありました。ちなみに、今回のGRヤリスは2022年から全日本ラリーで一緒に戦ってきたマシンです。

2021年まではCVTのGRヤリスRSで全日本ラリーのJN6クラスを戦っていましたが、2022年は四輪駆動のGRヤリスRCにスイッチして、全日本ラリーの最高峰JN1クラスにスポット参戦しました。一緒に走るのは有名な国内トップドライバーさんたちで、もちろん表彰台になんて夢のまた夢のような感覚でした。
今年も同じGRヤリスでしたが、規定が変更されてJN2クラスで新城ラリーに参戦したのですが、ここで運良くJN2クラス3位表彰台に上がることができました。
スポット参戦ながら、このGRヤリスと少しずつ仲良くなってきたところなので、昨年のラリージャパン本番まであまり乗ることができなかったプジョー208R2とはかなり状況が異なります。慣れた車両で安心感もあり、ドライバーの村田康介選手とは「このGRヤリスで絶対に完走して、またいい思い出を作ろう♪」と話していました。
ただし、全日本ラリーそのままの仕様ではラリージャパンの規則に合致しないので、チームの和田裕憲メカニックがラリージャパン仕様に大改修してマシンを仕上げてくれました。

◆トップドライバーも続々リタイヤの天候
今年のラリージャパンは予想外の天候で荒れました。スタートした木曜日は晴れていて完全にドライでしたが、翌日の金曜日は大雨。天気予報を見ると降水量10mmを超えていて、本当に走れるかなと不安になるレベルでした。
実際にこの日にDAYリタイアした車両は多く、私たちも走っている中で村田選手が「ハイドロや」と言ったときは、一瞬昨年を思い出しました。昨年、ハイドロでコースアウトし、リタイヤ寸前になったのです。

そんな中、私たちがトラブルなく走り切れたのは、村田選手のドライビングテクニックのおかげです。もちろんチームの支え、メカニックさんの万全な体制で毎回マシンを仕上げて送り出してくれたから完走できたのですが、それ以上に今回の荒れた環境というのは、過酷なラリーだったのではないかと思います。
天候に翻弄されたのは金曜だけではありません。土曜日は晴れ予報で、午後には路面も乾きドライかなと思ってウェットタイヤを履きスペアとしてドライタイヤを2本積んで挑みました。実際に午後にはだいぶ路面乾いてきて、ドライで走ろうとタイヤを交換したとたんに霰が降ってきたのです。
それも少しだけかと思えば、どんどんどんどん降ってきて、結局ウェットタイヤに戻して走ることにしました。
日曜日は晴れていましたが、土曜日の天候の影響で薄ら雪も残る風景の中を走るという、路面を読みにくい状況です。その中でほかの選手から「タイヤも変えたり、しっかり手を抜かずやってるんだね!」と褒めていただけたことがありました。
今回、難しい路面状況に合わせて、判断&対応できたことはコドライバーとしての自信に繋がりました。
監督から何度も「ラリーは準備が8割」と言われ、このコラムでもたびたび引用してきましたが、今回もまさにそれを実感させられました。モータースポーツは自動車としう複雑な道具を扱うので、しっかり準備対策しなければ細かなミスが重なりラリー全体を台なしにしてしまいます。
もちろん、気合いの限界ギリギリの走りもカッコいいのですが、それをやらなきゃいけない場面は見極めないといけません。常に攻め続けているなんてことはないですし、ほかの様々な材料が揃っていないのにやる人はいません。
◆やるべきことをやれたのが勝因に繋がった
今回私たちは、ドライだと思ったらドライタイヤに変え、不安でウェットだと思ったらしっかりウェットタイヤに変えることができました。

ドライタイヤにはハードとソフトの2種類があります。実は当初、事前購入で用意していたタイヤはハードのドライタイヤとウェットタイヤの2種類しかありませんでした。昨年より1週間遅い開催となった今回は、路面温度的には晴れていればソフトタイヤ一択だったと思います。
土曜日のリエゾン中に、どうしてもソフトを用意をしてほしいとチームに連絡し伝えたら、監督がピレリと交渉して新たに用意してくれました。また、新たにOZ Racingさんのホイールを投入したのですが、村田選手は「このホイールが割れた時はもう終わりだと思うほど強い」と言っていました。私も横に乗っていて、ヒットした瞬間はもちろん、走り出した感じでもそれは伝わってきました。
今回のラリージャパンでは左サイドを3回ぶつけてボディーは変形し、ホイールも削れはしましたが、しっかり走りきれたのはこのホイールに助けられた部分も大いにあったように思います。

マシンを作る過程でホイールマッチングが大変だったと聞いていたので、走り終えたGRヤリスを改めて見直したあと、今回のチームや車両のパッケージを作ってくれた監督、実際に作業してくれたスタッフさんやメカニックさんに「ありがとうございました」と伝えたくなりました(もちろん伝えました)。
チームみんなで動き、常に材料を補い、万全の体制を作れたというのが今回の好成績につながったのだと思います。
◆2位はうれしいけど状況を考えると悔しくもある
今回のリザルトは総合16位、JRCar1クラス2位表彰台。数字だけ見るとうれしい内容ですが、土曜終了時には1位のポジションだっただけに、完走した後に村田選手の「悔しい」という言葉がわたしの胸に響き、それがすごく印象に残っています。

今年はたしかに過酷なラリーでしたが、それでも昨年のラリージャパンを経験しているのでとてもやりやすく、初参戦と2回目の差も感じました。チームとしては2台体制だったのでサービススペースも広くなり、メカニックさんの人数も増えました。同じカラーリングのマシンが並ぶとやはりかっこいいですし、一緒に戦う仲間が多いのはいいなぁと思います。
自分たちのタイムもライバルのタイムもですが、もう1台のタイムや状況に「頑張っているな、私たちも負けずにがんばろう」と自然とパワーをもらっていました。
また、今回はサービスに帰ることが少なく、レースクイーンの女の子達とも中々時間がなくゆっくり喋ることができなかったのですが、たくさん華をそえてくれて、数少ないサービスタイムにはとても癒されました。
昨年の塩焼きそばのリベンジはできませんでしたが(笑)、タイヤフィッティングゾーンなどで用意される食事で「セブンイレブンのパリパリ麺のサラダがいい」というワガママにも監督がセブンイレブンをハシゴして買ってきてくれました♪
ホントにチームには感謝です☆+°

いろんなことがあったラリージャパン2023ですが、参戦できたことも、完走できたこと、SS1つ1つからも学びがありました。なにより世界大会のラリージャパンで総合16位・クラス2位でフィニッシュできて本当に良かったです!!
応援してくださった皆さん、ホントにホントにありがとうございました!
今年はKDDIとコラボのウェルパイン
責任者にラリージャパン協賛の背景を聞いた
今年はウェルパインモータースポーツとKDDIがコラボして、新しいラリー観戦を提案したが、そもそもKDDIはなぜ今年からラリージャパンのサポーターになったのか。自身もラリードライバーでもある、KDDI ビジネスデザイン本部 副本部長の荒井克彦氏に話をうかがった。

「そもそも通信インフラをなんとかしたいと相談を受けたのがきっかけ」と荒井氏。KDDIは衛星通信「Starlink」のサービスを提供しており、Starlinkの訴求にも繋がるからとサポートを引き受けた。「ラリーって参加しているほうは面白いんだけど、見てるほうがつまらないと思うんですよ。目当てのマシンも一瞬しか見られないし」とドライバーならではの視点から、観戦体験をどうにかしたいとアプローチ。


ラリーは林道などを使うため、電波が届かない部分があり、そういう意味でもStarlinkは関係者から期待されているという。たしかにSUPER GTでもサーキットにStarlinkのアンテナを持ち込むチームが増えている。

Starlinkと使った通信インフラの整備と、今回のウェルパインモータースポーツとのコラボによるXRでの観戦体験。そのふたつを通じて「少しでもお役に立てれば」と荒井氏は語った。
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