もうローラー踏むのも飽きたし、なぜか週末を狙って吹き荒れる雪のおかげでMTBも厳しいしで、もはや泣くより仕方ありません。新車を買ったのに乗れてない情報2024、スプリング歯で噛む私は四本淑三です。
さて、そんな年明けに、中国WheelTop社の電動コンポ「EDS (Electronic Derailleur System)」が国内販売されるというニュースが舞い降り、スポーツ自転車界隈は騒然となったのであります。何しろ輸入代理店はコーダーブルームやネストで知られる、あのホダカさん。発売は今年4月の予定とか。マジかよ。そこで本日の話題の中心といたしますのは電動コンポの行方。
電動コンポの楽ちんさを体感するともう元には戻れない。でもお値段がお高い。故にカーボンフレームと組み合わせるハイエンドコンポと見做されてきたわけであります。カンパニョーロのスーパーレコードワイヤレスなんか一式90万円ですからたまりません。
だけど皆さん冷静に考えて下さい。電気仕掛けで動く、部品点数もそう多くはない、ソフトウェア制御の量産品が、そう永くお高いままでいられるはずもありません。
そんな未来に対する不安と期待を背負いつつ、かの中華コンポは話題をかっさらっていったのですが、詳細を知るにつれ、思っていたものと実際の製品はちょっと違っていたことを知るのでした。
電動コンポはハイエンドじゃない

昨年、105 Di2搭載のCorratec DOLOMITIを買って電動コンポ党となった私ですが、ラクチンさと同時に感じたのは「これってグレードの意味無くなるんじゃねーの?」でした。
コンポメーカーは自動車のようにいくつかグレードを設け、変速段数、重量、仕上げなどで価格差を付けています。シマノのロード用電動コンポなら現行型は12速で、上からデュラエース、アルテグラ、105の順。その下は非電動式で10速のティアグラ、9速のソラ、8速のクラリスと続きます。
かつて競技者でない私のようなユーザーは「変速時のカチッとした節度感」のようなものにお高いコンポの根拠を求めてきました。高いグレードになるほど動きは緻密で、精度の高さを変速のたびに実感できる……ような気がする。ええい、気がして迷うくらいなら高いの買っちゃえとなるわけであります。ちょろいなぁ素人は。
実際のところ価格の差ほど性能の差もないのですが、ワイヤーを引いたり押したりする量でディレイラーの動きを制御するわけですから、変速に関係するパーツには設計のノウハウと工作精度が必要です。
ところが電動化するとディレイラーを動かすのはモーター。
もちろん電動だってモーターの性能によって動きの良し悪しはあるでしょう。でも変速のスムースさは相変わらずチェーンリングやスプロケットの構造に依存します。そしてギアの変速ポイントは1ヵ所なので、車輪やクランクが1回転しなければ変速しません。だからディレイラーはある程度のスピードで正確に動いてくれさえすれば大丈夫。
そんな割り切りを現実の製品としてしまったのが、かの中華電動コンポなのであります。
既存の自転車に後付けする仕様

EDSを製造するWheelTop社は、1950年代創業の自転車パーツを製造する老舗メーカーという事ですが、EDSについてはキワモノとして見られていたのも事実。最初に浮かんだ言葉は、誠に不躾ながら「これ大っぴらに売って大丈夫ですか?」でした。
電動に限らず自転車のコンポーネントシステムは、他のメーカーが真似できないようにパテントでガチガチに固まっています。ホダカさんが扱うのだから、当然ながらそうした権利関係は問題ないのでしょう。そこがまず驚きでした。
なによりEDSの特徴はメーカーを問わず既存のコンポに互換性を持つこと。ディレイラーのトラベル量を自由に制御できる利点を活かして、7速から13速まで対応します。大手メーカーはやらないし、我々も見て見ぬふりをしてきましたが、これが電動コンポの野生というものです。
ちなみに13速はカンパニョーロとローターのグラベルコンポ用。海外ではロードよりグラベルの方が人気ですから、そこもフォローするわけですな。
EDSのパッケージはシフター/ブレーキレバーとディレイラーの組み合わせで、クランク、チェーンリング、チェーン、スプロケットは既存の他社製を使う前提です。ディレイラーとシフターを置き換えれば電動化できるよという商品規格です。
そのシフターとディレイラーの通信はワイヤレスで、前後のディレイラーには独立したバッテリーを内蔵しているため、取り付けにあたって配線の必要なし。フレームにポン付けしてペアリングして、スマホのアプリで設定して終わりです、おそらく。
でもそんなに安くはない
EDSのバリエーションは、ドロップハンドル対応の「EDS TX」シリーズと、フラットバー対応の「EDS OX」シリーズの2種。それぞれ外装材にカーボンとアルミが選べます。
面白いのはEDS TXに、ワイヤーブレーキ対応のレバーもあること。これでリムブレーキやメカニカルディスクの自転車も電動化できてしまうわけです。



価格は油圧ディスクブレーキ対応でカーボン外装の「TX-RA7000」が12万8700円、アルミ外装の「TX-RA7100」は微妙に安くて12万1000円。どちらも前後ディスクブレーキ用キャリパーが付いてきます。
ワイヤーブレーキ対応版はカーボン外装の「TX-RA6000」が11万円、アルミ外装の「TX-RA6100」が10万2300円。それぞれ左右シフターと前後ディレイラーのセットで、ブレーキキャリパーがない分だけ安い。
いずれもスイッチは右が2ボタン、左は1ボタン。左はフロント2速の前提で、ボタンを押すたびにインナー/アウターが切り替わる仕様です。
そしてフラットバー対応のEDS OXシリーズは、フロントシングルを前提としたシフターとリアディレイラーのみの構成で、税込価格は8万14000円也。


ここまで読んだ方はうーんと首を捻っているかも知れません。はいそうです、安くはありません。
ただコーダーブルームやネストの完成車に標準装着されることがあるとすれば、果たしてどんな価格設定になるのか。そこはちょっと楽しみですが。
狙いどころがニッチで良かった?
EDSでもっともメリットがあるのは、ちょっと旧いロードバイクのオーナーです。大手コンポメーカーに見切りを付けられたリムブレーキのロードバイクも、これで電動シフト化できる。かつ電動コンポが用意されない10速以下にも対応できるわけですから、これはカスタマイズの楽しみが広がります。

例えばうちに9速時代のデュラエースで組んだメカニカルディスクの自転車があるんですが、電動化するとシフターの横にビヨーンと伸びたシフトケーブルが消えます。すると見た目スッキリ。

そして途中から露出しているシフトワイヤーに泥が着くこともなく、頻繁に調整の必要なワイヤーの面倒も見なくて済むというメンテナンス上の利点も加わります。
もちろん見逃せない弱点もあります。まずバッテリーが内蔵式でユーザー交換不可という仕様。
EDSと同じフルワイヤレス式コンポで先行しているSRAMは、前後ディレイラーのバッテリーはデジカメのようなカートリッジ式です。予備さえあればバッテリーが切れても即交換できるし、リアのバッテリーが切れてもフロントと差し替えたら変速可能という便利な仕様です。
カンパニョーロも同じカートリッジ式バッテリーでフルワイヤレス仕様ですが、前後別形状のカートリッジのため差し替えができません。これはSRAMがバッテリー周りのパテントを持っているからで、EDSの仕様もおそらくパテント回避のためだろうと推測します。
もうひとつEDSで残念なのは、個人的に電動コンポ最大のメリットと感じているシンクロナイズドシフトの機能がないこと。シフトボタンを押していくと、アウターローやインナートップに当たる前に、フロントディレイラーとリアディレイラーが協調して変速してくれる、あの超絶便利な機能がありません。ワイア巻き取り式レバーの重さから解放されるだけで十分かも知れませんが、せっかく電動にするならシフトスケジュールもプログラムできるようにして欲しかった。
結論としては、中華電動コンポの登場で一気にコモディティ化が進むのかと思いきや、案外とマニアックなところを突かれて、パーツ遊びの幅が増えてしまったぞというところ。
雪が溶けてEDSの試乗車が店頭に並ぶだろう春が待ち遠しい。それではまた。
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